177 深夜の密談?
その日の夜……。
クロさんとアイリ先生が酔い潰れて眠ってから、シズクと明日からのことを相談することにしました。
「シズクにお願いがあるのですが、ちょっと進行ペースが落ち過ぎているので、こちらに回さずに、進行先の魔物は全て殲滅して下さい」
「宜しいのですか? お姉様がそう仰るのでしたら、私は構いません。クロさん達とパーティーを組んでいる以上は、楽をしてレベルを上げさせないと私に指示をしたのはお姉様ですよ?」
「そうなのですが、アイちゃんがちょっといじけ気味なので、そろそろあちらの国の国境の町にぐらいは着きたいのです。クロさんはこのままでも良さそうなのですけどね」
「わかりました! お姉様は何だかんだ言いながら身内には甘いですからね! アイリさんはエルナお姉ちゃん達とは違って戦いには向いていないのも確かです」
「アイちゃんのことは気に入っていますから、変に変わって欲しくないだけです。ダメとか言いながら自分の欲望に結局落ちて行くのが可愛いんですよね!」
「お姉様に隷属したら、強い意志を持っていないと堕落が確実ですね……普通は隷属とかさせたら、強制的な命令とかで縛るのに、お姉様は全くしないし、対等か下手に出たりするから、隷属しているのを忘れてしまうのです」
「だって、そんなことをしたら面白くないではありませんか? 私は基本的には友達が欲しいのですからね。それに忘れた頃に調子に乗って来たら、ここ一番で押さえてしまう方が気分が良いのです」
「嫌な友達ですね……そういえば、私との誓約魔術は継続されたままなのですか? たまにお姉様と念話で会話も可能なままなのですが。同じ眷属のセリスお姉ちゃんやカミラお姉ちゃんとも念話での会話は可能なのですか?」
「セリスやカミラとの念話はできません。シズクとはできますが、これは眷属になる前の状態がそのまま維持されるのかと思います。お蔭でシズクが欲しい物が常にわかるので、満足していますよね?」
「なるほど……道理でいつも私が欲しい分だけ必ず用意してくれているのですね! 隷属状態が維持されていて良かったです!」
誓約魔術で隷属状態なのを喜ぶ娘がいますよ!
私に心が読まれ放題なのを歓迎するのはシズクだけです。
その読みたい放題で、訓練の時にシズクの次の攻撃が分っているのに躱せないのが私なんですけどね……単に、読んだ時にはもう手遅れなのですよね。
「私がカミラとセリスに関渉ができるのは体調の変化だけです。シズクにもできると思いますが、ちょっと漏らしてみますか?」
「止めて下さい! どうして、お姉様は直ぐにお漏らしをさせようとするのですか!」
「いやー。恥をかかせるなら、これが一番効果的と思うので最適と思いませんか? 特にカミラには有効なので、いざとなったらの切り札にしています。眷属になって油断しています、カミラは基本的にはお漏らし娘ですからね。最初はなんであんなに下着をもっているのかと思っていましたが。予備は大事ですねー」
「お姉様の悪戯や嫌がらせの考え方は根本的に間違っています! カミラお姉ちゃんも気の毒ですが、私も以前は酷い目に遭いましたから、油断ができません!」
「カミラは、私の教育係と称して小姑みたいに煩いのですから、このぐらいはしても大丈夫です。私に体罰を課している時も、私に対する思いがとても好感的なので、私もそれを受け入れているのですから、お互いさまですよね?」
「……お互いを思いながら苛め合うとか、私には理解ができません。やはり、お姉様には精神的な修行を増やした方が良い気がしてきました。ここからしばらく進むと滝があるので、私と一緒に滝に打たれて精神修行をしましょう!」
「嫌です。あんな寒いだけの修行を喜んでするのは忍者だけです。忍者の修行に必須とか言うから、修練所に地下の水脈を繋いで簡易の滝なんて作らされて。お蔭で、関係の無い私まで、たまに罰として滝に打たれるとは予想をしていませんでしたよ……あの滝行が終わると、エルナの抱擁が必ず待っているんですよね」
「カミラお姉ちゃんに見張られて滝行をしていたのは、やはり罰でしたか。あそこは神聖な修行の場なのですが……」
「まあ、何でもいいんですけどね。エルナに抱かれている時が一番心が休まるので、私に問題は有りません」
