表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1話

 

「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!新弾二箱買ったのにどっちもクソ箱とかないわー!!」



 行きつけのカードショップの帰り道、俺は悔しさのあまり思わず叫んでしまった。

 買い物帰りとおぼしきおばちゃんがこっちをチラチラと見ている。恥ずかしい。

 だがこれはしょうがないんだ。

 叫びたくなってしまう気持ちもどうかわかってほしい。

 それだけの事があったのさ。


 なんで俺が叫んでいたかって?

 実は今日は俺がプレイしているNova(ノヴァ)T(トレーディング)C(カード)G(ゲーム)の新しいパックの発売日なんだ。

 そしてさっそく俺は一万円札握りしめてカードショップに突撃。

 景気良く二箱、パックを購入するも結果は最悪。

 欲しかったカードはまったく出ず、出たのは弱いカードばかり。

 高校生の小遣いで一万円の出費は懐へかなりのダメージだが、パック開封の結果が散々となれば叫びたくなってしまうのもわかってくれよう。


「はぁ……、"ストーム・ウィンド・ドラゴン"欲しかったのになぁ。ウルトラの枠で"生体兵器(バイオニックウェポン) G()R()L()"が二枚とか……。運悪すぎだって」


 ハズレレアのG()R()L()がよりにもよってダブってしまうとか。

 パックを開封していた時のテンションの下がりようったらなかった。


 ちなみにこのウルトラというのはカードのレアリティの一つ。

 一番高いレアリティで一箱に一枚だけ入っているのだが、新弾で三種類あるウルトラの枠のうちの一枚、G()R()L()が当たってしまった。


 俺の目当てはもちろん"ストーム・ウィンド・ドラゴン"。

 カードイラスト、カードの強さ、共に折り紙付きの強カードだ。

 なのにG()R()L()の野郎……!許せん!


 そんな悲劇があって俺は絶賛意気消沈中。

 トボトボと自宅に向かって歩いているのである。


「ただいまー」


 玄関を開けて俺を出迎えるのは静寂。

 両親は共働きで、共に仕事人間だ。

 朝から晩まで働き、仕事が休みの日も不定期。

 今日は土曜日だが二人とも仕事だそうで朝から家にいないのだ。

 小さい頃は仕事ばかりで全然構ってくれなかった両親が嫌いだったが、高校生にまでなればこんな暮らしにも慣れた。

 逆に親がいないぶん、ある程度好き勝手やれるし楽なのだ。

 それにカード達が俺の友達。寂しくなんてない。寂しくはないのだ。うん。


 時計を見ればそろそろ五時だ。

 洗濯物をとりこみ、掃除機かけ、夕飯の支度をする。

 親が家にずっといないので家事は俺がやっている。

 何年もやっているので手際よく片づけていく。

 今日の夕飯は簡単にカルボナーラにでもしようかな。


 夕飯を食べ終えたら食器洗い。

 両親の稼ぎは悪くないようで、食器洗い機が欲しいと言ったらすぐに買ってくれたので楽だ。

 食器洗い機のスイッチを押したら次は学校の宿題だ。

 月曜に英語の小テストがあるらしい。英語の勉強をする。

 カードのテキストは一回読めばすぐ覚えるのに、英単語はなかなか覚えられないのはなんでだろうか。

 数学のドリルを数ページやって時計をふと見ればもう十時半。

 風呂に入って、涼みがてらネットサーフィンをしていればあっという間に十二時。

 毎日これの繰り返しだ。

 親はまだ二人とも帰ってきていない。午前様か、泊まりだろう。

 わざわざ親の帰りを待つ必要もないのでさっさと寝てしまう。

 明日は日曜日。

 録画しておいたアニメを一気見するとしよう。


 俺の一日なんてこんなものだ。

 学校行って、家事をして、勉強して、風呂入って、ネットして、寝る。

 親とあまり顔を合わせない生活も慣れてしまえば変に束縛されるよりかはいいと思えてくる。


 だけど少し思うんだ。

 もう少し今の生活が刺激のあるものになったら、と。

 ルーチンと化した生活がもっと刺激のあるものになったら、と。


 中学生が学校にテロリストがやって来ないか、なんて妄想するのに似ている。

 慣れた、とか言いながらやっぱり俺は寂しいのかもしれない。


 いけないいけない。

 一人でいると変なことばかり考えてしまう。

 明日は日曜日。

 目一杯、休日を謳歌するとしよう。


 おやすみなさい。











 チュンチュンチュン……。





 うう……まぶしい……。

 もう朝か。

 起きようかな。

 まあでも日曜日だしもう少し惰眠を貪るのもいいだろう。

 二度寝最高。


 掛け布団が無い。

 寝てる間に蹴っ飛ばしちゃったかな?

 目を閉じたまま手を伸ばす。




 ジャリッ




 ……ん?

 ジャリ?

 布団を探して伸ばした手からは湿った土のようなの感触。

 石のような硬い感触もある。

 おかしい、ベッドになんで土?

 え、なんかの嫌がらせ?


 眠気なんて吹き飛んだよ。

 俺、完全にベッドで寝てない。俺ってそんなに寝相悪かったっけ。

 夢遊病とかやめてくれよ。

 寝ながら歩くとかシャレにならん。

 目を開けたいけど開けたくない。

 夢であってほしい。

 これは夢だ、これは夢だ。現実の俺はまだベッドだ。

 大丈夫。深呼吸だ、俺。



 …………。



 うん、すごく土というか、草の匂いがする。


 大丈夫だ、落ち着け俺。

 目を開けるぞ、俺。

 さあ目覚めの時間だ。



 …………。



 よし、目を開けたぞ、俺。

 木漏れ日が綺麗だ。

 風で木々が揺れてサワサワと音を立てている。





 ……………………。





 ………………。





 …………。




 ここ、どこ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