163 共に歩めない道
「いやー、改めてオリビアの水着姿をみると、前衛として戦っている剣士なのに肌も綺麗だしスタイルも良いので、とても魅力的ですね」
「ありがとうございます、シノアさん。シノアさんもその水着が良く似合っていて、とても可愛らしいと思います。エルナさんのように理性が保てていなければ、シノアさんをそのまま攫ってしまいたいぐらいです。私のこの身はシノアさんも物と思って頂ければよいのですから、逆に攫ってくれても良いのですよ?」
「ははは……流石にそんなことはしません。私を可愛らしいと言ってくれるのは素直に嬉しいです」
「私はいつでも本気なのですが。その気になられましたら、いつでもお受けします」
ちょっと水着姿のオリビアのスタイルを褒めたら、違う話になりつつあります。段々とエルナに近付いていますね。
49階層でのレベル上げ9日目ですが、ちょっと皆さんの疲労がかなり溜まっているようでしたので、今日は休息日としたのです。
どうして水着なんて着ているかというと、意外にも、ガルドが湖の一部を隔離して軽くバカンス状態を楽しむと気分転換になるのではと提案してくれたのです。
真面目なユリウスは、ダンジョンの中でそんなことをするのは危険過ぎると反対しましたが、私とセリスの戦闘能力をみれば問題は無いし、ガルドもいるのでセリスは嫌がっていますが、過剰戦力が3人もいるからね。
私がガルドの提案をみんなに勧めると、オリビアは快く受け入れてくれましたので、反対しているのはユリウスだけになります。
正確には、ミヨナさんはユリウスに従うしか言わないし、残りの3名はオリビアに意見などしませんので、実質賛成になっています。
まあ、私がユリウスに「私と泳ぎたくはないのですか?」と聞いたら、「それは……僕としても君と泳ぎたいけど……魔物も危険だけど、こんな所で他の冒険者に見られたら……」とのことです。どうもダンジョンで寛いでいるのが知られるのが好ましくないらしいみたいです。
なので、私が一定の範囲を壁で取り囲めば誰にも見られないから安心して欲しいと説得しましたら、ユリウスも休息を取る気になってくれました。
建物を作るのと違って、ただ壁を作るだけですから、湖の一部を範囲に入れて取り囲んでしまいました。
後は、囲んだ範囲の湖に魔物がいないかだけは確認した後に、私とセリスとガルドで交代で上空から襲ってくる魔物に対処することにしました。この中で私が一番早く魔物の接近に気付くので、方向を教えるとセリスが直ぐに向かって撃退してしまいます。
これは、私は察知だけしてセリスに言えば勝手に狩ってくれるので、実質的はセリスが全てを処理しています。
パーティー編成はそのままなので、セリスが全て狩ってしまうことになるのですが、私達は範囲魔法でまとめて倒しているのですから、このぐらいのハンデは問題無いかと思います。
それに私も同じようなことを隠れて実行していますから、この程度では差は埋まりませんよ。
安全面が確保されたところで、簡易の仕切りだけ作って、女子には私が色々と水着を貸し出しましたので、好きな物に着替えてもらいました。
どうして私がそんなに色々の種類とサイズの物を持っているかは秘密です!
実は内緒なのですが、私にも使い道が出来たので、シズクの衣裳部屋から色々と頂いたのです。
もしも紛失していることがばれたら、今頃は犯人捜しをしているかも知れません。私のような収納持ちが忍び込めば、さして苦労しずに盗みたい放題です。
今までに衣装に興味を示さなかった私に疑いの目が向けられることは絶対にありえないので、犯人はシズクの工房に入れる者に限られます。妥当な所で一番可能性がある、カチュアさんかメアリちゃんが今頃は拷問……じゃなくて、尋問でもされているので安心です。
あの2人以外はシズクの物を勝手に持ち出すなんて恐ろしいことはしません。もう一人いるとしたらマリちゃんぐらいですが、ちゃんと欲しい物はシズクにお願いしますから、多分ですが、大丈夫かと思います。
それにしても、あんな大量に一度だけ誰かが着ただけで、後は仕舞っておくだけの考えが私には理解が出来ません。私も武器のコレクションをしているので同じなのかな?
