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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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114 学園の子悪魔


 本日こそは、久しぶりに学園に行く事になりました。

 エルナとの約束なので、私はただの護衛なんですが、自称エルナの婚約者に早く会ってみたいです。

 朝からエルナとシズクでひと悶着あったのですが、学園から戻ったら私はシズクに連行される事で話が付いてしまいました。

 大して進歩の無い訓練などしたくないので、お屋敷には真っすぐに帰らずに寄り道をすると私は決めています。

 大体、頭では理解していても体が付いてこないんだから、私には特訓よりもイメージの構築の方が成果があると思うのです。

 それと、練習相手が悪いから一方的に叩きのめされているだけなので、少しも上達した気がしないから、もう嫌なのです。

 そんな事を考えながら学園の制服に着替えていると、最初は気に入らなかった制服ですが、いじめ回避の装備と思えば素晴らしい制服だと思うようになりました。

 まったく、こんな胸の大きさが比較できる制服とか考えたのは誰ですか?

 こんな制服は、カフェのウェイトレスの制服にでも採用すればいいのですよ。

 そうすれば、男性のお客さんが増えるから、売り上げが上がると思います。


 久しぶりにみんなと一緒に登校していますが、私がいるのでまた通う気になったのかと聞かれたので、エルナの婚約者の見学と答えたら、エルナにめっちゃ叱られました。

 みんなは納得したのですが、エルナは絶対に認めないと言っています。どうも、ダンジョンに行っている間にかなり噂を広められて、外堀を埋められているようです。

 昨日も、帰って来てからとても機嫌が悪いので、逃げようとしたのですが、捕まって、本日学園に行ったら私に噂を何とかするようにお願いして来るのですが……同性の従妹の設定なのに、どうすればいいのか私には分かりませんよ?

 私が男の子でしたら、みんなの見ている前ではっきりとエルナは自分の恋人ですと宣言しても良いのですが。解決策が浮かばないまま学園に向かっているのですが、取り敢えずは相手を見てからですね。

 エルナに婚約者が出来るのは喜ばしいのですが、本人が居ない間に確定のしていない噂を流すのはちょっと感心しませんね。

 商売の類なら悪くない手法ですが、こういう事は本人の同意が無いと相手に迷惑かと思います。

 学園に着くと、1年と2年の女子の子が私をお姉様と呼んでくれるのですが、これどうなっているのですか?

 カミラにちょっと聞いてみたのですが、エルナが私がダンジョンでの活躍で卒業資格を手に入れたのをかなり美化させて話しているらしくて、知らない間に私にはファンが出来たようです。

 学園長のエレノアさんも実技だけでなく学業も優秀な我が学園の優秀な人材とか言ってアピールしたらしくて、自分が任期中に輩出した自慢の生徒として話しているとか。

 まあ、私に害が無ければ何でも良いのですが、そんな事が自慢になるのかな……。

 取り敢えずエレノアさんに挨拶をしたいと思うので、ちょっと行ってこようと思います。


「学園長の所にちょっと行ってきますので、エルナ達は先に教室に行ってて下さい」


「お待ちください。私と常に一緒に行動する約束だったと思いますが、どうしていきなり離れようとするのですか?」


 他の生徒の前なので、いつもの雰囲気とは違って言葉遣いがお嬢様らしくなっていますが、目が笑っていませんね。


「久しぶりに来たのだから、エレノアさんにちょっと話というか情報を聞きに……」


「到着早々いきなり浮気では無く、他の方に会いに行こうとするのは感心致しませんよ? それに昨日の夜に知りたい事はお伝えしたはずなので、シノアがする事は1つしかありませんよ?」


 確かに色々と愚痴を聞きましたが、教室でエミリオという方の前で私を恋人宣言をするのは却下したはずなので、絶対に実行しませんからね?


「すぐに私も教室に行きます。ちょっと挨拶をしてくる程度だし、少しは相手の情報を知っているエレノアさんに話を聞いておく方がエルナの為になると思って行動しているのですが、間違っているのかな?」


「私の為なのですか? シノアがそう言うのであれば、信じて待っていますので出来るだけ早く来て下さいね? 余り遅いと、今晩は加減が出来ないかも知れないのでお忘れなきように」


 これは……早く戻って来ないと、今晩の抱き枕の刑で抱き締める力が増すという事ですね?

