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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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127 続・迷宮の階層6


 カミラが殺された直後に、直ぐに分身体に防御優先で必ず取り付くように指示しました。現状でまともに戦える分身体の方に注意を引いておかないともう次がありません。

 私がノアに話しかけようとする前にシズクから念話が来ました。かなり狼狽している感じなのですが、流石に不死の存在と教えてあっても動揺しますよね。

 (お姉様! か、カミラお姉ちゃんが食べられてしまったのですが、本当に大丈夫なのでしょうか!? お姉様と同じ不死とは聞いていますが、今までにそんな場面は見た事が無いので、もしかしたらと思うと……)

 (大丈夫です。私が存在している限りは死にたくても死ぬ事は出来ないそうなので、復活は可能ですが……あいつの腹の中にあると思われる核と呼ばれる物を取り返さないと復活が出来ないので、あいつを絶対に倒す事が必要です)

 カミラが食べられた地点に残っていた筈の足がブーツを残して消えていますので、恐らくは死んだと認識されて体はマナに還元されてしまったのだと思います。

 私も昔に自分の体で検証した事があるのですが、手足などは切り落とされても、新しく生成するか一定時間が経つと消滅するのです。

 こんな現象を見ていると、改めて自分が生きているというよりも魂を持った人形なのではないかと思います。

 (カミラお姉ちゃんの蘇生は出来ると信じて戦いますが……現状で一番ダメージを与えていた戦力が失われてしまったのですが、このままで勝てるのでしょうか? 私も確かに手ごたえはあるのですが、直ぐに再生されてしまうので実感が湧かないのです……)

 珍しくシズクが弱気なのですが。カミラの事もあるので仕方ありませんね。

 (今からノアと交渉をしますので、シズクはセリスと一緒に生き残る事だけに専念して時間を稼いで下さい。特にセリスが死んでしまうとシズクの蘇生も出来なくなってしまうので、例え後で蘇生が出来たとしても手遅れになってしまう可能性が高いのです)

 (わかりました! お姉様がノアさんと話す時間を作るのに専念致します! それに申し訳ないのですが、カミラお姉ちゃんのようにバリバリと食べられたくはないので、絶対に捕まりたくありません! 食べられて死ぬなんて人生の中で最悪な経験かと思います!)

 ……済みません。

 私はその最悪な体験を昔に呆れるほど体験済みです。

 カミラの意識がどのくらいあったか分かりませんが、一思いに食べられているので、生きていた時間は短いと思いますが……意識有りで手足から順番に食べられていくのは、痛みも最悪ですが、恐怖は凄まじいですよ……昔はいつも、頭から丸かじりでもされるか首でも噛み切られた方がましとか思っていました。

 この体は眠る必要がないのは便利なのですが、気絶も出来ないので、生きて意識がある限りは恐ろしい苦痛と拷問が味わえる、とんでもない体でもあります。

 シズクに指示を出した所で、ここはノアに対価を支払ってでも絶対に倒してもらう必要があります。最悪の場合は自ら死んでノアと入れ替わるしかありませんが、その場合だと私の分身体が消えてしまうので、シズクとセリスだけで時間を稼いでもらうしかありません。

 普通の分身体なら私が死んでもマナが切れるまでは維持されるのですが、この稀に作れる特殊な分身体に関しては私が存在していないと駄目らしいのです。

 最初にこのタイプの分身体を作り出した時にノアが珍しく忠告してくれたのですが……「その君の妄想力の分身体は君がいないと維持が出来ないと思いますよー」と軽く言ってましたが、恐らくは間違ってはいないと思います。

 想像ですが、今なら、その理由が分った気がします。

 恐らくですが、あれは私の中に眠っている魂が付与された状態で作り出されているに違いありません。

 一体いくつ私の中にあのような存在がいるのか知りませんが、あの分身体は自分とカミラとセリスを同じ存在として覚醒を促していました。

 ここまで私が分っているのですから、そろそろ反応して、いい加減に力を貸して下さい!

 (んー、仕方ないですね)

 やっと反応してくれましたか!

 カミラが殺されてしまって、確実に戦力不足になってしまったので、私の力を解放するかノアの力を貸して下さい!

 このままでは、あの分身体がマナ切れで消滅したら確実に全滅してしまいます!

 (んー、カミラが出し惜しみをしなければ何とか勝てると思っていたのですが、こうなったからには僕が何とかするしかありませんね)

 カミラは自分なりにちゃんと戦ってくれていたのですから、出し惜しみなんてしていませんよ!

