145 どんな時も忍術
別の場所に突然転移させられました。私とシズクさんの2人だけのようですが、ここはどこなのでしょうか?
周りの景色は森のようです。91階層から99階層までは、少し広めの迷宮だった筈ですが……。
何にしても、シノアと早急に合流をして一度撤退をするように言うつもりです。まずはシズクさんと相談をしたいのですが、シズクさんが真剣に周りを警戒をしています。何か危険な魔物でもいるのでしょうか?
つい先日、新たに眷属になったシズクさんですが、私よりも適応力が高いのか、早くもシノアから継承した能力を自分の物にしたようです。
特徴としては、魔術に関しては全魔術が使えるのです!
適性の関係で覚えられないものもありますが、等級がある全属性の魔術が使えるのはかなりの強味です。
風魔術以外は中級までと言う制限があるのですが、大抵の魔法は中級までが多いのです。上級以上は強力な魔法が多いのですが、種類も少ないのです。
それ以外にも、個人に限定されるのですが、転移魔術が使えるのです。軽く練習相手を頼まれた時は、姿が消えたと思ったら、まったく気配を感じさせずに私の喉元に刀を突きつけているか、刀を体のあちこちに当てて来るのです。これが刃の方で斬られていたら、私は何回も殺されている事になります。
ただでさえ速さに特化したシズクさんが、気配を消して転移魔術を利用した戦いをしたら、もう私には勝てる気はしません。
そして、転移魔術以外にもシノアの最初の魂と融合した所為なのか、基礎の能力をほぼ身に付けているのです。
中でも複数の魔術を同時に行使できるようになったらしいので、、中級魔術までの複数の魔術を組み合わせる事で、本人は忍法と言っていますが、オリジナルの魔術が使えるのです。
そして、私達の最大の弱点であるマナの問題なのですが、シズクさんの固有能力がそのまま維持されているので、私達と違って余程の無理でもしない限りはマナ切れになりません。とても羨ましいです。
私もシノアの魂と融合しているのですから、魔術の同時行使が出来ても良いと思うのですが……シノアから聞いた話によると、私と融合している魂はいくつかの封印のようなものがされてしまっているそうなので、能力を抑えられているのではないかとの事なのです。
元々の適性のあるセリスさんは、融合している魂の性格以外は問題が無いので、複数の支援魔法をいくつも行使をしているし、最大の強味はシノアよりもマナの保有量が多い事なのです。
この点に関しては、ノアさんに質問をしたら教えてくれたのですが……魔術の同時行使が出来ないのはシノアの予想とは違いましたが、最後の記憶の時の能力がダウンした状態だったからとの事です。それ以前に、最大の要因は私の元の魂には基礎の才能が無いからと言われてしまいました……。
最初に言われていたので分っていた事ですが、時間を見つけては色々と訓練もしたり、ノアさんの夢の中で悪夢のように訓練しましたので、何とか戦えるようにはなったのですが、マナの保有量が増えない事は私に取って致命的なのです。
それでも、最初の頃に比べればマナの保有量は増えてはいるのですが……魂の情報が固定されている私のマナを増やすには、レベルの増加よりもノアさんにある事をされるのが条件なのです……気のせいか、その事に対する技量の方が成長している気がします。
元々、個の強さを持つシズクさんにこれだけの能力が増えれば、私達の中で最大の戦力になったと私は思っています。
今でも風の魔術の感知範囲を広げていると思いますので、早くも敵を察知したのかも知れません。
こんな事を言うのはいけないのですが、別の場所に2人だけで飛ばされたのがシズクさんなので、とても安心をしています。
もしも、シノアと2人で飛ばされたら、無用な敵でも作って酷い目に遭うのは目に見えています。
なまじに相手の感情が読めるから、少しでも面白くないと相手を挑発するので、頭の痛い問題児なのです。
私が思い出したように呆れていると、シズクさんが何かを見つけたようです。
「カミラお姉ちゃん、どうも私達は囲まれています」
「私達をですか!?」
「感覚的に、正面から2人ほど来るのですが、他に3人ほど待機しているようです。周りにも魔物が待機している感じなのですが、何となく統率でもされている感じなのです」
シズクさんが感じた通りに、そのような配置で私達を包囲しているのですから、これは予め仕込まれた事になります。私達に何の用なのでしょうか?
