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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
10/378

9 反転

 まったく、僕としたことがつい殺してしまったじゃないか。

 せっかく、使えそうな奴隷が手に入ると思ったのに残念だ。

 最初から素直に僕の誘いを受けていれば、良い思いが出来たのに、どうして言うことを聞かないんだ?

 この奴隷の神官が居たお蔭で、怪我に関しては体の部分を失わない限りは治すことが出来るから、問題無いがこの後どうするか。

 取り敢えず、このウスノロに全員の治療をさせているが、終わったらこの小娘の死体でも運ばせるか。

 野営地に戻ったら、酒でも飲んで、ミランダの相手でもしてから、公爵の娘を襲って物にしてしまおう。

 ミランダは、面白半分で僕と寝て以来、相手さえすれば色々と協力してくれるから、大事にしないとな。

 公爵の娘は中々の美人だったので、将来も楽しみだから、色々と僕好みにして徹底的に躾けてやるか。

 今から、その時のことを考えると楽しみで仕方ないな。


「おい、ウスノロ! 治療は終わったのか? 終わったら、戻るから早くしろよ!」


「はい……いま急いで治療してますが、そろそろ私のマナが尽きそうなのです」


「まったく使えないな !マナが切れたら中断して、その死体を持ってこいよ!」


「この娘さんをですか?」


「そうだよ、町の広場に磔にしておいて、僕に逆らった見せしめにしないと僕の気分が晴れないからね」


「そこまでしなくても……どこかに埋葬してあげた方が……」


「何だ! まさか、この僕に逆らうのか? これは躾が必要だな!」


「ちょっと、ハインツその辺にしときなよ」


「何でも良いから早くしろよ! 僕はもう次のことで頭が一杯なんだよ! 先に行くから、ミランダも早く来いよ!」


「まったく、やれやれだねー。セリスも黙って言うことを聞いていれば、これ以上目を付けられないで済むのに」


「ミランダさん、この子は本当でしたら、最初に私達の何人かを殺せたはずなのにあくまでも足止めに徹していました」


「それはわかっているが、この状況では甘いね。相手があのハインツじゃ、話にもならないわ」


「この子はきっと大きなことが出来たはずなのに、私がその目を摘んでしまったのでは、と思っているのです」


「確かにこの歳であり得ない能力の持ち主だし、そのまま行けばSランクの冒険者も夢じゃなかったかもね」


「私は奴隷の身ですが、もし次があるのでしたら、彼女に償いをしたいと思っています」


「そろそろ私は、行くから、その償い代わりにどこかに埋めてきてやりな、私が指示したと言えば文句は無いだろうよ」


「ありがとうございます、もう少しマナが回復してから、埋葬してきます」


 ミランダさんは、何だかんだで、優しいですからね……。

 他の方を治療をしてから、あの娘の所に戻って、埋葬をしようとしていたのですが……。

 しばらくして、ふとこの子を見ると……出血が止まって何となく傷が治癒している気がします!

 まさか……生きているのでは?

 先ほどまでは確かに息をしてしなかったはずですが……その時、彼女が目を開いたのです!


「んー、久しぶりに出れたねー。まったく、さっさと殺してしまえば良いのに……あんな奴ら生かしておく必要は無いと思うんだけどねー」


 生き返ったのですか?

 上級聖魔術に復活する魔術はありますがあれは、時間が経過すると魂が消えてしまうので、もう手遅れなはずですから、時間差で、復活する魔法など存在しないはずです。

 しかも、先ほどとは雰囲気が違いますし、瞳が赤味が掛かった金色に変わっています。

 立ち上がった時に首に着けられていた魔力封じの枷が砂のように風化していきます……。

 体が震えています……。

 私はこの瞬間、決して逆らってはいけないと心が恐怖しています!

 あの瞳に見つめられると、全てを見透かされ魂が束縛されている感じになって、体がすくんで動けないのです。


「そこのお姉さんは生かしておいて上げるよー。また邪魔されては困るから、しばらくここにいてね?」


 すると私の周りを見えない結界が包むと同時に私のマナが拡散されて行きます。


「その結界は閉じ込めた者のマナで維持されるから、せっかく回復したみたいだけど、お姉さんのマナが尽きるまでは消えないから、大人しくそこにいてね。その間にちょっとあいつら全員狩ってくるから」


 全員を狩る?