 それにあんなの相手に全力で撃たせていたら力を集中している時にやられてしまいます!

 (その為に君達が確実に足止めして倒せば良かったのです。あの分身体ごと巻き込んでしまえば確実に当たるよ)

 しかし……それで倒せなかったら。あの分身体を失ってしまう事はかなりの戦力の低下になってしまいますし……。

 (カミラが少しだけ覚醒して力を使えば良かったのです。私の警告に躊躇して力を使う事を恐れていますが、少しぐらいなら余り影響は無いのですから使えば良かったのです。ただ全て解放するとちょっとまずい事になるかも知れませんが、不死者なのですから、些細な事です)

 私が使うなと指示したのですから、それならば私の責任です。

 それで私の能力の解放をしてくれるのか力を貸してくれるのかどちらなのですか?

 (んー、いま能力を解放するのはどうせ使いこなせないので時間の無駄です。なので僕と入れ替わって僕が倒します)

 それは私が死ねば良いのですか?

 それともカミラが眷属になった時のように入れ替われるのですか?

 (んー、君が死んで入れ替わる場合は少しだけ時間が必要だし、あの分身体が消滅してしまっても、僕が目覚めりばあいつは倒せますが、シズクとセリスだけで相手をしていたら確実に死亡します。そして強制的に入れ替わるのは死んだ時の3倍の魂が必要なので、僕としてもいまは使いたくないのです)

 やはり分身体は消滅してしまうのですね。

 そして、以前に私がお願いして入れ替わったのに、あれが強制なのですか……しかも魂の消費が3倍とかボッタクリですね。

 ではどうするのですか?

 (んー、君は忘れてしまったのかな? この鎌に僕の一部が移してあるから対価無しで会話も出来るし入れ替わる事も出来ると教えた筈ですが?)

 そう言えばそんな事を言ってましたね。

 いつも私に毒舌な突っ込みしかしないから、たまに良い事が聞けるけど、ただの嫌がらせかと思っていましたよ。

 (ちょっと、後でお仕置きが必要ですが、今は時間が惜しいので僕が何とかします。現状の君の能力しか使えないし、時間制限があるので、少しだけ手札を切って倒す事にします)

 ノアの手札とかカードゲームで例えたら、全部ジョーカーみたいなカードばっかりの気がします。

 ちょっと私の手札よりも優遇され過ぎな気がするよ……。

 (んー、下らない例えをしていますが、代わりに対価と言う名のコストが掛かると思って下さい。では、入れ替わりますよ?)

 ノアの言葉と共に私の感覚が無くなるのですが、今回は視野はあるのです。この体勢は鎌からの視点ですか?


「そうですよ! さあ、久しぶりに本体が使えるなんて、ここからは僕のターンで一気に決めます! 言っておきますが、質問には一切答えませんからね!」


 僕のターンとか、シズクの世界のゲームに毒されまくった事を言ってますが、頼もしいですね!

 先に質問禁止を言われてしまったので、見ている事しか出来ませんが、じっくりと観察させてもらいますよ。


「まずは……目覚めよ! 銀翼の探究者!」


 ノアがボス相手に牽制をしている分身体に言葉を掛けると、無機質な目に意思が宿ると個性を持った個体になりましたよ!

 あれが解放する言葉だとしたら、次に使えるかも知れませんので覚えておきましょう!


「やっと、私を起こしたか。しかし、その気配は本体ではないな……まさか、ガーディアンの方か?」


「やあやあ、お久しぶりです! いまはそんな事はどうでもいいので、早くあのボスの始末をして下さい。今の君なら倒せるでしょ?」


 戦いながらノアと会話をしています。ノアの事をガーディアンと呼んでますが、私の別人格じゃなかったの?

 意思が宿ったから、私の魔法を使わないでという指示を無視して『トゥール・ハンマー』の魔法でボスの両足を吹き飛ばしてこちらに来ます。


「知らない間に随分と軽い性格になったものだが、レベルが低すぎてマナが足らんから倒し切れんぞ? 今までは防御に徹していたが、それでも最初の3割を既に消費しているし、今の魔法で1割も消費したから計算上は無理だよ。それに殺戮者が喰われたから、せっかく削った分がほとんど回復してしまったしな」


「僕のお気に入りを食べるなんてちょっと許せませんが、あのままじゃ仕方ないしね。まあ、そこはもう1人を起こせば良いのです。目覚めよ! 破滅の聖女!」


 やっぱり殺戮者とは、カミラを指していたのですか……どういう基準でカミラにそんな力を与えたのか知りませんが、本人はショックを受けていましたよ。

 そして、ノアがセリスに向かって言葉を掛けると、私と同じ白と黒の翼を出してシズクを抱えてこちらに飛んできます。聖女なのに破滅とか意味がわからないんですけど?