まあ、そんなことがありましたので、私は女性用の衣装を下着から水着に至るまで結構な数を着服しています。
男性陣は残念ながら、ありませんので軽い服装になっています。
泳ぎたければ上だけ脱いで下はズボンのままでお願いしています。
上半身以外はセリスから、見苦しい物を見せたら斬り落とすと言われているので、脱ぐことは不可能です。
それを聞いていたガルドがお披露目をした瞬間に斬り落とされていましたので、ユリウス達は改めて恐怖しています。
それにしても、ガルドもそんなことを実行するとは……ノアに関わった所為でセリスほどじゃないけど人格が壊れてしまったのかも知れません。
生前だったら、いくら不死でもそんな捨て身のお笑いを取りに行くなんて考えられませんからね。
これは強さと不老不死を引き換えにすると、人格が温厚というか変な人になるのかも知れませんね……まあ、今の私には頼りになる便利な存在になったので、問題はありません。
皆さんが着替えと捨て身の実演をしている間に簡単な朝食を用意して、開放的な姿で軽く朝食を済ませたら、各自で好きなことをして過ごすように言ってあります。
森林地帯ですが、お昼になる頃には気温も上昇するので、魔物の襲撃がなければ軽装になりたい所でもあります。泳いだりして水遊びをするのでしたら、午後になりますかな。
私は何をしているかと言うと……当然ですが、釣りに集中しています!
湖を仕切っている壁には魚ぐらいなら通れる隙間は開けてありますので、ちゃんと釣りは出来ます。
釣りの成績は……今の所はガルドに全敗中……どうして私は勝てないの!
ちゃんと同じ釣り竿と同じ仕掛けなのに……ガルドの方ばかりに当たりがくるのです!
ここの魚は男性に釣られたい雌しかいないのかと思いましたよ!
ユリウス達も私とガルドの勝負を見ていて自分達もやってみたいと申し出てきたので、みんなの分も作って渡しました。
すると……更なる理不尽な出来事が……私がお昼の支度をするまでに釣り上げた魚はたったの1匹……最低新記録を達成しました。
いつもなら、もう少しは釣れていたのに何故?
初日はもっと釣れていたのに、意味がわかりません……。
これなら、潜って捕まえた方がましではないですか!
釣りの経験の無いユリウスなんて4匹も釣っているのに……ガルドの成果は聞きたくありませんが、他のみんなもそこそこ釣っているのです。
オリビアが一番釣り上げていましたので、コツでもあるのかと聞いたら……「宜しければ私と一夜を供にすれば私の運をシノアさんに分けて上げれます」なんて言いだしました。そんな事で運が貰えたら、私はとっくにエルナから運を貰いまくっています。
公爵家のお嬢様の考えることは同じなのだと改めて認識をさせてもらいました。
その後、昼食は適当に釣った魚や現地の素材の肉などを串に刺してシンプルに焼いて食べることにしました。
決して、私がいじけていて調理を放棄したわけではありません。
ちょうど森林地帯なので、大自然の中でキャンプの気分で楽しんだ方が気が休まると思ったからです。
今回の私は材料と仕込みをしただけです。
自分の好みの焼き具合で焼くだけですが、たまには私に休んでいてほしいと言われたのです。
まあ、そう言われたので私は寝転べる椅子とテーブルを出して、日よけのパラソルを立てて寝転んで出来上がるのを待っています。
水着姿で、片手に甘くし過ぎた激甘のジュースのグラスを持って皆さんの様子を見ていますが……あれを食べるのは私なのですか?