 私がいないとナオちゃんを抱き枕にしているらしいのですが、それはもう優しくしているそうなのに、私だけ思いっきり抱き締めるから、たまに骨が折れて気分が悪いのですよね……寝ぼけていても、ちゃんとナオちゃんだけはそんな事はしないのに、私とカミラだけは捕まると悲惨な事になります。

 普段は、カミラに押し付けて工房に籠ってしまえば回避できるのですが、今日は、強制的に連行されそうです。


 早く戻ると約束だけして、さっさと学園長室に向かいました。途中で、私を慕ってくれた下級生の子の相手をしていたので、どんどん時間が……扉の前に着く頃には授業の開始の鐘がなっていますが、これは……どちらにしても罰が確定なので、開き直ってエレノアさんと話をしてから行く事にしました。

 ノックして中に入ると、何かお疲れの様子で、朝から椅子に深く座って溜息なんて付いていますね。


「エレノアさん、おはようございます! お久しぶりですが、朝から気分でも優れないのですか?」


「おはようございます、シノアさん。本日は学園にどのようなご用件なのですか?」


「ちょっと、エルナに泣き付かれて、学園のお供をする事になったのです。気のせいかエレノアさんの反応が冷たいのですが、私が何かしましたか?」


「シノアさんは、こうなるのが分っていて、私に無償で進呈してくれていたのですね」


「何の事かさっぱりわからないのですが?」


「シノアさんに頂いた美容関係の物を使ったら、市販の安い物では満足できなくなってしまったのです……それで、同じ物を購入したのですが、余りにも高いので少しづつしか使えないのです。無くなるとどうしても同じ物が欲しくなるので、出費がかさんでいるのです……」


「あー、あれですか。別にエレノアさんは普通に綺麗な人なんですから、そんな物に頼らなくても問題は無いと思いますが?」


「シノアさんも私と同じ年代になれば理解出来ると思いますが、若い人に比べて肌の衰えは隠せないのです。シノアさんに頂いたあの高級美容液は、若い頃の張りを思い出させるぐらいの効果があるのです。しかも、安い物と違って効果が数日は続くので、少々疎かにしても問題は無いという素晴らしい品ですから、値段が高いのも納得が出来ます。サラ様と会うと若返った印象さえ受けるのですが、きっと毎日使っていると効果も高いのでしょうね……」


 サラさんは、私がお屋敷に居る時に常に作り置きしていますので、使いたい放題ですからね。

 あれは、肌の角質のレベルにまで浸透する効果があるのです。使い続ければ肌が活性化するので、人によっては若い頃の肌のレベルまで向上するかと思います。

 こちらの世界では解明されていないシズクのお姉さんのうんちくの知識が無かったら、私にも理解出来ませんでしたが、とにかく、そこまで肌のケアをすれば肌に潤いが保たれて瑞々しくなるように調合しています。

 シズクの世界の化学的には色々と配分などが難しいと思いますが、こちらの世界には魔術があるので、私の錬金魔術なら私のイメージ通りに作り出す事が可能ですから、都合の良い薬品が作れるのです。

 理解が足りない所はマナの強弱で誤魔化せるのです。魔法的な効果時間で考えればいいので、使った分量=魔法の効果時間で作り出しているだけです。

 サラさんが使っているのは、魔術的な所をかなり強化しているだけなので、当然効果時間が長いだけなのです。

 市販の物はカシムさんにレシピを渡してあるのですが、作り出している錬金術師の人の理解が足りないから、どうしても効能と効果時間が短くなってしまうのです。

 エレノアさんが無理して買っている高級な物は、私がそこそこ強化して別に作った物をカシムさんに卸しているのです。直ぐに売れてしまうから、もっと作って欲しいと頼まれているので、時間がある時はあれの製作がメインとなっています。

 私が工房に籠っている方がサラさんやカシムさんが喜ぶのです。エルナが私を工房から連れ出すと、サラさんが後でエルナを呼びつけて、私の仕事の邪魔をしてはいけないとお叱りになっているのです。

 残念ながら、サラさんと口論になるとエルナは決して勝てないので、最近は、私が来ないとナオちゃんをもっぱら呼んで抱き枕にしているみたいです。

 さてさて、自分の先輩のサラさんが自分よりも若々しい理由を知っていて、目の前にその答えがいるのですが、そろそろ頃合いかな?

