103 成果と交渉
晩までには目覚めると思っていたのですが、カミラがまったく目覚めないどころか怪しげな表情をしています?
仕方ないので、久しぶりに分身体を作り出して、私の代わりに食事とエルナの相手をするようにお願いしました。
カミラの事を聞かれたら、飲んだくれていると言うように頼みました。カミラが居ない時の私の言い訳がこればっかりなので、アルコール依存症との噂になってしまったのです。最初の頃は「どうして、私をそんなだらしない女性にするのですか! 他に言い訳が思い付かないので、笑って誤魔化していますが、私のお屋敷でのお酒に対する印象がギムさんとシノアと同じなってしまいましたよ!」とか、言われました。
別に今は大好きになったんだから良いと思うのです。本人は気付いていませんが、カミラに対して好意を持っている人がたまに飲みに誘っていますね。
ですが、カミラって適当な世間話を聞いて黙々と飲むだけですから、相手の方がまったくいい雰囲気にならないと嘆いていましたね。
まあ、お蔭で私は黙々と内職が出来るので問題はありませんが、気が付けば朝ですよ。
いつ起きるか分からないから、途中から私もベットに入って適当に抱き着かせておいて、簡単な物を作っていました。いつもの起きる時間にやっと動き出しましたが、なんか目が虚ろですね?
寝ぼけた目で私を見るなり、じっと見つめていますが、どうしたのでしょうか?
「ノア様……」
「はぁ? カミラさん、朝ですよー」
私の声など無視して、目を閉じて顔が近づいてきます。キスでもするつもりですか?
夢の中で何をしていたのか知りませんが、エルナと同類になったようです。
「カミラがしたいなら私は別に良いけど、目覚めのキスをするのなら、これからはエルナ2号と呼ぶからね?」
私の今の言葉でようやく目がはっきりしました。エルナ2号の辺りで反応しましたね。
「お、おはようございます、シノア。朝から、寝ぼけてしまって済みません……」
「まあ、何でも良いけど、ノアは優しくしてくれましたか? その感じでは罰や拷問は無かったと思いますが?」
「はい……何もありませんでした。それどころかとても良かったです……」
良かった?
まあ、何となく想像できますが、きっと甘い言葉に誑かされたのでしょう。
カミラって性格はきつくなったけど、優しい言葉には弱いですからね。
「取り敢えず、朝食には顔を出した方が良いと思いますので、先に行ってて下さい。私はそろそろ分身体が戻って来るので、回収してから向かいます」
「どうして、分身体が戻って来るのですか?」
「カミラが目覚めないから、エルナの生贄に向かわせたのですよ? だって、私はここから動けませんからね」
「そうでしたね……それは、申し訳ありませんでした。それでは、済みませんが先に向かいますね」
そう言って出て行きましたが、直ぐに戻って来ましたよ?
何やらお怒りのようで、扉を開けるなり私に近付いて、いきなり往復ビンタをしてくれましたよ!
