132 天敵
私はいまエルナの隣で大人しく食べています。私の支払いなのにサテラが御馳走しているようにみんなに振舞っています。
どれだけ持ってきたのか知らないけど、サテラの周りだけ皿が積み重なっていくのですが……地味に支払いが怖くなって来ましたよ!
それにしても、どうしてここに居るのか一応は聞いておかないとね。
「サテラはどうしてこの店にいるのですか? それともエレーンさんのお店をクビになったのですか?」
「私はクビになどなっていません。タダ働きの件が分ったので直ぐにでも逃げたかったのですが、師匠に監視されていたので、サボったりしたらとんでもないお仕置きをされてしまうから、ひたすら耐えて無償奉仕をしていたのです!」
「そんな状況で、なんでここに?」
「ここのお店のオーナーのリズさんがたまたま来ていた時に、師匠に殺されかけていた私を助けてくれたのです! そして私の苦労話を聞いてくれて、それなら自分のお店に来ないかと誘われたので、即承諾したのです!」
「なるほど、それをよくエレーンさんやアルちゃんが納得しましたね?」
「リズさんはエレーンさんに意見も言える人だし、師匠の餌付けもしていましたので、反対はされませんでした。私の給金だけは師匠が預かるという条件で移動できたのです。私は何か買い物をするには師匠にお願いしないとお小遣いが貰えないのが問題なだけですが、ここではあっちと違ってちゃんと食べさせて貰えるし、可愛い看板娘として扱ってくれるのです。ここは素晴らしいお店です!」
「確か、ここのお店のオーナーの人はエレーンさんのお店の料理長のリオンさんの母親だったと記憶しています。唯一エレーンさんにはっきりと物が言えると聞いたような……」
「私がタダ働きさせられている事を話したら、あのエレーンさんにお説教をして私を引き取ってくれたので、私の救世主です! なのでここのお店では心を入れ替えて真面目に接客をしているのです。ほら、私ってすごく可愛い美少女だから、直ぐにお店の看板娘として有名になったのですよ!」
事情は分かりましたが、自分の事をすごく可愛い美少女とか言ってます。4000歳弱の美少女とか居てもいいのでしょうか?
年齢の事を言うと絶対に刺されますので言いませんが、詐欺ですよね。
「それでは、ここに住み込みで働いているのですか?」
「向こうでは、眠らせてくれるという発想がなかったので、常に働かされていましたが、ここでは、遅刻さえしなければ帰れるので、夜は姉さんの所に行ってます」
あの魔性の庭というか森ですか……サテラに対してはトラップとか発動しないのかな?
「あそこは侵入者に対して罠が発動するはずですが、サテラは顔パスでも出来るのですか?」
「あー、最初は何か発動していましたが。あの程度でしたら、私の『トゥール・ハンマー』の魔法で一直線に焼き払って普通に進みましたよ?」
あの直線型の雷の魔法ですか!?
私も使えますが、セリスの『シャイニング・イレイザー』と似ています。あちらは消滅魔法ですが、こちらは雷の発する熱量で直線状の物を全て焼き払っていくので、もしも体の一部分だけダメージを受けた場合だとその部分が炭化するので恐ろしいのです。
なので、もしも無意味に撃ちまくって、誰か居たらそのまま消し炭になるよ!
そんな魔法を簡単にぶっ放すとか、無茶苦茶しますね。
「いくらなんでもそんな魔法をお屋敷の庭で使うなんて危険過ぎますよ! 範囲内に誰か居たらどうするんですか!」
「シノアちゃんじゃあるまいし、加減もしたから中心部までしか威力はないし、生命反応のないラインに撃ったから誰も死んでいません。ただ畑の一部を焼いてしまったので、姉さんが寝泣き止まなくて、まるで私が悪いみたいでしたよ。クロちゃんもいたから、「いくら何でもやりすぎだろう?」とか言われたしね」
まったく罪悪感が無いとは……昔の人はどうして英雄なんて持て囃したのでしょうね?
