158 私の所為!?
シズクが納得したところで、いつものように私が道場を修繕すると、ミリちゃんがとても嬉しそうに床を磨くために雑巾がけをしています。知らないというのは幸せなんでしょうね。
続けて庭を直しているのですが、悲しいことに散々直した経験があるので、ミリちゃんが破壊する前の状態に寸分違わずに戻ってしまいました。
今回は微妙な調整だけ言い残して、シズクは何も出来ないマリちゃんをもう1つの訓練所に連れて行ったのでいないのです。
あそこは忍者の修行と言う名の謎のアトラクションがあるのです。今頃は、嫌がるマリちゃんに、剣術の強制指導か地面に布を付けないで走る修行でもさせられているに違いありません。
いつも練習をさぼって私の工房に入り浸っているので、シズクに捕まると、剣術の技能を身に付かせる為に特訓させられているのです。
それ以外は、マリちゃんは走る以外の修行なんて、あの異常な修行は無理ですからね。
体力に自信のあるミリちゃんは毎日喜んで遊んでいます。双子なのに身体能力にえらい差がありますよ。
戻って来るまで暇でしたので、シズクのように正座して庭の景色を見ながら、お茶と呼ばれる甘くない飲み物を飲んでいましたが……これ、なにが良いの?
シズクが言うには心が落ち着くらしいのですが、私は見ていても詰まらん!
これをシズクの前で言うと「お姉様は相手の感情が読めるのにこの景色の素晴らしさが分らないなんて、精神修行の為に滝に打たれる必要があります!」なんて言いだしたんですよね。
大体、滝なんてこの辺りにはないので、「あったら、一晩中その滝に打たれてあげますよ」と言ったら……まさかの魔狼王の森の中にあったんですよね。
森でアイリ先生の特訓をしているアルカードが見つけていたので、シズクに教えたのです!
お蔭で、謎の滝行の装束を着せられて一晩中滝に打たれて、凍えて死ぬかと思いました。
魔物は出てもアルカードが始末するかシズクが狩るから、私はとにかく動くのを禁止されましたよ!
明け方にアルカードが連れてきたアイリ先生が面白そうに私を笑っていましたので、アルカードに「アイリ先生にも精神修行は必須なので、これからは滝に打たれた方が精神が鍛えられる」と提案して、そのまま一緒に仲良く打たれていました。今でも修行のメニューになっているので、たまに滝行をしているはずです。
そんな事があったので、この庭に文句を言うのは、ある意味危険です。
一度だけメアリちゃんがこのシズクの趣味を意外と爺くさいなんて言ったから、丸一日滝に打たれていたこともありましたね。
しかし、戻って来ないな……最近作った饅頭を食べることにしますが、意外とこのお茶と合うんですよね。
この時だけはお茶がいいと言ったら、シズクからは「食べ物と組み合わせないとお茶の味が理解出来ないなんて味覚が残念過ぎます……」なんて言うんだけど。シズクに言われた味を再現しているのに酷い言われようです。
私が食べながら理解が出来ない庭を見ていると、背後に物欲しそうなミリちゃんがいます。
食べたいけど言われた掃除をしているので、終わらないと食べれないと思っているのでしょうね。
私だったら適当にしてサボるのに、この子は意外にも真面目なので雑用でも頑張るのですよね。
小皿に少しづつ出しているので、小皿から饅頭が無くなると悲しそうに掃除に戻りますが、私がまた出すと近づいて来て眺めています。
面白そうなので、しばらく出して近くに来たら食べるの繰り返しをしていました。
その内にちぎった欠片を投げると、追い付いて口で受け止めて食べています。
うん、犬ですね。
時間差で投げても恐るべき速度で全部口でキャッチするのです。これアイリ先生にやらせたいな。
勿論、受け止めそこなったら、なにか罰でも与えるとか……なんか久しぶりにいじりたくなってきましたね。
取り敢えずミリちゃんは食べ物に対する行動力がすごいけど、可哀想だから2人が戻って来るまでは普通に出してあげますか。
「ミリちゃんも一緒に座って食べませんか?」
私が声を掛けるとすごく喜んで横に来ます。
尻尾とかあったら、凄い勢いで振っていそうですね。
「うん! あたしも一緒に食べたい! だけど……まだ途中だから、棟梁に怒られるし……」
「もう、十分に綺麗になったと思うんだけど?」
体力はあるので、血が足りなくて多分やばいと思うんだけど。タフだな。
ふらつきながらもきっちりと掃除をしているなんて、ある意味すごいと思います。
てか、私が作り直したんだから、汚れも無くなっているんだけどね。
「まだマリーナが戻って来ないから、続けないといけないの……」
はぁ!?
