168 立場が低いですね
隣に通じる扉を開けると、フェリオスさんとグロリアさんが居るのですが、何となく困りながらも飲み食いしている魔王さんと、私には見せないような笑顔で接待をしている兎がいます。
私がそのまま部屋の中に入ると、明らかにグロリアさんの表情が元に戻りましたよ。
不機嫌そうな感情を放っています。私を見る目が「邪魔だから、帰って来なければ良かった」と、物語っています。
グロリアさんからしたら、せっかく2人っきりの時間を過ごしているのにお邪魔虫が現れたとでも思っているんでしょうね。
それとは反対に、やっと帰って来てくれたかと言った感じで、フェリオスさんは安堵しています。
「お帰りなさいませ、ご主人様。申し訳ないのですが、隣で何か仕事でもしてきて下さい」
毎度の事ですが、まったく心が籠っていないお言葉と、せっかく帰ってきたのに隣の工房で仕事でもしてこいとか言ってます。
てか、ここは私の部屋なんだけどね。
ロイドのおっちゃんとミュラーさんも、きっと追い出された口なんでしょうね。
そんなことよりも、こっちの部屋は料理の研究用なんだから、目の前のテーブルだって試食をする時以外は綺麗にしてあるのに、散々飲み食いしたのか酷い有様です。
厨房のスペースを見ると鍋とか使いっぱなしとか……ちょっと日々食の研究をしている私の大事な場所なんですから、私は怒るよ?
「ちょっとグロリアさん。ここは清潔にしておいてくれないとダメと言ってあるはずです。日頃から衛生面には気遣っているのに……」
「後で片付けますので問題はありません。それよりもシズクさんと嫉妬娘が探していましたので、早く体罰でも受けて来て下さい」
もう、私は体罰が確定なのですか……それにしても嫉妬娘って、エルナのことだと思うけど、聞かれたらまた手の骨とか砕かれるよ?
エルナが来た時に逆らうとそっちが骨折体罰を受けているのに、改める気は無いみたいですね。
「やっと戻って来たか。お前が遅いから、グロリアの接待を受けているんだが、よくここまで変えられたな……俺は感心するぞ」
「変えられたって、何がですか?」
人の部屋で、飲んべになっている魔王が何か言っています。瓶がいっぱい転がっているんだけど……まさかとは思うけど、私の貯蔵庫から持ってきてないでしょうね?
もしそうだったら、グロリアさんの給金から減らすとか言いたいのですが、無償奉仕をしているので、差し押さえる物が無いんですよね。
「あの言うことを聞かないグロリアが、こんなに尽くしてくれるなんて思わなかったぞ」
そんなの知らんけど、本人の前で言うのですか?
綺麗なお姉さんが接待してくれているんだから、男ならもっと喜ぶのでは?
私と違って出るところは出ていてスタイルもいいとか、未成熟な少女の敵です。
「ちょっとグロリアさん。そこの飲んべが聞く耳を持たない人が変化しているとか言っていますけど、怒らないのですか?」
「そのように思われていたのは悲しいのですが、フェリオス様が私にそれだけ関心を持ってくれたと思えば、このような境遇に落ちてしまったのも悪いとは思いません。力を全てを失ったことで、私の女性としての魅力だけで勝負をして、好きな殿方に素直に尽くせるのですから、不本意ですが少しだけ感謝を致します」
最初の頃は毎晩のようにベットの中で泣いていたのに。感謝ですか。
とてつもなく長い時間を掛けて辿り着いた現状がこれなのに。面白い人ですね。
傷心状態と思って優しくしていましたが、これならアイリ先生と同等に扱っても問題はなさそうですね。
これからは、何か失敗でもしたら兎のように飛び跳ねてもらいますか。
「そうですか。じゃ、私にも同じように尽して下さい」
「はぁ? 申し訳ありませんがご主人様にはこれが限界です。そんなことよりも先ほども言いましたが出ていって下さい。今は私とフェリオス様との大切な時間なのですから、ご主人様は邪魔です」
うむ、私に対する態度は変える気は無いようですね。