「ステラさんの畑を焼き払ったのですか……勿体ない……」
「たかが畑でしょ? 姉さんの樹木魔術なら、成長だって調整できるのですから、戦時中は食物確保の為にこき使っていたのですから、あの程度なら直ぐに元に戻りますよ?」
「それはそうなのですが、ステラさんが愛情を籠めて作っている物を酷い事をしますね……」
「シノアちゃんまで、そんな事を言うのですか? 姉さんも丹精を籠めて我が子のように育てているとか、訳のわからない事を言ってましたので、あんまり煩いからそのまま地面に頭から突き刺してやりましたよ。そのまま泣いていたので、地中に水分を与えて満足したんじゃない?」
……実の姉に恐ろしく酷い仕打ちをしています。
いくら過去の件があるとはいえ、ここまでするとは鬼ですか!
「私が姉さんを黙らせたら、クロちゃんは私の事を悪魔とか言い出すし、もう1人のリックくんという新顔くんは、私を恐ろしい者でも見るような目で見ていました。失礼とは思いませんか?」
「いや、そんな事をするなんてサテラって、罪悪感とか無いのですか?」
「シノアちゃんも失礼な事を言いますね……何を言っているのか分かりませんが、あるに決まってます」
「だって、いくら何でもステラさんが可哀想ですよ」
「姉さんは私に対して今後は決して逆らわないと約束していますので、私の言葉には頷く以外の選択肢は無いのに、稲がどうのこうと言って来るのですから当然の罰です」
焼き払ったのはあの極上米の畑ですか……すごく勿体ない……。
それにしてもステラさんもサテラの言葉には頷くしかないとか……もしかして、私も同じ扱いなのでは?
私はサテラを解放したのですから、負債なんて無いのに……。
「そこまで横暴だと流石にステラさんが可哀想なので、私だって味方したくなって来ますよ」
「大丈夫です。これは昔からの姉妹のスキンシップなのですから、あの程度ではへこたれません。姉さんは昔から3日もすれば忘れますので、真面目な作戦だって忘れて失敗するぐらいなのですから、私がどれだけサポートしたと思っているのですか……それに昔は戦争で両親を無くした子供達を引き取って孤児院まで経営していたのですから、私の方が世の中に貢献していたぐらいです」
「そんな昔からとか恐ろしいスキンシップですね。そこまでやられっぱなしで抵抗しないステラさんもすごいのですが」
「ナリアさんが気付いて姉さんを助けていました。生意気にも私に勝負を挑んで来ましたので、久しぶりに揉んでやりました。筋は良いのですが、私の相手になりません。マナ8割ほど削ってやりましたので、今頃は静かにベットの上で無駄な行動をせずに森の現状維持で精一杯かと思います。あれだけの植物を操るにはかなりのマナが要りますから、今の姉さんのレベルでは余裕は無いはずです」
一応は怒って、戦いを挑んだみたいですが、近接戦闘重視のサテラと防御支援特化のステラさんとではまともに戦いを挑んだら、ちょっと勝負になりませんからね。
「ついでにクロちゃんとリックくんにも私と試合でもしないかと聞いたら、即断られました。私と試合をした方がいい経験になると思ったのですが」
きっと、その試合内容が酷すぎて、どこまで甚振られるか分からないから辞退したのですよ。
なんだかんだで、ステラさんは十分に強いのでクロード先輩の実力では相手になりません。
槍術は得意じゃないとか言っていましたが、あれは嘘です!
私と一度手合わせをしたら、まるで遊ばれているように全て攻撃を防がれたので、私は自信を無くしたぐらいです!
要するにサテラと比べたらの話で、あんなのほほんとしていますが、槍捌きはかなりの実力者です。
それを笑顔で楽しそうにするのですから、まともに試合とかしたら、対戦相手は落ち込んでしまうかも知れません……実際に私は二度と相手をしたくないと思いました。
ステラさんと戦うぐらいなら、サテラかシズクに叩きのめされた方が実力者に負けたと実感できるのです。
だけど、色々と指摘をしてくれるシズクと違って、サテラには加減という物がないので、あれは教えているというよりも完全な差を叩き込まれているだけです。
「あの……サテラさんは孤児院まで経営していると聞こえたのですが、その若い姿でいると言う事はもしかして、使徒の方なのでしょうか?」
私とサテラのやり取りを黙って見ていたシモンヌ先生が話しかけて来ました。昔の話なんかしているから、どう見てもサテラが私と変わらない年齢に見えたので、疑問に思って聞いて来ました。使徒と勘違いするのは構わないけど、お願いだから年齢だけは聞かないでね。
「えっと、エルナちゃん達の新しい先生さんでしたよね。それは昔の事ですが、私は使徒ではありません」
「でしたら、失礼とは思いますが、長寿の種族なのでしょうか? 先程シノアさんがサテラさんはかなり高齢な方と言われたのですが……」
無言で私の体が吹き飛ばされました。壁を突き破りましたよ!
