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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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135 天の使いですか


 翌日、エリザを連れてシズクの工房に連れて行く事にしました。

 やたらと私に服装の改善を言っていましたので、好きなだけシズクのコスプレの生贄にしてしまおうと思ったのです。

 昨日の夜は、お屋敷に着くと、セリスがエリザの首輪に私が持っていたリードを付けて部屋に引っ張って行ったのですが、どうなったのでしょうね?

 セリスが「朝までには躾をしておきますので、少しはシノア様の奴隷に相応しくしておきます」とか言ってました。エリザの方は特に命令していないのですけれど、最初の頃のように煩く文句も言わずに素直に付いて行きましたが、別れ際に私を見る目は明らかに助けを求めている子犬のようでした。

 かなり怯えていたのですが、キャロが手を握って「手加減してくれるように私もお願いしますので……少しだけ安心して下さい」なんて声を掛けていましたが。少しだけってなに?

 私の脳裏にはシズクが歌っていた、どこかに売られていく動物の話の歌詞が浮かびました。あれはなんでしたかな?

 翌朝、工房で過ごしていた私の所にキャロが来た時に何をしていたのか聞いたのですが、最初に私をあの地区に連れて行った罰を受けたらしく、いつものお仕置きを感覚が無くなるまで叩かれて、睡眠薬を飲まされてぐっすりと眠ってしまったので、何をしていたのかは分からないそうです。

 分っているのは、薬が切れて目が覚めると、未だに叩かれたところが痛くて座る事も出来ない自分と、部屋の隅で震えていたエリザが居たことだそうです。声を掛けようとしたら、セリスにいつも通りに私の所に行くように言われたので来たそうです。キャロから、「シノア様、どうかお願いですので、彼女を助けてあげて下さい……」と、言われたのです。これは、昨日は身請けして助けたつもりでしたが、悪魔に生贄でも捧げた気分になって来ました。

 取り敢えず部屋の前まで来たのですが、扉の向こうからは恐怖にでも支配されている強い感情を感じますが……助けを求める声も聞こえてきます。

 扉をノックして声を掛けると、静かになったと思うとセリスが笑顔で迎えてくれるました。何をしていたのか知りませんが、中に入ると……床に血が所々にあるのですが。ここはいつから拷問部屋になったのでしょうか?


「おはようございます、シノア様。お約束通りにシノア様に相応しい奴隷に調教し直しておきましたので、少しはましになったと思います」


「おはよう、セリス。それはすごいのですが。そのエリザはどこに?」


 よく見ればセリスの背後に居ました。セリスの持つリードの先には、せっかく普通の服装になったのにまたもやボロキレを着ているエリザが土下座をして迎えてくけるのです。まさか一晩でお高くなったプライドがここまでへし折られるとは、調教内容に興味が湧いてきましたよ。


「早くシノア様に朝の挨拶をしなさい。先ほど教えたのに直ぐに実行が出来ないとはまだ躾が足りないのですか?」


 セリスがエリザに声を掛けると、慌てて顔を上げて挨拶をしてきましたが……。


「セリス様、お許しください! おはようございます、ご主人様! 挨拶が遅れた事は誠に申し訳ありません!」


 おおぅ。

 あのエリザがセリス様とか言っています。

 昨日の態度はどこに行ってしまったのでしょうね?

 

「あの文句ばっかり言っていたエリザがまさか土下座でお迎えしてくれるとは……それにしても、せっかくボロキレから普通の服になったのにまた元に戻っていますね……」


「気が付いたら、このようになっていたのです」


 ここまでしておいて気付かない訳が無いのですが、セリスは加減と言う物を知らないのですか?