「いつも思うのですがその名で呼ばれるのは不本意ですね……私としては自愛の聖女なんて呼ばれたいのですが?」


 体はセリスなのですが、目付きがとろんとして私に近い感じのするお姉さんになりました。セリスとは完全に別人ですね。


「いやいや、あれだけの事をしておいて自愛とか無理でしょ? そんな事よりも君の献身を使って僕達にマナを供給して下さい。ついでにシールドも張ってくれると助かります」


「もう……久しぶりなのに意地悪ですね。私は魂の救済をしただけなのに。主様がいけないのです。銀ちゃんにはちゃんとラインを確保しました。これでいいので、みんなには『フォース・シールド!』はい、これでおっけいです!」


 ラインとか良く分りませんが、私達の体を個別にマナで作られたオーラみたいな物が覆っています。まだセリスには教えていなかったのですが、こんなシールドの魔法でしたか。

 私達はあいつより上に浮かんでいるし、戦っていた分身体も先ほどとは動きがまるで違うのです。相手の攻撃なんてかすりもしませんし、全身からオーラを出しているふうにしか見えませんから検証は出来ませんが、この魔法の分類は最上級聖魔術だったはずです。

 それにしても、セリスの体が少女のようにお茶目に何か言っていますが……もしかして、あれも私とか?


「銀ちゃんでも何でもいいが、私への供給だけは常に最大にしてくれれば後は私が倒すから黙って見ているがいい」


「可愛い顔をして私に冷たくするなんて銀ちゃんは意地悪ですが、私の愛の供給は切れる事は無いので安心して下さい!」


 セリスと融合した魂の方の人格と思います。仮に分身体として呼び出していれば自分と同じ顔になると思いますが、自画自賛しています。

 こうして別の視点から見ていると、私も自分の事を美少女とか言ってましたので、改めて私も痛い娘だと認識してしまいました……これからは、自分から美少女とか言うのは止める事にします。

 そして何かセリスと私の分身体……もう私も銀ちゃんと呼びますが、2人の間にマナの紐が付いています。銀ちゃんは溜息を付くと敵に向かって行きました。もう両足が復活しているのですが、さっきと違って、接近すると相手をボコボコにしています!

 再生能力が高いので、斬られたり貫かれても直ぐに復活するのは変わりませんが、カミラの攻撃よりもマナの減少がはっきりとわかるので、これなら勝てそうですね。

 それにしてもこの聖女さんですが……まるで私とエルナとステラさんが融合した感じなのですが……愛とか言ってますが、なんかアホっぽいよ!


「いま、その鎌からアホっぽいとか聞こえたのですが、自分を非難するのは止めた方が良いですよ?」


 なんと!

 セリスの顔で、お茶目にウインクしながら話しかけて来ました。私の思っている事が聞こえているのですか?


「私は耳が良いので、魂の声も聴けるのです!」


「ちょっと、余計な事を言わないで下さい」


「えー、もしかして何も教えてないというか、融合していないのですか? 貴女は頑張り屋さんですねー」

  

 このセリスの体を乗っ取った聖女さんは口が軽そうですねー。

 このまま疑問を考え続ければ答えてくれるかも?


「何が教えて欲しいのですか? 私の知る限りでしたら何でも教えてしまいますよ!」


 まじですか!

 この人は悪魔のノアと違って紛れもない聖女様です!

 それでは、早速ですが質問を……。


「駄目です。これ以上の余計なお喋りをしたら、セリスの体の方に誓約を掛けますから。君がセリスの魂に介入している事を全て禁じてしまいますが、宜しいのですか?」


「それは嫌です! 残念ですが、お喋りの時間はお終いみたいなので、私は無口になります……もっとお喋りがしたいのに……切ないです!」


 早くもノアに警告されて黙ってしまいました。とても残念です。

 さっき私の事を自分を非難する事は止めた方が良いとか言ってましたが……まさかとは思いますが、本当にこのお喋りなアホが私なのですか!?