 エレノアさんの目の前に御所望の品を1つ出しました。まずは反応を見ましょうか。


「もしかして、これの事ですか?」


「それですが……よく見ると販売されている高い物と微妙に違う感じがしますが……もしや、それは私に最初にくれた物ですか?」


「おっ! 市販の高い物との違いに気付きましたねー。これは器は同じですが、サラさんがいつも使っている物と同じです。販売されている高い物も同じ容器で作っていますが、微妙に色が違いまして、実はこちらの方が効果が高いのです。販売している物はちょっと私が手抜きをして作っているので、少しだけ色が薄いのですが、比べてみないと分からないのに良い目をしていますねー」


「同じ物を買ったと思っていたのですが。気のせいか違う気はしていたのですが、あれもシノアさんが作っていたなんて、初めて知りました。まさか手抜きをして作っていた物だなんて……あんなに高いのに酷いです……」


「いえ、手抜きと言っても少しだけ配合が違う程度なので、量産する商品としては完成しています。これは、コスト度外視で作っているだけなんですよ? まあ、サラさんに使ってもらって、他の貴族の方に宣伝しているだけなんですけどねー。しかし、貴族向けに作っているのによく買う事が出来ましたね?」


「……サラ様にお願いして、私にも購入が出来るように取り計らってもらっていたのです……」


「なるほど、サラさんに貸しを作るとは勇気がありますね。それにしてもエレノアさんの学園長としての給金では買い続ける事は厳しいはずなのですが、そこはどうしたのですか?」


「品物の金額はともかく、どうして私の給金の事情まで知っているのですか!?」


「そんなの簡単ですよ。この学園のお金の流れは全て、教師の毎月の手当てまで把握しています。私が毎月渡している物が、ちょっと贅沢すれば手に入る程度に設定しているのが分かりましたか? あれは、普段の生活に支障の無い程度で、本人が満足するぐらいの品を送っていたのです。フリーク先生のように毛髪材は別ですが、アイリ先生みたいに余り与え過ぎると生活が壊れてしまうから、手の届く範囲に設定していたのです」


「そんな事まで把握しているなんて、シノアさんは本当に学生だったのですか!?」


「学園生活を楽に過ごす為に努力しただけです。みんな賄賂を贈ると優しくなるので、袖の下は大事ですよ? それにこんな事に慣れてしまえば、一度手に入れた自分だけの待遇を失わないようにするので、後は継続するしかない状況になるのです。となると、私のお願いは可能な限り叶う事になりますが、私は未だかつて、特にお願いもしていないので、貰えば貰う程に心の貸しも増えて行きますよね? 少しでも私のお願いを聞けば、いつもお世話になっている恩返しが出来たと思えるので、お互いにメリットがあるのですが、私が一方的に差し上げているだけなので、余程その状況が当たり前の特権と思わない限りは、私に対する借りだけが増え続けますからね」


「未だかつて……このような事をする生徒はいませんでしたが、シノアさんは一体何をしたいのですか? 私もその賄賂漬けの1人なのですが、いつどんな大きなお願いをされるのかと不安に思った事は何度もありました。シノアさんは何も求めませんから……」


「まあ、今はそんな事よりもお金にも困っているのではないのですか?」


「さ、サラ様に少しだけ借金をしています……期限は設けないと言われたのですが、家の貯めているお金に手を付ける事は出来ないのです……来年に娘が学園に入学するのに必要なので、知られる訳にもいきません。ですがあのような物で自分を少しでも若く見せれるのでしたらと思うと、無理をしても欲しいと思って今に至ります。私も1人の女だったようです……」


