100 裏庭の天使さん
しばらくして、シズクとナオちゃんを抱えたエルナが戻って来ましたが、ナオちゃんの表情はとても真っ赤になっています。何をしていたのでしょうね?
入れ替わりにレンとメアリちゃんが更衣室に行きました。メアリちゃんの呟きがちょっと気になったのですが、大丈夫かな?
こちらに戻って来たシズクもいつの間にか着替えていますので、修行はお終いのようです。
私としては、解放されるのでとても助かります。
「では、私は今から全力で衣装の製作をしてきますので、エルナお姉ちゃんの用事が終わったら、ナオちゃんを私の工房に連れて来て下さいね!」
「期待しています。私はとても楽しみですよ! では、頑張って今日中に仕上げて下さいね?」
えっ!?
確か身に付ける物を一式全てとか言ってましたが。今から作って出来るのですか?
「任せて下さい! 先程、私のコスプレの手伝いをしている者達に大至急集まる様に伝えました。必ず完成させますので安心して下さい!」
シズクのお手伝いさん部隊の子達も、今は別に仕事をしているはずなのでは?
確か、積極的にお手伝いをしているカチュアさんは今日は休暇で、今は出掛けていると思ったのですが?
しかし、どうやって招集するのですか?
「ねぇねぇ、シズク。他の娘達は知らないけど、カチュアさんは出掛けているのではないのですか?」
「こんな事もあろうかと、お姉様も知っているベルの音が相手に聞こえる道具の別の音の物を配布してあるあります。それが聞こえた時は、私の工房に最優先で集まる指示をしてあります! 来なかった者は個別にペナルティーを言ってありますので、必ず集まります!」
うわー……自分の都合で呼び出して、来なかったらペナルティーとか……なんて自分勝手なんでしょうね。
他の人は知らないけど、カチュアさんのペナルティーだけは知りたいですね。
「ちょっと聞きたいのですが、カチュアさんのペナルティーとは何ですか?」
「カチュアのペナルティーは、衣装没収です。来なかった場合は、呼んでから1時間に付き1着返却させます。どれを没収するかは私が決めますので、当然ですが、カチュアのお気に入りから没収します!」
……なんて酷い嫌がらせなのでしょうか?
しかも本人が気に入っている物からとか。衣装合わせでどのくらい本人が喜んでいるかしっかりと観察していると思うので、分っているのでしょうね。
リンさんの新人さんの面接にも付き合っているので、見る目は確かなのですから、恐ろしい子なのですよね。
「唯一の趣味なのに可哀想な事をしますね……」
「以前に来なかった事があるので、没収して、サラさんの知り合いの方の御令嬢さんに仕立て直して譲ってあげたら喜ばれましたが、カチュアは泣いていましたね」
「シズクには情けというものが無いのですか?」
「忍びの棟梁の緊急招集に応じないのですから、当然です! ちなみに同じ物は二度と作りませんので未だに未練があるらしく、私にたまにお願いして来ますね」
ちょっと、ここに小悪魔がいますよ!
私もカミラに小悪魔とか言われていますが、私の場合は最後には折れて何とかしてあげるのに、シズクには容赦がありません!
「他の人も何のペナルティーも何か知りませんが、気の毒に……」
「他の子も、衣装とか私が付与したアイテムの没収になっていますので、今では応じない者は誰も居ませんよ?」
そんな嫌がらせをされたら、来るしかないですよ。
衣装はともかく、シズクの付与したアイテムはこの世界では珍しい考え方の付与がしてあるので、内容に因ってはかなりの価値があります。
そんな物をせっかく手に入れているのに没収とか、逆らえないと思って酷い仕打ちですよね?
ある意味で、サテラ以上の暴君かと思います。今頃あの暴君はどうしているのかな?
