98 シズク先生の修行
「お姉様、立って下さい!」
「うっ……シズク、そろそろこの辺りで止めましょうよ?」
「ダメです!」
「じゃ、この辺りで休憩をして、シズクの好きな物を作りますから……」
「それは、後から作ってもらいます。あと2時間は修行の時間です! それにお姉様に休憩など不要なのですから、みっちりと訓練できます!」
「くっ……この体にこんな欠点があるなんて……」
私はいまシズクの訓練でばっちりしごかれています。
戻ってから少々問題はありましたが、シズク先生から、早速ですが近接戦闘における訓練をこれからは毎日しっかりとして、私を強化すると言われてしまったのです。
朝食の後に私がまったりと工房で何か作ろうとしたら、お屋敷にいる時は、お昼までの時間は全て訓練とか……嫌がらせですか?
レンの方は吸血鬼である事は話さずに簡単に紹介して、私の妹?として認められています。
セリスから聞いたのですが、フェリス王国でも未だに吸血鬼は危険視されているので、例え可愛い者好きのサラさんでも警戒するに越した事は無いと言われたので、私達だけの秘密にする事にしました。
そのレンは、いま隣で私の悪戯仲間のメアリちゃんに体術の訓練を受けています。あちらは仲良く指導しているのに、私には容赦の無い厳しい訓練が施されています。
最初は危機感を感じる為と言って、普段の刀で滅多切りにされました。途中から刃を潰した訓練用の武器にしてもらったのですが、これでも叩かれているのと変わらないから、めっちゃ痛いです!
真剣の時でも普通に手足を切断してくるのですから、危機感よりも恐怖が倍増です!
つい無意識で、シズクに寸止めを命じてしまったので、動きの止まったシズクから「訓練なのにズルをするとは、私のお姉様にあるまじき行為です! こんどズルをしたら、道場のみんなにお仕置きしてもらいます!」などと言われる始末です。
いまは午前なので、皆さん色々と仕事をしているのですが、メアリちゃんなどの自主訓練をしに来ている人達は何人かいるので、ここのお約束の公開お尻叩きをされてしまいます……。
最初の内は斬られてもメアリちゃんに癒してもらっていたのです。これだけ切り落とされるのでは、心が勝手にシズクの行動を止めるのは仕方ないと説明したら、訓練用の武器に変えてくれたのです。治してもらう時間が減った分だけ叩きのめされていますが……私は選択を間違えたのでしょうか?
シズクも直ぐに私を立たせる事の利点に気付いて、倒れても直ぐに立つように命じる鬼コーチと化しています。
疲労をしない私に疲れを知らないシズクなので、無駄の無い訓練となっていますが……こんなのただのいじめじゃ……。
私はシズクに、ずっと考えを読むように指示されていますが、来ると分かっている攻撃も、シズクの行動が早すぎて対処不可能です。
隣を見ると、手取り足取りで楽しそうに教えてもらっているレンが羨ましいです……。
よそ見をした為に、容赦の無いシズクの一撃で私は倒れ込んでいます。もうこのまま眠りたいです……。
「お姉様、早く立って下さい! 道場の床なんて舐めても美味しくありませんよ!」
「……もう良いんです。立つとシズク先生に手加減無しで叩かれて痛い思いをするだけなんですから……」
「お姉様は、治癒してしまえば痛みなんて直ぐに感じなくなるので、叩かれた程度でしたら、その瞬間だけの筈です! この程度なら、お姉様の自己治癒能力で直ぐに癒されてしまうので、痛みなんて継続しない筈です!」
「そうなのですが、立つと痛い思いをすると分かっていて立ち上がる人なんていませんよ……」
「お姉様、常日頃から鍛錬をしている方達に謝って下さい! 武術を極める人達はこのような事は当たり前です! ましてやお姉様は素晴らしい体なのですから、本人が納得できるまで鍛錬できるので恵まれているのですよ!」
確かに普通の人から見たらこの体は大変素晴らしいと思いますよ……治すまで継続する悪夢のような強烈な痛みさえ無ければ……。
おまけに疲労や睡眠が不要なのですから、修行が大好きな人だったら、納得するまで永遠に鍛錬が出来るかも知れませんが……。
こんないじめをずっと繰り返すのでしたら、私は武術など極めたくありません!