「そう思っているのでしたら、エルナお姉ちゃんを連れてくれば良かったのでは? お姉様に連れて行かないと言われた時は泣いていましたよね? 学園の件もありますが、お姉様の力で何とでもできたと思います」
「そうなのですが……私としてはエルナを危険な目に遭わせたくないのです。しかも、残っている寿命まで少ないのですから、私が危険な目に遭ったら、エルナは迷わずにまた力を使うと思うのです。次に使ったら、一撃で終わりますよ?」
「確かにそうですね。エルナお姉ちゃんはお姉様が不死と分っていても、その時の感情で必ず動くと思いますので、眷属にするまでは安全を優先した方が良いかも知れません」
「カミラにはどんな時も常に一緒に行動するようにお願いがしてあります。お屋敷にいる時はアルカードにも最優先で守るようにお願いがしてあります。私としては、お屋敷から一歩も外に出したくないのが本音です」
「適当な態度をとりながらも、エルナお姉ちゃんをすごく大事にしていますね!」
「これは私の予測なのですが、エルナが不慮の死を遂げてしまったりしたら、私はきっと変わってしまうのかと思います。このお気楽な性格から一気に変わる気がします……過去の私がそうであったように、私は最初の友達に深く心が異存もしくは惹かれているのです。ノアの話を聞く限りは、エルナが殺されてしまうと、私はこの世界の敵になる可能性が高いと思われます。最下層でエルナが死ぬと思った時に、私はこの世界の全てをどんなに時間が掛かっても必ず滅ぼしたいと思ったのです」
過去の私が破滅に向かう時は、必ず私が大事にしている者の不慮の死が引き金です。
武器に魂を移した時は破滅的な結末は避けていますが、結果的には終わっています。
それに、私には魂を武器に籠める方法が分らないので、破滅が確定です。
ノアには何か目的があるのか、私との融合をしない方が良いとの考えらしいので、過去の蓄積された情報が無いのが原因なのですが……ノアは、それでも望めば融合しても良いと言っていますが、何かしてはいけない気がするのです。
まあ、現状はなるようにしかなりませんね。
「それは非常に恐ろしい未来になりますね……お姉様は完全な不死の存在ですから、時間さえかければ不可能ではありませんから、お姉様の闇落ちは確実です。それが分っているのでしたら、エルナお姉ちゃんを直ぐにでも眷属にしてしまえば、お姉様の人格も確定しますので安心かと思います」
「それは私も提案をしたのですが……カミラに対抗する為にもう少しだけ身体的な成長がしたいので待っているのです」
「カミラお姉ちゃんに対抗するとなると、胸ですか?」
「そうです。カミラに勝つとか言ってました」
「お姉様が大きい胸大好きなのがいけないのです! 私やお姉様ぐらいの方が可愛らしくて良いのに、どうして分らないのですか?」
「いや、だって……同じ年代なら同じぐらい欲しいと思っていたら、大きい胸を見るとさらに羨ましくなってきたのです」
「お姉様! 胸が大きすぎると戦いの邪魔です! カミラお姉ちゃんだって、弓が引きにくいか減らしたいと言っているぐらいなのですから、私達ぐらいの胸が最高なのです!」
「でも……欲しい……」
「そんなに大きくなったら、アルちゃんに駄肉とか言われて敵が増えてしまいます!」
「あぅ……」
「アルちゃんはエレーンさんに対して最強の切り札なのですから、実質この世界で最強なのはアルちゃんです! お姉様はいつも最強の保護者がいるから安心だと言っていますよね?」
「そうなのですが……」
「お姉様よりも強いサテラお姉ちゃんが畏怖している存在なのですから、味方にしておかなければいけません! それにステラお姉ちゃんみたいに毎回会う度に駄肉と言われて虫けらのように見られたいのですか?」
「確かに嫌過ぎます……。そうですね……私が間違っていました。この未成熟な体で我慢します……」
「私も大きい胸は嫌いではありませんが、そこは他の人に求めれば解決します。今も私と話をしながら酔い潰れたアイリさんの胸を揉んでいるのですから、十分に満足なはずです」
「うむ……そう考えれば良いような気がしてきました。これからも誰かの胸を揉むことで満足しますね!」
「それで良いのかと言いたいのですが、良いことにしておきましょう! それと話は変わりますが、たまにはセリスお姉ちゃんにもしてあげて下さい」
どうして、そこでセリスの話に?