「すると世間的にばれてしまうと困る状況なのですか……大変ですね。ところで学園長というのは任期なのですか? それとも世襲なのですか?」


「任期なのですが、学園の運営に関してはヴァレンタイン家の意向がもっとも影響力が強いので、私がサラ様に推薦されて務めさせてもらっているのです」


 要するに、サラさんのもっとも扱いやすい後輩だったエレノアさんを学園長に据えたという事ですか。

 道理で、私を学園に組み込むのが簡単に出来た訳ですよね。

 さあ、ここまで来れば、もう1つ秘密でも暴露してしまいましょうか。


「今なら、そんな高い買い物なんて止めれば元の生活に戻れると思いますが。ロイさんはそんな事には拘らないと思うんですけどね?」


「!? な、なにを言っているのですか、シノアさん! どうしてそこでロイさんの名前が出てくるのですか!?」


「えっ、私が気付いていないとでも思ったのですか? お屋敷でサラさんと会っている時に、背後で控えて居るロイさんをいつも見ていますよね? 私もサラさんとは仕事の話をよくするので、たまに部屋にいる事はご存知かと思いますが、その時にエレノアさんを観察していればすぐにわかります。ロイさんも奥さんが亡くなられてかなり経つと聞いていますから、エレノアさんも同じ境遇なので結婚しても問題は無いかと思いますよ? それにサラさんも気付いているから、エレノアさんを呼ぶ時は必ずロイさんを同席させているのです」


「そんなに見ていたつもりは無いのですが……私はそんなにわかるぐらいにあの人を見ていたなんて……もしや、ロイさんもお気づきなのでしょうか……だとしたら私のしている事は……」


「気付いているのは私とサラさんでけです。ロイさんは普通に主であるサラさんに仕えているだけですからね」


「では……この事を知っているのは、お2人だけなのですね?」


「そうなります。ロイさんはこの手の事には鈍感みたいなので全く気付いていませけど。仕事熱心とも言えますが、エレノアさんの熱い視線に気付かないなんて罪な人ですね。なんでしたら、私が話をして取り持っても良いと思っていますよ? サラさんは、いつエレノアさんが相談して来るのかを手ぐすね引いて待っているぐらいですから、サラさんに相談なんてしたら、一生手下が確定しますよ?」


 実は、サラさんとどちらの手を借りるか賭けをしているので、私を頼ってしまえば私の勝ちなのです!

 サラさんが勝った場合は、私が試作品で作り出した金剛石改めダイヤモンドを綺麗にカッティングした物を提供する事になっているのです。

 採掘したわけではないのですが、シズクが「いんたーねっと」と呼ばれる知識の宝庫と呼ばれる物で探索した知識の中にあった、あちらの世界の硬い鉱石を作り出してみたくて、私が独自に錬成したのです。

 材料に関しては似たようなものがあったので代用は出来たのですが、文章でしか記載されていない、高温で高圧縮をかけるのにとても苦労しました。

 あちらは機械なんて物を使えば良いのですが、私は錬金魔術でそれに近い状態を作り出すしかないのです。イメージの試行錯誤をして、なんとか作り出したのですが……それで、小型の剣なんて作ってみたら、斬ったりするのは優れていたのですが、私のイメージが弱いのか意外と強い衝撃に弱く、私がネタで作ったアダマンタイトのハンマーで叩いたら、砕けたよ!

 残念ながら、現時点での私の知識では武器にはちょっと向かないけど、鉱石としてはとても綺麗なので、宝石として生産する事にしたのですが……材料は大した事がないのですが、錬成の過程がちょっとめんどいので、現在はパスしているのです。

 何で、サラさんがダイヤの事を知っているのかというと……コクマーさんが珍しく私に指輪の宝石の製作を頼んで来たので、丁度いいから、砕けたダイヤを加工してから指輪にして渡したら、アンナさんにプレゼントしたそうなのです。それが一気にお屋敷で噂になって、当然のようにサラさんが気付いて、自分にも大きくて細かいカットのしてある物が欲しいと言って来たのです。

 この辺はエルナと同じで、私なら何とか作り出すと思っているみたいです。注文の内容がめんどかったので、たまたまエレノアさんのロイさんに向けている感情を読み取っていたから、どちらにロイさんとの仲を相談して来るのかで決める事にしたのです。

 ちなみに私が勝った場合は、特に無いので貸し1つとなっています。

 でも、これで勝負がついても、何とか作らせようとするか、そうでなければアンナさんからいい値で買い取ろうとするかも知れないから、それはそれで困るのですよね……アンナさんは、見た事も無い綺麗な宝石の指輪を送られた事で、プレゼントしてくれたコクマーさんと製作した私に感謝しまくっているのです。サラさんには、一応ですが大事なプレゼントなので、そういう事はしないように釘を刺していますが、相手は公爵夫人なので、もしも譲って欲しいなどど言われたら断れないに決まっていますからね。

 まあ、これをネタに何度も賭けをして、サラさんに貸しを作るのも悪くないんですよね。

 私って、誰かに貸しとか貸付金を作るのが大好きなんですよ……別に無償でも良いのですが、何故か誰かに負債を負わせたくなってしまうので、お金の話をするとカミラからはいつも小悪魔とか言われています。


「……そこまで気付いておられるのでしたら、これ以上は問いませんが……一応聞きたいのですが、シノアさんに頼ると私はどうなってしまうのですか? まさかとは思いますがアイリ先生のような事になるのではないでしょうね……」


 エレノアさんのように世間体を保っている人を私の支配下にするのは面白そうなのですが、アイリ先生程堕落しないと思いますので、誓約魔術で縛る必要は無いかな?