「キャロから聞きましたが、シノア様はこの者をペットとして購入されたと聞きましたので、いっそ無しにしますか?」


「確かにキャロにはペットなんて言いましたが、あれはその時の冗談ですから本気にしないで下さい。いくらなんでも無しは……」


「申し訳ありません。この者は他に荷物が無かったので、着せる物がありません」


 服ぐらいは貸してあげて下さいよ……キャロがいたら自分の服を貸してあげていたと思いますが、セリスにすぐに追い出されていましたからね。

 キャロは、お仕置きされた後に例の睡眠薬を飲まされてぐっすりと眠っていたので、分らなかったと思いますが、ここまで怯えているのですから、昼間と同じような拷問でもしていたに違いありません……それも一晩中……。


「仮にもキャロの故郷の友達なのですから、そこまでしてしまうとキャロに申し訳が無いので、服ぐらいは着せてあげましょうよ?」


「シノア様にあの様な暴言を吐いていたのにお許しになるとはお優しいのですね。シノア様がお前に服を与えたいと仰っているのですが、まだ欲しいですか?」


「とんでもございません! 私は、ご主人様のペットなのですから、無しでも構いません! どうかこのまま従順なペットとしておそばに置いて頂ければ私は幸せです……」


「この様に申しておりますがどう致しましょうか?」


 あれだけ衣装に文句を言っていたのに要らないとか、変わり過ぎでしょ!

 いきなりアルちゃんのペットに墜ちたカリンさんに近いレベルにまでなるとか。その内に進んで体罰を求めて来そうです。


「セリス、ちょっとやり過ぎですよ。何度も言いますが、キャロの友達なのですから、躾と言ってもここまでしてしまうのは問題かと思います」


「ここまで躾ければ、シノア様は喜ぶと思っていたのですが……私もまだ配慮が足りませんでした」


 ここまですれば私が喜ぶと思っているセリスは私をどんな主人と思っているのでしょうね?

 これは決して私が調教したかったと言っているのではありません。

 少しづつお仕置きでもしながら、自分から従わせたかったのですが……この状況をキャロに見せるのはね……。

 仕方ありませんので、考えを変えて今度は普通の真っ当な人として教育すれば、少しはキャロの要望に近付くかと思います。

 取り敢えずは、これ以上はセリスに預けるとこの人は完全に壊れてしまうので、回収しましょう。


「まあ、素直になったので、これはこれで良しとします。後は私が連れて行きますが、宜しいですね?」


「どうぞ、お連れ下さい。もしも何か粗相をした時はお知らせください。私が責任を持って再教育を施します」


 土下座状態のエリザですが、セリスの注意が私に向いているので、猛烈に嫌だと首を横に振っています。

 取り敢えず立ってもらいました。良い体をしていますね……胸はカミラよりも大きいし、腰も細くお尻も適度な大きさとか羨ましいです。

 そのうえ美人に生まれているとは、容姿は完璧です。

 私がエリザの大きな胸を見ていたら、セリスが「斬り落としましょうか?」とか言って来るのです。本人は嫌とは言わないのですが、目が助けを求めていましたので、それは却下しました。

 むしろ、私は大きな胸が好きなので「これは私の物ですから、今後は大事にして下さい」と言うと、セリスが自分の胸と見比べて嫉妬のような感情を露わにしていました。もしも、何かお仕置きでもするとしたら、次は胸でも集中的に攻撃されそうですね。

 完全回復の治癒魔法が使えるから、どんな事をしても元に戻せるのは強味ですからね。

 部屋から連れ出そうとしたのですが、その場で四つん這いで付いて来ようとしたので、立って普通に付いて来るように言い付けました。いきなりこれとは、何をされたのかシズクの所に連れて行くまでに聞いてみると、明け方までこのお屋敷でのルールをしっかりと教えてもらったとしか言いません。

 仕方ないので命令して聞きましたが、案の定です。一晩中躾と言う名の拷問をされていたそうですが、聞いているとかなり死んでいますよ。

 激痛を感じる度に何度も記憶が無いと言っていましたので、そこで殺されてしまったと思うのですが……来世なんて分らないと思いますが、この人は寿命か殺されて蘇生されなかったら、次に生まれ変われるとしたら、いつになるのでしょう?