しかも改めて邪魔とか言っています。私に支配されているのに体罰が怖くないようです。
今まで控えていた分だけ、明日からの躾が楽しみになって来ましたよ。
それは置いといて、フェリオスさんには蕩けたような目で愛でも囁いている感じで話しているのに、私には嫌な顔をしながら出ていけとか言ってます。随分とご主人様への扱いが酷いですね。
それにしても、さっきからフェリオスさんのグラスに注いでいる透明な液体が気になるのですが……。
「ここは私の部屋なのですから、出て行くとしたらそっちです。ところでさっきから飲んべに注いでいる物はどこから持って来た酒なのですか?」
「ご主人様の貯蔵庫からです」
「……そうだとは思いましたが。この散らばっている瓶は全てですか?」
「当然です。私は地下から出られないのですから、そこしか知りません」
「ちなみに聞くのですが、その注いでいる酒はどの辺りから持って来たのですか? 市販品のラベルが無いので、私が作った物かと推測します……同じような空瓶が何本もあるのですが……」
「一番奥に隠すように置いてあった物です。フェリオス様に色々と飲んでもらいましたが、これが一番美味しいと言われたのです。私も頂きましたが、とても口当たりが良くて美味しいと思いました。製作者はご主人様でしたか」
「よーく見ないと分かりにくい奥に隠してあった物を持って来るとは……こっ、このダメ兎が!!!」
「ちょっとご主人様。いきなり大声を出さないで下さい。この際、兎でも何でも良いのですが、私のように仕事のできる女性にダメなどと言われるのは心外です」
思わず大声を出してしまいましたがあれは私が苦労して作った『大吟醸酒』ですよ!
ステラさんの畑の一部に作り出した極上米から作った私の酒が!!!
普通の米の作り方と違って、ステラさんの聖魔術の祈りと私が作った未完成エリクサーで育てた貴重な米を使っているのです!
誰かさんが体力とマナが同時に回復ができるポーションが欲しいと言うから作っていたけど、両方の効果を出そうとすると3割弱しか効果がないんだけど、地味に精製がめんどいのです。
そのめんどい水でステラさんに特別に手間をかけさせて作ったお米なのです。本人が希望するので『ステラ米』と呼んでいます……。
米麹などの細菌を利用するなんて思い浮かばなかったけど、シズクの記憶にあった、お爺さんの自慢話をヒントにして作った私の現時点の最高傑作が飲まれた!
まだ少しづつしか作れないからコツコツと作っていたのに、馬鹿兎の所為で飲まれまくっているのです。まさかこれ全部そうですか?
だとしたら、許さん!
私の友を飲み荒らすとか天罰いや体罰が必要です!
「ダメ兎に聞きますが、どれだけ飲んだのですか?」
「もう一度言いますが、私のように仕事ができる女性をダメ扱いをするのは止めて下さい。それよりも、これが最後の一本なので、早く作って下さい。フェリオス様のお気に入りなのですから、当分はこれを作り続けてくれると、フェリオス様の満足されるお顔が見られるので私も嬉しいのです」
まさかの全部とは……私が収納に持ち歩いている一本が最後と言うことです。
たまに気分の良い時に少しづつ飲んでいたのに……私がコツコツと作っていた在庫が!
(だったら、収納に全部いれておけば良かったのに、お馬鹿さんですねー)
それをやったら、ノアがまたアホ聖女なんて召喚した時に全部飲まれてしまうではないですか!
体はセリスなのに、召喚されると私の収納と繋がるとか意味が分らないよ!
(だって、魂は繋がっているんだから仕方ないねー)
とにかく!
私が自分から進呈したものならともかく、酒に関しては気に入っている物は誰にも飲まれたくないのですよ!
(食の追求者とか言っていたんだから、食べ物の方がメインでは、なかったの?)
そっちも大事ですが、酒は友と呼べるぐらいに大好きなんです!
(酔わないだけで、ほとんどアル中じゃん)
アル中で結構です!