私の基本は楽して勝つ事なのですから、離れた位置から魔法で倒してしまえば良いのですよ!
その為に近接戦闘はエルナとシズクに丸投げをしていたのに。意味が分りません!
全体のサポートはセリスに任せて、カミラには私の護衛を任せて魔術による攻撃はキャロに任せれば、私はここ一番の大きな範囲魔法か適度な相手を倒す程度で楽が出来るの計画がほぼ完成して来たのに。おかしいです!
いま私が考えている事は、早く解放されてお風呂に入って、趣味のお菓子作りがしたいです……あー、甘い物が食べたいです……。
「今の私は、このまま嵐が去るのを待っているだけなんです……この打撃の嵐が今すぐに過ぎ去るのでしたら、私は床だって舐めてもいい……」
「もう……仕方がありませんので少し休憩します。気分が落ち着いたら、ちゃんと稽古に身を入れて下さいよ?」
「ありがとう! では、早速ですが休憩をしましょうね! 飲み物とお菓子を出しますので、レンとメアリちゃんも一緒に休憩しましょう!」
「休憩すると言ったら直ぐに行動するなんて、お姉様には呆れてきます……」
呆れても何でも良いのです!
シズクの容赦の無い叩かれ修行から解放されるのでしたら、どんなお言葉でも甘んじて受けます!
勿論ですが、他の方にも差し入れをしたので、皆さん喜んで寛いでいます。
周りから攻めてしまえば、私の行動が正当化されるので、どんな時でも差し入れという名の賄賂は必須です!
「これはまた……シノア様の恰好がすごく酷い姿になりましたね……ついでに着替えてはどうですか?」
メアリちゃんに指摘されました。今の私の姿は動きやすい服装だったのですが、シズクに斬られまくって、ぼこぼこに打撃を受けたので、最早ズタボロの衣装です。
どうせ、この短い幸せの時間が過ぎたら、また滅多打ちにされるのですから、着替えるだけ無駄です。
男性の方が、私から飲み物を貰う時に私の体の方をを見ないようにしていましたが、メアリちゃん曰く「シノア様の裸を見たら、彼らは後できつくしごかれてしまうからですよ」とか言ってましたね。
見えると言っても、私の未成熟な体が斬られた部分から見える程度なので、問題無いかと思うのですが?
昔のボロに比べれば、このぐらいならまだましと私は思うのですけどねー。
「どうせ、この後もシズク先生の厳しい指導が続くので、終わるまではこのままで問題有りません」
「それは分かりますが、女の子としてちょっと問題があると思うのですが……」
「メアリ、お姉様はこのままで問題有りません。お姉様はどこかに羞恥心を置いて来てしまったので、この手の事は全く関心がありませんから、私も気にしない事にしました」
「それはそれで、まずいと思うんだけど……」
シズク先生から、私の異常発言が出ましたが、ここまで主を貶すなんて、後でお仕置きが必要ですね……。
メアリちゃんは私の行動を良く理解してくれるので、私の悪戯には協力的なのです。
なので、シズクに内緒で色々と融通をしているので、魔法などは、あのわけのわからない試験無しで教えています。
私が錬金魔術で作り出した薬なんかも誰かにこっそり試してくれるので、とても助かっています。面白い物は余分に渡してあるので、誰に使っているのか知りませんが、たまにカチュアさんのメアリちゃんを見てる時の感情が怒りに支配されていますので、被験者は恐らくカチュアさんと思います。
なるべく心を読まないようにしているので、カチュアさんも安心していますが、余りにも不機嫌な時はとても興味が湧いてしまうので、つい読んでしまいます。メアリちゃんも懲りない娘ですね。
それにしても、シズクは私の事を理解してくれて、一番弁護をしてくれるのですが、たまに容赦の無い言葉、私の心を攻撃してくるので、地味に精神的ダメージを受けます。
今晩にでも、シズクがあの趣味風呂に入る時間にお風呂の温度を高温にしてしまいましょう!
シズクはお風呂に飛び込む癖があるので、温度なんて確認せずに入るはずですから、熱湯風呂で踊らさせてあげますよ!