 私がちょっと落ち込んでいると、翼を生やしたセリス(アホ聖女)に抱かれたシズクがノアに話しかけています。出来れば私の知らない事でも聞き出して下さい。

 シズクが聞いてくれれば、私はダメでも何か答えてくれるはずです。

 質問がしたい事を念話で伝えようとしたのですが、答えてくれないので、どうもこの状態では念話による会話が不可能なようです。

 もしかして、武器とかに封印されたりすると、ただ状況を見ているだけの存在になってしまうのでしょうか?

 だとしたら、絶対に封印とかされたくないですね。


「お姉様にお聞きしたいのですが、その口調はノアさんで合っていますよね?」


「んー、そうですよ? 僕の可愛い配下のシズクちゃん!」


「確か死なないと入れ替われないと言ってましたが、お姉様は自殺でもしたのですか?」


「んー、違います。ちょっとずるをして入れ替わったのです。今の僕はシノアの現時点の能力しかないので、とても弱っちいのです」


 またしても弱っちい発言が!!!

 私は心にクリティカルヒットで大きな精神ダメージを受けました!

 私の心は早くもズタズタなのですが……ノアの所為じゃないですか!

 こんな強くなったのに弱っちいとか言われるのですが、だったら、私の能力とやらを解放して下さい!

 先ほどから戦っている銀ちゃんの強さは半端無いではないですか!

 さっきまで倒すのに苦労して削っていたのに、圧倒的とか意味がわからん……。

 もしも、カミラがこれを見ていたら無駄な事をさせたとか非難されそうですよ。


「そうなのですか。ですがあの戦斧を持ったお姉様はすごく強いですね! レベルも上がってパワーアップでもしたのですか?」


「んー、レベルはそのままなのです。あの魂の最後の記憶の能力が全て使えるので、レベルは足りませんが、能力で圧倒しているのです。足りないマナは、シズクを抱いているアホになったセリスが供給しているので、さっきからマナポーションを飲んでいるのです」


 そう言えばセリスがさっきからマナポーションを定期的に飲んでいます。空き瓶ぐらいは収納にしまって欲しいのに、飲んだらポイ捨てしているのです。マナーが悪い聖女さんですね。


「アホとか酷いなー。私の心が壊れてしまったのですから、こうなってしまっただけなのです! それにあの時は共感してくれたのに……そしてマナポーションを飲まないといけないのは、この体のレベルが低いし、銀ちゃんが遠慮なくマナを籠めた攻撃をしているのですから、飲まないとやってられませんよ! ついでに久しぶりにワインとか飲みたいので下さい!」


「あのセリスお姉ちゃんが……まるで酔っぱらったステラさん二号さんみたいです」


「んー、セリスの収納に入っている物でしたら好きなだけ飲んでも良いですよ?」


「この子の収納にはアルコールの類が1つも無いのです! 飲み物はこの未完成品のマナポーションと貯め込んだ貨幣とまだ生々しい魔物の素材と最低限の生活必需品と探索に必要な物と……何故か手軽に使える拷問器具と本体の匂いがする物しか入っていません!」


 おおっ、セリスの収納のプライベートが暴露されています。生々しい素材とかまだ前回の探索の素材を持ったままでしたのか……いつも直ぐに売りに行って処分しているのに、珍しいのです。手軽な拷問器具とかセリスらしくて理解が出来るのですが、私の匂いのする物って、まさかいつかのシーツとかではないですよね?

 

「んー、それは酔っ払いの君には酷でしたね。こっちにはいっぱいあるので好きなだけ飲んで下さい」


 するとノアが私の収納を開いて見せています。一番高くて私がいつでも飲めるように常時携帯している気に行っている物から取り出して、遠慮なくガンガン飲んでいます!

 私がちびちび飲んでいる魔王殺しを見つけて一気飲みをしてしまいましたよ!!

 残っていた半分になった物とギムさんと交渉してやっと手に入れた未開封の物まで遠慮なく飲んでいます。鬼ですか!

 こんな馬鹿みたいに飲みまくる聖女なんて存在するはずがありません!

 帰ったらギムさんに泣き付いて何とかもらうしかないのですが、気分が乗らないと交渉すら乗ってくれません。商談の席に着かせるのだけでも一苦労なのに……。


「お姉様もアホみたいに飲みますが、セリスせお姉ちゃんじゃなくて、この聖女さんは飲み方が荒いというか凄いですね……」


 誰がアホですか!

 帰ったら覚えておいて下さいよ!