最近は、まったく会っていないので、そろそろマナの補給に来そうです。私に憂さ晴らしでもされそうなので、会いたくないですね。
「では、私は急ぎますので。完成するまでは工房に籠りますから、後で差し入れでも持って来て下さい!」
私に差し入れの要望だけ言って、行ってしまいました。見た目は普通で、激辛の料理でも差し入れをしてあげましょう!
エルナには悪いのですが、さっきまでのいじめの仕返しにシズクの足でも引っ張ってあげたいのです!
「では、ステラちゃんの所に行きますので、シノアも着替えて付いて来て下さいね?」
「どうして私もなのですか?」
「ステラちゃんにナオちゃんの足の怪我を治してもらいたいのです。高位魔法との事ですから、シノアがマナを譲渡しないといけないかも知れないので一緒に来て下さいね?」
「怪我でしたら、いま更衣室に行ったメアリちゃんでも治せると思うのですが?」
「良く分かりませんけど、外見は完治しているのですが、足の神経が繋がっていない状態で固定されているそうなのです。なので、聖魔術なら完璧なステラちゃんだったら、治せると思うのですよ?」
「ふむふむ……死人も完全な状態に生き返らせれるのですから、そのような異常な状態も治せるかと思いますが……」
「歯切れが悪いのですが、どうかしたのですか?」
「それがステラさんはちょっと拗ねてしまって、屋敷の裏庭に作った小屋に籠っているのですよね……」
「でしたら、その小屋に行きますが、何を拗ねているのですか?」
「えーと……それは……」
「確か植物を操る魔術で、庭師の方に協力してもらって、何か作っていましたよね?」
古城に行く前にステラさんが頑張って育てていた特別な稲を全て刈り取ってしまったので、帰って来てからは「シノアちゃんは、裏庭に近付かないで下さい」と書いた看板が入り口に刺してあって、無視して進むと草木が伸びてきて、私を拘束して屋敷の方に放り投げるのですよねー。
そのうちにマナが足りなくなったら、私の所に来ると思っていたので、まあいいかーと思っていたのですよね。
「私は、門前払いをされるので近づけませんから、エルナ達だけで行って来て下さい」
「あのステラちゃんが拗ねるなんて、何をしたのですか?」
「えーと……」
「私は怒りませんので、正直に話して下さいね?」
「実は……」
お米が美味しいと喜んでいたので、ステラさんの樹木魔術で特別な栄養を与えて更に甘みが増すように育てていた稲を全て刈って、自分達が食べてしまった事を教えたら……。
「それはシノアがいけませんよ?」
「シノア……貴女という人は一番の功労者の成果を全て横取りするなんて、ステラさんに代わって、後で私がきつくお説教をします!」
エルナは怒りませんでしたが、横にいたカミラがお怒りです!
余分な説教時間が増えてしまいましたよ!
「してしまった事は仕方がありませんので、私からもお願いします。ステラちゃんに謝りましょうね?」
エルナが交渉してくれれば、機嫌が直るかもしれません。ステラさんの樹木魔術は食材確保にとても有効なので、何とか機嫌を直して私の言う事を聞いてもらうようにしましょう!
「じゃ、エルナにお願いしますので、何とか取り成して下さい。ちゃんと謝りますので」
「ちゃんと誠意を持って謝ればステラちゃんはいい子なので、許してくれますよ! さあ、シノアも着替えて行きましょうね!」
「わかりましたので、着替えてきますから、ちょっと待ってて下さい」
「それとちゃんと下着は付けてくるのですよ? 先程ですが、背中に触れた時に付けている感触がありませんでしたよ?」
あっ……エルナが居ないから外していたのを忘れていました!
「淑女の嗜みとして以前にきつく言い聞かせた筈なのですが、もう忘れてしまったのですか? シノアの可愛い胸の形が崩れてしまったら、私には耐えられなくなるのですから、絶対に看過できませんよ?」
この体は固定されてしまっているので、そんな事はないのですが、絶対に信じてはくれないのですよね。
これがあると違和感があるし、めんどいからしていなかったのをすっかり忘れていました!