 あの人数をですか?


「さて、まずはボロボロにしてくれたこの体を治して、私の武器を出しますかー」


 そう言って彼女は一瞬で元の状態に戻ると柄の長い大きな鎌を出しました。


「せっかく、情報を与えて作らせたこれを使えば首とか落とすのが面白いのに。この為に作ったんだから、いい具合に数もいるし使わないとね!」


「貴女は確かに亡くなっていたのに、どうして生きているのですか? もしかして、こうなることが分かっていたから、相手を挑発していたのですか?」


「んー、あの子はあれが素の性格だよー。だから、死ぬつもりも無かったし、死んだら困ると思っていたけど、あの性格だからつい言いたいことを言ってるだけだよ?」


「では……貴女はいったい?」


「私は、あの子が意識を手放した時に現れるもう一つの人格かな? ただ、あの子と違って、自分の為になると思うことを最優先に実行することしか、考えてないからねー」


「意識を手放した時?」


「まずは、あのゴミを消さないとこの後のことが色々と問題になるから、消すことが最優先かな? 私の大事な体を結構痛めつけてくれたから、きっちりとお礼はするけどね。それにちょっと楽しみだなー、やっと人間の絶望する負の感情が得れそうだしねー」


 感情を得る?

 この子は一体……私達はとんでもないことをしてしまったのでは無いでしょうか?


「んー、お姉さんの感情は心地良くて悪くないんだけど、いつも得ているのと違って微妙に負の感情が混ざっていて意外と美味しいですねー」


 私の感情?

 いまはマナ以外に喪失感は無いのですがどんな意味なのでしょうか?


「まあ、後からあのゴミの野営地とやらに来てね? 来ないとお姉さんも処理しなくてはいけなくなってしまうから、絶対だよー」


 処理とは、私も殺されてしまうのでしょうか……。


「いまの私では、少し基礎の力が足りないかな? あの力を加算すれば問題ないけど、この程度には使いたくないからねー」


 力を加算するとは、どう言う事なのでしょう?


「時間も限られているので、さっさと始末しないといけないから、仕方ないので少し魔術を解放して終わらせてしまいましょう」


 いまでも十分に脅威を感じるのですがまだ強くなれるのでしょうか?


「我を包め風の導きを 『ヘイスト!』 我に祝福を授けよ 『ブレッシング!』 我が刃に大いなる力を 『ストライキング!』」


 聞いたことの無い魔法ですがあの魔法は身体強化なのでしょうか?

 更に脅威が増したと感じるほどです。


「さあ、楽しい狩りの時間です! 1人も逃しませんから、待っていて下さいよ!」


 そう言うとまっすぐに野営地の方角に信じられない速度で、消えて行きました。

 驚きました、場所がまるで分っているかのようです。

 それと気のせいか回りが静かです。近くにあった魔物の気配もあの子を恐れて離れて行ったようなので静かです。

 ただ一つ言えることは、さっきとはまったく逆の結果になると思われます。



 もう少しで野営地に着く所で、ミランダは背後から何か急接近する気配に気づいたので、魔物かと思って矢を放ったけれど、幾重もの炎の矢が飛んできたので、


「風の聖霊よ、軌道を逸らして! 」


 何とか、直撃だけは避けたけど、危なかったわ……。

 一体誰が……と振り返って目の前に集中すると、先ほど死んだはずの娘が近づいて来る!

 確かに息をしていなかったのに……セリスは蘇生魔術は使えないはずだし……セリスはどうしたの?


「やっと追いつきましたよ。再会出来ましたねー! 沢山の矢を私に刺してくれましたので、お姉さんにはしっかりとお返ししないとね!」


 私は、返事をするより先に矢を放っていたが、どれだけ放っても彼女は立ち止まったまま、手で矢を掴んでしまう……まるで当たり前のように掴んでいるのだが、速度の乗った矢がどうして掴めるの?

 さっきとはまるで雰囲気が違うし……この娘の心を読もうとすると、何も考えて無いように何も聞こえない……なぜなの?