どうして?
「マリちゃんは関係無いような? 私が直している間だけ修行をさせられていると思うんだけど。私が早く直したからもあるんだけどね」
「だって……別れ際に「あたしが戻って来るまでは続けていなさいよ!」って、言うからまだ終わらないの……」
うーん……この子はシズクとマリちゃんの完全な手下ですね。
シズクはともかく、マリちゃんとまともに戦ったら、この子が勝つよ。
双子だけど一応姉には逆らえないのね。
そう言えばミリちゃんは余剰レベルは使えているのかな?
マリちゃんはマナの増量にしか適用されていないみたいだけど、ミリちゃんはどうしているのでしょうね?
「ちょっと聞きたいのですが、ミリちゃんは余剰レベルは使えていますか?」
「マリーナと同じぐらいもらったと思うけどわからない!」
ダメか……質問する相手を間違えた感が半端無いのですが……何か違いでも気付かないかな?
確かミリちゃんはベルセルクだったのですから、エルナみたいにマナが身体強化に流れてしまうはずです。
今は忍者になったので、マナが身体能力に変換されないから、力とか体力が低下とかしているのかな?
饅頭で釣れば思い出すかも知れませんね。
「じゃ、忍者になって力とか体力は前に比べてどうですか? ちゃんと答えられたら、この饅頭をあげてもいいんだけどなー」
「忍者になったお蔭で、念願の魔術じゃなくて、忍法が使えるようになったよ!」
違う!
質問の答えになっていません!
「忍術じゃなくて、腕力とかですよ? ミリちゃんは忍者の前はベルセルクだったから、無駄に身体能力が高かったよね?」
つい無駄とか言ってしまいましたが、ミリちゃんなら気にしないから大丈夫か。
これがエルナだったら、その無駄な力で抱き締められて骨折は確実です。
あれは死の抱擁です。
「うーん……変わってないと思う! だって、あたしは元々マナが少ないもん!」
そんなことはありません。
私にはミリちゃんが纏っているマナが分かりますから、普通の人よりも色濃いマナを持っているのが見えています。
そうなると、この子は能力の類は振り分けていないことになると思うのですが、ベルセルクの時と変わらない身体能力を維持しているということは、無意識に同じぐらいの能力を割り振っているのかも知れません。
マリちゃんとミリちゃんの年齢はシズクと同じなのですが……行動理由があれですから、シズクよりも幼く見えるのは内緒です。
先ほど熟練の使徒が能力を振り分けることが出来ると言っていましたが、もしかしたら、ミリちゃんは自覚はないけどレベルに見合った能力を無意識に振り分けているのかも知れませんね。
現在、2人には余剰レベルが300づつ与えられているそうです。私やシズクと同レベルまで与えたら、恐ろしく強くなるのでは?
……いや、建物が余計に破壊されそうだから、黙っていましょう。
2人がこのお屋敷にいる限りは私が直す羽目になるのは目に見えていますよね?
まあ、暇だしミリちゃんの餌付けをしていた方が今後の為になりそうです。
私が持っている饅頭をずっと見ながら喋っています。先ほどの欠片を食べて味は知りましたからね。
実はこの饅頭の中身はチョコレートなのです。
シズクからは餡子入りを作って欲しいと言われていますが……シズクのご要望の豆類が無いんですよね。
探せばどこかに似たような味になる物があると思いますが、この世界の豆類がそこまで種類があるかですよね?