「また何か悪だくみを考えている顔をしていますが、私はお姉様の為にしているのですから、変な仕返しは止めて下さいよ?」
「私は、何も考えていませんよ? 」
あちらからは私の考えている事なんて読めないのに鋭いですね……シズクが持っている、あの天眼とかいう固有能力は、対戦相手の行動や自分の身に危険な攻撃に対してはゆっくりに見えるらしいので、戦闘に関しては恐ろしく有利に働くだけのはずなのです。もしかしたら、集中すると相手の考えている事が読めるようになったとか?
この世界の能力は、持っている本人の適性次第で進化するのですが、逆に適性が無いと普通よりもショボい力しか発揮しないという格差があるのです。
私なんて……持っているだけで、並以下という悲しい状態なのです。ノアの時だけ正常に働くとか意味が分りません?
(君が怠け者だから、上達しないだけなんだよ?)
本来なら私の最大の理解者であるはずの別人格にまでも、今では呪いの腕輪の所為で常に非難されるとか……切なすぎます。
(僕は、君にアドバイスをしているだけなのに酷いなー。しかもこんな頼りになるノアさんを呪いの腕輪扱いとか、そのうちに神罰が下りますからね?)
何が神罰ですか……ただの魔王の呪いですよ!
私の目を見て、シズクが諦めた表情でため息をついています。確かため息をつくと幸せが逃げるとか向こうでは言われているのではないですか?
「はぁ……まあ良いのですが。改めて手合わせをして分ったのですが、お姉様の反応速度が武術大会の時よりも落ちている気がします」
「えっ!? 私はいつもと変わらないというより、シズクが強くなり過ぎたのではないのですか?」
「いえ、私は手合わせした人の動きは大体把握していますので、間違いは無いと思います。以前でしたら防御だけに徹すれば、ここまで私の攻撃を受けなかったのに殆どもらっていますよね?」
「そう言われると、確かにシズクが次にどんな動きで攻撃してくるかは読ませてもらっているのですが、体の反応がいまいちなのですよね……」
「多分ですが、お姉様は足を使った体術みたいな物がダウンしてしまっていると思うのです。武器を使った攻撃と防御は以前よりはそれほどは落ちていないのですが、何か欠けてしまった感じがするのです」
「そうなのですか? 私にはわからないのですが……すると私は増々武術に関しては駄目になってしまったのですね? でしたら、もうこんないじめ……じゃなくて特訓は止めませんか?」
「お姉様の武術に関する心構えが良く分かりました! 更なる訓練で精神的にも厳しく教える必要があると判断しました!」
「えっ――――! これ以上は厳しくしないで、私もレンのように優しく教えて欲しいです!」
「お姉様は、甘やかすとそれが当然と考えるので、厳しく指導しないとその気にならないからです!」
「私はいつも真剣なはずなのに……」
「エルナお姉ちゃん達がパーティーに参入する前までは積極的に模擬戦も取り組んでいましたが、最近のお姉様は完全に気が抜けています! だから、古城でもあんな簡単に攻撃を受けてしまうのですよ! 以前のお姉様でしたら、躱せる攻撃もまともに受けるからあんな目に遭うのです!」
「……そう言われるとそんな気がするのですが、何故か武器を持っていると受けて反撃したくなるんですよね……」
「今のお姉様にそんな高等技術は不可能です! お姉様に合った戦い方をしっかりと体に教え込む必要まで出てきましたので、覚悟して下さい!」
ついに不可能とまで言われてしまいました……私にどんな戦い方が合っているのか知りませんが、更に厳しい攻めが待っているようです。
「それじゃ、追加のケーキでも出しますので、休憩時間を長く取りましょうね」
「もう、休憩はお終いです! ちょっと試したい事があるので、お姉様は武器を持たないで躱す事だけに集中して下さい」
「まだ、少しポテチをつまんで、紅茶を一杯しか飲んでいないのに……」
「お姉様がスナック菓子を作り出したのはとても素晴らしいので、私も食べたいのですが、この辺できりを付けないと、いつまでも会話で時間が過ぎてしまいます。さあ、片付けて訓練再開です!」
「シズクが一番沢山食べていたのに……シズク先生には私の賄賂が通じないのですから、頭が痛いです」
私が少しでも会話で時間を稼いでいるのに、さっさと練習用の刀を構えて、目が私の前に立ちなさいと言ってます。
普段は趣味職人なのに、刀を持つと別人になるのですから、シズクの両親は恐ろしい躾をしていますよ。
「それはそれ、これはこれで、ちゃんと気持ちの切り替えをしないといけません! 早くしないと真剣に戻してまた切り刻みますよ!」
「それは痛みの継続時間が長いからもう嫌です……この受けた痛みが最大になる痛覚強化の仕様は何とかならないのかな……」
私がしぶしぶ立ち合うと、シズクの思考が読めません。何を試したいのでしょうね?