予想としては、シノアが目立ち過ぎたので、アストレイアの手の者が動いた事になります。このダンジョンの製作者である本人が私達を分散させて飛ばした事になりますが、そうなると、シノアの正体が完全に看破されるのよくありません。
私達は技能の偽装鑑定で能力を誤魔化していますが、真の鑑定眼を持つ者や特殊な魔眼を持つ者には看破されてしまう可能性があるので、覗かれてしまうと普通に疑問を持たれてしまいます……特に種族の表現が適当なので……。
まずは、こちらに向かって来る2人が何者かは知りませんが、様子を見たいと思います。恐らく戦闘は避けられないと予測します。
「こちらに来ると言う事は、私達に用があると言う事になります。私達がここに飛ばされてくるのが分っている事になりますが、何者なのでしょうか?」
「お姉様ほどには、はっきりと感じられないのですが、こちらに向かって来る2人はマナの反応が大きく感じます。待機している者も同じか少し大きい感じです」
「シズクさんは、シノアのようにマナで相手の強さが分かるようになったのですか!?」
「強さとかは分かりませんが、何となく大きな反応が感じられるのです。それも私の風の結界陣の範囲内だけに限定されます。以前は誰かがいるとしか分からなかったのですが、この世界ではマナの保有量が強さに繋がるので、お姉様はこれを感じていたのかと思われます」
風の探知魔法を結界陣などと言っています。風魔術と併用が前提ですが、もう1人シノアに近い強者感知が出来る子が増えたようです。
趣味に関しては頭が痛いのですが、戦いに於いてはふざけているシノアと違って真剣なので頼りになります。
もしも、シノアがこれぐらいに真剣な人格になってくれたら……私の悩みはほぼ解決されるのですが、もう無理と諦めています。
私がそんな事を考えていると、シズクさんの言った通りに小柄な2人の少女が来たのです。顔が似ているので双子なのでしょうか?
私の印象は、何か悪だくみを考えているシノアが2人も現れた気分です。
「そこのおチビな子と胸がでかくて頭の悪そうな目付きの悪いお姉ちゃんに聞きたいのですが、迷子ですか?」
……片方の子がいきなり失礼な事を言ってきました。シズクさんは背が低いだけで済んでいますが、どうして私は頭が悪いのですか?
しかも、私が気にしている目付きまで指摘されています。胸はともかく、目の事を言われるとその口を縫ってあげたい気分になります。
どうも、シズクさんがこの辺りの状況を把握している事に気付いていないようなのです。普通に質問をしてくるので、シズクさんが待機していると予測している者とは別の手なのでしょうか?
どちらにしても、こんな所にいるのですから、この場所がどこかだけは知っていると思いますので、些細な事は気にしないで、こちらも質問してみたいと思います。
「初対面の方にいきなり失礼な事を言うのは止めた方が良いかと思います。逆に聞きたいのですが、ここがどこかご存知ですか?」
「マリーナ、あの人は怒らないで普通に質問をしてきたよ?」
「ミリーナ、いつも思うけど、口の利き方を直さないとまた怒られるよ?」
どうも初めから相手を怒らせるつもりだったようです。この程度で怒っていてはシノアの相手は務まりません。
シノアは初めから私に何か貸しを作るように訳の分らない事を言ってきますので、私にも変な耐性が付いてしまいました。
私が最も注意すべき事はシノアの無償の善意です。
シノアは相手に対して賄賂を受け取らせて、断れないように心の貸しを蓄積した所で初めて自分の要求を言って来るので、断りづらいのです。
お蔭で私は何かを無償で貰うのがとても恐ろしいので、そんな事をして来る人は疑って見るようになってしまったのです……おまけに、私の目付きの悪さが更に状況を悪くしているので、普段の生活でも、私の事を知らない方には私の事をエルナ様のお目付け役か男性除けの護衛かと思われているぐらいです。
昔の私はエルナ様に憧れる取り巻きの1人でしたのに、どうしてこうなってしまったのか……いえ、わかってはいるのです。今があるのはシノアのお蔭なのですが、これまでの事を思うと、私はただの苦労人になってしまったと時々思ってしまうのです。
それはともかく、私が注意をした方のミリーナという子に話しかけようとすると……。
「怒ったりしないので、宜しければ、ここがどこだか……」
「カミラお姉ちゃん! 近付くのは危険です!」
シズクさんの言葉を聞くと同時に私の腹部に鋭い痛みを感じると、マリーナという子が私に短剣を突き刺しています!
不用意に近づいたとはいえ、まったく手元が動いた動作も分かりませんでしたし、殺意も感じませんでした!