せっかくお怒りが解けたのに、新たなお叱りの原因が増えてしまいました。また、あの理不尽な説教をされますよ。
私が言い訳を考えていると厳しい口調で、静かにお言葉が……。
「今はステラちゃんの所に早く行きたいので、お仕置きは後でしますから、早く着替えて来て下さいね? 勿論、確認はしますので、もう忘れてはいけませんからね?」
「はい、言われた通りにしてきます……」
先ほど抱き抱えられた時に、体というか胸の辺りも弄っていましたが、エルナのいつもの病気としか思っていなかったのですよね。
自分はリンさんにさえ見つからなければベットやソファーでだらけているのに、私にだけ厳しいのは理不尽と思います。
しかし、反論などしても、私はいつも言い負けてしまうので、従うしかないのですが……納得が出来ません。
まあ、今日は久しぶりにアイリ先生に何か鬱憤の晴れる事でもすれば私は満足します!
後は、カミラと2人っきりにさえならなければ、小言はお終いなのですからねー。
着替えてから、ステラさんが陣取っているお屋敷の西館の裏庭に行くと、エルナが驚いていますね。
私とシズクとセリス以外は庭師の人しか来ていないので、まさか日当たりも悪く物置小屋以外は何も無かった場所が、草木が生えているどころか深い森になっているとは思いませんからねー。
大体、お屋敷と同じ高さまで生い茂っているのに、お屋敷の通路にはちゃんと日が当たるように窓を躱して生えているとか、ステラさんとは思えない気配りです。
何も無かった頃に物置小屋をちょっとした家に作り直してあげたので、この森?の中心の建物にいるはずです。
「シノア、私の記憶が正しければですが、ここには無駄に余っている土地に小屋があっただけと思いますが? いつの間に森になってしまったのですか? これだけの植物が育っていたら、西館の通路に光が入らないと思いますが、いつも通りでしたから気が付きませんでしたよ?」
「ステラさんの樹木魔術で、植物を操っているのですよ。通路の窓からはちゃんと影にならないように光も入るし、光を屈折する魔法で通路からは普通にお隣さんのお屋敷が見えるようになっていますし、あちらからもこの森が分らないようになっているとの事です」
「あのステラちゃんにそんな気配りが出来るなんて信じられませんが、すごい魔法ですね」
まあ、普段の生活姿を見たら、完全にダメな子ですからねー。
光の屈折は、遠見の魔法とかの応用でやっていると言っていました。よく考えたら、常に色んな魔術の維持をしているのに、よくマナが持ちますね?
入り口のトラップだって、私にしか反応しないので、シズクは無傷だったんですよね。
お蔭で、シズクにめっちゃ笑われてしまいましたよ!
そんな事を話しながら近づくと、例の看板があるので、私はこれ以上は進めません。
「済みませんが、私はこれ以上進むと草木が襲って来るので、エルナが話を付けてきてください」
「この洞窟みたいな入り口の先は、どうなっているのですか?」
「植物が洞窟のような感じで密集していますが、ちょっと歩けば建物が有るはずなので、そこにいると思います」
「そうなのですか? ところでシノアの侵入禁止の看板があるのですが、この看板より先にシノアは進めないのですか?」
「私がその入り口に入ろうとすると拘束されて、投げ飛ばされるので進めません……最初は焼き払ってしまおうかと思って、火魔術を使ったのですが『アイス・ウォール』が防ぐので、私の火力では撃破が出来なかったのです……」
投げ飛ばされた時にムカついて『イグニス・フレア』で、看板と入り口を焼き払おうとしたのですが、私の魔法はステラさんに通じませんでした……流石は、あの駄龍の炎のブレスを防ぎ切っただけはありますよ。
恐らくですが、防御の類に関しては私を完全に上回っていると思います。
レベルは同じなのにちょっとショックです。
「何の魔術を使ったのか知りませんが、貴女の魔法を防ぐなんて、ステラさんはすごいですね。しかし、シノアもシノアですが、こんな所を焼き払おうとするなんて、貴女は何を考えているのですか? その短絡的な考えを治さないといけないので、ついでに厳しく指導いたしますからね?」
感心しているカミラが、更に私の考えが間違っているとか言っています。
きっと、火炙りの経験があるので、ダメ出ししているに決まっています!
