愛するモノ 我妻
私は初めて彼の部屋を訪ねる。
まあ訪ねるといっても彼はシベリア送りされたまま帰って来ないため約三年会えてないことになる。
彼が生きているのか死んでいるのかは私にはわからない。
ちなみに何故尋ねるのかというと三年間無人のまま放置された彼の部屋で、あるモノを探すためである。
彼の部屋の鍵はあらかじめ貰っていたし場所も知っていたが初めて入るわけだから本人がいなくても緊張する。
ギィィ
主を失った部屋の扉は寂しさを嘆くが如く軋んだ鈍い音を響かせて開いた。
「これが彼の部屋…」
彼の部屋はわりと綺麗だった。
ただ、長年放置されたことがわかる場所が所々にある。
例えば、テーブルの上のグレープフルーツがカビだらけになっていたり、埃が玉になっていたり…
でもそのようなことは今は気にはならない
まずは部屋中をまわることにした。
彼の部屋は2DKである。
彼の部屋は実に彼の性格が表れてると思う。
例えば寝室横のチェストの上の壊れた眼鏡は彼が物を捨てられない性格だということがよくわかるし、洗面所の毛先の開いた歯ブラシは彼がガサツな性格だということがよくわかる。そして、至る所に傷がある床を見ると彼は乱暴ものなんだなってことがわかる。
私は彼のことを愛していた。ガサツだし乱暴だし普通の人から見たらなんて酷い人なのかと思うかもしれないけども、それら全てを許せるほど彼を愛していた。
だからこそ私はアレを探し出さなくてはいけない。たとえ愛した彼の部屋がグチャグチャになってしまったとしても…
まず、探せる場所はどんどん探していった。でも私が探しているものはなかなか見つからないのである。
「どこにあるのよ…どこ…」
でもついにそのときはきた
「…やっと見つけた」
私がさがしていたもの、それは彼の預金通帳だった。
その瞬間、彼への愛が一気に冷めていくのを感じた。
私が好きだったのは彼ではなく、彼の持っている莫大な財産であり、彼への愛が盲目にしているわけではなくてお金が私を盲目にしていたのだ。
私はすぐにその場を離れた。
彼が亡くなったということを聞いたのはそれからすぐのことである。