 馬鹿な事をさせて遊ぶのは、アイリ先生のように何でも自分の欲望に負けてしまう人の方が楽しめるのですが、エレノアさんはお馬鹿さんのアイリ先生と違って常識人ですし、娘さんもいるそうなので、そこまで墜ちてしまうと娘さんが可哀想ですからね。

 なので、エレノアさんにはこれまで通りに、私に対する見えない貸しで縛っておく方が良いかと判断します。

 それでは、1つエレノアさんを試させてもらいましょうか。


「特に何もしませんので、これまで通りの関係になります。この美容液に関しては、これからは私が進呈しますのでもう無理に買うのはお止めになって下さい。勿論ですが、ロイさんにもそれとなくエレノアさんが今度食事にでも行ってお話がしたいと言っていたと話はしておきますので、それでお誘いがあったら、頑張って下さい。ロイさんは誠実な人なので、必ず一度は声を掛けて来るはずなので、後はエレノアさん次第になります」


「そのような申し出は私としてはとてもありがたいのですが、それでシノアさんが何か得する事でもあるのでしょうか? 他の教師陣達は、シノアさんが学園からいなくなってしまったので、今期からは今まで貰えていた物が無くなってしまったと、かなり落ち込んでいたのですが……それなのに、私だけまた受け取る事になるのは気が重いのですが……」


「あれ? アイリ先生にエルナが在学中は届けるように言い付けてあったのですが、今月の分は貰っていないのですか?」


「いつもは月初めに持って来てくれたのですが、いつまで経っても来ませんので、もう終わりかと思っているみたいですが……」


 アイリ先生にはちゃんと届けるように言い付けてあるのにサボるとは。もしかして着服でもしているのですか?

 もしそうでしたら、焼きはいれないけど火炙りの刑にして反省させますが……あっ!

 そう言えば、リンさんに聞いたのですが、アルカードと毎日のように森に行っているので、帰って来ても疲れ果てていて、メイドとしての仕事も疎かになっているというか失敗とかもしているから、簡単な雑用だけで許してもらっているのでした。

 自分の事で精一杯で、元同僚の事なんて忘れられているのですね。

 疲れ知らずの私と違って普通の人なんですから、体力的にはきついのでしょうね……頑張れているのは一緒にアルカードがいるから、少しでも同じ時間を過ごしたい一心みたいですから、今回は仕方ないですね。

 まあ、それはそれで何か罰を与える事にしますが、何をさせようかな……体罰は可哀想なので、鼻からワインを飲ませるとかちょっと面白そうなんですが。出来るのかな?


「アイリ先生も今はちょっと自分の事で手いっぱいだったので、どうも忘れているみたいですね。帰ったら明日にでも届けるように言っておきます」


「それは他の者達が喜ぶと思いますが……それでもう一度聞きますが、シノアさんにとって何か得する事でもあるのでしょうか?」


「特にありませんよ? 私の純粋な善意と思って今まで通りに受け取れば良いかと思います。他の方も同じ事を思っているのですか?」


「アイリ先生の事は皆は知っていますので、とても善意とは思っていないと思いますが……今頃になって断っても、自分だけは差し入れが貰えなくなるのは損だからと思っているようですが……無償の援助ほど警戒したくなるのは仕方ないと思います。特にシノアさんのような身分の高い貴族の方が、私達のような庶民の趣向に合わせてこんなにマメに施しをするのですから、不気味とは思いませんか?」


「本当に私の善意の気持ちなので、私が何かした時に目を瞑ってくれるだけで良いのですよ。アイリ先生が居た時は私の行動を認めてくれただけでも十分に私にはメリットがありましたので、今度はそれをエルナとカミラの為に色々としてくれれればいいのです。そう、ただ何か意見や主張があったら、貴族だからという理由ではなく、さりげなく一般論的に迷わずに味方するだけで良いのですよ?」


「……私は知らなかったのですが。すると、他の者達はシノアさんの行動を自然に正当化する動きをしていたのですか……教師として、そんな事で良いのでしょうか……」


 駄目に決まっています。

 大体、教師とか人に教える立場の者が賄賂を受け取る事自体が間違っているのです。エレノアさんも既に批判出来る立場にはいませんよ?