一部の人達の焼き方を見ているのですがただ焼くだけなのに何か違う風景が……調味料は適当に出しておきましたが、どんな味になるのやら。
不安でしたが私は幸いなことに食べた物は最終的にはマナに変換されますから、例え生肉でも腹痛と引き換えに食べれない物はありませんが、美味しい物が食べたいな……。
早速ですが、セリスが私の為にお肉を焼いて持って来てくれました。見た目は普通です。
ただ……あれだけ調味料を出しておいたのに……これ軽く塩を振って焼いただけです。
しかも、私が用意した物ではなく先程、壁の向うに行って狩ってきたようなのです。本人曰く、鮮度が良い方が良いと思ったらしいのです。
別に悪くはないのですが、この肉はちょっと味を仕込んでおくと良いのです。
なので、私はこのお肉でタレの味が濃厚なステーキを作っていたのですが……最初の頃に試食しまくったので、セリスも理解していると思っていたのですが……。
そして、自分の今の姿を気にしていないセリスが、ちょっと血まみれの水着姿で、とても笑顔で私に食べて欲しいと持って来てくれたので食べましたが……食べれるけど、このお肉はタレを絡めた方が美味しいことを改めて認識しました。
珍しく少女のような言葉遣いで「美味しいですか?」と聞かれたので、美味しいと答えました。
セリスは喜んで追加の食材を焼きに行ってしまいました。ついでに湖でひと泳ぎをしてからにしてと、お願いをしました。
本人は私の言葉に従って、湖に飛び込んで仕切りの壁の周りを泳いでいます。これで返り血は落とせると思いますので、元の綺麗なお姉さんに戻ると思います。
セリスにはもう少し外見を気にする程度で良いので、お洒落などを覚えて欲しいのです。着る物は、自分で選ばずにいつも与えられた物しか着ないから、特に指定がないと身近にある物をただ着るだけなのです。
せっかくの美人さんなのに感性が残念なのですが、シズクがいるので、辛うじて服装に関しては回避が出来ている状況です。
その割りには、男性から嫌らしい目で見られると敵意を剥き出しにするのですから、理解不能です。
まあ、味の方は分っているのですが、セリスは基本的に薄味なので、作らせると必ずこうなるのです。次に持って来てくれる物は味が濃い目が良いなー。
次に入れ替わるように持って来てくれたのはオリビアですが……これ焼き過ぎなのでは?
大体、火力が足りないとか言いながら、自分の火魔術で激しく炙っていましたからね。
食材が燃え尽きないように瞬間的に加減をしながら魔法を使っていました。表面は焦げているけど、多分ですが中は生焼けと思います。
食べさせてくれると言うので、お言葉に甘えて食べさせて貰いましたが……予想通りの味ですね。
表面は苦いし、中は生焼けとか、普通の人が食べたら、お腹を壊すよ?
なんとか食べましたがお腹がちょっと痛い……早くマナに変換されて下さい。
結論としては、公爵令嬢のオリビアに料理なんて出来るわけがなかった。
このままでは他の人に被害者が出るといけないので、私の隣に同じ椅子を出して一緒に座って待つようにお願いしました。
本人は私の為に追加の料理を作りたかったようですが、私が「ちょっとオリビアの体に触れていたいので、ダメですか?」とお願いをすると、椅子をぴったりと並べて私に抱き着いています。ちょうど頭を抱き抱える感じなので、中々感触の良いクッションが二つもありますね。
ちょっと水着を撤去して直に感触を確かめたいのですが、みんなが見ていますから、ここは我慢です。
後は足を絡める程度ですが、オリビアはそれ以上は何もしませんけど、明かに何かを期待して待っています。
これは、要するに自制心の強いエルナと言った所ですね。
ちょっと今晩辺りは夜の仕事をさぼってオリビアといちゃいちゃしようかな?
続いてガルドが一通りに焼いて持ってきてくれたのですが、意外なことに一番美味しいよ!