「えっと、シズクちゃんでしたよね? アルコールは人生の最強の友なのです! これさえ飲んで楽しい気分になれれば、辛いことも忘れさせてくれる素晴らしい聖水なのですよ!」


「まるで師匠の強化版のような事を言っています。お酒が聖水なのですか……私は一口で酔っぱらってしまうので、よくわからないのですが……」


「シズク、このアホの言う事は聞いてはいけません。その良く喋る口で信者を誑かして、全ての信者をアル中にしたとんでもない聖女なので、本来なら魔女の方が相応しいのです。飲めない者にも精神支配をして飲まないと耐えられないように仕向けるとか、気が狂っています」


「ガーちゃん、酷い! ガーちゃんだって、私の行動に賛成したのにあんまりです!」


「いつも言っていますが、僕をその名で呼んだら、次は首を刎ねますからね? とにかく君は喋ると煩いから、黙ってマナを供給して僕達を守っていれば良いのです。もっともそろそろ終わりそうですけどねー」


「私の首を刎ねるなんて言うなんて酷いな……あんなに愛してくれたのに、もう新しい恋人が出来たから私は捨てられたのですね……魂が引き離された時は貴女が恋しくて、この体の魂に介入して頑張ったのです。呼んでくれると言う事はまだ私の事を愛している証拠なのですから、素直に大人しくしていますね!」


「はぁー、なんでこんなに壊れちゃったのかな……能力は唯一聖魔術を極めているのに残念過ぎます」


 まだ確証を得ていませんが、このアホは本当に私なのですか?

 だとしたらとても嫌なのですが、この人の言っている愛とか聞いていると、エルナの方がましに思えて来ましたよ。

 ノアが溜息を吐くとか、これはもう重症な人に違いありません。

 前にノアが愛を下らないとか言っていたのは、もしかしてこれの所為では?


「きっとお姉様とエルナお姉ちゃんとステラお姉ちゃんの目立つところだけ合体したらこんな感じになるのでしょうね。ところでノアさん、私達は戦いに参加しなくても宜しいのですか?」


「んー、いまの僕はあれとまともに打ち合える力は無いので、あちらに任せれば問題無く倒してくれます。レベルは負けていますが、彼女の最大の攻撃が決まれば、あの程度の魔物など敵ではありません。本来でしたら僕が切り刻んで楽しみたいところですが、相手はただの魔物で命乞いとかしないから、詰まらないからねー」


「ノアさんの嗜好はわかりました。最大の攻撃と言うのは、もしかして必殺技とかですか!? お姉様はそういうのは嫌がるので、中々決め台詞とか言ってくれないんです。私が考えた台詞を追加すれば、最強の魔道戦士とか二つ名でもついてカッコいいと思うのですが……」


 あんな下らない台詞を追加したら、恥ずかしいし詠唱が増えるみたいなものだから、前置きが長くなってしまいますよ!

 大体、魔物の首を刎ねる度に台詞など言っている余裕は、シズクじゃあるまいし、無いよ!


「んー、まあ見ていれば分かりますが、そろそろ一撃で倒せるぐらいに削れていますので、ちょっとマナの消費が大きい技でも使うんじゃないのかな? それにしても、この本体の鑑定眼は名前とレベルしか見えないとは使えないですねー。もっと誰構わずに鑑定しまくって使いこなさないと、半目で見ている感じですからダメですね」


 個人情報を見まくれとか言っていますが、私はなるべく人のプライバシーに関する事は見ないようにと思っているのです。

 ノアに自分の全てを公開している状況なので、こんな仕打ちは気の毒と思っているのですが……私にも誰にも知られていない秘密が欲しいです。

 お馬鹿な会話をしている間に、あのボスから感じるマナが半分ぐらいに減った気がします。派手に吹き飛ばした後に目を閉じて瞑想でもしている感じなのですが、何をしているのでしょうね?

 何となく銀ちゃんにマナが集まってきている感じがするのですが、もしかして、本当に必殺技とか使ったりするのですか?

 余りシズクが喜ぶ行動だけはしてくれないように祈りますが、シズクが気に入ったら練習メニューに台詞が追加されてしまいそうです……。





 まったくマナだけ供給して本当に高みの見物を決め込んでいるよ。

 (でも、それで十分なのでしょ?)

 まあ、マナさえ切れないんだったら、十分に倒せるけどそろそろ終わらせるよ。

 (どうするの?)

 森で私と少しだけ相手をした子の好きそうな倒し方で行くよ。

 (あれを使ったら、いまのマナでは、維持が不可能になってしまうと思うけど?)