「いきなり痛いではありませんか! 朝から、か弱い少女の頬を叩くなんて酷いです!」
「何がか弱いのですか! 私の下着を返しなさい!」
「あっ! ……寝ぼけていたのによく気付きましたね」
ほっぺを摩りながら取り出すと、私から奪って急いで身に付けています。
自分で脱がしておいてなんですが、すっかり忘れていました。
「貴女の分身体が私を見るなり「ノーパン、ノーブラのカミラさん」などと言うから、気が付いたのですよ!」
なんと、私の分身体が教えたとは……私が眠っているカミラに言っていた言葉ですが、まさかあっちが本人に言うなんて予想外でした。
もしかしたら、私が何か呟いたりすると勝手に何か喋っているかも知れませんね。
これは、ちょっと使用を控えないと自ら暴露している可能性がありますよ。
そこに、私の分身体さんが戻って来ましたが、気の所為かここを出た時と着ている物が違う……。
まさか、着替えずにエルナの趣味全開の寝間着で戻って来るとは、誰かに見られたら、私にもまた変な噂が増えそうです。
「まあ、ちょっとした悪戯なんですから、そんなに怒らないで下さいよ。それに風通しが良くて気持ち良かったでしょ?」
「貴女のような羞恥心の欠片も無い人とは違います! 下らない事を言っていないで、貴女も早く来るのですよ!」
せっかく機嫌が良くなっていたのに、また悪くなってしまいました。私もお喋りな分身体を回収して、さっさと行く事にしましょう。
お詫びに、今度カミラにはもっと可愛い下着でもプレゼントすれば、少しは機嫌が直るかと思います。
明日は、エルナ達は学園の新入生の入学式とかがあるらしいので、行かなくてはならないのです。帰って来てから何事も無ければ、ダンジョンの続きがしたいと思います。
そう言えば、私は中途入学でしたから、そのようなイベント的な事は体験した事がありません。気が向いたら、こっそりと見に行く事にしましょう。
次の階層は罠と迷路がメインらしいのですが、カミラが自主的に調べてくれるから、私はクロード先輩のパーティーメンバーでも勧誘する事にしますが、レンだけは連れて行って欲しいのですよね。
レンは、レベルは高いのですが実戦経験が少ないので、いまの私でも十分に勝てる要素があります。
魔術に関しても攻撃が単調なので、使いどころが分れば、きっと私よりも強くなれると思います。
私って、とにかく色々と半端ですからね。
メアリちゃんに相談でもして、補助とかサポートが出来る人でも紹介してもらいましょう。
お屋敷での交友関係も完全に馴染んでいますので、良い人選をしてくれると思っています。
しかし、私が言うのもなんですが、他の人達よりもダンジョンばっかし行っていますけど、学園って、行く意味あるのかな?
エルナは勉強嫌いなので、喜んで付いて来ます。疎かにすると成績が下がるのが心配だけど、ちょっと集中して教えれば直ぐに取り戻せるし、カミラは暇があると自主的に勉強なんてしてますから、おかしいので問題は無しと。
うん、そう考えると頭の良い人しかいないから、助かっていますね。
私はお馬鹿さんですが、ノアの知識のお蔭で優秀なので助かりましたよ。
もし、この記憶力が無かったら、私に学園とダンジョンの両立なんて不可能でしたね。
それから、メアリちゃんにレンの事で話をしに行くと、自分も行くと言ってくれたのです。心当たりのある魔術と回復と支援が出来る人を2人探してくれるそうなので、あとは任せてしまいましょう。
クロード先輩に伝えに行こうと思ったら、メアリちゃんが話しておくそうなのです。ちょっと前に仲良くなったらしいのですが、あの子の仲良くなるって……確か……。
翌日に、私を連れて行こうとするエルナを見送って、シズクに叩きのめされた後に、森でアルカードとアイリ先生の修行の成果を見ています。大して変わって無いような?
「アイリ先生、もうちょっと踏み込まないと倒せませんよ?」
「これ以上近づくのは無理です!」
「大丈夫だって、私と違ってアルカードが拘束しているんだから、その魔物は身動きなんて取れませんよ?」
「だって、この狼さんはこっちを睨んで威嚇していますよ! もしも、あの恐ろしい牙で噛みつかれたら、私の腕なんて千切れてしまいます!」
「だって。アルカードから、アイリ先生に優しく言ってやって下さいよ」