生きていた?頃は偉そうな奴だったから、料理なんて人任せだと思っていたのです。凝った物は作れないけど、無難に焼く程度なら若い頃にそこそこは経験があるらしく、私が調味料の類を複数出しておいたので、それなりに味付けが出来た訳です。
しかし、料理もそこそこ出来て、乗っ取った相手に強さが比例してしまいますが、現状ではそれなりの強さもあるし、他の人よりも常識がまともなので、もしかしたら一番頼りななるのでは?
それから、適度に食べて満足してから、ちょっと湖で遊ぶことにしました。
まあ、せっかく水着を着ているんだしね!
囲っている壁の周りの警戒はガルドにお願いしましたら、快く引き受けてくれるので頼りになります。
なんというか、最初に私に敵対している人ほど味方になると、とても頼りになります。
オリビアは、変な恩義を感じてちょっと壊れてしまいましたが、結果オーライなので気にしないことにしました。
だけど、ガルドなんて私を殺した張本人ですが、ノアの影響を受けたとはいえ変わり過ぎです。
まあ、本来は部下や身内に対して取っていた態度と変わっていないそうです。
少々野心もありましたが、人を辞めて本体は剣になってしまいましたけど、不老不死を手に入れたので本人は満足らしいのです。
一応はノアから魔石を可能な限り回収するように命令も受けているそうなので、警護の方は私に言われなくても進言するつもりだったようです。
セリスも変な対抗心で、壁の外側を警戒するとのことですが……何か外が騒がしい気がします。
何か壁の向うで光っていますので、恐らくですが、外周を歩きながら、『ライティング』の魔法で、明かりで何か目立つ事でもして、魔物を引き寄せて狩っているに違いありません。
たまに壁を飛び越えてくる魔物はガルドが即座に始末をしているので、問題はありません。
ちょっと気になることがあるとすれば……セリスは水着のままで行ってしまいましたから、他のお客さんも来そうですが。邪な考えでセリスに近付いたら、魔物と一緒に狩られてしまうかもね。
そのまま各自で夕食までは自由に過ごしていました。夕食は私が作る事にしました。
明日にの為に、ちゃんと体調管理を考えた食事にしたいと思いましたからね。
食後は皆さん順番にお風呂に入って、男女別のテントの方でお休みです。
お風呂の方は、私が久しぶりに地面を掘り起こして簡易的な温泉状態を毎回作っています。
ただ、私が定期的に再構築を働きかけないと、このダンジョンの性質上、元に戻ろうとするので、使い終わって朝になると元の地面に戻っています。
残っているのは、私がお風呂を囲った壁と脱衣の仕切りの壁のみになっています。
火の番はガルドがずっとしてくれているので、皆さんは安心して眠っています。
私とセリスも起きていますが、ガルドは剣の精霊という設定なので、不眠で行動しても不思議がられませんが、私とセリスは起きていると、いつ寝ているのか疑問に思われてしまいますからね。
いつもは私とセリスだけは別のテントで寝ているふりをしていますが、今晩はセリスがあれから戻って来ないので、ちょっとオリビアを誘っていちゃいちゃしてしまいました!