 私の手持ちの矢が尽きると……。


「もうお終いかなー?」


「…………」


「さっき、精霊魔術で私の魔法の矢を逸らしたみたいだし、矢も使い切ったみたいだから、私も少しだけ精霊魔術も見せてあげるねー」


 すると彼女は虚空に話しかけると周りの風が大きく動いた。


「風の精霊シルフィードよ。我に放たれし敵意をかの者に放て!」


 すると彼女の周りに落ちていた私の放った矢が一斉に向かってきた!

 矢は全て私に命中したけど、急所だけは外れているようだが……この位置は……。

 何よりこの娘は、先ほど風の上位精霊の名で、矢を飛ばしてきた……この娘は高位の精霊魔術も使えることになる!

 しかも、精霊を名指しで使役しているとなると完全に支配しているにことなるが……さっきの戦闘の時もかなりの使い手と思ったが、いま目の前にいるのは中身がまったく別物だ。


「どうかなー? さっき、お姉さんが私に当てた所にそのまま返してあげたんだよ? ちょっと余ったのは急所だけ外して当てたけど。いまの私は精霊魔術は得意では無いので、この程度しか出来ないのですけどね」


「貴女は……確かに死んだはずなのに……」


「んー、確かに死にましたが滅びた訳じゃないからね? ちょっとシノアの意識が飛んだだけですよ?」


「滅び?」


「時間も限られているので、質問はお終いですー」


 痛みを堪えて、構えてマナの矢を作り出そうとしたら……目の前の大きな鎌に両腕を切断されて、両足を槍が貫通して、背後の大木に縫い付けられた。


「ダメですよー? ついシノアがお試しで作った槍を投げてしまいましたが地味に使えますね。それにマナで矢を作っても私には効きませんよ?」


「くぅ……」


「お姉さんのレベルでは、いまの私にマナの通った攻撃は無効ですからねー」


「マナの攻撃が無効だと?」


「気が変わりましたので、先に他のゴミを掃除をしてきます。お姉さんは目が良いみたいなので観賞させてあげて、最後にしてあげるねー」


「ゴミとは、ハインツ達のことか?」


「正解ですー、1人も逃がしませんので、色々と楽しめそうです! さっきの逆ですが、お姉さんも痛いとか言わないとは、痛覚遮断とか無いのに忍耐力がありますねー」


「本当は、小娘のように泣き叫びたいところだよ」


「腕の切り口は、出血で死んじゃったらまだ困るから、ついでに焼いておいたので死にはしないよねー? すごく痛いかも知れないけどねー」


 それで、血が出ていないのか……代わりに恐ろしい激痛だよ。


「それでは、対価の回収をしてくるので、あとでねー」


 対価の回収?

 一体何のことなのかわからないが……。

 それからは、ただの蹂躙と言う名の虐殺が始まりました。

 彼女の体に傷をつけた者にはなぶるように手足から落として、少し放置して命乞いをさせてから首を狩り。

 彼女を拘束した者には同じ様に魔法の炎の縄のような物で焼きながら捉えたり、地面から伸びた細い石柱で串刺しなど、死なないように拘束されているが、あれなら一思いに殺された方がましだ。

 野営地に残してきた者達は「共犯者なのですがどうしょうかなー」と言いつつ、足だけは切り落とす。

 ハインツも抵抗したが、剣なんて一度あの鎌を受けただけで折れてしまい、順番に手足をなぶるように切り落とされていく……さっきまでの彼女とは明らかに格が違い過ぎる。

 少しづつ細切れにされていまはダルマ状態になって、泣き叫んでいる状態だ。


「んー、変態騎士さん、ちょっとは反省したかいー」


「頼む、助けてくれ……僕が悪かったから、頼むから許してくれ!」


「ねえねえ! そうやって命乞いとかお願いしてた人はどうしてたの? 正直に言わないと大事な所が潰れちゃうよー」


「それは……」


「はい、時間切れですー! さよならの時間になりました!」


「ぎゃ――――!? 僕のが――――!!!」


「さっきからうるさいなー! ちゃんと答えていればちょっとだけ楽になったのに自業自得だよ?」


 汚い汚物と一緒にお尻の方まで潰してしまいましたが血はともかく汚物が付くのは嫌ですね。

 しかし、手足が無いのに痛がる姿って、面白いですねー。


「子供じゃないんだから、ちょっとは我慢しなよー。さっきのシノアを見習わないとね!」


 男の癖に惰弱過ぎます。

 さっきのスナイパーのお姉さんと大違いです。


「はい、それでどうなったの?」


「頼む、命だけは助けてくれ……頼む……」


「はははー、そんな姿になってもまだ助かりたいんだねー」


 しかし、男なら、潔く諦めて死のうとは、思わないのですかね?