私の背後で、小型のガルムと呼ばれる魔物を何体も影で拘束していますが、私と違って細い糸ぐらいに変化させているのにきっちりと拘束していますので、私と違って効率良く捕獲しています。
それをアイリ先生に順番に倒させているのです。いつもはどうしているのか知りませんが、私がいるので、静かに私の背後に控えているだけなのです。
ここは魔狼王の森の中でも強い魔物がいる地域なので、こいつの大型なんて出て来たら、並の冒険者だったら、勝てるか分からないのです。
私が苦労したアクラネとも遭遇したのですが、アルカードがあっさりと胴体を切断してしまったのです。とっさに鑑定した時はレベル300以上あったと思うのです。私の執事さんって、すごく強いです。
大体、私の背後から動いていないのに、気が付くと捕縛するか殺してしまってますから、私は自分が出した椅子に座って、テーブルでジュースを飲みながら寛いでいるだけです。
更に、私の頭上にあるパラソルは上空の魔物を倒した時の血で真っ赤に染まっているのですが、上さえ見なければ問題はありません。
私の知識が正しければ、これは日除けだったと思うのですが、血除けだったのですね。
「アイリ殿、その魔物は私が抑えているのですから、決してアイリ殿に危害を加える事は出来ませんぞ」
「で、でも! 唸っているし、目が怖いです!」
すると拘束していた影の一部が目を貫いて口を縛って閉じさせましたよ。
アルカードの影に捕まったら、抵抗どころか好きなように調理されて絶対に死ねますね。
「アイリ殿、これでただの肉の塊です。調理すると思って安心して剣で止めを刺して下さい」
「怖くは無くなりましたが、これはこれで少々可哀想に思えるのですが……」
もはや完全に抵抗が出来なくなりましたが、これなら一思いに殺された方がましかと思います。
「その魔物もアイリ殿の力になれるのですから、喜んで死を望んでいるのです。さあ、シノア様のように首を落としてしまえば心が晴れると思いますぞ」
「……シノアさんは、首を刎ねると心が晴れるのですか……改めて分かりましたが、恐ろしい子だったんですね……」
襲ってきているのに、死を喜んで受け入れる生物はいないと思います。
そして、確かに私は首を刎ねるのは好きですが、心は晴れたりしませんよ?
私は単純に相手が確実に倒せるからそうしているだけで、心の安寧の為にした事はありません!
「ちょっと、アルカード。私が首狩り大好きなふうに言わないで下さいよ」
「ふむ、違ったのですか?」
「私は確実に相手に止めがさせるから、首を狙っているだけで、心は晴れませんからね?」
「そうでしたか。先程、ここに来る時に魔物の首を刎ねている時のシノア様のお顔は嬉しそうだったので、私はそう解釈しておりましたぞ」
どうも、私はそんな嬉しそうな表情をしていたらしいです。
これはきっとノアの影響で表情が緩んだに違いありません。
(いや、君自身の行動だから、僕は関係ないよ?)
都合の良い呪いの腕輪が囁いていますが、聞いていない事は無視で良いかと思います。
(んー、都合のいい考えをするようになりましたねー)
はい、無視無視。
しかし、涙目になりながら魔物に止めをさしているアイリ先生のレベルは50台になっています。
エルナの我が儘でヴァリスに行っていた割には、この短期間で立派に成長していますよ。
だけど、レベルだけ上がって技能の方がまったく変化がありません!
私は例外ですが、普通の人はちゃんと鍛錬をすれば、初級から中級までは本人の意思が強ければ直ぐに上がるのです。
アイリ先生は、先ほどから見えている感情を見る限りは嫌々で倒していますので、どうも技能の上昇に結び付かないようですね。
このままだと、レベルだけ上がっても能力がショボいから、例えレベルが100になっても、レベル30前後の冒険者にすら負けますね。
この世界はレベルよりも技能の方が大事なので、何とかしないとハリボテの剣士が出来てしまいますよ。
「ねぇねぇ、アイリ先生。もうちょっと本気で頑張らないと強くなれませんよ? せっかくレベルが上げやすいように強い魔物のいる地域に来ているのですから、頑張って下さい」
「私は、これでも一生懸命なのです! それと今魔物が強い地域と言いましたが、この狼さんは本当はすごく強いのですか!?」
これ教えてもいいのかな?