一度、食材探しの旅でもしてするしかないんですよね。
作り方に関しては、シズクがお姉さんのお手伝いをしていたので、ある程度は私も把握していますが、調理器具に関しては、錬金魔術で誤魔化せばいいのですけど、私としてはシズクの世界にある圧力鍋とか電化製品が欲しいです。
ちゃんと甘めの芋で近い味の物を作ったのですが、「小豆の餡子が食べたいのです! それに私の記憶を見ているのですから、もっと味を近づけれるはずです!」とか言い出す始末です。
私が頑張って味を再現しているから、絶対に作れると思って妥協してくれないんですよね。
アルちゃんには好評だったのに、シズクが余計なことを言いだすから、目下研究中です。
今食べているチョコ味の物は試しに作ったんだけど、私は中々いい出来だと思います。
本当は、今日の食後に出して試食をしてもらおうと思っていましたけど、昼食も食べないで修繕工事をさせられたし、マリちゃんをしごきに行ってしまったから、今回はシズクのは無しでいいや。
しかし、ただあげるのも面白くないから……そうだ!
「ミリちゃん。これ食べたいですか?」
「うん! 食べたいです!」
「でも、掃除もしないといけないんですよね?」
「あぅぅぅ……そうなんだけど……」
「では、私が投げますので手を使わずに口でキャッチして食べて下さい。勿論ですが、雑巾がけをしながらじゃないとダメですよ?」
「それだと間に合わなかったら……」
「ミリちゃん! これは修行なのです! 手を使わずに足腰を鍛えて如何に早く移動できるかの鍛錬なのです!」
「これは修行なのですか!?」
「シズクがどうして新人忍者の仕事が雑巾がけをさせたのか理解出来たでしょ?」
「そうだったのですか!? 分かりました! あたしの修行の成果を見せますので、シノアお姉ちゃん! お願いします!」
私の言葉を信じて期待に満ちた目で見ています。心が痛むけど素直で面白いなー。
まずは軽く近くに投げると余裕で口で受け止めて食べています。
戻って来るように合図すると、私の所に来ますが忠犬ですね。
次はもう少し遠くに投げたのですが、それでも追いついて食べてしまいました。どんどん投げてみたのですが、完璧にキャッチします。
ミリちゃんの前世は絶対に犬だったに違いありません。
それにしても高速の雑巾がけとか初めて見ました。一番遠くに投げたら、ちょうど扉が開いてシズクと疲れ果てたマリちゃんが現れました。シズクは余裕で躱しましたが、マリちゃんにもろにぶつかっています。
ミリちゃんの頭がマリちゃんのお腹に思いっきりヒットして吹き飛ばされたよ。
「ちょっと! 痛いじゃないミリーナ!!!」
「あっ……ごめんマリーナ。それよりもあたしの饅頭はどこに!?」
取り敢えず謝って、マリちゃんよりも饅頭を探しています。
身内よりも饅頭を優先するとは……マリちゃんは激怒しています。壁に叩きつけられた状態なので、立てないみたいですね。
疲労しきったところにミリちゃんのタックルをまともに受けましたからね。
「饅頭って、なによ! それよりもあたしを吹き飛ばすなんて許しませんよ!」
「饅頭はチョコの味がする小さなパンみたいな美味しいお菓子だよ! シノアお姉ちゃんと修行をしていたのにマリーナがいきなり現れるからいけないんだよ! それよりもあたしの饅頭が見当たらないよ……」
「探し物はこれですか?」
シズクがいつの間にかキャッチしていたようですね。
ただし、目が笑っていません。地味に機嫌が悪いですよ。
「それだよ! あたしのだから、返して!」
シズクがミリちゃんの言葉を無視して食べ始めました。こんな形で試食することになるのはちょっとまずいかも……。
「なるほど……中身にチョコが入っています。中々美味しいですが……」
「棟梁があたしの饅頭を食べた!!!」
「ミリーナには掃除を言い付けてあったのですが、遊んでいたのですか?」
「違うよ! これはシノアお姉ちゃんと修行をしてたんだよ!」
「マリーナにタックルもどきの突撃をしてぶつかった状況からみて何となく理解出来ますが、お姉様に騙されて遊ばれていたようですね」
「遊んでないよ! 足腰を鍛える修行成果を発揮して、ご褒美を食べていたんだよ! ねっ! シノアお姉ちゃん!」
ミリーナが振り向くとそこにいたのは……。
「ガルド、お前は何をしているのですか?」
「おい、お前はないだろう。このお茶というのは中々味わいのある飲み物だな」
「お茶の味が理解が出来るのは良いことです。それよりもお姉様はどこに逃げたのですか? 質問に答えないと首を刎ねますよ?」
「既に首に刀が食い込んでいるんだが。死ぬとマナが一気に霧散するからやめてくれ。しかし、お前は速さに特化しすぎだな……平均的に能力を振っているとはいえ今の俺の体もかなりのレベルがあるのに、抜いたと思ったらもうこれだからな」
「余計な時間稼ぎはいいので答えて下さい」
「あー、ほらあそこだ」
「なるほど、空ですか」
その頃、上空では……。
ちょっと状況が危険だったので、ガルドを囮にして私は逃げることにします!