 別に倒してしまえば問題は無いし、最悪倒せなくても、あの酔っ払いの聖女がいるから、とどめは可能だね。

 (では、お好きなように)


「いくよ、ヘレン! 『グラビティ・チャージ』」


 戦斧に重力魔術の付与と集めたマナを上乗せする。

 普通の武器に重力魔術を乗せると大抵は耐えられないんだけど、ヘレンの魂を宿したこの戦斧なら、制御が可能になるんだ。

 奴も巨体にはあり得ない速度の動きが出来るけど、この超重力を付与した戦斧で、更に風魔術で自分の身体能力を速さに特化すれば、複数の分身による連撃が繰り出せる!

 あいつはマナがある限りは超再生が出来る特殊個体なんだけど、重力魔術を付与した攻撃なら少しの間だけ付与の効果で再生を遅らせる事が出来るし、止めている間もダメージが継続する。

 他の付与でも良かったんだけど、今のマナの容量で確実に倒すにはこの遅延効果が有った方が楽だしね。

 よく考えたら、マナの消費を抑えた火の付与で焼き尽くしても良かったんだけど、昔からの癖が抜けないんだから仕方ないね。

 まあ、さっきまでと違って、いちいちマナを籠めなくても重力破の攻撃を絶え間なくして、再生をする時間を与えずに滅多切りして、最後にこれで押し潰す!


「ヘレン! 『エンチャント・リリース・グラビティ・カノン!』」


 そのまま戦斧に付与された魔法を任意の魔法に変換してゼロ距離で叩きつける!

 これで大抵の相手はお終い。

 重力魔術は相手に決まれば強力な魔術だけど、攻撃魔法に関しては着弾が遅いからまともに使っていたら確実に躱されてしまうけれど、今のように相手の肉体に武器を接触させた状態で解放すれば回避は不可能に近い。

 ヘレンにはこの世界における魔術の基礎理論を教えてあるので、私がイメージすれば魔法の効果を書き換える事も可能だ。なるべく同じ系統の魔術じゃないと無駄にマナが消費する欠点があるんだけど、結果を書き換える事も可能にしているのはヘレンの演算能力のお蔭だ。

 魔術適性を持たないヘレンには習得は不可能だったから、この能力と引き換えにこの武器に宿る精神生命体になってしまったんだけど、本人も後悔はしていないし、私の大切な友達だ。

 最後の『グラビティ・カノン』に全てのマナを注ぎこんだので、私を維持するマナも全て失ってしまったが、消える間際に確か台座とやらが見えたから、私の役目は果たしたようだ。

 1つだけ気になるのは、どうしてあの子は融合していないのか不思議なんだけど、今の私にそれを知る時間は無いようだ……。




「んー、どうやら倒したみたいですねー。流石は攻守のバランスが取れた銀ちゃんですねー」


「あの銀翼のお姉様はすごくカッコ良かったです! 私よりも複数の実態の有る残像を作り出して、戦斧で相手を滅多切りにしてから、重力魔術で綺麗に消し去るとか。素晴らしいです! これはお姉様にも出来るはずなのですから、森に行った時は特訓しかありません!」


「んー、いまのシノアにはかなり酷な訓練と思いますよ? 大体、槍術や体術が初級止まりなのですから、仮に僕で実践するとしても、大振りするだけが限界でしょうね」


 そう思うのでしたら、私にもっと能力を下さい!

 ボスを倒した銀ちゃんの戦いは圧倒的でした!

 このままでは、本体は弱いけど意思を持った分身体の方が強すぎるという、頼もしいのですが悲しい子になってしまいます……。

 そして、案の定シズクが訓練とか言い出しましたが、私にはあんなのは無理です。

 半端な武器に重力魔術を付与すると、クソ重くなるか魔法に耐えられなくて刀身が砕けるのですよね。

 しかも、最後に戦斧に付与していた重力魔術を別の魔法に変換して叩き込んでいましたが、あれはどうやってするのですか?

 付与した魔法の変換とか、私の知識には無いよ!

 いつの間にか台座が現れました。その前にカミラを復活させたいのですが。ボスが消滅した辺りに、カミラの弓と細切れになった衣服と一緒に光り輝く宝石のような石が落ちています。あれがカミラの核と呼ばれる物なのでしょうか?

 何にしても、下に降りて早くカミラを復活させてから、台座の宝玉に触れたいと思います!


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