刺されるよりましかと思いましたが、全く見えなかった蹴りと壁を突き破るほどの威力で背中を叩きつけられたので、こっちのほうが地味に全身が痛いです。
気が付くと私の目の前にサテラが立っているかと思うと、すぐに部屋に連れ戻して、壁の修復を命令して来たのです。すぐに直しましたが、目が怖いな……シモンヌ先生が余計な事を言うから。
他のお店の従業員の方が何事かと様子を見に来ましたが、サテラのお茶目な笑顔で、騒がせてごめんなさいと言って何事も無かったかのように振舞っています。
そこは、私の首を掴んでいる時点で突っ込んで欲しかったな……。
「シノアちゃん、どうして蹴られたのか分っていますね?」
「私は何も言っていないのに、サテラの暴力が発動したとだけしか分かりません。出来ればもう少し加減をしてください……あっ! また制服に破れている所が……」
「私の年齢の事は決して話さないと約束したはずなのに、初対面の先生がどうして私の事を高齢とか言っているのですか? ミルちゃん達の時にあれだけ言い聞かせたのに、全く反省をしていませんね?」
以前に、みんながいる時に私の保護者ぶっていたので、見た目は幼いけど少しだけ年上のお姉さんなんて嘘を付くから、3921歳のロリババァとかつい言ってしまってズタボロにされた時ですね。
ステラさんは人生の先輩なんですよーとか自慢していましたが、サテラは永遠の乙女に年齢なんて無いとか言っていましたね。
「そう言えば忘れていました。しかし、教師に嘘を付くのは良くないと思って、つい本当の事を言ってしまったのです」
先程、足を貫かれたので、つい本音が出てしまっただけですから、私は悪くありません!
「1つだけ聞きますが何歳かまで言いましたか?」
「高齢としか言っていませんので、セーフなのでは?」
「そうですか……では、帰ったらシノアちゃんの罰は言わなかった年齢の数だけ鞭打ちにします」
はぁ!?
そんなに鞭で打たれたら、今迄の最高新記録を突破しますよ!
あっちも不眠不休で行動が出来るから、夜明けまで鞭打ちとか冗談ではありません!
「誰がそんな理不尽な罰を受けるのですか!」
「私との約束を忘れるのがいけないのです。本当でしたら、突きまくってあげる所を鞭で済ますのですから、私は寛大ですよ?」
これで寛大とか普通なら、死んでしまいます。この世界では魔法で癒せると思って、過激な体罰がまかり通る恐ろしい世界です。
しかも私は自力で再生まで出来るので、マナさえ有れば何とかなる存在ですが……痛みは緩和されないんだから、勘弁して下さい。
こうなったら、アルちゃんを呼んで何とかしてもらいたいのですが、サテラの目の前で例の呼び鈴を使ったらばれてしまうので、ここはお屋敷に帰るまでの我慢しかありません。
サテラとは心で繋がっているから、本気で私の為と思っている感情が読み取れてしまうので、私は何故か受け入れてしまうのですが。こういう時は地味に不利な能力です。
私には自らを慕ったり思ってくれる人にはどうしても敵意が持てないので、理不尽とは思ってもサテラの行為を容認してしまうのです。
仕方ありません……ここはこれ以上悪化しないようにだけはしないといけませんが、シモンヌ先生には何か仕返しを考えておきましょう。
「もう、分かりましたので、早く食べて帰りたいです。あと、どれだけあるのですか……」
「やっとシノアちゃんが素直になってくれたので、残りを食べてしまいます。食べ終わったらシノアちゃんにお願いがあるのです」
「はいはい、お願いとは何ですか?」
「現在、シノアちゃんが作れるお菓子類のレシピを教えて下さい。リズさんがエレーンさんや師匠の持っていた物を試食して、試行錯誤しているのです。シノアちゃんが作った物に今一つ及ばないと頑張っていますので、教えてあげたいのです!」