 セリスには夜中の出来事の内容を話した事を黙っていて欲しいと必死にお願いされました。うっかりしない限りは黙っていますが、もしも喋ってしまったら、許してね!

 

 話を聞きながら、シズクの工房に着きました。シズクの工房と言ってもコスプレ製作部屋なんですが、その扉をノックしても反応が無いので、ちょっと開けて覗いて見ると、仮眠用のベットで眠っています。カミラの服が完成しているので、疲れて眠っているみたいですが、眠っている時は可愛いのですよね。

 私がシズクのほっぺを突くと「うーん……むにゃむにゃ……お姉ちゃん、あと10分……いや5分だけ待って下さい……」とか言っています。

 普段でしたら気配だけで目覚めるのに、起きないのはきっと何日も徹夜でもしていたのかと思います。

 私と違って寝ないと体に良くないのに、趣味人は気合が違いますね。

 ちなみに、この部屋は鍵は掛かっていないのですが、シズクが許可をしている人以外が扉を開けて中に入ろうとすると、ドアノブは回らないし、手が離せなくなってしまいます。

 扉のノブに指紋を登録していない者はその場から動けないので、逃げるには手首を自分で斬り落とすしかありません。

 今回は私が開けていますので、トラップは発動していません。エリザを中に招き入れると掛けてある衣装を見て目が輝いていますね。

 セリスにしっかりと躾けられたとはいえ、つい昨日までは服装に拘っていたので、訳の分らないコスプレ衣装と一緒にあるドレスを見つめています。

 私がカミラの衣装を見ていた時にエリザがついドレスに手を伸ばそうとしたら、シズクが消えたと思うと、エリザの首筋に刀を当ててます。セリスと違ってまだ食い込んでいませんが、気持ち良さそうに眠っていたのに衣装に触れる瞬間によく反応しましたね。

 

「私が製作した衣装に触ろうとするとは何者ですか? お屋敷では見ない顔ですが、その手を下げないとこのまま首を刎ねます!」


 叫び声をあげたと思ったら震えています。すぐに手を引っ込めて謝り始めましたよ。


「申し訳ありません! つい綺麗なドレスがあったので触れて見たくなったのです。お許しください!」


「それで、何者なのですか? しかもこの部屋に入れるなんて、どうしてトラップが発動しなかったのでしょうか……」


 まだちょっと寝ぼけているみたいです。私に気付かずにエリザにだけ反応するなんて、私って、存在が薄いのかな……。


「私が扉を開けたので、発動しなかったのです。それと、エリザが怯えていますので、解放してあげて下さい」


「お姉様、いつの間に!?」


「扉をノックしたのですが、反応が無かったので、勝手に入りましたよ」


「そうでしたか……私が衣装の前に風の結界を張っていたので、それが揺れたから目が覚めたのです。それでこのお姉さんはどなたなのですか?」


「キャロの故郷の友達で、私が奴隷として買い取ったエリザです」


「キャロお姉ちゃんの友達ですか? それで奴隷として買ったとは、良く分らないのですが……取り敢えずはこのお姉さんに洗浄魔法を掛けてあげて下さい。何となく血生臭いのです」


「綺麗にするのは分かりました。それで、ちょっと説明しますと……」


 昨日からの経緯を話すと納得してくれましたが、キャロと同じ状態の支配下なのに悲惨と言っています。

 シズクは他のみんなと違って経歴などは気にしないみたいなので、いつも通りの採寸をして、予めカミラ用に作ってあったメイド服を手直しして直ぐに作ってくれました。

 私がカミラのメイド服を頼んで作ってもらったのですが、一度だけ着ただけで二度と着てくれなくなった物です。

 しかし、改めて見ると、キャロと同じメイド服なのに体型が違うので、とてもエロエロなメイドさんになってしまいました。

 とにかく目に付くのは胸なんですが、セットの下着の補整効果もあって更に強調されています。

 ちょっと今晩は私の工房に連れ込んで堪能してみたいと思ったのは内緒です。

 エリザの方はと言うと、メイド服なのですが、とても着ごごちが良いらしく満足しているみたいです。

 てっきり不満でも言うと思ったのですが、調教の成果が表れているようです。

 まあ、服無しでペット扱いを受け入れたのですから、十分な出世と思います。


「それにしても、セリスお姉ちゃんに連れて行かれて生きているなんて、このお姉さんは運がいいですね。キャロお姉ちゃんの友達である事もそうですが、お姉様の奴隷じゃなかったら、今頃は魔狼王の森で放置されていますよ」