エルナと同じ歳なのに、オリビアって大人の女性と変わりませんね。
発育に関してはカミラよりも育っています。
このまま成長して大人の女性になったら、さぞ男性陣からのお誘いが絶えなくなると思います。
普段は大人びた態度で知的な感じがする女性なのですが、夜は少女のように可愛らしいとは……このままお持ち帰りがしたいところです。
何度もカミラにちょっかいを出して敗北したことで伝授された技でオリビアに悪戯をして眠らせてから、お風呂に入って夜の仕事でもしますか。
この階層に入ってからは、私とセリスは深夜に魔物を狩りをしまくっています。
ガルドも頼まれていましたが、私もノアから、前回の戦いで失った魂が補充をしたいので、魔物を狩りまくって魔石を回収するか、罪人でも大量に殺して来て欲しいと頼まれています。
流石に私に敵対した訳でもないので、後者は気が引けますから、前者にしたのです。
こちらなら襲って来るので、私の心も安心して倒せますからね。
要するに、私に敵対して殺意さえ持ってくれれば殺してしまうのに心は痛みません。
その成果もあって、ユリウス達のレベルはかなり上がっています。
特にオリビア達のレベルはユリウス達よりも少し上になっています。
種を明かせば、セリスは単独でひたすら狩り続けていますが、私にはもう一体だけは分身体の枠が残っているので、この分身体に関してはマナが無くなるまで、一番距離が離れた地域でひたすら狩り続けているのです。
素材に関しては回収が不可能ですが、魔石と経験値だけは常に入っている状態なのです。
なので、マナが尽きて消滅しても、私が再度作り出して遠征に行かせていたのです。
たまに意識して確認しないといけませんが、分身体が作れるかどうかだけは私には分かりますからね。
分身体にはマナを押さえて効率的に狩ることを指示していますので、一度送り出せば余程消耗しない限りは戦い続けてくれます。
そこに、深夜には私も参戦していますので、セリスには悪いけど初めから私の勝ちは決まっていたのです。
初日は分身体を作らなかったのですが、やっぱり賭けとなると私は負けたくないと思ってしまったので、有効に手札は使わせてもらいました。
これに、サテラとステラさんの枠を回収すればもっと効率的に稼げましたが、そんなことをしたら、私の心というか頭の中で苦情が延々と続くので、枠を与えて隔離しておくしかないのです。
本来は英霊として呼び出すまでは、心の中で眠っているはずなのに、何故か私の場合は常に目覚めているのです。
やかましいサテラとずっと泣き続けているステラさん……これがずっと頭の中で聞こえるなんて拷問以外なんでもありません。
これは、天魔族の血を引いているだけの存在だから、私の場合は半端な状態なんでしょうね。
どちらにしても、ステラさんはともかく、サテラを出しておかないと、放置した分だけ私が酷い目に遭うので、枠を与えて好きにさせておくのが一番です。
それにしても、召喚主を虐待する英霊とか聞いたことがないよ。
レベルが上がった弊害もあって、ただでさえ恐ろしいサテラには何も出来ないし、ステラさんだって、なまじに結界的な魔法が強力で、もう手に負えません。
生前の時よりも高レベルになったのですから、きっとフェリオスさんみたいな魔王クラスじゃないと倒せないんじゃないかな?
レベル的にはロイドさん達の方が上なのですが、当時は多くの英霊が呼べたのですから、それも脅威だったのでしょうね。
そんなことを考えながら、お風呂に向かうと。あれ?
誰か入っている気配がしますが……まあ、セリスも居ないので、誰がいてもいいや。
私は特に誰かに裸を見られても気にしませんからね。
気になったら、見た相手を消せばいいのです。
褒めてくれた場合は見逃しますが、侮辱したら始末させてもらいます。
そのことに関しては、敵対したと認識しますので、私も遠慮などしません。
さくっと脱いで脱衣室を出ると、湯に浸かっているのはユリウスです。
私が現れたので、かなり驚いています。またしても私の全裸の状態を正面からまともに見ましたね?
ユリウスは急いで出ようとしましたが、私がその入り口にいますので、顔を背けてそのまま湯に浸かっています。
ここは気の利いた言葉でも言って一緒に湯に浸かりますか。
「こんばんはー。ユリウスもこんな時間にお風呂ですか?」
「こ、こんばんは……その……悪気はなかったんだ……君が湯に浸かったら直ぐに出て行くので、ゆっくりしていって欲しい……」
私が湯船に近付くと少しづつ距離を取ろうとしています。そんなに大きく作っていないから、意味がないような?