「それは嫌です。私だって、シズクの知識の感覚だけで何とかこちらの世界で再現しているのですから、それは職人として認められません。それに、そんな事をしてもきっとそのリズさんは喜びませんよ? その方は自力でそんなに頑張っているのですから、職人として本物だと思いますが?」
「むむ……そう言われればそうなのですが……」
仕方ありませんね。
ヒントぐらいはあげます。私の作った物をいち早く近い味まで再現できるのですから、多分すぐに気付くだろうなー。
「では、これをあげますので、リズさんに渡すと良いですよ。多分ですが、これでアルちゃんから試食させて貰った物が再現出来ます」
「これは、確か熱帯地域で見た事があります。食用には適さない不味い実だったと思いますが……師匠が持っていた物と言ったら……チョコレートですか! あれがこんなまずい物から作れるなんて想像もしませんでしたよ!」
「一応、ガルナの実と呼ばれる物です。普通に食したら無理ですから、後は考えて下さい。こんな情報提供をしたのですから、私への体罰は減らして下さいよ?」
シズクの世界のカカオに成分は似ていますが、あちらと違って普通に食べるととても不味いのです。
なので、近づける為の加工に一苦労したので、そこは独学で頑張って下さい。
「仕方ありませんので、今回は半分の罰にしてあげます! 残りを食べ終わったら、早速リズさんに教えて来ますので、褒めてもらいます!」
そこは鞭打ちを無しにして欲しいのですが。半分という事は2000回弱は叩かれるよ!
しかも、自分の手柄にして褒めてもらおうとか……似たような物は出回っていましたが、今度からは同じ物が出回るとしたら、私の独占状態はもう無理でしょうね。
サテラが嬉しそうに席に戻ろうと振り向くと、いつの間にかサテラの座っていた場所にサテラの天敵の存在が座ってケーキを食べていますよ。
「師匠!? どうしてここにいるのですか!? 確か今日は隣の大陸に行くと言っていましたので、来ない予定だったと思いますが!?」
「狩りが中止になったのでおやつを食べに来たら、シノアの気配がするので来たのです。絶壁じゃなくて、サテラこそ何か良い事でもあったのですか?」
「特にありませんが……師匠はいつからそこにいたのですか?」
「サテラが私のシノアを蹴り飛ばして、私のシノアに鞭を打つなどと言う戯言を言っている時からです」
「で、では……今までの様子を見ていたのですか!?」
「少々は仕方ありませんが、私のシノアに厳しい体罰をしないと約束をしたはずですけど、早くも破ろうとするとは罰が必要です」
アルちゃんの口の周りにクリームが付いていますが、サテラに対する言葉には威圧が籠められているようで、サテラが蛇に睨まれた蛙のようです。
さっきまでの私に対する強気な態度がどこかに行ってしまいました。これで私はサテラのお仕置きからは解放されそうなのですが、どうしてみんな私の事を自分の物だと言うのでしょうね?
「ま、まだしていませんので、単なる脅しですから、実際にはしませんから、私は約束は破ってはいません!」
「反論は聞かないので、そこで立っていなさい。いまから、丁度良い罰を執行しますので、動かないように」
「はい……出来ればあまり痛くない罰にして下さい……」
「忘れる所でした。制服だけ脱いでシノアに渡しなさい。その制服を破いたりしたら、シズクに怒られてしまいます」
「分かりました……はい、シノアちゃん持ってて……」
とても素直に脱いでいますが、なんか脱ぎ方がエロいですね。
多分ですが、女性としての体型がステラさんに負けているから、仕草で勝とうとしてるのかも知れませんね。
それにしても、この可愛らしい制服はシズクが製作者でしたか。
アルちゃんがいま着ている服もシズクの世界の中学校という所の制服らしいのですが、シズクが着ていた時に同じ物が欲しいと言ったので、シズクが作った物です。アルちゃんがシズクに怒られる事を気にするなんて、シズクってすごいですね。
サテラが下着姿で立っています。どんな罰を受けるのか知りませんが、服を気にするという事は電撃でも喰らうのかな?