「そうなのですか? セリスは男性の去勢ばっかししていると思っていましたが、そんな事もしていたのですか?」


「いつも襲って来るのが男性ばかりとは言えません。お姉様の事を嗅ぎまわっている者は女性でも手足を大木に打ち付けて放置しているのです。魔術が使える者には魔封じの枷を嵌めていますので、生き残るのはほぼ無理かと思います」


 私は知りませんでしたがそんな事もしていたのですか。

 もう完全に死刑執行人です。襲って来た者は仕方ないと思いますが、私の事で過剰過ぎるかと……。

 それにしても、その場で斬り殺されて死ぬのか魔物の餌になるのがいいのかは、どちらも経験済みの私としては前者の方がましですね。


「そ、そんな事もされるのですか!? ご主人様、絶対に逆らったりはしないので、私を助けて下さい! 私に出来る事でしたら、何でも致します! 特に特技は御座いませんが、夜の方は自信がありますので、どんな者にでも尽せます!」


「過去はどうあれ、キャロの友達なのですから何とかしてあげますが、夜の方に自信があるとか何をしてくれるのですか?」


「この体を使って落せない男性はいないと自負しています。女性の方に対しても奉仕は完璧でございますので。どちらも得意です」


「あー、そっち系ですか。それはもうしなくてもよいのです。セリスがいる時に私にそんな事を自負したら、また殺されますよ? セリスは、私に対してその手の事を話す者には敵意を持ちますので、注意して下さい」


「このお姉さんは、両刀使いなのですね? 確かにとてもスタイルの良い体をしていますので、どちらにも好かれそうですね!」


 シズクが赤くなりながらもおませな事を言っています。薄い本での知識だけはしっかりあるので、なんか妄想していますよ。

 ちょっと、女性に対する奉仕とか言うのが更に気になりますので、今晩は絶対に私の工房に連れて行きましょう。

 それにしても、エリザをこのままお屋敷のメイドとして働かさせていいのかな?

 それ以前に掃除とか洗濯なんて仕事が出来るのでしょうか?

 昨晩にメアリちゃんにエリザの事を教えてもらったのですが、某伯爵に買われて、第二夫人と言う餌をぶら下げて、普段は貴族としての礼儀作法を仕込んで、夜は他の貴族の接待役として教育されているらしいのです。

 他にも何人か同じように連れて来られるので、選ばれなかった者は奴隷として売り払うと言って競わせているらしいのです。

 そして、選ばれた者は第二夫人の肩書と他の貴族の接待役として使われているそうなのですが、他の別宅にそれぞれいるので、用済みになるとどの娘も自分がその伯爵の第二夫人と言っているのです。

 聡い者は理解していて捨てられた事を分っていますが、エリザの様に生活レベルが落とせない者もいるし、買う者も貴族の女性として仕込まれた者を甚振って慰め物に出来るので需要があるとか。

 要するに、地方の田舎の娘を何人かで競わせて、ある程度教育したら、利用した後に飽きたり商品価値と言うかリピート率でも下がったりしたら、売却していると言う事ですね。

 エリザの場合はかなり伯爵に気に入られていて、他の者よりも色々と出来たらしいのですが、ちょっと贅沢し放題で自分が住んでいた屋敷の者にも好かれていなかったし、最大の失敗は本妻を暗殺して成り上がろうとした事らしいのです。それを密告したのが自分の警護の者だったらしいのですが、深い関係だったと思っていたのだけど、実は遊ばれていただけだったとか。