短期間でレベルだけは上がっているのですから知っていそうなものなんですが、アルカードがいるから、この森の魔物は雑魚になってしまっていますからね。
「アイリ先生に聞きますが、その狼を倒すのは初めてなのですか?」
「いえ、この間も頑張って倒しましたが、今日みたいにこんなにいっぱいはいませんでした」
「倒した事があるのなら、知っててもいいかな? ちなみにその狼はレベル60前後です。まともに戦ったら、アイリ先生は即死ですね」
「この狼さんは、私よりもレベルが上なのですか!? しかも私の倍もあるなんて知らなかったです! シノアさん、お願いですから、もう帰るかもっと弱い魔物のいる地域に行きたいです! 周りでアルカード様が拘束している魔物も同じなのですよね!?」
「アイリ先生のレベルも上がってますので、もう倍ではありません。そして周りの拘束されている魔物も同じか強いですよ? ちなみにそこで、羽と足を斬り飛ばされて、飛べなくなったワイバーンのレベルは80ですね。素材的にもいいので、早く止めを刺して下さい。アイリ先生が倒したら、私が血抜きして回収しますからね」
「この周りに拘束されているの全てですか!? 無理です……そんな事を聞いたら怖くて腕に力が入らなくなって来ました……うぅ……もう帰りたい……」
「ちょっと、泣いてないで、早く手を動かして首でも落として下さい。そうすればすぐに終わるしアイリ先生のレベルも上がるから、もうちょっとで、狼と同じレベルになれますよ?」
「返り血もいっぱい付いているし……早くお風呂に入りたい……私には戦うなんて無理です……」
うーむ。
好戦的なエルナと違って精神が弱いですね。
シズクなんて、好戦的どころかゲーム感覚で魔物を狩って行きますから、経験値程度にしか思っていませんからね。
私もお肉と素材にしか見えないのですが、この考え方が間違っているのでしょうか?
アイリ先生の心を立ち直らせるには、高級なワインでいいと思っていましたが、流石にこれはダメかな?
いつもの楽しい感情では無くかなりマイナス思考の感情が流れてきますので、なんか私も哀れな人を見ている気がしてきました……どうしょうかな?
そうだ!
アルカードにやらせればいいのですよ!
エルナもそれらしい事を言っていたので、普通の人には効果があるはずです!
「ちょっと、アルカードにお願いがあるんだけど、耳貸して」
「ふむ、なんでございましょうか?」
「あそこで心が折れているアイリ先生に……」
「ふむ、畏まりました。出来るだけアイリ殿がその気になるように致します」
アルカードが座り込んで泣いているアイリ先生の側に行って、ハンカチで涙を拭ってあげると優しく言葉を掛けています。
「アイリ殿、もう少し頑張ってくれましたら、帰ったら1つだけアイリ殿のお願いを叶えてあげますぞ」
「ぐす……お願いですか? それはアルカード様が叶えてくれるのですか?」
「私が出来る範囲になりますが、何をお望みですか?」
「本当なのですか? で、でしたら……今晩は私と2人っきりで飲んでくれますか? そして……わ、私と恋人のようにキ、キスをして欲しいのですが……ダメでしょうか?」
「わかりました。今宵はアイリ殿の望む場を提供いたしますぞ」
「本当ですね! 今晩、私のファーストキスが……アルカード様が少し酔った私を介抱しながら、恋人として……頑張ります! ここで、魔物を倒せば長年の夢が叶います!」
「では、私はあちらに戻りますが、アイリ殿が倒しやすいように段取りを致しますぞ」
「はい! 頑張って倒します! あれはお肉です……そうです、お肉の解体処理と思えば良いのです!」
なんか、一気に元のテンションまで回復しました。キスの為にあんなに頑張れるとは、毎日してくるエルナの好意はどうなるんでしょう?
大体、お屋敷に来た頃はともかく、今は少しどころか飲み過ぎなので、たまにキャロが仕方なく部屋に運んでいるということを聞いていますよ。
転がっている剣を拾い直して、元気に別の魔物の首を落とそうとしていますが、あれは剣術というよりも薪を割っているように見えます。
あれなら、剣では無く斧でも渡した方が効率が上がる気がしてきましたが、アイリ先生の細腕では、あんな重たい物を持たせたら直ぐにへばってしまいそうですからね。
せっかくギムさんがアイリ先生に使いやすいように調整して作った剣なのに、ギムさんがこの光景を見たら何て言うのかな?