「なぜ?」
「お姉様。どうして毎晩の夜の見張りをセリスお姉ちゃんが引き受けると言い出しているのか知っていますか?」
「初日にガルドに頼んだら、対抗心なのか気に入らないのか知りませんが、自分が引き受けるのでガルドを呼ぶなと言ったのです」
「それは建前です。お姉様にいつでも構って貰えるためにエッチな下着と寝間着を私が頼まれて作ったのですが、その姿でお姉様の横にいるのに、酔っぱらって寝ているアイリさんを脱がして胸を揉んでいるから、女性として負けたと泣いていましたよ?」
えっ!?
セリスが泣くなんて初めて聞きました。
殆ど表情が変わらないから、昔の面影がゼロになったと心配していたのですが……。
「セリスが泣くとは……」
「2日目の朝にセリスお姉ちゃんが私の前でちょっとだけ言ってました。なので、その状況を見てるのが辛いので夜中に魔物を狩りまくっています。私もたまに一緒に行っていましたが、昼間と違って嬲り殺していますから、魔物とはいえ気の毒と思ったぐらいです」
……そんなに私に揉まれたいの?
癖なのか、つい大きい方に手が行ってしまうだけなのですが……。
「セリスお姉ちゃんがアイリさんに特に厳しいのは単純に嫉妬心です。クロさんには色々とサポートの魔法を掛けていると思いますが、アイリさんには最低限の回復しかしてないと思います。アイリさんは半端にレベルが高いし、防御もほぼ完璧なので、死ななければ適当で良いと思っているかと思います」
「そう言われてみれば、アイちゃんには最低限の返事しかしていませんでしたが……まさかそんな理由だったとはね」
「明日はしっかりと構ってあげて下さい。それと私が教えたことは内緒ですよ? セリスお姉ちゃんは自然に気付いてくれると喜ぶタイプです。好きな人には報われなくても、日々の献身が大好きみたいです」
「わかりました。明日の夜はセリスをしっかりと満足させて見せます! 私にはエルナに鍛えられた技があるので、自信がありますからね!」
「エルナお姉ちゃんの影響で、お姉様もすっかり百合属性になりました。私も落ち着いたらお姉様の技を受けてみたいです」
「でしたら、いまから味わってみますか? カミラも嫌がりながらも抵抗はしないほどの実力ですよ?」
「今は剣の修行中なので、その手のことを知る気はありません。私としては夜明けまでお姉様と剣の稽古がしたい所ですが……」
「あっ、ちょっと思い出したことがあるので遠慮します。アルカード出てきて下さい」
「アルカードさんとの定期連絡ですか……剣の打ち込みでもすれば雑念が払われて気分が良くなるのに……もう、知りません!」
私が声を掛けると、私の影からアルカードが現れました。
アイリ先生には連れてきていないと言いましたが、アルカードの分体を私の影に潜ましているのですよね。
もっぱら、作った剣の受け渡しとあちらの状況を聞く為です。
本体と分体の間にはパスが通っているから、物の運搬も可能なので便利です。
取り敢えずアルカードと話でもして、シズクとの会話を打ち切りましょう。
ほかっておけば自分の作業を始めます。やり始めたら集中をするので、剣の稽古なんてもう言い出しません。
戦いたいのでしたら、昼間に魔物と好きなだけ戦えばいいのです。
「お呼びでございますか」
「頼まれていた剣が何本かできましたので、ミュラーさんに渡して下さい」
「畏まりました。これは前回の代金でございます」
「確かに合ってます。それにしてもあと何枚持っているのやら……出掛ける前に手持ちの在庫の殆どを使って作ってかなり巻き上げたのですが……」
「ふむ。ミュラー殿は元は錬金の女神アスの使徒でしたな」
「アルカードは女神アスを知っているのですか? まあ、知っているかというよりも、会ったことがあるのか知りたいのですが?」
「ありますぞ」
おっ!
流石は太古の悪魔だけあって生きる辞書みたいな存在ですが、アルカードは興味の無いことは記憶にとどめておかないことが多いから、古い知識を聞いても半端なんですよね。
でも、会ったことがあるのでしたら、少しは知っていると思いますが……。
「では、どんな人物でしたか?」
「ふむ……一言で言えば変人ですな」
「女神なのに変人!?」
「私と出会った時は、とてもだらしのない生活能力に欠けた仕事にしか興味の無い者でした。物を作る以外は興味が無いので、女神と呼ぶには威厳の欠片もなく、女性らしさも欠落しておりましたぞ」
それって……引きこもりで物を作ることが大好きなオタク娘とかですか?