そんな事を考えていると、先ほどよりも手加減された打ち込みをしてくるのです。これなら、ギリギリで躱せますよ。
と……思ったら、躱し損ねて威力は弱くなったけど、あちこち叩かれてます?
ちゃんとマナの流れを見て躱しているのに、どうして躱せないのでしょう?
私が不思議に思っていると、シズクが打ち込みを止めて話しかけて来ました。
「お姉様、大変言い難いのですが、明らかに動きが悪くなっています。これではエルナお姉ちゃんに一本も取れないレベルにまで退化しているのですが、どうしてしまったのですか? 今のお姉様では、エルナお姉ちゃんの攻撃を躱す事も出来ないと思います」
「えっ!? それは、エルナのレベルが上がったからですよね?」
「いまの打ち込みは、以前のお姉様ならギリギリで躱せる攻撃をしていたのですが、殆ど当たっていましたよね? お姉様はマナの流れが見えるから、剣などの動きが普通の人よりも事前に察知出来るので、先に行動して躱せれたはずなのに、その反応が悪くなっているのです。最近のお姉様の戦い方を見ていた時も、動きが鈍いとは思っていたのですが、気の所為ではなかったようです」
「うーん……一応は見えているので、そのつもりで対処していたのですが、何故か当たるんですよね……」
「ちょっと、お姉様も練習用の剣を構えて下さい。今度は躱すのではなく剣で受けて防御して下さい」
シズクに言われるままに、以前から使っている刃を潰した私の練習用の剣で構えました。大鎌を使うようになってからは使ってなかったので、久しぶりに剣なんて構えます。
先ほどと同じぐらいの速度でシズクが打ち込んで来ますが、今度は何とか防御が出来ています。
シズクが何か感心したような表情をすると、少しづつ強弱を付けたり威力や速度を少しだけ早くして打ち込んで来ます。何となく最低限の力で受け止める事が出来るので、先ほどよりも断然ましな形になっています。
30分ほどするとシズクが手を止めました。何やら考え込んでいますが、出来ればそのまま考えていてくれると、私としては訓練時間が過ぎるので助かります。
しばらくして、何か納得していますが、今ので何が分ったのでしょうね?
「不思議な事なのですが、お姉様の近接戦闘のスタイルが変わっています」
「私の戦い方がですか?」
「自覚が無いのですか? 以前のお姉様は、相手の攻撃を躱して攻撃をするスタイルだったのですが、今のお姉様は武器で攻撃を受けて防御する形になっています。今回は何回か私に攻撃する事も出来ましたよね?」
「何とかシズクに一撃で良いから叩き込みたいと思って反撃したけど、まったく当たらないので、私は悲しかったです……」
「何が悲しいのか知りませんが、先ほどまでは私に一方的に叩きのめされていたのに、手加減していたとはいえ私に反撃が出来たのですから、えらい違いですよ?」
手加減されてこれなんですから、私は更に悲しくなってくるのですが……。
「お姉様の武術や体術系の技能は変化していないのですよね?」
「とても悲しい事なのですがノアが解放してくれないので、未だに初級から進歩しません。シズクの剣術が最上級になっているのがとても羨ましいです」
「私の技能は上がっていたのですか? お姉様の剣になる為に日々の訓練は怠っていませんからね。それよりも今はお姉様の方が問題です」
いつもコスプレの衣装ばっかし作っているのに、いつ鍛練なんてしているのか知りませんが、子供なのに修行が好きとか、両親の修行を嫌がっていた割にはしっかりと努力しているとか、矛盾していると私は思うのですが?