 生にしがみつく人間ほど見苦しい物は、ないよね?


「それにしても学習能力が無いなー。では、次は……時間も無いし飽きたから、さよならー」


 そう言ってあっさり首を落とした後に、足を落とされた者達に、運命を選ばせる。


「私の前に素直に首を差し出して、落として下さいとお願いするか、彼氏と同じ様な死に方をするか選ばせてあげるよ? 君たちは襲ってきてないから、それで許してあげるよ? 本当は、じっくりと甚振って殺したいんだけど、私って優しいなー」


「私達は、襲ってないので見逃してください!」


「何でも致しますから、どうかお願いします!」


「あのねー、私の襲撃に参加している時点で同罪でしょ?」


 ここに居る時点で、助ける訳が無いけどねー。


「それに君達は、この変態の彼女とかなんでしょ?」


「私達は、誓約魔術で縛られているだけで……」


「それに助かっても、もう足がないから、不自由だから、生きていくのは厳しいよ?」


 足が無いのにどうするのでしょうねー。


「素質のある者が最上級聖魔術に高めても、肝心な回復魔法がないと部位欠損が治せないからねー。この世界の魔術の習得方法は枷が掛けられているから、面倒なんだよね。それに君達の足は私がこんがりと焼き払ったから、あそこで良い感じに消し炭状態になってますよ。食べたら、生えてくるかもね?」


 やっと、自分達の足が治らない事に気付きましたよー。


「さあ、早く選ばないと、彼氏と同じ殺し方をしちゃうよ?」


「……」




 ……見ていたがハインツと同じ方法を選ぶ者は居ないだろう。

 彼女達は諦めて泣きながら、首を差し出し始めた……自分から差し出す様に仕向けるとは……。

 彼女は嬉しそうに「最後の慈悲で、早い人は即切りだけど、最後の人はゆっくりと刃の感触を堪能させて落としてあげるねー」とか言っているが……こんな慈悲があるのか?

 そのまま拘束していた者達の首を狩りながら私の所に戻ってきたが……彼女はまさに悪魔か魔王なのではと連想させるよ。


「お姉さん、ただいまー」


 子供が遊んで帰って来たように戻ってきたが……。


「どう? よく分かる様に1人づつ順番に始末してきたけど、お姉さんはちょっと止めてくれたりしたので、死に方は選ばせてあげるよー」


「それが貴女の本当の姿なの? 先程とはまるで別人ね」


「んー、さっきも奴隷のお姉さんに話したけど、私もシノアなんだけどねー」


「まさか、こんな化け物とは思っても見なかったわ」


「こんな可愛い美少女に化け物とか、酷いですねー。まあ、あながち間違いではないけどねー」


「私に見せる為にあんな処刑をしたのか?」


「観客がいるのですから、楽しませるのは役者としては当然ですよ? 貴女達が何もしなければ、私は出てこれませんから、楽しい時間をありがとう? と感謝するべきなのかな?」


「とんだ失敗をしたわ、貴女にそんな危険な存在が眠っているなんてね」


「では、どのような死を望みますか?」


 その時、セリスが息を切らせて戻って来た。


「待ってください!」


「お姉さん、おかえりー。丁度、最後の1人だよー」


「セリス、生きていたんだね!」


「そのお姉さんは、防御はしたけど私には危害を加えてないし、私のことを気遣ってくれたから、殺さないにしてもどうしょうか考え中ですがこっちの私を見られてますからねー。だから、このまま帰すわけにもいかないけどねー」