私も古城で、経験したけどねー。
さっきから、何か行動すれば私の小言の時間が増えていくだけなのは気のせいなのでしょうか?
「仕方ありませんね。カミラにお願いしますので、ちょっとステラちゃんに出てきてくれるようにお願いして来てくれますか?」
「分りました。私が行って、来てくれるか解除してくれるようにお願いして来ます」
カミラが入り口を通過しょうとしたら……私と同じように蔓が伸びて来てカミラを縛り付けています!
「どうして私が襲われるのですか!?」
私と違って投げ捨てられないのですが、全身を拘束されているので、何かけしからん胸が強調されてエロいですね。
逆さまになって、スカートだけ必死に死守していますがきっと私のダメ出しばっかり言っているから、罰が当たったのですよ!
と、言いたいのですがカミラの魂に私の魂が混じっているから、きっと半端に私と認識されているに違いありません。
パーティーを組むと、私とセリスとカミラは同一人物と世界に認識されるので、実質は6人じゃなくて4人と認識されていますから、あと2人を入れても問題無いのです。
私が関心を示していると、頭上から声が聞こえてきましたね。
「何か不思議な反応があると思って見に来たら、カミラちゃんでしたか。うちは、てっきりシノアちゃんと思ったのですが、微妙にマナの反応が違うので迷っていたのですよ」
「ステラさん! お願いですから、この蔓を解除して下さい!」
「わかりました。いま解除しますね。カミラちゃんに反応するなんて……ちょっと術式を変えないといけませんね」
「綺麗な翼を持った方です! エルナお姉様! あの方は天使様なのですか!?」
何も知らないナオちゃんがステラさんを天使と勘違いしていますが、あれは生活能力ゼロの堕天使ですよ?
演出的に何か後光というか光まで発している感じなので、見た目だけなら天使でも通ると思うけど……これが天使なのでしたら、ありがたみは半減ですね。
翼を出さないように何度も言ったのですが、お屋敷でも歩くのが面倒な時は無意識に出していますので、今ではもう誰も何も言いません。
あの翼には浮遊力があるらしくて、出してさえいれば進みたい方向に意識するだけで進めるらしいのです。私にも出せればすごく使いたいですが、ノアには出せて私には出せないという嫌がらせを受けています。
以前に聞いたら……「君のような怠け者には出す事が出来ないんだよー」とか、言われたのです!
ダンジョンから戻っても、こんなに真面目にサラさんやカシムさんに頼まれた仕事もちゃんとこなしているのに、私は怠け者なのですか!
時間がある時は常に色々と料理の開発をしているのですから、私程時間を有効に使って色々としている者はいないと思うのですが?
「ナオちゃん、あの人がステラちゃんですよ。ステラちゃん! お願いがあるので、降りて来てくれますか?」
「何でしょうか、エルナちゃん? 取り敢えず、今行きますねー」
私は多少の距離があっても見えていたのですが、降りてくるとエルナ達にも姿が良く見えるようになったので、ナオちゃんはちょっと驚きが半減していますね。
まあ、仕方ないですよね?