何となく私は親近感を覚えるのですが……まさかとは思いますが、ミュラーさんが私に女神アスに近いものを感じているのはそことか?
「その時にミュラーさんはいたのですか?」
「いえ、おりませんでした。拾った子供を助けてからは、少しは生活態度がまともになったようです」
きっと、その子供がミュラーさんと思います。流石に子供の前でだらしない姿をするのはまずいと思って、駄女神から改心したに違いありません。
そうでなければ、ミュラーさんがあそこまで尊敬をしている訳がないしね……多分ですが……。
「では、アルカードはどうやって知り合ったのですか? それとも召喚されたのですか?」
「召喚されたのです。あの者は権限持ちでしたからな」
「権限持ち?」
「真の女神アスリア様が持つこの世界に対する関渉の権限です。この力を分配しすぎたのが、女神アスリア様の最大の失敗になります」
「世界に関渉する権限とかすごい力ですね……私も欲しいな……」
「ふむ。それでしたらシノア様もその欠片を持っておりますぞ?」
「えっ!? それ本当ですか!?」
「本当でございます。シノア様と出会った時に、エレーン殿の妹なのとは別に権限を有していたので、私は興味を持ったのでございます」
「私にそんな力があったとは……ノアが創世の力の欠片があるとは言っていたけど……もしかして、それのことですか?」
「同じでございます。小間使い達は権限と呼んでいましたが、本来は創世の力と呼ぶ女神アスリア様の力です。小間使い達はこの力を集めることで女神アスリア様に取って代わることが可能となります」
「でしたら、現在残っている者達は当然有しているのですよね?」
「会えばわかりますが、私の知る限りではこの世界で生き残っている者達は全員が持っています。特に小間使いの1人の魔王ザインが多くを保有していますので、奴が本気でしたら、この世界の覇権は既に奴の物です」
「それって、勝てるのに勝たないみたいなものですよね?」
「さようです。あの者は変わり者なのか、自分から覇権を握ろうとはしません。国力や軍事力に関しては部下に全てを任せておりますが、何人かの部下達の行動は世間的には問題視されているようです」
部下に丸投げとか女神アスリアと同じ部類ですね。
しかし、私も自分の好きなこと以外は丸投げする所がありますから、私とは意外と話ができるのかも?
「まあ、それはいいとして、その権限の使い方は知っていますか?」
私の場合は錬金魔術と掛け合わせた武器を作ることに特化してしまっているらしいので、材料と私の想像力次第で強力な武器が製作可能となっています。
「我らには所持することができませんので、私の知る限りではこの世界に対する最高の命令権としか分かりません。ですが、小間使い達は自分達の力と融合させてその力を底上げしておりました。先程の私を召喚したアスは錬金魔術と掛け合わせていましたな」
ふむ……私と違って武器に限定せずに全体的な強化に使ったのかと思われます。
私の場合は既に過去の私が使用済みでしたから、何も出来ないのです。
まあ、お蔭で分相応以上の武器が作れるので、私としては楽なので問題はありません。
それどころか収入が増えるのでプラス効果しかないからね。
現在滞在している『魔狼王の森』はフェリオスさんが作り出している他の国から防衛する為の結界というのは分っていますが、アストレイアの都合の良いダンジョンもきっと何かの力をその権限を使って強化して作り出しているのだと推測します。
シズクが片っ端から駆逐していますが、この森の魔物のマナの分布図でマップ化すればダンジョンの部屋単位で区分けができます。
その区分けした地域のマナの大きさが違いますが、しばらくすれば同じ大きさのマナが復活します。
なので森と称していますが、ここは立派なダンジョンです。
ご丁寧なことに、フェリス王国近辺だけは低レベル魔物で固めてあります。私が現れたマナの泉を越えるといきなり高レベルの魔物で固めてあるのです。
現在もあちらの国境の町に近付いているので魔物のレベルが低くなってきましたが、フェリス王国とグラント王国の中間地点辺りにいた魔物のレベルは4桁を超えていました。
流石にこれは私とセリスで処理しました。正規の街道を通らずに最短で森を直進などをしてたら、えらい目に遭ってしまいます。
この森の嫌らしい所は、雑魚が続いたら、突然ラスボスみたいな魔物が現れる所です。
それに、倒しても一定の時間で復活してしまうので、常に対処ができる強者を連れていないと殺されるだけです。
「アルカードは私の工房にいたフェリオスさんを見て、その権限を持っていると分かりましたか?」
「あの者とは初めて会いましたが、所有しておりますな。奴の能力に見慣れぬ能力がありましたので、それが強化した能力かと思われます」
私にはフェリオスさんの能力は完全に見ることはできなかったのですが、アルカードは太古の悪魔だけあって鑑定能力は完全みたいですね。
「その能力とやらを聞いても良いですか?」
「確か『魔境樹創世』なる名称だったはずです。この世界の能力は最終的には個人特有の能力に昇華するのですが、必ず強力な能力とは言えませぬ」
まあ、大方は正解かと思います。
それにしても今日は意外と質問に答えてくれますね?