シズクから感じる感情がお怒りだったので、私にとばっちりがくるのは間違いないですからね。
取り敢えずステラさんの森を盾にして真っ直ぐ上空に飛べば外部からは私が飛んでるところは見えません。
ステラさんが森を隠蔽をする為に光の反射で隠しているのが意外なところで役に立ちましたね。
このまま上空で転移の魔法陣を書いて転移部屋に逃げれば私の勝ちです!
私が転移陣を書こうとしたら、シズクが空中を蹴りながら、こっちに向かってきます!
シズクの得意な風の盾を足場にしてるのですが、すごい勢いで近づいてきますよ!
急いで魔法陣を書きだしたら、シズクが消えた!?
どこにいったのか分らないけど急いで書いて逃げましょう!
と……思ったら、背後から声が聞こえてきます。
「お姉様、どこに転移するつもりなのですか?」
私が振り向くとシズクが腕を組んで立っています!
翼もないのにどうやって空中に浮かんでいるのですか!?
とても気になりますので、思わず聞いてしまいました。
「どうしてシズクは浮いているのですか?」
「気合です」
気合で飛べるのですか!
忍者になると気合で飛んだり浮かんだり出来るとか!?
もしもそうだったら、忍者って最強の職業ですよ!
「それで飛べたら苦労はしないよ!」
「何でも良いのです。ミリーナで遊んでいるのはまだ許せますが、あの饅頭は何なのですか?」
ミリちゃんをからかっていたのは許されるそうです!
それよりも饅頭の方が問題らしいのです。チョコを入れたのがまずかったのかな……。
「新作で作ったチョコ饅頭ですが……お気に召さなかったの?」
「いえ、美味しいかったです。私の世界でも一応販売されています。新作の試食は私とアルちゃんが先のはずです……」
まさか、怒っていた理由がミリちゃんに先を越されたからなのですか?
「えっと……今日の模擬戦の後にシズクに試食してもらうつもりだったんだけど、庭と道場を直していたし……シズクはマリちゃんを連れて別の訓練所に行くので暇だったから……」
「……それでしたら、仕方がありません。私がお願いしている粒餡の饅頭はどうなったのですか?」
「それは代わりになる小豆がないので、現在思考中ですよ。芋で作った餡子でも十分に近い味だと思うんだけど……」
「あれはあれで良いのですが、私は粒餡が食べたいのです!」
いつの間にか饅頭の中身の話になっていますよ?
取り敢えず話をしながら魔法陣は書いていますので、もう少し話をして引き延ばせば……。
「ところで話は変わりますが、いきなり私の背後にいたのは何故ですか?」
「それはこうしたのです!」
あっ!?
シズクが消えた!?
そして、私の背後から刀が左右に生えたと思ったら、翼が斬られたよ!
当たり前のように私は墜落していくのですがこの高さから落ちたら死ぬよ!
急いで翼を再度作り直したのですが今度は私の両足に何か巻き付いています。これは私の得意とする魔法の『シャドウ・アンカー』の影が巻き付いています!
そのまま引っ張られて庭に侵食しているステラさんの森に投げられると、当然のように私に対する森の防衛機能が発動したのです。この森の私に対する行動は……魔術は反射で近づくと捕縛なんですよ!
何とか回避しょうとしたのですが、引っ張られる力の方が強くて森の中に……そしてお約束のように全身を逆さまで拘束されています。
庭にある一番大きい石の上に立っているシズクがいます。私って、こんなにレベルが上がったのにカッコ悪いな……。
「お姉様、地味にエロい紐パンを穿いていますが、もう少し大人し目の物が良いと思います」
「これは……サテラの選んだ物を穿いていないと、ばれた時に刺されるからです……たまに現れてスカートを捲るので油断が出来ないのです……」
「よくエルナお姉ちゃんが許しましたね?」
「エルナがサテラの好みを理解して選んでいるのですよ……なので、2人が認めた物なんですよ。それよりも消えたのは速さに特化したからなのですか?」
「お姉様は忘れたのですか? 私は単体の転移魔術が使えるのですよ? 座標さえしっかりと認識が出来れば戦闘にも使えるのです」
そうでした!