「お姉様は自分用の剣は何か作っていませんか?」
「一応、1つだけ作ってあります。エルナに折られてしまった剣の強化版で、ノアが融合していなければあるのですが……あっ、あった!」
名称:グラム・ブレイド
登録者:シノア
効果:全魔術属性適正 ?の加護
状態:使用者のマナを増幅させる 所有者の認めた者以外に災いを与える
「何か力を感じる剣ですね」
「シズクの知識にあった剣の破片を鍛え直す話を考えながら作ったんだけど、かっこいいオーラからグラムとか言う変な名前になって、ちょっと強度が強化されたのですよねー。ノアが融合しなかったと言う事はあんまりメリットが無いのかと思います」
「お姉様……その変な名称は、一応ですが私の世界では神話の剣の名称ですよ?」
「この世界では、神様とかありがたみが薄いので問題はありません。まあ、私が認めた者以外に災いを与える呪いが気に入っているので、無くなって欲しくない剣ですね」
「お姉様は罰当たりですね……しかも、嫌な呪いが付いていますが、誰かに試した事はあるのですか?」
「うーん。昔、エルナに折られる前の時に、私がギルドで登録をした時に絡まれた変な人に持たせたら、マナを全て吸い取られて倒れたのと、突然失禁して気絶した人がいました。相手によってランダムで呪いが違うみたいです」
「マナはともかく、失禁して気絶するなんて、もうその町にいられないような仕打ちですね……お姉様の性格を見事に表現していると思います」
さりげなく私をディスている気がするのですが、シズクに持たしたらどうなるのかな?
「ちょっとシズクが持ってみて下さい」
「そんな話を聞いたら、嫌です!」
「私が認めた者なら問題は無いのですから、私の大事な妹分のシズクなら平気かと思いますよ?」
「そう言われると試しても良いのですが、もしも変な呪いが発動したら、死なない程度に厳しい修行になりますからね?」
そう言って、私から受け取って剣を抜いています。派手に漏らせばいいと思っていましたが、今後の修行の事を考えると何も起こらない事を祈るばかりです。
「これは……いい剣ですね。重みがある長物と思っていましたが、羽の様に軽い剣です。私にも何となくマナの流れというか力を感じます」
よかった……取り敢えずはシズクには呪いは発動しなかったので、私のスパルタ指導は回避されそうです。
「ちょっと、この剣で誰かと模擬戦がしたいのですが……」
シズクがメアリちゃんの方を見ていますが、全力で首を横に振っています。
「嫌ですよ! シズクちゃんと真剣で模擬戦なんてしたら、絶対に体の一部が飛ばされるから断固拒否します!」
メアリちゃんは、今は忍者服ではなく私と同じ体操服なる物を着ています。棟梁とは呼んでませんが、真剣での模擬戦とか、そんな事をしていたとは恐ろしいですね……。
他の皆さんも別の方角を見ています。丁度ギースさんが来ましたね。
「シズク様が刀ではなく剣を持っているなんて、珍しいですな」
「良い所に来てくれました。私と軽く模擬戦をしてくれませんか?」
「構いませんが。着替えていませんが、宜しいのですか?」
「試合に差支えがなければ任せます。武器は好きなので構いませんので、少しだけ私に付きあって下さい」
ギースさんは上着だけ脱いで壁に掛けてある長い刀を選びました。あれはシズクの記憶にあった物干し竿とか言う変な名前の刀ですね。
そういえば、あの事件の時も侍の姿であの剣の魔剣版を持っていました。いま持っているのは強度があるだけの物です。
2人が向き合うと、私の時と違って真剣そのものです。
シズクが剣を構えているなんて、最初にシズクの剣の腕を見た時以来です。あの時は、刀にしたら更に強くなったのですよねー。
シズクがギースさんの剣の間合いに入ると、私には見えませんでしたが、ギースさんの攻撃をシズクはしっかりと受けています。
よく、あの長い刀の間合いが分るのには感心します。
私だったら、いまの一撃で両足が斬られて負け確定ですよ。
それから、私には理解出来ない打ち合いをしています。ギースさんもあんな長物を無駄なく振り回しているし、シズクはあの攻撃の中を掻い潜って近づいて攻撃しているのですが、どうして斬られないのか不思議です。
しばらく打ち合った後にお互いに距離を取ってお辞儀なんてしています。私は、そんな事をする前に倒れて這いつくばっていますので、未だにした事がありません。
「お姉様、ありがとうございました! 初めて使いましたが、この剣はとても使いやすい剣ですね!」
「私は使っても特に変化がないのですが、刀じゃないのに何が良かったのですか?」
「お姉様は、この剣の能力を使ってないのですか?」
「全魔術適性とか意味が分らないし、持っていてもマナが増幅なんてされませんので、何となく使いやすいだけですよ?」
「こんなに素晴らしい剣なのにお姉様には宝の持ち腐れですね……登録されている剣が可哀想になって来ました……」
剣を貸したら、更に私がダメな人宣言されているのですが。もう泣いてもいいかな?