 自分を不幸にした両親の始末をしてくれたのだから、今回も引き受けてくれると思っていたらしいのですが、ちょっと考えが甘かったみたいです。

 一応、エリザの境遇についても教えてもらったのですが、どうも金の為に売られたとしか教えられていないみたいです。実際は、視察に来ていた伯爵から、気に入ったから売るように言われて、拒否できなかったそうなのです。本人は知らないので、教えるかは私の判断に任せるとの事です。

 しかし、本人からしたら将来を約束していた者もいたらしく、そこに突然身売りの話が出て来て半ば強引に売られたとの事ですからね。

 この事を教えたら、知らなかったとはいえ両親を殺してしまった事になるのですから、教えても良いか迷います。私は現在が全てだと思うので、知らないのでしたら、知らないままで良いかと思うのですが、どうなんでしょうね?

 こんな話を聞いたけど、取り敢えずは私の奴隷としての生活を当分はしてもらいます。

 もしも、キャロが言っていた思いやりのある優しい人に戻れたのでしたら、解放してあげてもいいと思っています。

 取り敢えずは、他に何が出来るかですね。


「ちょっと聞きますが、メイドの仕事とか出来るのですか? 随分とその伯爵さんに何かを仕込まれたと思いますが。夜の奉仕以外で、教えてくれますか?」


「そのような事は故郷にいた頃の事ぐらいしか出来ません。礼儀作法とダンスなども一応は踊る事が出来ます」


「メイドさんがダンスでご飯は食べられないと思うのですが。故郷では何をしていたのですか?」


「畑仕事をしていましたが……今するとせっかく綺麗になった手が荒れてしまいますが……ご主人様のご命令でしたら、従います……」


 畑仕事で手にマメが出来たりするのが嫌なんですね。

 要するに、今さら農作業なんてしたくないと?

 わかりました。

 それでしたら、昔の彼女に戻す為に畑仕事に従事させましょう!

 そして、もう一つ気になっている事をまずは止めさせましょう。


「エリザにさせる仕事は決めましたが、そのご主人様と言うのは止めてくれますか? 出来れば名前で呼んで下さい」


「しかし……セリス様に言われているのです。私ごときがご主人様の名前を呼ぶのは許されないと……」


 また、セリスの言い付けですか?

 私を絶対視するのは何とかならないのかなー。


「私はそのセリスのご主人様なのですが、その主人のお願いが聞けませんか?」


「わ、わかりました……それでは、キャロと同じ様にシノア様と呼ばせていただきますので、セリス様に許可をするようにお伝えください。そうしないと私はまた罰を受けてしまうのです……」


「それはしっかりとセリスに言っておきますので、安心して下さい。シズクにお願いがあるのですが、エリザのサイズの作業服って、ありますか?」


「作業服ですか? お姉様がこの人に何をさせるのか分かりました。ナリアさんの予備の服がありますので、それを着れば良いかと思います。サイズ的に変わらないので、作業服でしたら問題無く着れる筈ですから。ちょっと待ってて下さい」


 散らかっている服の中から探し出して渡して来ました。よくあそこにあると分かりましたね……私には同じような服が落ちているとしか見えないのですが?


「シズク、ありがとうねー。カミラの衣装が出来ているみたいですから、お疲れのシズクの体調が万全になったら、出発したいと思います」


「それでしたら、明日には遂に最下層を目指す事になりますね! 私はもう少し寝さて頂きますので、このまま眠ります。それと、エリザさんでしたね? 帰りにそこの水晶に手で触れておいて下さい。そうすればこの部屋に入れるようになりますので。そのうちにドレスを仕立てますので、私の手伝いをして下さい! それでは、おやすみなさい!」


