プロローグ 追放
他サイトで連載していた作品を移行してきたので、少しの間連載は滞らない予定です。
……ストックが切れるまでに他作品を書き始めたいとおもっております。
「この無能が!早くここから出て行け!」
そんな声が響いたのは王宮の広場、その酷く豪華な部屋の中だった。
「えっ?」
だが、その叫び声が自分に向けられている、そう悟りながらも僕、羽島翔は動くことはできなかった。
何故ならこの場所から追い出されてしまえばもう僕の居場所はどこにも無いのだから。
そもそもこの場所には僕が来たくて来たわけではなかった。
勇者召喚、そう呼ばれるこの国での英雄を呼び出す儀式。
それで僕は自分の意思など関係なくこの場所に呼ばれたのだ。
英雄として魔族と呼ばれる種族に襲われているこの国を救ってくださいと、そう擦り寄ってくる人間達の間に。
なのに、彼らは僕が無能だと分かった瞬間掌を返し、追い出そうとした。
たしかにここでの僕の立場は、勇者召喚で召喚された……ただの一般人だ。
勇者召喚に巻き込まれただけのただの一般人である僕には何の能力もなく、たしかに無能だろう。
けれども、僕を召喚したのは相手側の召喚魔法の準備を怠り、勇者だけでなく他の人間を巻き込んでしまったという過失なのだ。
「そんなこと、認められるわけが……」
そしてそんな状況でお前は無能だからここからされと言われて認められるわけがなかった。
強制的に勇者という存在をこんな場所に召喚するのだって厳密に言えば誘拐で許されることではないが、それでも事情はわかる。
けれども自分たちの過失で人を巻き込んでおいてなんの責任も取るつもりはないなんて言うことはあまりにも酷すぎた。
「煩い」
「がっ!」
ーーー だが、その僕の叫びに対して国王はそう煩わしそうに吐き捨て、腰に付けていた短剣を投げつけた。
それは酷くボロボロな短剣だった。
しかも酷く短い剣で、恐らく戦闘用に作られたそんなものではないのだろう。
だが、それでもその短剣を顔に投げつけられた僕の頭に鋭い痛みが走って、額が切れた。
「ぅぁ、」
痛み、衝撃、恐怖、そして堪え難い憤怒で僕は思わず唇を噛みしめる。
出来るなら今すぐあいつ、国王と名乗るデブを殴り飛ばしたかった。
けれども、今の僕が飛びかかっていたところで返り討ちに遭っておしまいであることぐらい自分でも分かっていた。
「それは貴様にやろう。伝統的な短剣だか知らぬが、ボロボロでもうそろそろ買い替えどきだと思っていたのだ」
そして蹲る僕に対して、自虐的な優越感を滲ませた声でそう国王は告げた。
その声に僕は屈辱から噛み締めていた唇を噛みきってしまう。
鋭い痛みが唇から走り、そしてその一瞬僕の頭に冷静な思考が戻った。
国王にはもう何を言っても無駄だろう。
けれどもまだ助けを求められる人物がいる。
そう、思って顔を上げた僕の目に映っていたのは僕の召喚から少し遅れて魔法陣から現れた男だった。
それは社会人2年目の平凡な僕とは全く違う輝きを持った男。
所謂イケメンというべき容姿を持っていた。
その男が現れた次の瞬間、勇者が2人も現れるはずもないという話になり、僕が巻き込まれただけの一般人だと判明したので、恐らく男も事情が分かっているだろうと判断して僕は助けを求めるような視線をその男へと向けた。
召喚魔法の効果か、言葉はこの世界で問題なく通じる。
けれどもそれは決してこの世界で生きる術があるという意味ではなく、このままこの世界に放り出されれば僕はこの世界で野垂れ死ぬしかない……
「あ?何だよ。選ばれた俺を、出来損ない風情が何見てるんだよ?」
「っ!」
だが、次の瞬間その勇者の言葉を聞いて僕は悟らざるを得なかった。
自分が特別な人間だという優越感によっているかのようなそんな浮かれた目に、巻き込まれた僕への嘲り。
ーーー この勇者は国王と同類だ。
「ま、待ってくれ!いや、待ってください!」
そして僕はあっさりと城の外へと引きずり出されることになった……
◇◆◇
「頼む、もう一度話を……」
「煩え!邪魔だ離れろ!」
城の衛兵らしき男達に城から放り出された後も、僕は必死に彼らに縋りついて頼み込んでいた。
情けない格好ではあるが、だがそれでも生死がかかっている今、そんなことになりふり構ってなどいられなかった。
決して僕だってずっと養ってほしいなんて思っているわけではない。
ある程度この世界のことがわかりさえすれば1人で暮らせるように頑張るつもりだ。
けれども、こんな何も知らない状態でこの世界に放り出されて生きて行ける自信などかけらもありはしなかった。
「邪魔だって言っているだろうが!」
「ぐっ!」
だが、僕は衛兵に蹴り飛ばされてあっさりと手を離してしまう。
衛兵が足に履いていた靴はかなり硬く、その靴で蹴られた僕は無様に転がり、想定外の攻撃に肺から空気を全て吐き出しのたうち回る。
「はっ!俺に歯向かおうとするからそういう目にあう!」
「ま、待て……」
だが、その無様な僕の姿を見てもなお衛兵の鬱憤は晴れることはなかった。
何度も、何度も、蹴られ、僕は痛みと屈辱にのたうち回る。
それから何度暴力を振るわれただろうか。
それもわからないほどボロボロになって、ようやく衛兵は暴力を振るうのをやめた。
「お前、勇者としの才能はないが、サンドバックとしては優秀だな!」
最早意識さえも朦朧としてきた僕の耳に、そんな衛兵の嘲笑が聞こえる。
そしてその衛兵の態度に文句を言うことさえ僕には出来なかった……
◇◆◇
「くそ!これからどうすれば……」
それから少し回復しきても未だ僕は城の側から離れることはできなかった。
様々な場所を蹴られすぎて、歩くたびに激痛が走るようになっていたのだ。
だが、この場にそのまま居るわけには行かず、とにかく少しでも離れようと僕は立ち上がる。
「これは……」
そしてその時、僕の目にあの国王に投げられた短剣が目に入った。
その短剣を僕は投げ捨てたい衝動に駆られるが、そんなこと今の文無しの僕にできるわけがなかった。
模様はかなりボロボロで、中の刃は錆びかけている。
それでも武器がないよりはましだとその短剣を掴んだ時、僕の心に堪え難い屈辱が走った。
こんな短剣でも、それでも大事に抱えていなければならない、そんな自分が酷く情けなかった。
「畜生!」
そして僕はその感情に耐えかねて、短剣を投げ捨て、こんなことをしても自分が傷つくだけで意味がないことを知りながらも、思いっきり壁へ拳を振り下ろした。
恐らくこの勢いで拳を壁になんてぶつければ僕の手は骨折するだろう。
だけどそれでももう、今はどうでもよくて……
「えっ?」
……だが、いくらたっても僕の手に激痛が走ることはなかった。
代わりに何かが崩れたような音がして、そして僕は殴りつけたはずの壁がいつのまにか消え去った目の前に目を見開いた。
一体何が起きたのか、僕はわけがわからず、振り下ろしたはずの手へと目を下ろして……
「なっ!」
ーーー 光を発する自分の手に言葉を失う事となった。