日野さんは何がしたいのか・・・
「渡、渡ってば起きろよ授業始まるぞ・・・」今まで真っ暗だった視界に色がつき始め、夢の世界から現実に戻される。体がだるく気温は低い。11月でも暖かければ気持ちよく寝れるのにと馬鹿みたいなことを思いながら今日も長い一日が始まった。
「やっと起きたか」と言わんばかりの顔をしてこっちを見ているのは、ひとつ前の席に座っている親友の齋藤だ。彼は携帯を取り出し僕に見せながら「今めっちゃ流行ってるこの小説知ってるか?」と聞いてきた。僕は寝起きではっきり見えていなかったということにして「・・・・・知らない。」と目をそらし苦笑しながら答えた。齋藤は疑うかのように何度も聞いてきたが、チャイムが鳴り先生が教室に入ってきたので質問攻めは終わった。
最近高校生と若い女性に人気の小説があるらし。恋愛ものの小説で主人公とヒロインの淡く切ない恋物語に心を惹かれる女性ファンと、男子高校生にとっての夢である彼女との青春ラブストーリーが若者たちから多く支持を受ける理由であると齋藤が教えてくれた。毎日少しずつ更新されていくので毎日がその話題でもちきりだ。
何か視界の隅でヒラヒラしている物があると思い、ふと隣を見てそういえばと思った。僕の隣の席は日野さんだったことを忘れていた。さらにいえば、日野さんも僕が小説家であることを忘れていればいいと思いつつ差し出された紙を見た。そこには「一時間目の後、屋上に来て。」とすごくかわいい字で書いてあった。馬鹿にされるのか、ばらされるのかすごく心配だが彼女には逆らえない。「まったく一時間目終わるのが待ちどおしいよ」と、自分に嘘をつきながら泣いてるのか笑っているのかわからないまま一時間目の授業が終わった。
そそくさと階段を今までにのぼったことのないスピードで上がると、屋上にはもう日野さんがいた。二人だけの世界で凍りつく空気の中、自分の近づいてく足音だけが響く。ある程度近づいたところで日野さんが「渡君さ、私と・・・」と言った。風が通り過ぎると共に、その時初雪が降った。