「頼む、私はどのような死に方をしても構わないから、セリスだけは助けてやってくれないか?」


「んー?」


「事情が有って奴隷になってしまったが、その子はとても良い子なんだ」


「ミランダさん、駄目です! 私が代わりに何でもしますから、ミランダさんを助けてあげてください!」


「んー、ダメですねー。この人が死ぬのはもう確定なので、例え始まりの神にお願いされても実行しますよ?」


「ミランダさんは、こんな私に唯一優しくしてくれた人なんです、命でも何でも差し上げますので、どうかお願いします!」


「ダメだって言ってるのにあんまり我が儘を言っていると、お姉さんも処理したくなるから、もう言わないでねー」


「しかし!」


「セリス、もういいんだ、これは今まで見過ごしてきた私の報いなので、気にする必要は無い」


「でも!」


「一つ頼みがあるんだが、この子は奴隷の誓約を掛けられているから、誓約魔術が使える奴に見つかるとハインツが死んでいるので、内容を書き換えられてまた別の誰かの奴隷になってしまうんだ」


「んー、半端な誓約魔術は、主が死んでも枷だけは残るので、誰かに譲渡が可能ですからねー」


「そうだ、だから、この秘密を守る意味で貴女に所有権を移すのはどうだ?」


「んー、シノアに奴隷とか体面が悪くなりますねー。王都に行ったら学園に行くらしいのですが、そんなお子様の遊びの学び舎である学園に奴隷を連れている者などいるのでしょうか?」


「貴族には中には居たな」


「仕方ありませんね、つい殺さないと約束した以上は私が引き受けますが、奴隷は要りません。貴方には素質があるみたいなので、私の眷属になってもらいます」


「眷属だと? それではまるで……まさか、貴女のいや、貴女様の正体は」


「んー、大体は合っていて、限りなく近いですが正解ではありませんからね? ましてやあんな出来損ないと同じと思われるのも面白くないですからね」


「ははは……それはとんでもないことに関わってしまったな……これは天罰だね」


「もう、この世界に天罰などと言われる物を行使する者はいません。それで、その胸に刻まれている刻印が誓約の令呪ですね?」


「ああ、それがある限り誓約の枷は消せない、消すことが出来るのは上級誓約魔術が使える者だけだが、めったに居ない」


「いまの者達はこんな物を刻印しないと魂を束縛出来ないとは腕が落ちましたね。私が行なう事はマナの流れその物を変えてしまうので無効に出来ますが、代わりにお姉さんは私に永遠に縛られてしまいます。それでも良いのですか?」


「構わんだろう、ここで死んでしまうか誰かにまた使われるかなんだしな、どうするセリス?」


「私は貴女に償いたいと思っていましたので、それで私に償えるのでしたら、何でも致します」


「あんまり女の子が何でもとか言わない方がいいよ? さて、じゃ君の存在をもらうねー」


 そう言って、彼女の手が私の心臓を掴むように胸に吸い込まれていくと、感覚と共に彼女と繋がった感じがします。


「はい、これでお姉さんは私の眷属になりましたから、絶対服従になっちゃいましたよ? 決して私に背くことが不可能になってしまいましたー」


 誓約の令呪が消えて代わりに彼女をすごく身近に感じる様になりました。


「セリス、今度は間違えるなよ。最後にすごい物が見れたし十分だ、出来ればこれ以上痛い思いをしたくないので頼む」


「潔い覚悟です。お姉さんとは違う形で会いたかったです。では直接魂をもらうので、さようならー」


 そう言って額に手を翳すと眠るように息を引き取りました。


「さて、セリスと言ったかな? もう少しするとあっちのシノアが目覚めるので、私のことは適当に説明して、私の眷属になったと伝えるといいよー」


「ご主人様、そのことを伝えてしまっても良いのですが?」


「そのご主人様と言うのは止めなさい、私は名前で呼ばれる方を好みます」


「では、シノア様、改めて誠心誠意込めてお仕えすることを誓います」


「セリスは堅いなー。私は敵対する者には遠慮とかはしないけど、私に良い感情をくれる者に対しては、可能な限り手を差し伸べるよ?」


「しかし、主に対してそれでは不敬に当たるのでは……」


「問題無いよー。基本的には、シノアとは根本的な所は同じなので、シノアも友達感覚でいてくれた方が嬉しいはずだよー」


「わかりました、ご期待に添えるように努力致しますね」


「では、次に会う時まで、この子を頼むねー」


 そのまま私の膝を枕にして目を閉じました。


「でも、あんまり私を出す事態にならないようにしてね? じゃないとちょっと困ることになると思うので。またねー」


 そう言って、眠ってしまわれましたが、取り敢えずミランダさんを埋葬して他の方も……私にこの人数分の穴が掘れるのでしょうか……。




 しばらくして、私が目を覚ますと虐待されていたお姉さんが膝枕をして、こちらを窺がっているではないですか?