「ユリウスはもういいのですか?」
「ああ……少し眠れなかったので、先程なんとなく外に出ていたんだが。まだお湯が温かかったから、少し入ろうと思って……」
「でしたら、まだ入ったばかりみたいなので、もう少し浸かるといいですよ? お風呂に入っていると気持ちが和らぎますからね」
そのまま湯に入ると、逃げようとするユリウスに近付いて片手を掴んで引っ張ると、バランスを崩して私の方に倒れて来ます。そこはちゃんと私が受け止めましたので、そのまま大人しく湯に浸かっています。
そして、逃げれないように腕を掴んで一緒にいます。動揺しているユリウスって、可愛いですね。
「その……腕を離してくれないと出れないから……」
「いいではないですか? こんな時間にお風呂に入っているなんて、ユリウスもお風呂が好きなのですよね?」
「そうなんだが……こんなところをセリスさんに見つかったら、僕は殺されてしまうよ……状況的には嬉しいんだが……」
「セリスなら、一度眠ったら起きて来ませんので、大丈夫です。目が覚めるとしたら殺意とか感じないと起きません」
「そうなのか? だったら、良いんだが……でも女性と一緒にお風呂に入るなんて……結婚するまでは許されないと……」
セリスがいたら真っ先に駆けつけてくるかと思いますが、離れた遠方で魔物を狩りまくっているはずなので、絶対に来ません。
それにしてもミヨナさんみたいなことを言っています。クロさんなんて、女性関係に関しては乱れまくっていたと思うのですが、真面目ですね。
「それとも私と一緒に入るのは嫌ですか?」
「……嫌な訳が無いが……」
「確か私を浜辺の女神と称していたのはユリウスでしたよね?」
「それは! ……そのことは忘れてくれると助かるのだが……」
「まあ、ユリウスがそう言うのでしたら、一応は忘れておきますので、もう少しゆっくりしませんか?」
「ありがとう……では、お言葉に甘えて御一緒させてもらうよ」
取り敢えずは落ち着いて2人で湯に浸かっていますが、会話が無いな……。
私はユリウスをじっと見ていますが、ユリウスはたまにチラッとこちらを見るだけです。
ここは私が何か会話を振るべきなのでしょうか?
ユリウスは真っ赤になって殆ど俯いていますので、会話を振ってくる気配すらありませんからね。
せっかく2人で一緒にいるのですから、たまにはお話がしたいですね。
じっとユリウスを見ていたのですが、改めて見ると海で見た時よりも逞しい体になっていますね。
どこかの精霊さんではありませんが、鍛えられた肉体というのは美しいと言う表現は間違っていないと思いました。
「昔に比べて体つきが逞しくなりましたね。いまのユリウスはとても男らしい感じがしますよ」
「そうかい? いつの頃と比べているのか分らないが、君に認められるように頑張ったつもりなんだ。少しは成果が出ているみたいだね」
「海で見た時よりも鍛えられていると思います」
「あの頃か……あの時ほど自分が無力と思ったことはないよ。そして色々と気付かされたことも……あの時に君が助けてくれなかったら、僕はいまここにいないんだよね」
「友達を助けるのは当たり前です。ユリウスは自分に出来ることをしょうとしただけです。あれはちょっと運が悪かったのですが、結果的にみんな助かったのですから、これも一つの経験です」
もっとも、私はカミラの未来を変えてしまったのです。本人は気にしていないと言っていますが、私の判断ミスなのは間違っていないので、カミラに頭が上がらない最大の要因です。
なので、カミラの躾には甘んじ受け入れているのです。
例えそれがどんなお小言やお仕置きでもね。
ちょっと思い出したら感傷的になったのか、ユリウスの胸に寄りかかってしまいました。たまには男性の胸に寄りかかるのも悪くないですね。
私が寄りかかると、ユリウスが優しく抱き締めてくれます。何となくユリウスの感情が高まっていますが、私は心地よいと感じています。
しばらくそのままでしたが、ユリウスが意を決して感じで、私に語り掛けて来ます。どうしたのかな?