いまのステラさんの恰好は、作業がしやすいシズクの世界のツナギと呼ばれる格好で、背中に聖槍をくくり付けて、麦わら帽子を被っています。
さらに手には鍬なんて持っていますから、立派な農作業をしている人です。
翼と槍だけに違和感があるのです。
何をしていたのか知りませんが、かなり土で汚れているし、せっかくの綺麗な金髪の髪だって汚れ捲っています。
今のステラさんは、汚れた天使と言っても問題はないかと思います。
「うち、登場ー! それで、エルナちゃんのお願いとは何ですか? 初めて見る方もいますね?」
「まずは、シノアがステラちゃんにしてしまった事を謝らせますので、許してあげて下さい」
「その件ですか……うちはすごく怒っているんですよ! シノアちゃんに教えてもらった通りに美味しいお米さんになるように、頑張ってマナを注いだのに、最短で刈り入れできる調整をしたのに、いつの間にか全て刈り取って、どこかに遊びに行ってしまうなんて酷すぎます! うちは、サテラちゃんにされた昔の仕打ちを思い出してしまいましたよ!」
なんだ、サテラも同じ事をしているのでしたら、何かあったらサテラの所為にすれば逆らえないから有耶無耶に出来たのかも?
面白い情報が手に入ったので、今回は取り敢えず謝って許してもらいましょう!
「ステラちゃんが愛情を籠めて育てたのですから、怒るのは当然です。ですがシノアも反省をしているので、今回は許してあげて下さい。さあ、シノアもきちんと謝るのですよ?」
エルナが私に謝るように促すので、さっさと謝ってしまいましょう!
「いやー、時間が無かったので、つい刈り取ってしまって、全部食べてしまってごめんなさいねー! 次からは、ちゃんとステラさんの分も残して作るから、今回は許して下さい!」
「……」
あれ?
何かみんなの反応がおかしいのですが?
「エルナちゃん……これが反省している人の態度と思いますか? いくら、うちがお馬鹿さんでもこれを謝罪と認めたくはないのですが……」
「シノア、きちんと誠意を籠めて謝りなさい。それでは、とても反省しているとは見えませんよ?」
「貴女と言う人は……いますぐにこの場で、土下座してステラさんに謝りなさい! いつもアイリ先生にさせているのですから、分りますよね?」
えっー、ステラさんに土下座するなんて、屈辱的な気分なのですが、周りの空気が痛いのでするしかありませんけど、納得がいかないです……。
大体マナだって、私が供給しているんだから、半分は私の成果とも言えると思うのに……。
仕方ないので、食材確保の為と思って土下座して謝りますよ!
「申し訳ありませんでした……ステラさんの大事に育てた稲を全て刈り取って食べてしまった私を許して下さい……」
「シノアちゃんがうちに土下座して謝ったので、気分が晴れましたから今回は許しますが、次からは、うちに相談しないとこのエリアに入れませんからね?」
「えっ!? その変な罠は解除してくれないのですか?」
「この侵入者用の罠は、シノアちゃんのマナと私が許可した者以外には反応するようにしてあるのです。もしも攻撃魔法を使っても、うちが仕込んでいた防御魔法が発動するので、大抵の魔法は防げるはずです!」
「私の魔法が火力負けするなんて、初めてでしたので、ショックでしたよ……」
「今のうちとシノアちゃんの基礎の身体能力は同じなのですが、うちと違って、魔術を使いこなせていないシノアちゃんの魔法では、うちの防御は絶対に突破出来ませんよ?」
なんですと?
いま、お馬鹿さんのステラさんがとても重要な事を言いましたよ!?
「ステラさん、それはどういう意味なのですか? 私は全力で魔術は行使しているはずですが?」
「えっ!? シノアちゃんは気付いていないのですか? うちには良くわからないのですが、シノアちゃんの攻撃系の魔術には制限が掛かっていますよ? 物を作り出すような生産系の魔術は普通に使えているので不思議に思っていたのです?」
以前にノアが私は生産系に傾いているとは言っていましたが……ちょっと、ノア!
私に掛かっている制限って、何ですか!
(まさか、アホと思っていたステラが気付くなんて、意外でした……)
珍しくノアが驚いた反応をしていますよ!
(これは、僕とした事が迂闊な反応をしてしまいましたね)
それで、たまには教えてくれるのですか?