それよりも、このダメ兎に天罰ならぬ酒罰を与えないと寛大な私でも流石に許せん!
「ご主人様の大事な酒を全て飲むとは極刑です!!! アルカード! このダメ兎を下の階の水牢にぶち込んで下さい!」
「畏まりました。それだけで宜しいのですか?」
おっと、追加の行動を催促してくるなんて、流石はアルカードは私の執事さんです。
「それでは、扉を開けて部屋の中にある足場の通路から、反対の壁まで100往復泳ぐまで見張ってて下さい。もしもズルとかしたら、水に電撃でも流せば目が覚めて水面から飛びあがるかも知れませんね」
「ふむ、なるほど。人が魚のように飛び跳ねるのは見たことがないので、面白そうですね。では、早速連れて行きます」
私の執事さんは見たことがないという理由だけで、その気になりましたよ。
私はそのまま感電してプカプカと浮かぶと思うのですが、兎なら水面から飛べるかも知れませんね。
「待って下さい! 今の私は何の能力も無い無力な存在なのですから、あの無駄に広い地下の水部屋を泳ぐなんて不可能です! それに電撃など流されたら、今の私は死んでしまいます! 大体たかがお酒ぐらいでそこまで怒る理由がわかりません!」
ダメ兎がなんか抗議してきました。罪と分らせないと理解ができないでしょ?
確か元はどこかの国の王女だったと聞いていますが、金銭感覚と言うよりも、ワインと違って酒の価値が分っていませんね。
私が試行錯誤をして作り出した非売品なんだから、値段は私が付け放題なんですよ?
アルカードの影がダメ兎を拘束して目線の高さに釣り上げると、飲んだ張本人から待ったが掛かりましたよ。
「悪いがグロリアを許してやってくれ。俺を持て成す為にしてくれたんだから、俺が代わりに何か謝罪をするが駄目か?」
「私の為に……フェリオス様……」
グロリアさんはフェリオスさんが庇ってくれているのが嬉しいらしいのですが、それなら現実的な清算をしてもらいましょう。
「分かりました。では1本に付き大金貨10枚下さい。空瓶が30本もあるので、300枚で泳ぐのを50往復で許してあげます」
「この酒は1本の価格が大金貨10枚もするのか……そこまで高い酒だったのか」
「何でもいいので、早く払って下さい。例え相手が神や魔王でも絶対に妥協しません」
「仮に払ったとしても半分しか許してないぞ」
「当たり前です。残りは私の怒りなのですから、今後の為にも体に教え込む必要がありますので譲歩は致しません。それよりも早く払ってくれないと実行します」
「分ったが俺には持ち合わせがないから、フェリシアかミュラーに出させるしかないんだ」
「はぁ? 魔王なのに一文無しですか?」
「一文無しとか良く分らんがとにかく持ってないから、隣にいるミュラーに頼むしかないんだが……」
魔王の癖に金貨も持っていないとは……それにしても歯切れが悪いのですね……ちょっと隣の扉を開けてミュラーさんを呼ぶことにしました。
フェリオスさんがミュラーさんに説明していますが、ミュラーさんの表情が何となく楽しそうです。
変化が殆ど見られない感情ですが、何となく嬉しそうな感じがするのです。
「話はお聞きしました。何でも僕のダメな主が無銭飲食をしたそうなのですが、申し訳ありません」
おおぅ……仮にも主の前なのにダメ出しをしています。
まじで忠誠心とかなさそうですね。
ついでにロイドのおっちゃんも来ました。手に持っているワインのことも追及しておきましょう。
「私の大事な友を飲んだ犯罪者ですよ。ついでに聞きたいのですが、ロイドのおっちゃんが持っているワインはどこから持って来たのですか?」
「これか? 向かいの倉庫らしき部屋にあった物だが、お嬢が好きな物を飲んでいいと言ったから、飲んだんだが。まずかったか?」
はい、確定です!