私もこの手の気配には敏感になっていたと思っていたのですが、所詮は付け焼刃と言う事です。
「こいつ馬鹿そうだから、会話なんかするよりも痛め付けてから連れて行けばいいのよ。人を見た目で判断するなんて、良い目を持っているのに馬鹿じゃない?」
直ぐに距離を取って短剣で刺された場所に回復魔法を掛けていますが、治りが遅いので、ご丁寧に毒でも塗ってあったに違いありません。
改めて翡翠眼で2人の子の能力を見ると、この子達は魔狼王フェリオスの使徒です!
どうして、アストレイアのダンジョンの中の転移先にフェリオスの使徒がいるのですか!?
「そう言うマリーナも、先に手が出る癖は直した方が良いと思うけどなー」
「ミリーナと違って知らない人と話なんてしたくないだけなのです。それよりも、どうして動けるかが不思議です……あの毒が効いてきたら、その場で倒れて痺れているはずなのに?」
勿論、解毒の魔法も使いましたが、シノア程ではありませんが、私の体内に異物が混入するとマナに変換しょうとしてくれるので、毒物などの効果は半減しますから、地味に助かっています。
これが死に至るような猛毒の場合は、シノアと違ってある程度マナに変換されないと、私は行動不能になってしまいます。この場合は相手を痺れさせて行動を不能にする薬物だったので助かりました。
「いきなり人を刺すなんて、魔狼王フェリオスは過激な方針の魔王なのですね」
「マリーナ、あの人の目が綺麗な宝石みたいになっているよ! あたし、欲しい!」
「ミリーナ、あれは翡翠眼と言う目だから、くり抜いて移植すれば奪えるはずだけど、適合するか分からないから賭けになるよ?」
「グロリアの凍結魔法で凍らせて飾るだけだよ!」
「無駄なのにフェリオス様に色目を使っている、偉そうな女に頼むと余計な借りを付けられるよ?」
私の目を宝石と勘違いして、飾りたいなんて話しています。部屋に眼球を飾りたいなんて、趣味の悪い子です。
見た目は少女ですが、実年齢は1000歳を超えていますので、子供とは呼べませんが、話し方や会話を聞いていると私よりも幼く感じます。
「残念ですが、この目は差し上げられません」
私が意識して元の目に戻すと、とても残念そうです。
「あー! 目の色が元に戻っちゃったよ!」
「へぇー、自分の意思で切り替えが出来るのですか? 古代のエルフでもないのに使えるなんて、お姉さんの先祖にはエルフの血でも混じっていて先祖返りとかですか?」
「私の祖先にエルフの血は混じっていません」
「すると……移植とか何かの実験でもしたとか……ちょっと興味が湧いて来ました」
私を刺したマリーナと言う子の私を見る目が、捕まえて解剖したいとでも思っているような気がします。
適当に会話をしている内に私の傷を癒し終えると、シズクさんが即座に行動を起こしています。
「忍法! 爆炎の舞! カミラお姉ちゃん、ここは一旦引きますので、付いて来て下さい!」
シズクさんの指示に従い付いて行く事にしました。私は翡翠眼で相手の情報は分っていますが、見た目は自分よりも幼い少女に対しても遠慮がありません。
爆炎の舞などと言っていますが、「フレイム・ストーム」で炎を巻き起こして「ウィンド・ボム」で更に風の爆風をぶつけているので、通常よりも強力な炎の塊を投げつけています。
中級までの魔術を組み合わせる事によって威力を高めているのも、流石は戦闘が好きなシズクさんです。忍法などと言って、別の名称で攻撃されては、言葉の内容を理解が出来なければどんな攻撃かはわからないと思います。
私はノアさんに強制的に読まされた漫画の所為で、シズクさんの使っている忍術がおよそ想像が出来ますが……。
しかし、シズクさんが戦わずに引くなんて珍しいのですが、どうしたのでしょうか?