以前はカミラからダメとか言われていたので、正確には答えてくれなかったのです。
このまま聞けば何でも答えてくれそうなのですが、気になるので聞いてみますか……黙っていればいいと思うのですが、私は疑問に思ったことは先に質問したくてしょうがないんですよねー。
「今回は古い知識もちゃんと答えてくれているのですが、どうしてなのですか? カミラから禁止されていましたよね?」
「そのカミラ殿が最下層から戻られた時にシノア様の質問には知っている限りは答えてあげて欲しいと言われたのです。この先はある程度は情報を得ておかなければ危険度が増すからとのことです」
どうも質問タイムが解禁されたようです。
ただ許可が出るとなんかどうでもよくなってくるのですが……私は反対する壁がある方が興味が湧くタイプなんですよね。
まあ、なんにしても聞きたくなったら質問が可能になったというのは良いことです。
取り敢えずはグラント王国で困ったことがあったら聞くことにしましょう!
「それとシノア様にエルナ殿から手紙を預かっておりますので、お渡しします」
「エルナから手紙ですか?」
アルカードから手紙を受け取ると……って!
これ、手紙というよりも分厚い書類です!
開封して中身を見ると……私にいつ戻って来るのかを催促する督促状みたいなものです!
最初の1枚目だけはまともな文章なのですが、2枚目からは同じ文面が永遠と……ちょっと怖いんですけど!
最後の紙には浮気は許しませんからね? と書いてありますね……。
「アルカードはこの手紙の内容は知っていますよね?」
いつもお屋敷の人達の監視なんてしているんだから、多分知っていると思うけど……これを書いている時のエルナの状態が知りたいぐらいです。
「知っておりますぞ。その手紙を書く時はシノア様の工房で兎になったグロリア殿を椅子にして楽しそうに文章をしたためておりましたな」
「これを楽しそうにですか?」
椅子にされているグロリアさんは、エルナに目を付けられていますから仕方がないとはいえ、ちょっと可哀想かな……。
「何でもこのぐらい愛情を籠めて書けばエルナ殿の想いが届くと言っておりましたが、あれが愛情とは私もまだまだ知らぬことがありますな」
愛情というよりも、呪いなのではないでしょうか?
もしくは、この世界では好きな人に手紙を送るのは、これが普通なのかの違いなのですが……多分違うよね?
新しい呪いの手紙を作成する前に伝言でも頼みましょうか。
「エルナに伝言を頼みたいのですが、宜しいですか?」
「なんと伝えましょうか?」
「もう少しで最初の町に着くので、到着したら一度転移魔法で私だけ戻りますから、気の済むまで愛の確認でもして下さいと……」
「承りました。エルナ殿からシノア様から言付けを頂いたらすぐに伝えるように頼まれていますので、あちらの本体で伝えました」
もう伝えたのですか!
「それで……エルナの反応はどうですか?」
こんな時間なのですから眠っていると思っていたのですが……。
「とても喜んでいらっしゃいます。お蔭で横にいたカミラ殿が力強く抱き締められて死にそうです。カミラ殿の両腕と背骨は完全に折れていると思います。不死なのが幸いでしたな」
「それは……喜んでいるのはいいのですが……カミラには悪いことをしましたね……」
やばいよ!
戻ったら、カミラからの体罰まで確定ですよ!
カミラが私と同じ不死と知ってからは、エルナの手加減が無くなったので、カミラも私と同じぐらいの抱擁をされているんですよね。
そして、カミラは私が原因と分かると、必ず私にお仕置きをしょうとしますので、きっと今回も私がこうなると予測をして伝言を伝えたとか言い掛かりを付けて、私の所為にするに決まっています!
これなら、シズクと夜明けまで稽古でもしてた方がましなのですが……この時間帯にしかアルカードと話していないから、結局は避けられない運命というやつですね。
はぁ……やっぱりペースはこのままでゆっくり行こうかな……。