(んー、仕方ありませんね。君が攻撃系の魔術がいまいちなのは枷が掛けられているからです)
枷?
その枷とは、何ですか?
(んー、今は詳しく教えられないんだけど、攻撃系の魔術だけは、その枷を誤魔化す為に通常よりもマナを多く籠める事で威力を上げれます。そして、詠唱を足す事であの強化された攻撃が出来るのです。防御や生産系には適用されていないので、無詠唱でも普通の効果があるのですが、『ヘキサグラム・シールド』のような攻守が可能な魔法は攻撃系と認識されているので、盾の状態でも強度が下がっているのです)
私の魔術にそんな欠点があるなんて……だから、最近はマナの効率が悪かったのですね?
(残念ながら、その通りです。君は半端な状態と思っているんだけど、実はいくつかの枷が君にはあるので、それが邪魔をしているから能力が発揮が出来ないのです)
私のマナがあまり増えていないと思っていたのですが、実は無意識に多く消耗していたからなのですか!
何で、私にそんな枷があるのですか?
(んー……これ以上は忘れてしまいましたので、そこのアホ娘と相談して下さいー。おやすみーzzz)
ちょっと、説明が半端過ぎます!
せめて枷とは、何か教えて下さいよ!
(…………)
また、だんまりですか!
こんな半端な説明じゃ、何の解決にもなりません!
分ったのは、私の最近の魔術の効率が悪かった事だけです。攻撃系の魔術だけは、もう少し籠めるマナを調整しないと無意識に多く消費しているみたいなので、次にダンジョンに行ったら、調整をしながら使う事にしましょう。
いつもは、何となくこのぐらいなら倒せると思って、適当にマナを籠めていたのが私のマナの消費を上げていたのかと思います。
詠唱に関してもついでに聞きたかったのですが、あの言葉は初めから私の知識にあるので使っていました。だったら、これを考えたのは誰なんですか?
これでは、初めから、私が魔術に関して弱体化するのが前提で作られたような気がして来たのですが……うん、わかりません!
それにしてもステラさんが気付くなんて、意外でしたよ。
ステラさんが不思議そうに私の頬をぺちぺち叩いています。土まみれの手で叩かないで欲しいのですが……。
「ステラさん、出来れば手を洗ってから叩いて下さい」
「突然シノアちゃんの反応が無くなるからですよ? 『リフレッシュ・ウォーター!』はい、これで綺麗になりましたよ?」
ついでに、いじめの時に掻いた汗なんかも洗浄されたので、清々しい気分になりました。
確かに、補助系の魔術なら、いまのステラさんと同じ事を私でも無詠唱で使えますので、先ほどの説明が正しいと判断できますが……。
「ステラさんは、いつから気付いていたのですか?」
「ダンジョンで、炎の湖の敵に攻撃した時ですよ? あの魔法はうちも使えますから、シノアちゃんのマナの流れというか感覚というか……とにかく違和感を感じたのです。なので、それからちょっとシノアちゃんをずっと観察していたら、何となくシノアちゃんの攻撃魔術が抑えられている? 感じがしたのです?」
「そんな事に気付いていたのでしたら、教えて下さいよ……自分でも最近はちょっとおかしいと感じていたけど、これが普通と思っていましたよ」
「だって、うちはそんな事を聞かれなかったし、取り敢えずは問題がなかったから、いいと思ったのです!」
聞かないと答えないとか……そういうのはノアだけでいいんですよ!
まあ、ステラさんの後出しのお蔭で、珍しくノアが教えてくれたので良しとします。いつも思うんですが、たまには事前に教えてくれる人がいてもいいと思いますけどね?
それにしても、私の枷とか、エレーンさんに聞いても多分知らないので、女神様に聞くしかないんですけど……あれ以来絶対に会えないんですよね?
暇な時間にちょくちょく行っているんですけど、気配無し!
まあ、気分は癒されるから良いんですけど、もう少しこっちを覗いて下さいよー。