 余程眠かったのか、ベットに倒れると即眠ってしまいました。エリザに部屋に入れる許可を与えるとは余程スタイルが気に入ったと見えます。

 エリザの方はドレスが着れると聞いたので、私にどうすれば良いのか許可を求めて来ますが、そこと言っても認証用の水晶は布で埋もれているので、私が掘り出して指紋の登録をしておきました。

 それでは、作業服を持ってステラさんの畑に向かう事にしました。私は前回のマナ供給の件でやっと畑のエリアに入る事を許可されたので何事もなく通れましたが、エリザの方は何か叫んでいると思ったら、蔓が巻き付いて来て釣り上げられています。逆さまになって手足を引っ張られていますが、吹き飛ばされた私の時と違って吊し上げるだけとか、変な所で差を感じるのです。しばらくすると異変に気付いたステラさんが飛んできました。


「シノアちゃん、侵入者が掛かっているので見に来たのですが、この人は誰なのですか?」


「こんにちは、ステラさん。ステラさんの畑仕事のお手伝いさんを確保したので、紹介しょうと連れて来たのですが。下ろしてあげてくれませんか?」


「この人は、うちの畑仕事を手伝ってくれる人だったのですか!? それは大事な人材ですから、歓迎します!」


 解放してあげると、ステラさんを見て驚いています。

 きっと白くて綺麗な翼が気になっているんでしょうね。


「シノア様……この方は天界の方なのでしょうか? このような美しい翼を持つ種族は聞いた事がありませんので、私が幼い頃に聞かされた天使様なのでしょうか……」


「うちは、天魔族です。美しい翼を持つ天使さんと呼ばれるのは嬉しいですね!」


「違います。この人はだらしない堕天使のステラさんです。翼が白いのは何も考えていないからなのですよ」


「シノアちゃん、酷い! 白い翼は平和的な考えをしているからです! そんな事を言うシノアちゃんだって、片方が白くて片方が黒いどっちつかずのなんですから、シノアちゃんの方が堕天使ですよ!」


「シノア様もその方と同じように翼があるのですか!?」


 別に見せても減る物じゃないので出したら、エリザの私を見る目が変わりましたよ。


「私は、4枚あるのですが何故か片方の2枚は黒いのですよねー。こんなに平和的な考えをしているのにおかしいのです」


「わ、私は天使様に買われたのですか……今の今まで恐ろしい方と思っていましたが、考えを改めて尽す事を改めて誓います。私を買い取って下さったことに感謝いたします」


 今まで微妙に私にビクついていたのですが、セリスに近い私に信仰でもしているような感じです。

 この人も私に支配されたのに感謝しているとか。考えてみたら、キャロも死にそうな目に遭って私の支配を受け入れていましたので、変な所で同じですね。

 そう言えば、キャロも私の翼を見た時に驚いていた気がします。何か言い伝えでもあるのかな?


「私は天使ではありませんが、エリザの故郷ではそんな昔話があるのですか?」


「そりゃ、天魔族のサテラ嬢ちゃんが救済活動をしていたから、それがそのまま話としてあちらこちらに伝わっているんだよ」


 私の問いに答えたのは片手に鍬を持って、現れたクロード先輩です。

 殿下と呼ばれていたのに、すっかりと畑仕事が似合うようになって来ましたね。

 そして、サテラのしていた事と言えば戦災孤児を保護していた事と思いますが。それかな?


「それはサテラの人助けの事ですか?」


「本人は親を亡くした子供を引き取って育てていたとしか言わないが、当時は多くの者が救われたと伝えられているから、歴史書にだって残っているぜ? だから、その末裔が各地に散っているから天魔族は天界から人々を救う使いとも言われているんだが。現在は滅亡したと思われているから、地方の村なんかでは御伽話として伝わっているんだよ。俺も2人の翼を見て昔に読んだ事を思い出して色々と聞いたら、長い事眠っていた事を聞いたからな」


「過去の事はサテラが余計な事を話すわけが無いので、ステラさんが喋ったと思いますが。私が調べた書物にそんな記述はあったかな……これでも書物はかなり読み漁ったのですが……」