時々、愛の試練とか呟きが聞こえるのですが。私はやっぱり愛って痛いと改めて認識させてもらいました。
着いてからまだちょっとしか倒していないのですが、お昼を食べずに来たので、アイリ先生にはちょっと酷ですから、残っていた魔物はアルカードに始末をさせてから、泉に移動してアイリ先生を綺麗にしてあげて食事にする事にしました。
私が用意してきたお弁当を出してあげると喜んで食べています。どっちが教師と生徒なのか分からない風景ですね。
実は、お弁当には体力増強と興奮剤の類が仕込んであるので、午後からもしっかりと動けるはずです。
アルカードに頼んで、運動の後に毎日飲ませている飲み物にも疲労回復の効果のある物にしてあるのですが、疲れているので何のためらいも無く飲んでいます。ちょっと他の薬品も混ぜてあるのですが、効果が出ると面白い事になると思います。
何を混ぜているかは、ちょっとした人体実験ですので、本人には教えていません。
軟弱なアイリ先生に相応しい結果になると思うのです。ギルドの書庫に眠っていた古い錬金術の文献のレシピなのですが、必ず効果が表れるとは限らないので、もう少し様子を見る事にしましょう。
当然、誰にも教えていませんが、カミラ辺りにばれたら、私はめっちゃ叱られると思います。
カミラは私の過去を知っていますから、私が同じような事をされていたのを知っているので、私を非難して来るに決まっています。
ですが私に投薬されていたような、死ぬかも知れないような危険な物ではないので、その効果が出る以外は何も起こりません。
きっと、成功すればアイリ先生から感謝されるに違いないので、私は良い事をしている筈です。
それにしても、アイリ先生は、食後はアルカードに膝枕をしてもらって、気持ち良さそうに寝ていますが、普通は逆なのではないのでしょうか?
私が読んだ恋愛のお話しだと、女性が男性に膝枕をしてもらっていた筈なのですが、このところ私の知識と違う事ばかり起こるのです。男女関係のお話の書いてある書物って、嘘ばっかしですね。
この後も修行?を再開して、暗くなる前に帰ったのですが、あんな戦い方?で、アイリ先生の剣術の技能が上がっていたのですが……ちょっと納得がいきません……私なんて、ずっと初級なのに……。
お屋敷に戻るとエルナがとても機嫌が悪いのですが、どうかしたのでしょうか?
アイリ先生が辞めてしまったから新しい担当の教師と、私がいなくなった代わりに新しい子が入って来ると、エレノアさんからは聞いていました。そう言えば、アイリ先生はもう教師では無くなったので、なんて呼ぼうかな?
夕食の後にさっさと工房に逃げ込んだのですが、しばらくすると機嫌の悪いエルナが扉の前で私を呼んでます。
認証の鍵を兼ねた大剣がないから入れないのですが、いつもならカミラが同伴しているので勝手に入ってくるのですが、入れない所を見るとカミラは逃げましたね。
何があったのか知りませんが、私がご機嫌を取るしかないようです。
扉を開けると、さっきよりも機嫌が悪くなっているようですが、めんどくさいな……。
「シノア、どうして食事を素早く済まして、ここに籠ってしまうのですか? 私が目で合図をしていたのに伝わらなかったのですか?」
勿論ですが、知っていました。
サラさんがいる手前ですから、エルナが大人しくしていたので、マナーなど適当な私はさっさと食べて逃げただけです。
それ以前に私に向けてくる感情でしっかりと伝わっていますよ。
「えーっと、作り掛けの物があったから、そっちの方が気になったのです」
私の目をじーっと見ていますがやっぱりダメかな?
一応、アイリ先生用の剣を製作しょうと思って用意していたので間違ってはいません。
実際に机の上には材料だって出してあるからね。
「わかりました。そう言う事にしておきます。ですが私の話は聞いて下さいね?」
うん。
納得したから、とにかく話を聞けという事ですね。
仕方ないので聞きます。私に火の粉が降りかからなければ、いくらでも聞きますよ。
「話は聞きますが、何があったのでしょうか? 学園に行っただけなのですから、問題など起こるわけがないと思うのですが?」
「行事的な事は何事もなく済んだのですが、アイリ先生の代わりに新しい担当の教師と編入生が来たのです。教師の方は扱いやすそうな女性でしたが、編入生の方に問題があったのです!」
ふむふむ、アイリ先生の代わりに来た人はエルナが扱いやすいと言うのですから、きっとアイリ先生と同じようなちょろい人なのかと推測します。
今度、エレノアさんに会いに行く時に紹介をしてもらいましょう!