気になるので聞いてみたのですが……。
「私はシズクさんの事ですから、きっと戦うと思ったのですが、どうして引いたのですか?」
「私達があの2人と接触してから、少しづつ周りにいる反応が増えつつ、包囲をしているのです! あのまま戦っていたら、完全に包囲されてしまいます。数の勝負で負けるかも知れないので、一旦包囲の範囲から出た方が良いと判断しました! それに、もしもこのマナの反応の大きさがレベルに直結しているのでしたら、あの2人は私達よりもはるかに大きい反応をしていますので、単純に私達のレベルより数倍は上と思います!」
「それは、フェリオスの使徒として力を貰っているからと思いますが……」
「あの2人は魔王の使徒でしたか! しかし、今の私なら、例えレベル差が有っても負ける事は無いと思いますが、あの場に留まるのはカミラお姉ちゃんが不利だと判断したのです。包囲を突破したら正面は私が引き受けますので、カミラお姉ちゃんは距離を取って回復しながら、相手を倒して下さい!」
「分かりました。あの2人が相手だとシズクさんでも不利だと思いますが……一応、お伝えしておきますが、あの2人のレベルは1800以上もありました。私達はレベル227なのですが、その差が埋められるのですか?」
「普通の常識では、絶対に勝てません! ですが、この世界のレベルというのはマナの保有量の最大値に表しているだけです! なので、個人の技能が優れていれば、戦い方によってはその差は埋められるのです! そして、マナの保有量は日々の精神的な訓練でも上げられます。多く保有をして体を鍛えていれば、自然と身体能力の強化に流れる仕組みなのです。使徒と呼ばれる者達は、その過程を飛ばして大きくマナが増えているだけなので、それを生かせていな者達なら私でも十分に勝算はあります!」
「ノアさんからもレベルよりも技能をとにかく強化するように言われていましたが、そういう事でしたのですね」
「カミラお姉ちゃんは技能的には強いのですが、レベルに対してマナの保有量が低いという欠点があるから、短期決戦に持ち込まないといけないので、数の戦いでは不利なのです! 私もお姉様の眷属になって、この能力に目覚めなければ、カミラお姉ちゃんの欠点には気付きませんでした」
「それは……私が凡人なのです……シズクさん達のような才能が無いので、私が足枷に……」
「カミラお姉ちゃんは、本気でそんな事を思っているのですか! そんな事をお姉様に言ったら傷つきます! それにノアさんだって、それを補う為にカミラお姉ちゃんに強力な能力を与えているし、夢の中で鍛えてもらっているのですよね? カミラお姉ちゃんがそこまで強いのは、ノアさんが目を掛けているのもありますが、カミラお姉ちゃんが日々努力している証拠です!」
「ごめんなさい……今の言葉は忘れて下さい。いつの間にか私は大事な事を忘れていたようです……こんな事を思うのはシノアの想いを踏み躙る行為でした。私はシノアの為に強くなると決めていたのに。お恥ずかしい限りです……」
「お姉様はカミラお姉ちゃんに意地悪ばかりしていますので、カミラお姉ちゃんが精神的に悩んでいるのも分かりますが、カミラお姉ちゃんもお姉様に厳しくするのではなく甘えれば良いのです。お姉様は鏡に映ったような行動を取る傾向がありますので、厳しくしたりするとかえって相手に反抗をして仕返しをしょうとしてしまうのです。甘えたり頼ったりすると、自分の興味が乗らない事でも嫌々ながらも相手の意思を受け入れるのです。あの感情に左右されるのはお姉様の美点であり最大の欠点なのです」
「分かってはいるのですが。ノアさんから、シノアの事をしっかりと見ているように頼まれていますから……」
「きっと、ノアさんはこうなる事が分かっているので、カミラお姉ちゃんが真面目なのを良い事にからかっているのかも知れませんよ?」
「そうかも知れませんが……」
「それは後で考えるとして、前方に強力な一撃を撃って下さい! 前方から複数の魔物が来ますので、突破して距離を取ってから各個撃破をしたいと思います!」
「分かりましたが、その後はどうするのですか? 速度強化をして離脱したのは良いのですが、その前にあの2人が追い付いて来ると思うのです」
「道中に罠を仕掛けまくって来ましたので、あの2人なら、多分掛かっていると思います! 包囲網から出た後は、左右から集まって来る魔物をマナを回復させながら数を減らしてくれれば私があの2人を倒します! カミラお姉ちゃんは距離を取って私の援護に徹していて下さい! 私も正面の敵に撃ちます。任せましたよ! 忍法! 雷槍破!」
私が矢にマナを集中させていると、シズクさんも姿の見えた複数の魔物に向け、得意の「エアリアル・ニードル」に雷が纏った状態で複数撃ち出しています。
普段から数を多く作り出す風の槍に雷を纏わせているので、貫通しつつ電撃で痺れさせていますから、魔物の足が止まっています!
そこに私のマナを多く籠めた魔弾の攻撃を撃ち込むのですから、確実に当たります。
中には前の階層で戦ったキマイラもいましたが、あの時の魔物よりはレベルが低いので、私の攻撃で倒せています。
私が撃った後にそのまま進んで、残りの魔物はシズクさんが全て斬り倒して行くのです。まだ無事な魔物もいたのですが、あんな倒し方をするなんて……シノアの眷属になった事でシズクさんの脅威度が恐ろしく上がりましたね……。
「しかし、いつの間に罠など仕掛けていたのですか? 一緒に走っていましたが、そのような素振りは無かったと思いますが?」
「畳返しではなくて……土遁の術で一定の間隔で壁を起こして、見えにくい位置の地面をいくつかへこませておいたので、真っ直ぐには来れないはずです。更にこの破裂玉を撒いておいたので、十分に引き離せていると思います」
そんな事をしていたのですか……相手の方には気の毒ですが。もしかしたら、シノアの悪戯の知恵はシズクさんの影響なのでは?