私がそんな事を考えていると、アルちゃんがみんなに警告をしています。
「警告します。少しの間だけ後ろを向いている事をお勧めします。特に精神力が弱い者には目の毒です」
「し、師匠!? 何をするつもりですか!?」
「食い意地の張ったお馬鹿に相応しい罰です『ガイア・イーター』」
「その魔法は! やめ……」
アルちゃんが呪文を唱えると、サテラの足元から牙を生やした地面が競り上がって来て、そのままサテラを丸飲みしてしまいました。しばらくすると私の中にサテラを感じるのですが殺しちゃったよ!
警告されていたのに見ていたシモンヌ先生は、青ざめて倒れてしまいました。地面に引き込まれた時に地中で何か咀嚼する音が聞こえたので、これは中々心臓に悪い魔法ですね。
他のみんなは後ろを向いたまま何も聞かなかったようにしていますが、変な音だけは聞こえていたので、大丈夫でしょうか?
カミラはつい最近同じような目に遭ってますので、人事には思えない表情をしています。エルナはそのまま見ていたのですが、表情が変わらないとは精神力が強いですね。
「ちょっと目を離すと碌な事をしません。反省と言う物を知らないのは困ります。シノアには申し訳ないのですが、サテラを出して下さい」
「ちょっと聞いて見ますね」
サテラ、アルちゃんが呼んでます。分身体を作っても良いのですか?
(嫌です! 自分が喰らったのは初めてですが、地面に食べられる魔法とか最悪でした! お願いですから、師匠がいなくなるまではここに匿って下さい!)
最近、カミラが食べられたのを見ていましたが、こんな魔法も有ったとは驚きです。
私には使えませんが、リストの下の方にあって、下から数えた方が早いので、最上級土魔術かと思います。
「嫌だそうです」
「出てこないと、見つけ次第に消すと伝えて下さい」
だって。
(……出ますので、お願いします……)
私がサテラの魂が宿った分身体を作ると、速攻で土下座をしています。いつもなら精霊王の加護を受けたエロドレス姿で現れるのに、何故か先程の死ぬ前の状態の下着姿です。
下着姿ですが、この姿で土下座とか惨めですね。
私も人の事は言えないんだけどね……。
「済みませんでした。私が調子に乗っていましたので、今回は許して下さい……」
「私ではなくシノアの方を向いて許してもらえたら、今回は不問にします」
すると私の方に向き直って、私に屈辱的な感情をぶつけながら謝って来ます。
「シノアちゃん。今回はちょっとやり過ぎたと思いますので、この辺りで許してくれますよね?」
私が許すのが当然のようなお言葉ですが、ここで私が調子に乗ると、アルちゃんがいない所で何をするか分からないので、受け入れて置きましょう。
「サテラが分ってくれたのでしたら、私には異存はありません。早くこの制服を着ていつもの優しいサテラに戻って下さいね」
「ありがとうシノアちゃん! これからはもう少し控えるので、お茶目な私を許してね!」
私から制服を受け取ると、着替えて感謝の言葉がありますが、控えるのでしたら、もう少し手が出ないようにお願いします。
「じゃ、私はちょっとリズさんの所に行きますので、ゆっくりとしていってねー」
そう言うと脱兎のごとく出て行きました。これ以上はアルちゃんと一緒にいると何をされるか分からないので逃げましたね。
私もアルちゃんの理不尽な強さは体験していますが、確か武術の類は出来ないと言っていたので、サテラの槍術なら昇華していますから届きそうな気がするのですが。どうなんでしょうね?
まあ、幼い頃からの習慣が身に付いているだけかも知れないけどね。
「実はシノアにお願いがあって来たのです。もうすぐもらったチョコが無くなるので、また欲しいのです」
それは中々いいタイミングで渡した物が無くなったという訳ですね。
私が美味しいお菓子を提供している限りは、アルちゃんは私の味方ですよ。
「では、これをお渡しします。前回よりもまろやかになっていると思いますので、後ほど感想を下さいね」
「うん。大事に食べます」
可愛いお人形さんのような感じがするのです。エルナじゃないけど私も抱き締めてすりすりしたくなって来ますよ。
そう言えば、あの食道楽のエレーンさんが食材確保を中止するなんてどうしたんでしょうね?