ロイドのおっちゃんは素直に話してくれましたが、飲んだ分は徴収します。
よりにもよって、高いワインを選びおって……どんだけ飲みまくったのか知らないけど、滞在している間にかなり減らしてくれたんでしょうね。
食べ物などは気にしませんが、酒類は飲むのでしたら、お屋敷の方の貯蔵庫にして下さい。
あちらは私の懐とは関係がありませんので。滞在客用のだってあるのですからね。
「アルカードに聞きたいのですが、私の貯蔵庫がどれだけ減ったのか分かりますよね?」
「こちらに、誰がどの銘柄をどれだけ飲んだのかをまとめたリストがありますので、目を通して下さい」
さりげなく懐から書類を出して渡してくれました。私の執事さんは完璧ですね。
どれどれ……飲みすぎでしょう!
貯蔵庫には通常はキーとなる物が無いと入れないのですが、兎のグロリアさんに似合うと思って作った首輪がこの地下室の扉のマスターキーになっているので、出入り可能なのですが……掃除をさせる為に必要かと思って作ったのが仇になっています。
なので、グロリアさんが扉を開けて、許可を出したのかと思いますが、程度というものがあるのでは?
伊達に長生きしているんだから、ワインの銘柄ぐらいは分っているはずなので、少しは遠慮でもしてたら、市販品は勘弁してあげましたが……。
取り敢えず、こんな高いワインが無償で飲めると思ったら大間違いなのを教えないといけませんね。
「ロイドのおっちゃんにも請求しますので、絶対に払って下さいね。あと、ミュラーさんも……」
私がミュラーさんにも宣言をしょうとしたら、私に金貨の入った袋を渡してくれました。金額的には……。
「シノアさん。僕が飲ませていただいた代金はそれで合っているはずです。お納めください」
「確かに合っていますがフェリオスさんとロイドのおっちゃんの分は? グロリアさんの分は私が一応は主なので、後で追加のお仕置きで清算するつもりですが」
「あの2人の分はフェリシアに出してもらうしかありませんので、僕は知りません」
はい、見捨てるつもりですね。
下の階の罠の時も見捨てたのですから、当然かな。
「クソ……やっぱり出す気はないのか……」
「当たり前です。フェリオス様の世話はフェリシアがしてくれるのですから、娘にでもお願いでもして下さい。機嫌の悪いフェリシアが出してくれるかはわかりませんけど」
「おい、それなら俺の分は立て替えてくれないのか? 最下層の俺の部屋に戻らんと持ち合わせがないんだが……」
どうも、ロイドのおっちゃんも無一文らしいですね。
このシズクの世界のお金を持ってない人を表す言葉は、なんかしっくりくるんですよね。
私としては面白そうなので、この貨幣を導入して、言葉を流行らせたいとか思っています。
「僕は知りません。先ほど人に無礼な表現をした人に貸して欲しいなんて言われても貸したくありません。シノアさんに迷惑をかけるのでしたら、僕が相手になりますよ?」
「お前は……嬢ちゃん、勝手に飲んだのは謝るから支払いは後日でいいか?」
さて、どうしょうかなー。
正直、金貨の回収よりも、今ここで負債を負わせるのがいいのです。
ちょうど良いのでステラさんの畑仕事でもさせましょう。
人手を増やしてステラさんの機嫌を取っておかないと、ステラ米に集中してくれないからね。
私が連れてきた人以外は農作業をさせてはいけないと約束していますので、男手は不足しています。
それに古参の使徒が農作業とか楽しそうだしね。
「アルカードにお願いがあるのですが、ステラさんをここに呼んで下さい。期間限定の労働力をプレゼントすると伝えれば良いかと思います」
「畏まりました。近くにいる分体に説明をさせましたので、直ぐに来るそうです」
私の伝言を即座に伝えるなんて優秀な執事さんです。
呼んでから数分もしないうちに勢いよく扉が開くとダメ天使が来ましたよ。
「うち、登場! シノアちゃん、来たよ!」
「ステラさん、扉は静かに開けて下さい」
「アルカードさんが馬車馬のようにこき使ってもいい労働力がいると聞いたので来たのですが、誰ですか?」
このアホは私の言葉など無視して、人員確保のみしか考えていないみたいです。
しかし、食材の為にここは我慢をしてロイドのおっちゃんを売り払ってしまいましょう。
「そこにいるロイドさんを連れてってください。力が有り余っているので、死なない程度にこき使って下さい」
「労働でも何でもいいんだが。嬢ちゃんの俺の扱いが酷いんだが、そこまで恨まれているのか……」
別に恨みなんてないのですが、今後の教訓とする為にも最初が肝心なのです。
私がロイドのおっちゃんを指名すると、ステラさんが首を傾げていますね?