「その可哀想な剣のどこがいいのですか? 良かったら私に教えて下さい」
「何を拗ねているのか分かりません。抜いた瞬間にこの剣の能力が流れて来たので試したのですが、この剣には魔術が増幅されて上乗せできるのです! 『ヘイスト』を剣に掛ければ私の居合の速度と同じになって、『ウィンド・ブレイド』を掛ければ剣の軽さは同じで相手に重い攻撃が出来ます。更に上位魔法を掛ければ強度の有る盾ぐらいなら破壊出来ると思います!」
「なるほど、それでたまに受ける攻撃が異様に重かったんですね。受ける度に剣の威力が違うので、対処に苦労しましたよ」
ギースさんが手首を揉みながら会話に入って来ましたが、それでも全て受けていたのはすごいですね。
流石は、唯一スペシャルメニューとやらを受けていないのは伊達ではありませんね。
ちょっと私が適当に魔法を籠めてみましたら、少しだけマナを纏っている気がします……少しだけ……。
「私は練習用の刀でお相手しますので、お姉様はちょっとその剣に魔術を籠めて打ち合ってみましょう!」
「しかし、この剣が当たったら、シズクが怪我をしてしまいますよ?」
「お姉様のへっぽこな剣なんて、私が本気なら当たりません! 万が一に怪我をしてもメアリの魔法で治せますので。お姉様の好きな首だけは刎ねないで下さいよ?」
「そんな事はしませんが、へっぽこ……」
メアリちゃんは大爆笑で笑っています。後で、覚えていて下さいよ!
レンとギースさんは笑ってはいませんが、表情と感情で私にはしっかりと伝わっています!
おのれ……シズクめ……みんなの前で私を笑い者にするとは、絶対に手か足を叩き切ってあげますよ!
シズクと対戦すると、ちゃんと次にどこから攻撃するのか考えてくれるので読めますが、絶対に受けられてしまいます!
少しでも早く剣を振る為に、私も『ヘイスト』を剣に乗せているのに全て受け流されてダメです。
こうなったら……マナの燃費が悪いので使いたくなかったのですが、『グラビティ・カノン』を使ってみます!
シズクが余裕そうに上段の攻撃を受ける時に全力で使ったら……シズクの目が真剣になって、両手で受けています!
「ちょっと! お姉様! 何を使ったのですか! 半端の無い重さが掛かっています! しかも、刀に吸い付く感じなので受け流せなかったのです!」
「どうして耐えるのですか! そのまま刀ごとへし折ってシズクに当てて……あれ?」
突然、私の力が抜けてそのまま前のめりに倒れてしまいましたよ?
まさかですが……今ので私のマナが尽きてしまったのですか?
普通に魔術を使うより酷い消耗ですよ!
「危なかったですね……あのまま押し込まれていたら刀が折れるか私が力負けしているところでした。重力魔術を使ったみたいですが、その剣に使うとかなり消耗してしまうみたいですね?」
「まったく、その通りです……喋る事は出来ても、今の私は指すら動かないので、最悪です……」
「お姉様は変な所で力の無駄遣いをするから、行動不能に陥るのですよ?」
「まったく反論できないこの身が悔しいです……」
「お姉様は、常日頃からレベルが上がっているのに魔術に対するマナの効率が悪くなっていると言っていたのですから、強力な魔法は考えて使わないと詰んでしまいますので、もう少し考えて行動して下さい」
妹分に説教されている私って、もしかしたらステラさんと大して差が無いのでは?
「お姉様は罰として、マナが回復するまで、そこで寝ていて下さい。私はギースとちょっと模擬戦をしています」
そして、まさかの放置の罰とか悲しすぎます……未だに指すら動かないとか、懐かしの泉で復活した時を思い出します。
こんな剣を使うんじゃなかった……もうこの剣は私の収納に永遠に封印です!
増幅どころかマナ喰いの剣ですよ!