 エルナに膝枕とかしたら、すごく喜んで興奮してたのですが、これ意外といいですね。

 私が起き上がると、何か回りが酷いことに……何この大量殺人現場は?

 あー、あの変態の首が転がっています……これは何が有ったのでしょう?

 私は次に起きたときは泉に戻っていると思っていましたので、急いで戻るつもりでしたがまだ現地でしたね。


「お目覚めですか、シノア様」


 えっ?

 何?

 どうしたのでしょうか?

 このお姉さんは……私をシノア様とか言っているのですが……取り敢えずちょっと聞いて見ますか。


「あのーもし良かったら、あの後どうなったのかを教えてくれませんか?」


 セリスさんから聞いたお話しによると、しばらくしてから私が目覚めて、私に危害を加えた人達を殺しまくっていたそうです。

 そうなると……別に良いのですが、私も殺人経験ありになってしまいましたよ。

 それにしても、私が死ぬと自動で、敵を排除とかするのでしょうか?

 しかも、あの人数を全て倒してしまうとか……向こうの私って強いですね。

 それとも、戦い方なのかな?

 この体の能力を完全に使いこなしているのでしょうか?

 実は技能は有っても私にはいまいち使い切れてないのですよね。

 まあ、それは考えても分かりませんが……心で会話とか出来たら、聞いてみたいです。

 セリスさんはどうして無事だったのか聞くと、私に対して敵対心を持っていなかった為に死だけは免れたそうなのですが、あのスナイパーのお姉さんのお願いで、奴隷の枷を外すと同時に私の眷属にしてもらったそうです。

 私に眷属?

 これは何か大変なことをしてしまったような……

 ちょっと見てみると……やっぱし……。



 名称:セリス


 種族:見た目は人


 年齢:不要


 職業:神官


 レベル:28


 技能:中級投擲術 初級杖術 中級聖魔術 中級闇魔術耐性 中級体術 中級護身術 初級料理人 中級裁縫 気配感知 危険感知 気配遮断 魔力索敵 


 固有能力:シノアの眷属 シノアの加護 主従の譲渡 献身 収納



 ちょっと……私に引き続き人間を辞めてしまってますよ。

 しかも、私の加護とか付いてます。

 何ですか……これ?

 これは……謝って許してもらえるのか分かりませんが、セリスさんの人生を全て奪ってしまったことに……どうしましょう?

 セリスさんが何だか心配そうに私を見ていますが……私は罪悪感で一杯です……。

 取り敢えず、ここは謝り倒しましょう。


「セリスさん、本当にごめんなさい! 私の知らないこととはいえ、貴女を縛ってしまい、おまけに人間では無くしてしまいました……もし、何とか出来るのでしたら、元に戻れる方法を探しますので、いまは許してください!」


 私、土下座とか初めてしましたよ!

 確か、誠心誠意を込めて謝罪する時はこれが最大の謝り方と屋敷の方に聞いたのですがどうかな……。


「おやめください! 私は望んでシノア様の眷属になったのですから、どうか私をご自由になさって下さい」


「でも……」


「さあ、お立ちになって下さい。私の方から改めて配下として一生尽くすことを誓います」


「セリスさんは、いまの自分の状況は理解していますか? もう人としての幸せとか恐らく不可能と思います」


「むしろ奴隷の身から解放して下さったのですから、感謝しかありません」


 このお姉さんは奴隷だったのですか……先ほどそんな話もしていましたね。


「それにシノア様の近くにいると私の心はとても安心しますし、レベルは下がりましたが、技能や特に固有能力が5つも増えたのは驚きました」


「人として、幸せな家庭とか多分無理と思いますよ? いまの年齢が固定されてしまうので、歳を取ることが出来ないので、人としては不自然ですし……」


「構いません。こんなことの後に言うのも何ですが、私は今回のことが無ければ死ぬまで奴隷として、使い潰されていたはずなので、亡くなった方には申し訳有りませんが私に生きる希望が出来ました」