「シノア……僕は君が好きなんだ……君と釣り合いが取れているとは思わないんだが、いつか認めてもらえるように努力してみせるよ」
「私もユリウスのことは好きですよ? とても大事な友達と思っていますので、釣り合いとか関係が無いと思います」
「友達としてか……いや、僕は君を1人の女性として好きなんだ。僕が君に認められたら、その時は僕と結婚して欲しいと思っているんだがどうだろうか?」
おおぅ……まさかのプロポーズでしたか。
ユリウスが王位に就けば私は、お妃様になれるとは……かつての私からは想像が出来ませんね。
実際の私は貴族の身分など無い、ただの平民以下です。
なので、釣り合いが取れないのはむしろこちらです。
それに私には最大の欠点がありますので、ユリウスの好意を受けることは出来ません。
そう、私は生きている定義を持たない存在なのですから、後々に問題も起こってしまいます。
なので、私の答えは……。
「ユリウスの気持ちは嬉しいのですが、残念ながら、友達以上にはなれません」
「それは……他に誰か好きな人がいると言うことなのかな? それだったら、諦めはしない。頑張って振り向かせる努力をするよ」
「違います。私は誰とも結ばれることはありません。なので、友達以上の関係には誰ともなれないのです」
「誰とも結ばれないとは意味が分らないんだが。君を好いている者は多いから、そんなことにはならないと思うんだが……」
「ユリウスには教えてしまってもいいかな? 私はこの姿が固定された存在なのです」
「それはもしかして、君はアストレイア様の使徒に選ばれているのかい? 君の能力を見ていれば当然と思えるけど」
「私はアストレイアや他の神や魔王の使徒でもありません。人の姿をしていますが、別の異なる存在なのです」
「では、君は一体……」
「詳しいことは言えませんが、ユリウスと同じ道を歩くことは出来ないのです。嫌いなりましたか? それとも軽蔑しますか?」
私の告白にユリウスは驚いていますが、先ほどまでの表情から真面目な表情で真っ直ぐに私の目を見ています。
ユリウスの私を見つめる目には迷いがありません。私に対する感情の変化も好意的なままです。
「君が何者だろうが僕の気持ちは変わらないよ。了承の答えは貰えなかったけど、僕の気持ちは伝えられたからね。むしろ、誰も君に取られないと思えばそれだけでも僕は十分な答えを得られたよ」
「ユリウスさえ宜しければ、このまま私の友達として仲良くしてください。そして、ミヨナさんの気持ちに応えてあげて下さい。ユリウスが告白してくれたお蔭で、私にはミヨナさんのユリウスに対する気持ちが理解が出来ました」
「ああ、いまは友達でも、いずれ君に友達以上の好意を持たせてみせるよ。それとミヨナのことは気付いているんだけど幼い時から、妹として見ていたから……分ってはいるんだけどね」
「私の方はともかく、ちゃんとミヨナさんのことを見て上げて下さい。でも、私は頑張る人は好きなので……」
そのままユリウスに軽く口づけをしました。
いつぞやの舌技はなしで、恋人達がするような軽い感じでね。
一応は、誰かさんの恋愛小説を読んでいますので、このぐらいで良いはずです。
「これは、今の話の口止め料なので、他言してはいけませんよ?」
「十分すぎるけど、誰にも言うつもりはないよ」
「私はもう少しこのまま湯に浸かっていますが、ユリウスはどうしますか?」
「僕はそろそろ上がらせてもらうよ。実はそろそろのぼせてしまいそうだったけど、大事な場面だったからね。名残惜しいけど、お先するよ」
そう言うと、ユリウスは私から離れて出て行ってしまいました。
正直に言うと、少しだけ私の心に変化が起こっています。
異性に告白されたのは初めてなのですが、心のどこかでユリウスの想いの応えたいとも思ったのです。
もし仮に私が生ある人のままだったとしたら、ユリウスとは決して出会うことは無いと思います。
私の生あるものとしての運命はもう終わっているのです。
あの時に別の運命を選んだから、今の私があるのですからね。
でも、今はもう少しこのままの余韻で湯に浸かっていたいかな……。