最初に使えるようになった時にしか使わないから、すっかり忘れていましたよ!
だったら、転移魔術をフルに使えば戦闘中にも好きな所に現れることが出来るのですから、最強ではないですか!
では、なんで普段は使わないのですか?
私だったら、使いまくって楽をするのに……。
「それだったら、転移魔術を有効に使えば、速さよりも別の物に能力を振り分ければ……」
「私は転移魔術を戦闘に使うつもりが無いからです。エレーンお姉さんは転移魔術を使った戦闘をするらしいのですが、戦闘中に正確な転移先を計算するのは大変なのです。先ほどは、お姉様が魔法陣を書く為に同じ場所にいたので場所を確定出来ただけです。私が転移魔術を使った戦闘をするには並列思考でもないと使えません。それに転移魔術を使うのは最終手段と思っています。私は戦いに関しては純粋な剣士として戦いたいのです!」
私が魔法陣を書くのに対して、転移先の座標の計算をしなくてはいけないのですか。
そうなると地味にめんどいことなのですが、アルちゃんなんて私の横に転移して来るのですが……あっ!
そういえば、私に転移の印が付けてあると言っていましたよね?
すると、単体の転移魔術で動作無しで移動するには個人の印というかマーキングが必要だったのですね。
そうなると、エレーンさんも私のいる所に来れるので、2人から付けられていることになるよね?
アルカードは私と繋がっていると言っていたから違うと思いますが、シズクも付けていたら、3人かな?
「ちょっと聞きたいのですが、シズクも私に印を付けているのですか?」
「お姉様に付けたいのですが、付けていません」
「何か条件でもあるのですか?」
「相手の心に入り込む必要があるのです。そして、私には付ける為の条件が何か足りないみたいなのです。アルちゃんに教えてもらった方法は、相手が心を許した時に付けれるのですが、相手よりも能力がかなり上回っている必要があるのです。私とお姉様はレベルが同じなので、その方法が使えないのです。同格の者に付ける方法はあるらしいのですが、現在調べているところです」
なるほど……エレーンさんとアルちゃんの時はレベルが圧倒的に負けていましたからね。
転移魔術の使い手なんて殆どいないのですが、シズクが方法を見つけたら、私に付けるみたいです。私を監視する人が増えそうですね。
取り敢えず、この体勢からそろそろ助けてもらいたいので、シズクにお願いしましょう。
私が魔術で、この植物に攻撃して抜け出そうものなら、痛い目に遭うのは分かりきっていますからね。
「シズクにお願いがあるのですが。そろそろ解放してくれないかな? 自由にしてくれたら残っているチョコ饅頭を全て進呈しますから、ダメですか?」
「仕方ありませんね。ちゃんと粒餡を作るのも頑張って下さいよ?」
「勿論それも頑張りますよ。私も美味しい物は色々と食べたいですからね。シズクの記憶でしか私は理解していませんから、実際に食べたいのは本音です」
「約束ですよ?」
そう言うとシズクが刀を抜いたと思ったら、私を拘束していた蔓を全て斬って私を引き寄せると直ぐにその場を離脱しました。
蔓が倍になって私のいた所を探っていますが、いないと分かると元に戻って行きます。優秀な植物ですね。
シズクに残っているチョコ饅頭を全て渡すと、エルナと約束があるからと言ってどこかに行ってしまいました。ミリちゃんがもう無いとわかると泣いています。
マリちゃんは1つも食べれなかったので、私に催促してくるし困ったな……。
何故か浴衣姿のガルドはお茶をすすりながら庭を見ているのですが、しばらく眺めていたいとか言い出すので放置しておきました。
なんとなく庭を眺めている姿が似合っていますね。
もしかしたら、意外とシズクと趣味が合うのかも知れません。
これ以上ここにいても仕方ないので、自分の工房に戻ることにしました。私の後ろを啜り泣きしながらマリちゃんとミリちゃんが付いて来るのですが……これって私が悪いの?
途中ですれ違ったメイドさんの視線が痛いんですが……。
お願いだから、普通に付いて来て欲しいな……。