「その歴史書は王宮の書庫にあるんだ。この国では一応は敵側の陣営にいたが、記録として残っていたんだよ。大方その姉ちゃんの村はその時に保護されていた子供の末裔かも知れないな」


「なるほど……」


「はい! うちも面倒を見ていたのですから、褒めて下さい!」


「はいはい、ステラさんはきっと子供の遊び相手になっていたのでしょうね。えらいえらい」


「何だかうちは、すごく馬鹿にされたような気がするのですが……」


「はぁ? 私はステラさんが子供の面倒を一緒になってしっかりとみていたと褒めたのに伝わらないとは……ステラさんって、私の言葉が理解出来なかったのですか?」


「そんな事はありません! うちはシノアちゃんの言葉をしっかりと理解しているので喜んでいるのです!」


「それなら良いのですが。人を疑うよりも素直になった方が天使としての株が上がると思います」


「はい! うちは素直な天使です!」


 うん、サテラと違って言いくるめるのは簡単ですね。

 サテラだったら、ここで刺される所ですが、アホなお蔭で助かります。

 クロード先輩は毎度の事なので、もう何も言いません。ステラさんを言いくるめていると、私の事を詐欺師呼ばわりしています。

 

「どうしてここにクロード殿下がいらっしゃるのですか?」


 私に手を合わせていたエリザがクロード先輩に気付きました。一応は王位継承権を持つ者がここで農作業をしているなんて、普通は思わないですからね。

 まあ、これから同じ所で働くのですから、紹介をしますか。


「元殿下で、今は私の手下になったクロード先輩です。そう言えば正式に私の手下になったのですから、私もみんなに習ってクロさんと呼ぼうかな」


「シノア様に仕えていらっしゃるのですか!?」


「まあ、形式上だけですが。一緒に働く同僚と思えば良いのですよ」


「わたくしのような者がクロード殿下と同僚だなんて……こんな事を思うのは不敬だと思いますが、嬉しいです……」


 ん?

 ちょっと赤くなって嬉しそうです。この庶民皇子にもしかして好意でもあるのですか?

 まあ、喜んでいるのでしたら嫌がっていた畑仕事も頑張りそうですね。

 でも気を付けないとこの人は地味にたらしですから、既にお屋敷の気に入った人を何人も口説いているらしいのです。絶対にエリザを口説きそうですね。

 強制しないのでしたら、私は特に何も言いません。エリザの方が少し年上ですが、容姿で気に入られて買われただけあるので、私から見てもかなりの美人さんです。

 普通にドレスで着飾れば、そこいらの御令嬢様は負けてしまいますよ。


「相変わらず俺の紹介がひでぇな。まあ、お前の手下になったのは事実だから構わんので、呼び方の方は好きなように呼んでくれ。それで、その美人の姉ちゃんはお前の配下の証のメイド服を着ているんだが……随分とエロく感じるな……」