しかし、魔術を行使しているのに絶対に忍法としか言わないのです。魔術が無詠唱で使えるので、後はそれらしく名称を付けるだけなのです。いつもシノアが言っていることでもありますが、毎回名称が違うのですが、どの辺りを変化させているのでしょうか?
私は、シズクさんは私達と違って無詠唱でも威力が落ちないのですから、忍法と言わないで攻撃に組み込んだ方が有用性があると思うのです……シノア曰く「形から入った方がその気になれるそうですよ?」などと言っていましたが、既に刀を持っただけで性格が戦闘的に切り替わるので、十分になりきっていると私は思います。
そして、何か怪しげな物を撒いて来たと言いましたが。破裂玉との事ですが、爆弾なのですか?
「ところで、破裂玉とは何なのでしょうか?」
「お姉様に火薬を作ってもらって、私が作ったのです。マナを流して置いておくと次にマナを纏う物が触れると爆発する仕組みなのです。私の知識では花火を解体した程度しかないので、大した威力はありませんが、音と火花が派手に飛び散る仕様になっていますので、威嚇に使えます。本当はもっと威力のある爆弾が作りたかったのです。こんな事でしたら、構造の仕組みだけでも詳しく調べていれば良かったと悔やまれます! 私が見たという記憶さえあれば、お姉様に見せる事が出来たのが残念です!」
威嚇用の爆弾という訳ですか。そんな物まで作っていたなんて、シノアとシズクさんが工房に籠っているとどんどん怪しげな物が作られていきます。シズクさんが欲しがっている威力のある爆弾などが誕生したら、魔術が使えない一般の人でも、隠し持っていて使ったらとんでもない事になるのではないでしょうか?
それにしても、花火と言うのはシズクさんの世界の見世物かと思いましたが。そんな物が近づいたら炸裂するなど、ただの嫌がらせではないのでしょうか?
今回は助けられていますが、2人が工房に籠っている時は、様子を見に行くようにした方が良いのかも知れませんね。
そのまま包囲網を抜けた辺りで、私に左右から私達に向かって来る魔物との大体の距離と位置を伝えると、そのまま来た道を戻って行ってしまいました。
シズクさんは最初のシノアの魂を得たと言っていましたが、能力の向上が私達の中で一番強化されたようです。私がノアさんから聞いた話では、特に何も特化していない魂だと……。
ノアさんが言うには「んー、あの魂は性格以外は今のシノアに近いけど、完全な器用貧乏と言っても間違いはない能力しかありません」とのことです。
1つだけ他の魂と違う点は、最も長い時を生きた事です。
特に戦争にも介入をしなかったので、最後に残った者を知っているそうですが、それだけは私も教えてもらってはいないので分かりません。
そこで疑問に思うのですが、そこまで生きたのにどうして時間を戻したのでしょうか?
シズクさんを見ていてそんな事をふと思ってしまいました。今はシズクさんの指示通りに他の魔物の殲滅をしたいと思います。
長距離からの狙撃でしたら、私にも力を貯める時間があるので、先ほどの魔物程度でしたら、私でも十分に殲滅が出来ます。
少々マナポーションを使う事になりますが、私の最大の火力で攻撃させてもらいます。
1人で突撃をしてしまったシズクさんも心配ですが、私の仕事はシズクさんの方に魔物が向かう前に倒す事です。
翡翠眼を発動させれば私にもマナの動きが分かりますから、シズクさんに教えてもらった方角に大きなマナの動きがあるのが分かります。可能な限り撃ち減らせば、残った魔物が辿り着いても近接戦闘で戦いながら引き付けて、シズクさんにあの2人との戦いに専念させたいと思います。
シズクさんはレベル差を埋める戦いが出来ると言っていましたが、私でしたら勝てる気がしないのです。
ですが、シズクさんは、この体の最大の欠点であるマナ切れにならないと言う利点があるので、シズクさんの言う通りレベルがマナの最大値を示しているのでしたら……。
気になるのは、待機していると言っていた3人が参戦した場合がどうなるか分からないのです。シズクさんなら、数の不利も何とかしてしまうかも知れませんね。