ちょっとアルちゃんに聞いてみますが、教えてくれるのかな?
「ところで、狩りと言うのはエレーンさんの食材確保の事かと思いますが、どうして中止になったのですか?」
「さあ? 突然用事が出来たと言い出したので、私は知りません。お蔭で私はシノアと会えたのですから、良い事です」
「そうですか……ところで質問なのですが、サテラならアルちゃんに対して攻撃が通りそうなのですが。あれだけ恐れていると無理な気もしますが、駄目なのかな?」
つい疑問に思ったので聞いてしまいました。普通は自分の弱点なんて言いませんよね?
すると、アルちゃんがジュースを飲み干すと突然ジャンケンをしてくるのですが。どうしたのかな?
「シノア、じゃんけんポン」
「あっ、はい」
思わずアルちゃんのパーに対して私はチョキを出したので、勝ったけど意味が分りません?
「これ何か意味があるの?」
「私にも勝てない相手は存在します。相性の問題です」
「えっ!? アルちゃんに勝てるとはとても思えないのですが……」
「私はマナを無力化する相手に攻撃されたら、大した防御力は無いので、下手をしたら一撃で倒される事もあります。そして、駄肉マスターが先に倒されてしまったら、マナの供給が断たれてしまって、私が常に維持している現状のマナだけでは数分で枯渇しますので、無くなればその辺の子供と変わらなくなります」
「それを教えても良いのですか?」
「構いません。大抵の古き者は知っています。ですが、その攻撃方法を持つ者はもう殆どいませんので、現在残っている者だけ注意すればいいのです。シノアの先ほどの質問ですが、サテラのレベルが私と同じで、私の攻撃を掻い潜る事が出来ればサテラが勝つと思います」
「やはりあの槍なら、アルちゃんの結界も突破出来たのですか……」
「ですが、私の相方がいれば物理防御も完璧なので、一手足りません。製作者のラヴェルが作った最高傑作の1つなのですが、使い手が秘匿能力に気付いていないので、あれが限界なのです」
秘匿能力って、なんでしょうね?
私が鑑定した時はそんな能力は見えなかったのです、が興味が湧いてきましたね。
「ラヴェルさんと言う人が作ったのですか。生きているのでしたら、ちょっと弟子入りしたいですね」
「肉体は滅んだけど魂ならある場所にいます」
「魂だけとかよく存在出来ますね?」
「シノアの武器と同じです。物に魂を封じ込めれば、世界に還元されずに存在出来ます。意思を持つだけの存在なので、余程本人が満足していないと、ただ見ているだけの存在となってしまいます」
私の武器と同じって、ノアの存在に気付いていますよ。
しかも、いまは腕輪の形状になっているのに物知りですね。
「よくこれに意思があると分かりましたね」
「内緒ですが、いつも私に話しかけて来ます」
内緒と言いつつ私に話してるけどいいのかな?
「いま聞いちゃいましたよ?」
「会話の内容を言わなければ良いそうです」
どうも、アルちゃんとは毎回のように何か話をしていたみたいですが。何を話しているのやら……。
「おやつも食べたし、シノアからチョコも貰ったので、そろそろ行きます」
「はーい。またねー」
そのまま転移して行きました。よく考えたら、アルちゃんの食べたおやつはサテラが勝手に頼んだものじゃ……。
まあ、構いませんが、一体いくらになっているのやら。
その後、気絶しているシモンヌ先生を起こすと、サテラが殺されてしまったとか言い出すので、サテラを呼んで、夢でも見ていたのでは?
と、適当に誤魔化して帰りました。本来の目的が達成されてないから、私は一体何をしに行ったのでしょうね?
1つだけわかるのは、確かにサテラがとんでもない量を注文したことです。
きっと自分の収納にかなり入れ込んでいると思いますが……今度アルちゃんに会ったら、明細を見せてサテラの給金から、差し引いておきたいと思います。