「この人はエリザと言います。言っておきますが私の奴隷なので、手を出したらセリスに告げ口しますから注意して下さい」


「お前の奴隷だったのか……すごく良い女なのに惜しいが、お前の奴隷を口説いたなんてばれたら、セリスさんに去勢されてしまうから、絶対にこちらからは手を出さねぇよ」


「まあ、本人が本気で望んだ場合は自由恋愛なので認めます。クロさんはお屋敷の子を何人も口説いているみたいですから、信用できないんですけどね」


「おいおい、誰に聞いたんだよ?」


「メアリちゃんです。なんか良かったとか言ってましたが、程々にしないといずれセリスの耳に入りますよ?」


「あいつか……ちゃんと口止めしているのに俺だって、健全な男なんだから仕方ないんだよ。セリスさんは全く見向きもしてくれないと言うか会話もしてくれないからな」


「まあ、何でも良いのですが、これからエリザもここでステラさんのお手伝いをさせますので、ちゃんと教えてあげて下さいね」


「おう! 今の俺は作物の見分けも完璧になったから、リックの奴よりも上だぜ?」


 そんな事を自慢する元皇子とか。根っからの庶民ですね。

 どんな教育をしたのか知りませんが、本当に皇子なんて肩書だけですよ。

 ですが、その肩書を使わずに自前の話術で女性を口説いているのです。意外と人気があるそうです。

 軽く話をしながら奥に進むと、ステラさんのマイホームがあるのですが、住む人が増えたのでちょっと大きくなっています。

 ナリアさんと剣を振っているリックさんがいましたので、エリザをナリアさんに頼んで着替えさせて貰う事にしました。

 リックさんが私に声を掛けて来ました。空いている時間も素振りなんてしているなんて、クロード先輩改めクロさんとは違って、こちらは真面目に頑張っているみたいですね。


「シノア様、この間頂いたこの剣はとても使いやすくて切れ味も最高ですので、感謝しています」


 少し前にリックさんの剣が刃こぼれしていて耐久度も低かったので、新しい剣を進呈したのです。本人が使いやすいのでしたら、良かったですね。


「ちょっと待て、その剣はタダで貰ったのか?」


「ああ、俺が使い込んでいた古い剣を買い替えようと思っていたら、頂いたんだが、その辺の剣よりも優秀だから助かったよ」


「なあ、俺にはえらい金額で売ってくれたのに、あいつにはタダなのか?」


「だって、あの時はここの住人じゃなかったからですよ?」


「まじか……だったら、あの時にお前の手下にすぐになっていれば、あんな大金を払わずに済んだわけか……失敗したわ……」


「まあ、済んだ事ですから諦めて下さい。その代わりにこの間にちょっと強化してあげたのですから問題は無いはずです?」


「でも、代金を請求されたぞ?」


「当たり前ですよ? 世の中はそんなに甘くありません。ですが、追加した材料費を考えればお値打ちですよ? リックさんも強化がしたくなったら、代金を支払えば強化しますからねー」


「それはありがたい。頑張って稼いでおきます」


「なんか納得がいかんが……全体的に考えれば、ここでの暮らしは良いから文句が言えないんだよな」


 単にクロさんからはお金を何となくむしりたいから、徴収しているだけです。

 無欲で頑張っている人には何かあげたいと思うのですが、好きな事に散財している人を見ると請求したくなるのは秘密です。


「それと俺に魔術を授けてくれた事にも感謝しています。今なら、ロルドの野郎にも勝てる気がします」


 リックさんには風魔術の適性があったので、いくつか身体強化と攻撃魔法を覚える事が出来たから、いわゆる魔法戦士になったのです。

 誰かさんはいつまで経っても脳筋戦士ですけどね。


「ちくしょう……どうして俺には魔術の適性が無いんだ……俺だけが魔術が使えないんだよな……」


「代わりにシズクとギムさんが共同で作った特殊防御強化をした軽装の鎧を作ってくれたのですから、十分に前で戦えていると聞きましたよ?」


「まあな。多少の魔法なら殆ど防げるとか中々優れものだし、自動で修復する鎧とかすご過ぎると思ったぜ」


「本来なら、高額で譲りたかったのに、シズクとギムさんが無償であげてしまうから詰まらなかったですよ」


「お前、あんなに資産があるのに地味に人から金をむしろうとするからな……俺から見たら小悪魔よりも金の亡者の方が納得がいくわ」


 みんなに奢りまくっている私を金の亡者扱いとは……その内に天罰でも落としたいと思います。

 その後、エリザにナリアさんの指示に従うように言ってから戻りました。クロさんに話しかけられてなんか赤くなっていましたが、庶民にとっては、あれでも皇子様は憧れの対象なのかも知れません。

 頑張れば、セリスに惚れているとか言っているクロさんと仲良くなれるかも知れませんね。

 多少は歳が離れていますが、もう人としての変化の無い私やセリスよりも、普通の人と結ばれた方が良いかと私は思ったりしました。


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