もしかして知り合いとか?
「この人はどこかで見たことがあります……そうです! 思い出しました! 昔にサテラちゃんにボコボコにされた何とか魔王の使徒さんです!」
「よく見たら、姿は若くなっているが、天魔族の守護の天使の方じゃないか! 生きていたのか!」
「うちの本体は滅んでいるから、死んでいるのと変わりません。うちはシノアちゃんの英霊さんになったのですから。シノアちゃんがいる限りは無敵なんですからね!」
「もしかして、俺がボロ負けした方も生きているのか? 話だと2人で相打ちになって死んだとなって伝わっていたが……」
「サテラちゃんも、うちと同じ英霊さんになってますよ! いまは甘味屋さんで働いているから夜になったら帰って来ます!」
「そうか……ならば帰って来たら再戦がしてみたいので、丁度いいな」
「もしかして、サテラちゃんに挑むのですか!?」
「あれから、俺も強くなったから相手をしたいと思っていたんだよな」
「うーん……うちは鑑定とかないから、貴方の実力は分からないけど、多分勝てないと思いますよ?」
「どうしてだ?」
「以前よりも、うちとサテラちゃんのレベルが高いのもあるけど、サテラちゃんは相手のレベルが高いほど真剣になるので、本気にさせない方が良いと思うのです」
「まるで強くなったのが逆効果みたいに言われているんだが、意味がわからんな。確かあの時もレベルは俺の方が倍だったのに負けたのが悔しかったんだよな」
「挑むのは構いませんが、戦うのでしたら、シズクちゃんの道場で模擬戦として挑んで下さい。うちの畑を巻き込んだら、畑に埋めて養分にしてしまいますからね!」
「そんなことはしないが。さりげなく畑に害を成したら殺すと言われている気がするんだが……」
「うちはサテラちゃんと違って接近戦は得意ではありませんけど、魔術も全力で使っても良いのでしたら、多分ですが、貴方には負けませんよ?」
私のレベルが上がった弊害で、アホ天使のステラさんが強くなってしまったのです。
現在の私のレベルは4419なのですが、ステラさんには、一時的ですが、能力を3倍に引き上げる魔法があるので、純粋に強くなってしまったのです。
この魔法の使い手は、現時点ではステラさんとセリスと恐らくは使えると思うアルちゃんしかいないと思うのですが、こんな魔法が使える存在がいたら、レベルの差なんて余程離れていないと埋まってしまいます。
お蔭で私が勝てない相手がまた増えたので、畑の作物に関しては機嫌を損ねるとお預けを喰らってしまうのです。
おまけに魔術による防御は完璧なのですから、サテラのように相手のマナを吸収する武器でもないとダメージが通らないと思います。
そして、接近戦が得意では無いとか言っていますが、それはあくまでも馬鹿みたいに強いサテラよりも劣るだけで、普通に槍使いとして強いのです。
要するに、比較対象が間違っているだけかと。
「いや、俺の記憶が確かなら、あんたが魔術と併用した戦い方なんてされたら、正面から勝てる気はしないな。俺は魔術無しの純粋な武術の再戦がしたいだけだし、死んだと思っていた英雄とまた会えるとは、しぶとく生き残っていた甲斐があったな」
「うちを英雄と言ってくれるなんて、貴方は良い人ですね! うちを褒めてくれる人は大事にしますから、安心して下さい! それではうちに付いて来て下さい!」
「いつまでか知らんが、労働奉仕で返済してくるとするか」
納得した2人は出て行きました。残るは無一文の使えない魔王だけですね。
「後はフェリオスさんだけですが、支払ってくれるというフェリシアさんは居ませんので、ダメ兎を連れて行ってください」
「ちょっと、ご主人様! 戯れはよして下さい! アルカードさんも解放して下さい! フェリオス様、助けてく……」
兎が何か言っていましたが、アルカードが無視して連れて行ってしまいました。
残ったのは私とフェリオスさんとミュラーさんたけになってしまいました。ミュラーさんはいつの間にかアルカードの代わりに私の背後に控えて居るのですが。ミュラーさんの主はあっちだよ!