「そこまで、良いと思っているのでしたら、私は問題ありませんので、これから宜しくお願いします」


「こちらこそ、誠心誠意を込めてお仕え致します」


「私は堅苦しいのは好みませんので、もっと友達のように気軽に接して下さい、これが最初のお願い……いえ、命令です」


「あちらのシノア様と同じことを言うのですね、受けたわまりました。その様にするように努力致しますが最初の内は許して下さい、それと私のことはセリスと呼び捨てにして下さい」


 セリスさん曰く、さんなどと付けられると、どうも居心地が悪く、申し訳ない気持ちになってしまうそうです。

 あちらと同じ事を言うのでしたら、向こうの私も似たような性格なのでしょうか?

 後ほど聞いて見ましょう。

 それにしても、今まで最低限の生活をしてきたらしいのですが、何となく私と変わらない境遇だったと思うと親近感が……。

 さて、何とか纏まりましたが、この惨状はどうしましょうかな?

 取り敢えず、使えそうな物とお金などは全て回収して、全て進呈しました。

 荷物に有った予備の服に着替えてもらって、それなりに良くなりましたが、王都に着いたら普段着を買うのと、戦闘用の防具をギムさんにお願いして作ってもらいましょう。

 彼女の今までのぼろ一枚の姿を見てると、忘れたい過去が……奴隷とか実験体には、これが定番なのでしょうか?

 実験体はその機関を潰すとして、奴隷は解放とまで行けないと思いますがもっと環境を改善して欲しいですね。

 お金はすごく抵抗しましたが、いざとなったら私の保護者とかお姉さんとかの設定に使えるので、持っていてくれた方が何かと助かると説得したら、納得してくれました。

 金属の系統は全て鉱石に変換して、私が回収したので今度何かに作り変えてしまいましょう。

 後は、遺体などですが全て集めて穴に落として、焼いておきました。

 じゃないと亡者とかになって復活するかもしれないのですが、五体満足な遺体が一つも無いので無理なのでは?

 スナイパーのお姉さんだけは、私が安楽死させたら、しばらくして灰になってしまったので、セリスさんが先に埋葬したらしいです。

 それから、エルナ達の所に戻ろうと思ったのですが、セリスをどうやって説明するべきか……正直に話すべきか適当に誤魔化すか……どうしましょう……。

 食事などは、私と同じで不要になりましたから、見失わないように付いて行くと言ってますが、王都に着いたらその内にばれますよね。

 今なら、まだギムさんが飲みながらきっと起きているので、まずは相談しましょう。


「おうー戻ったか、それで、その娘はどうしたんじゃ?」


 はい、当然の質問が来ましたが、さっきの出来事を話した所……。

 それだけの人数を殲滅したことにも驚いていましたが、セリスのことが気になったようです。


「そうすると、その娘はシノアの配下というか眷属になったのか、これは違う意味でまた秘密が増えたな」


「そうなのですよ、もう1人の私がしたことですがこれは私の責任でもありますので、どうしょうかと」


「シノアの思っている心配よりも、お前さんの眷属になれば不老不死になれることの方が重大だな」


「そうなんですよ、私の為にセリスの人生を奪ってしまって……」


「おいおい、そこは逆に誰もが欲する出来事なんじゃぞ?」


 人間を辞めて、マナが無いと動けない人形ですよ?


「シノアよ、お前さんの眷属になれば、その時の年齢は固定されるが永遠に生きれるなんて、欲のくらんだ奴らに知られたら、何としてもお前さんを手に入れようとするぞ」


「えっ? もう普通の人としての人生とか無理になると思うのですが……」


「ふむ、お前さんぐらいなもんだぞ、そんな風に考えるのは。大抵の者はどんなことをしてでも、欲する状況だな」


 確かに便利では、ありますが永遠ですよ?