面白そうな人だったら、エルナとカミラの為にも、賄賂漬けにしておかないといけませんからね……ちょっと楽しみが増えました!
「じゃ、教師の人は別にして、その編入生に問題があったのですか? 順当だったらCクラスの誰かが上がって来ると思っていたのですが?」
「違うのです! マルグレット家の次男が中途編入で入ってきたのです! 彼は以前に学園を中途退学して、マルグレット家の領地に行ったはずなのですが、たまたま最近になって王都に戻っていたので、欠員が出ている私達のクラスに編入してきたのです!」
確か、現在この国を仕切っている大貴族でしたが、そんな所の人物が中途退学とかするのでしょうか?
まあ、話を聞かない事にはさっぱりわかりません。
「その人がどうかしたのですか? マルグレット家はエルナと同じ公爵の身分としか分かりませんが、問題でもあるのですか?」
「問題が大ありです! あの方は私に求婚をしてきたのです! しかもクラスでの自己紹介の時にですから、皆さんも知っています!」
ほぉー、こんな腹黒い子に求婚をするなんて、ある意味で勇者ですね。
まあ、黙って静かにしていれば憧れのお嬢様に見えるので、きっと見た目で判断したのでしょうね。
「それで、エルナは受けたのですか?」
「受けるわけがありません! その場はやんわりとお断りしました。お母様から許可は頂いているので、必ず承諾させて見せるなどと言ってましたので、お母様に尋ねたら「本人が了承したら、婚約を認めても良い」と、言ったそうなのです!」
「なるほど……その人の頑張り次第では、未来のエルナの旦那様になるのですね」
「私は結婚などしません! 私の将来は可愛い少女に囲まれながら暮らすのですから、旦那様なんて必要ありません!」
それはそれで、かなり問題があると思うのですが、エルナがこんなに感情剥き出しで話すのも珍しいですね。
それにしても相手の方がちょっと気になりますね。
「その方、どんな方なのですか? エルナと同じ大貴族の身分で中途退学とかあり得るのですか?」
「エミリオ・マルグレットという方です。詳しい事は知りませんが、4年前に何か不祥事を起こして、領地に謹慎させられたと聞いています。今の学園には当時の事を知る者がいないらしいのでわかりません。学園長は知っているみたいでしたが、当事者は全てマルグレット家が手を回したので恐らく誰も語らないとの事です」
なら、私はエレノアさんに賄賂でも積めば知る事が出来そうです。今の所は、私に問題は無いので放置でいいかな?
「そして……今までシノアの席だった場所に勝手に座っているのです……私に気に入られる為には隣の方が良いなどと言ってクラスの皆さんに堂々と宣言する始末です。仮にも公爵家の者なので、誰も文句を言いませんでしたが、権力を使っているのと変わりません。私は黙って無視していましたが、突き飛ばしてあげたい気分でしたよ?」
「その人がどのくらいの強さか知りませんが、普通の学生さんでしたら、下手したら死んでしまいますね」
「私はそのようなミスはしませんよ? する時はちゃんと相手に合わせて手加減しますので、死ぬ事はありませんよ?」
死んでいないだけで、骨折した人はいっぱいいるからね?