扉の方を見ながらフェリオスさんが何か呟いていますね。
「すまんな……グロリア」
「ちょっと聞きたいのですが。古参の魔王なんですから、収納に金貨ぐらい入れていないのですか?」
「俺は収納なんて固有能力は無いぞ。使徒で持っているのはフェリシアとミュラーと能力を失ったグロリアだけだ」
「魔王なんだから、使えると思っていたのに。無いとは……」
「俺は戦闘特化だからな。アスとレイアの2人は作り出したから持っていたはずだ」
「ほぉー、固有能力って作り出せたのですね」
「俺達には1つだけ、主を超えなければ何かを作り出す力があるからな」
以前にノアが教えてくれたギフトのことですね。
だけど、使っていなければその権利を奪うことができるから、初期の頃に奪っていれば複数使える筈です。
「では、フェリオスさんは何に使ったのですか?」
「何でもいいだろ。それよりもお前に話があるから来たんだが。すっかり忘れていたが、変な所に転移石を設置しやがって……お蔭でフェリシアの機嫌が悪くなって最悪だったんだぞ。誰かさんは俺達を踏み台にして回避しやがるし……」
「魔王だったら、あのぐらいの悪戯は回避して下さい。それよりも、こっちは駄龍の所為で下半身が吹き飛ばされて最悪でしたよ」
「あいつか……あんまり煩かったから、レイアに話をして丁度いいから許可したんだよ。しかし、下半身が吹き飛ばされたとか言ってるのに完全に再生をしているとか、十分にお前も化け物だな」
こんな可愛い少女を化け物呼ばわりとか、この魔王の目は腐っているようです。
取り敢えず、こんなのは無視をして仕込みをしましょう。
「どうでもいいので、飲み散らかしたのですから、部屋の掃除をして下さい。部屋が元に戻るまでは話などしたくありません」
「俺が掃除なんてするのか?」
「ここは私の部屋なんですから、ここの主は私です。工房での私の主導権は揺るぎませんので、例え相手が偉い様でも従いません」
「ここまで言われたのは初めてだが、俺は掃除なんてしたことがないぞ」
アルカードに小間使い呼ばわりされていたのですから、駄女神の身の回りの世話ぐらいはしていたと思ったのに。使えない魔王ですね。
じゃ、戦闘以外は役立たずではありませんか。
私が呆れていると、ミュラーさんが自主的に片づけを始めました。
私の中でミュラーさんの評価が上がりましたよ。
「僕が片付けますので。フェリオス様は邪魔なので隣で大人しく椅子に座っていて下さい。余計なことをされると仕事が増えるので邪魔なんです」
「わかった。しかし、お前は本当に主を厩う気持ちがないな」
「あるわけないですよ? 僕の主はアス様ただ一人です。フェリオス様の話もいいのですが、僕の依頼の件もお願い致しますよ
「へいへい」
フェリオスさんが追い出されてミュラさんが片づけをしているので、私は本来の用事をしたいと思います。
それにしても威厳の無い魔王ですね。
他の魔王の同じなのでしょうか?
この国のもう1人の女神のアストレイアにもなんだか興味が湧いてきましたよ。
果たして、偉そうな女神なのか、フェリオスさんみたいに自分の使徒に頭が上がらないのかですが、まともな性格だといいですね。