 飽きたらどうするのでしょうか?

 私も何も考えずにお願いしましたがどうなるのでしょうね?


「この世界には、まれに神や魔王に気に入られれば使徒としての力を与えられて、忠誠を誓う代わりに不老になれるがそんなのは、もう全席が埋まっているはずだしな」


 埋まっていると言うか、もう表向きには4人しか居ませんよね?

 だけど、サテラさんの主だった魔王はきっと生きてますよ。


「使徒を作り出すには制限があるので、ここに新しくその可能性が出来たと言うことだな」


 なるほど……そう考えれば、私は女神様が存在する限りは存在出来るので、確かに永遠に生きたいと思う者にとってはどんなことをしてでも欲しくなりますね。

 あれ?

 そうなると私は、神や魔王と同じ権限を持っているのでは?

 もしかして、私は弱っちいけど、最弱なプチ女神になったのかな?


「そうなると、その娘さんが鑑定持ちの奴に見られるとまずいな、気付く奴は理解するからな、特により深く読み取れる奴に固定能力が覗かれると確実にお前さんが主と分かるぞ」


「鑑定により深くとかあるのですか? 私は、見たい人の技能とか固有能力まで、見えるのですが?」


「そうか、シノアは全てを見れるんだな。鑑定は人によってはレベルまでとか種族や年齢までしか見れない奴もいる」


「確かラースさんにも鑑定がありましたよね?」


「あいつは技能までは見れんが相手の素性を覗き見るにはそこまで見れれば十分じゃろ」


「わしの収納に一つだけ鑑定妨害のアイテムがあるんだが……」


「ギムさん、持っているのですか? でしたら、売って下さい! 相場とか知らないんですが手持ちで足りなかったら、頑張って稼ぎますので!」


「いや、あげるのは構わんのだが……これなんだが首に着けるアクセサリーで、一見ちょっとお洒落なチョーカーに見えるんだが呪いが掛かっていてな」


「綺麗な宝石がポイントのお洒落な物ですねー。それで、呪いとはどんな?」


「自分から、着けることは出来ないんだが着けてもらった相手にしか外すことが出来ないだけとしか思い出せなくて、他にも何か有ったはずなんだが」


「それなら、私が着けてあげれば丁度良いですね? 何か有ったら外せば良いので、取り敢えずおっけいなのでは?」


「まあそうだな、ほれ着けてあげるといい」


 ちょっと、私も欲しい感じのアクセサリーですね。


「じゃ、セリスに着けさせてもらうねー」


「ありがとうございます。私には、こんな綺麗な物は一生無縁と思っていましたので嬉しいです!」


「いや……呪いが……まあ本人が気に入ったのなら、良いか……しかし、何故か思い出せん……武器や防具のことなのに何故忘れているんだ……まあ、酒が10本入れれる様になるので良いか、今まで何故か手放すことが出来なくて収納を無駄に占拠していたしな」


「後は、みんなが起きたら、何と説明しましょう」


「私は、距離を置いて付いて行きますので、大丈夫です」


「だから、それはダメだって! そして、私はそのようなことは嫌いです」


「王都に入る時も面倒なことになりそうなので、シノアが魔物に襲われている所を助けたことにして、行く当ても無かったみたいなので、連れて来たことにしとけ」


「それですと……エルナに抜け出したのがばれてしまうのですが……一度、抱き枕状態から抜け出した時に起きて、戻った時にすごく拗ねた時が有って……」


「いいじゃねーかー、もしそうなったら、おまえさんに近い内に防具を作ってやると言って、わしが助け船でも出してやろう、ついでにそこのお嬢ちゃんのも有った方が良いからな」


「良いんですか! ありがとうですー!」


「私の為に申し訳ありません、この御恩は……」


「あー、もうそう言うのダメです。これから禁止します! こういう時は素直にありがとうーって、言って受け取ればいいのです。じゃないと次からお仕置きしますからね」


「かしこまりました、ありがとうございます! 本当は、すごく嬉しいです……もう、私に普通の生活は無理と思っていましたので」


「もう少しすると皆さん起きてきますから、いまの説明で行きますからねー」


 取り敢えず、エルナを納得させてしまえば、全て上手く行くはずです。



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