私も被害者ですが、力に自信のあった重戦士のクロード先輩の腕がへし折れた時は、流石に道場の人達だって腕力勝負はしたくないと言っていました。首なんか掴まれたら絶対に死んじゃいますよ。
「容姿の方はエルナの好みじゃなかったのですか?」
「カイトぐらいの少年の頃でしたら、きっと可愛かったと思いますが、残念ながら立派に成長しているので、女性に好かれそうな好青年になっています。性格の方は少し自信家の傾向があると思いますが、悪い人では無いと思います。しかし、私が黙っていると思って手を握って来た時は、そのまま握りつぶしたい衝動に駆られました。自分を抑えるのが大変でしたよ?」
なんか聞いていると別に変な人に聞こえないのですが。むしろお茶会に居た坊ちゃん達に比べたら、良い物件なのではないでしょうか?
初日に手を握ったのは失敗ですが、一度会って見て、良い人でしたらエルナを真っ当な道に戻す為に協力しても良いと思っています。
「まあ、私はもう学園には行かないので、エルナが解決するしかありませんね」
「シノアはきっとそう言うと思っていましたので、学園長に話を付けてきました。シノアは好きな時に好きなように学園に来ても良いように取り計らってもらいましたので、授業は受けなくていいですから、私の隣にずっといて下さいね?」
「ね? じゃありませんよ。何の為に色々と手を回して卒業の権利を手に入れたと思っているのですか? しかもそれでは、私はエルナの護衛代わりに行くだけになってしまいますから、私の内職をする時間が無くなってしまいますよ」
「シノアの私に対する愛が薄れてしまっています……私はこんなに愛しているのに……やっぱり離れていた期間に問題があるのですね? 今度、シズクちゃんに頼んでシノアと私を繋ぐ愛の拘束具を作ってもらわないといけませんね……」
また重い愛を言い始めました。私を束縛するアイテムなんて作られたら、とんでもない事になりますので、シズクには直ぐに注意しておきましょう。
別に、学園にお喋りしに行くのは構わないのですが、無償で行くのは嫌ですね。
個人的にはシズクのいじめから解放されるので学園に行っていた方がいいのですが、何か条件を付けないとなんか損した気分ですからね。
そうだ!
あれを止める代わりに付いて行く条件にしましょう!
あれを止めないと、私のお屋敷での百合の噂が止めれませんからね。
「わかりました。そんなに私と一緒に学園に行きたいのでしたら、私からも条件を出します。それを飲んでくれたら、ダンジョンを突破するまでは、エルナと一緒に学園に通っても良いですよ?」
「本当ですか! 条件とは何なのでしょうか? 最近疎かになっているお風呂で体を洗ってあげる事ですか? それでしたら、毎日してあげますよ?」
なんで、そんなご褒美みたいな条件になるのですか!
それはエルナの願望じゃないですか!
「違います。毎日している朝と夜の日課の撤廃です」
「何を言っているのですかシノア? あれは私が頑張って手に入れた、シノアと愛を確認する為の行為なのですよ? 絶対に認めれませんよ?」
「では、頑張って、学園でエミリオという方と過ごして下さい。私が出す条件はこれ以外にはありませんので諦めて下さい。明日から再開できるダンジョンを突破したら、私は隣国に出掛けてしまうので、どうせ出来なくなりますのですが、それならば有効活用した方が良いのではないでしょうか?」
「シノアのいけず……少しでも私を意識するようにこんなに尽くしているのに……それでは私と学園にいる間は常に側にいると約束して下さい。それなら涙を呑んで、その条件を認めます」
あれが尽しているのですか……尽くしているというのは、ちょっと異常ですが、セリスの行動を言うのではないのでしょうか?
最近はアルカードとなんか争ってます。私の私物の洗濯だけは決して譲らない変な行動をしていますが、特に害はないので、お任せしています。
「それでは、私も次からは学園に通いますので、しっかりとエルナの側にいる事にしますね」
「約束ですからね? 大事な愛の確認が出来なくなってしまいましたが、今までよりシノアの時間を独占できるので良しとしないといけませんね」
これで、あの日課からは解放されましたし、同時にシズクのいじめからも解放されます。
シズクは抗議してくるかも知れませんが、エルナの意見の方が絶対に通るので、渋々諦めてくれると思います。
後ほどみんなに声を掛けて、明日の用意でもしておく事にしましょう。
これで、私のおかしな噂が1つ減るといいですね。