 シズクの存在が無ければ、私は善意でその人が望む物を可能な限り無償で進呈する傾向だったと思うのです。あちらの世界の知識に汚染され過ぎて、私にとってはこれが当たり前になってしまったのですよね。

 貴族のお偉い様みたいに特権階級の上からの指示ではなく、お互いに有益な関係を保つと同時に、少しだけこちらに肩入れをしてくれる程度でいいのです。

 何にしても、良識の有る立場の教師がこちらの意見に自然に賛同してくれれば、世間の目にはこちらの考えが普通に正しいと映るので、悪いイメージはまず付きません。

 指導する教師が自然に賛同すれば、生徒も正しいと認識しますので、後は少数派の自分の信念でも持っている者だけになります。余程のカリスマ性でも無い限りは何とでもなります。

 カシムさんとの仕事の関係上、色々な人とも会いましたが、私に取って一番の障害は賄賂になびかない者です。

 物はいくらでも作れますが、それ以外の物を要求して来る者も中にはいました。その時は、カシムさんの助言に従って制裁しますけどね!

 取り敢えず、エレノアさんには、これを渡して反応をみましょう。

 

「まあ、それは置いといて、エレノアさんにはこれを渡しますので、サラさんに渡して借金の清算にも使って下さい」


 そう言って、小さな小箱を渡しました。こんな小箱が借金の清算に使えるのかとでも思っている顔をしていますね。


「変わった綺麗な小箱ですが、これは何なのですか? 真ん中から半分に開けるみたいですが……」


 この世界には個別に指輪を入れるケースの考えがないので、私があちらの世界を真似て作りました。

 貴族の方には、この小箱に入れて売ると中々好評なんですよね。

 箱の製作はシズクに任せしています。宝石のグレードに合わせて良い生地まで使って演出もしていますので、高級感も増します。


「気になるのでしたら、開いて見て下さい」


「では、ちょっと失礼させてもらって開いてみますが……これは!?」


「中々綺麗な宝石でしょ? それは、今サラさんが一番欲しがっている宝石なので、それを渡せばいくら借金があるのか知りませんが、全て清算出来るはずです」


「とても綺麗な宝石ですね……初めて見ますが、このような美しい宝石があるなんて初めて知りました……これをサラ様に渡すのですか……それにしてもこの小さな宝石で全てが清算出来るなんて、とても高価な物なのですね……」


「まだ出回っていないので、価値は決めていません。サラさんが社交界で宣伝でもすれば、面白い事になるかと思います。エレノアさんから渡せば全てを察するはずです。なので、間違っても自分の物にしてはいけませんよ?」


「そのような事はしませんが……とても綺麗です……これをサラ様に……」


 アイリ先生程ではありませんが、しっかりとダイヤに目が行ってますね。

 私には宝石は鉱石として認識しかしていないし、純度の高い物はマナが籠められる触媒として思っていませんが、大人の女性というものはみんな宝石が大好きですからね。

 それに、このダイヤは他の宝石と違って見た目は良いのですが、私にとってはマナが大して籠められない欠陥品なのです。

 元々は武器の材料として硬い物質が欲しかっただけなのですが、私の作る物には衝撃に対する強度が弱い欠点があるので、現時点では新種の宝石としての利用価値しかありません。作り出すイメージの工程がめんどいので、数を作るのは大変なのです。

 ですが、お屋敷の女性の人達の反応や目の前のエレノアさんの反応から見ても、価値のある宝石としての使い道はあります。

 アンナさんも、お屋敷ではたまにしか身に付けずに、普段は自分の収納にしまって用心しているぐらいです。

 さて、無事にエレノアさんはサラさんに渡せるのかな?

 これがアイリ先生だったら、絶対に自分の物にしょうとするはずですが、サラさんに対する借金をチャラにするのか自分の物にしてしまうのか楽しみですね。

 私としてはどちらでも構わないのですが。勿論、渡せなかった場合は罰を用意しますけどね!


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