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第6話   依頼 ゾルガンの町

 夕方を過ぎたギルド内では、冒険者達が明日からの依頼を探そうと掲示板の前で立って見ている。目当ての依頼を受付に持って行く者や、期待した依頼が無く今日は諦めてギルドを出て行く者。考え込んでいる者と、三者三様だ。

 しかし、しばらく張られたままの依頼もあった。ギルドマスターのカルバンは、たまに掲示板を見に来て、依頼の状況を調べている。カルバンは、しばらく張られたままだった1枚の依頼を見て、依頼主に連絡した。

 次の日、ミツヒがギルドに、ポーションの補充に来て棚に並べていると、部屋から出てきたカルバンが、ミツヒを見つける。


「ミツヒ、丁度良かった。ポーションを並べ終わったら、ちょっといいか?」

「あ、カルバンさん。はい、わかりました」


 ポーションを並べ終わり、受付嬢のルビに確認してもらってから、ギルドマスターの部屋に入って行くと、カルバンはソファーに座って待っていた。ミツヒも座ると、話をしようとしたカルバンだったが、ミツヒの左手首の腕輪が目に入った。


「ミツヒ、その腕輪どうしたんだ?」


 嬉しそうなミツヒは、腕輪を見ながら話す。


「はい、先日、ナギアさんと食事に行ったときに、友達になった事と、僕がナギアさんの前でポーションを作って、それをプレゼントしたらお返しに頂きました」

「そうか、ちょっと見せてもらっていいか?」

「どうぞ。幸運の腕輪と言って、運が少しだけ良くなるみたいです。ナギアさんが言ってました」


 ミツヒが、左腕をカルバンに差し出し、カルバンが腕輪を見ると、すぐにわかってしまった。


(ゲッ、ナ、ナギアのヤツ。何が幸運の腕輪だよ、こいつは身代わりの腕輪じゃないか。こんなに高価な物を)


 カルバンは、表情を変えずに話す。


「綺麗な腕輪だな、良かったじゃないか」


 腕を戻してミツヒは、嬉しそうに答える。


「はい、贈り物なんて初めてだったんで、とても嬉しかったです。でも、ナギアさんに金貨1枚を支払ってもらって、なんだか悪いことしたかな、とも思ったんですけど、ありがたくいただきました」

(まったく、ナギアは。今後、大丈夫か? 上手くやっていけるのだろうか)

「そうか、それはいいとして。ミツヒを呼んだのは、この依頼を見てほしい」

「はい、拝見します」


 依頼を見る。

 石化解除が出来る魔法士。または、石化解除の薬を作ってほしい。

 カルバンが、少し強い口調でミツヒに質問をする。


「単刀直入に聞こう、ミツヒは石化解除の薬は作れるのか?」


 眼が少しだけ泳ぐミツヒ。


「いえ、作れません」


 それを見切ったカルバン。


「何故隠すんだ、ミツヒ。作れる、と誇っていいんだぞ」


 ギルドマスターに見破られたので、早くも降参したミツヒ。


「僕は、あまり知られたくないんですよ、カルバンさん。知られて噂が広まるのも嫌だし、僕は、ひっそり生活したいんです。それに、依頼に書いてあるように、魔法士がいるじゃないですか」

「いや、今は、俺の知っている限り、石化解除が出来る魔法士がいないんだ。ナギアみたいに魔物を倒しながら、石化耐性を取得するしかないんだよ」

「居なくなってしまったんですか?」

「いや、探せば国の何処かにはいるかもしれないが、この町にはいない」

「だから僕に作れ。と」

「ああ頼む。誰が作ったかは、口外しない、と約束しよう。依頼主にもだ」


 依頼書を眺めながら、少し考え込んだミツヒ。


「ペトラフ草って知っていますか? カルバンさん」

「いや、知らないな。その草が石化解除の薬を作れるのか?」

「はい、ペトラフ草の群生地は、コカトリス、もしくはギガンテスの生息している場所です」

「石化の攻撃をする魔物が居る場所か。それは難題だな」


 少し考え込むカルバン。そこに、手の甲を向け、曲げた指で2回扉を叩く音がする。扉が開き、受付嬢のルビが扉の外から話す。


「ナギアさんがお見えです。あ、ちょ、ナギアさん」


 ルビを押しのけ、カルバンを威嚇するかのように入ってくるナギアは、しっかりミツヒの隣に座る。カルバンがルビに手を振ると、知っているかのように扉が閉まる。

 ナギアの隣に座っているミツヒが、ナギアの左手首を見た。


「あ、ナギアさんも、幸運の腕輪、していますね」


 ミツヒの言葉に、急に優しい態度になるナギア。


「はい、これは前から持っていたのですけど、せっかくですから付けて見ました。ウフフ」

「そうですか、ナギアさんは強いから、少し運が良くなっても変わらないですからね」

「そんな事はないですよ、これでミツヒさんとお揃いです」

「でも、他の人達も見に着けているんじゃないですか?」

「気にしませんよ。ウフフ」


 そのやり取りを見て、頭痛が始まって来そうになるカルバン。


「まったく……ポンコツナギア」

「なんだよそれ、フン」

「ナギアが来たから話が止まってしまったよ」


 思い出したようにナギアが、カルバンに食いつく。


「なんで私をのけ者にして、内緒で2人が話し合っているんだ、カルバン」


 笑顔のミツヒがナギアに言う。


「別に内緒じゃないですよ、ナギアさん」

「そうなんですか? ミツヒさんがそう言うのでしたら。――で? カルバン」


 カルバンは、事の経緯をナギアに話すと、ナギアは、ああ、と言う感じで教えてくれた。


「コカトリスならダンジョンにいるよ。確か10階層だったかな」


 ナギアの言葉にカルバンも、思い出した。


「そうか、ゾルガンの町のダンジョンか」

「ああ、そうだ」

「ナギアさんは、ペトラフ草を知っていますか?」

「いえ、知りません。ごめんなさい、ミツヒさん」


 ちょっと頭が痛くなっているカルバン。


「もしかしたら、そうなるかな。と思って依頼主に、増額になるかも、と頼んだらあっさり承諾してもらってきた。それで、ミツヒも、ナギアと一緒にダンジョンに行ってペトラフ草を採って来て欲しい」


 ミツヒは間髪入れず、


「ムリムリムリムリ、絶対ムリです。僕に、死んで来い、と言ってるようなもんです」


 逆にナギアは笑顔になり、とても嬉しそうだ。


「大丈夫です。私が守りますよ、ミツヒさん。問題ありません、行きましょう。ウフフ」

「そういう事だ、ミツヒ。ナギアが護衛になるから安心しろ。それにペトラフ草を知っているのはミツヒだけだろ。ミツヒが行かないと採取出来ないじゃないか」


 項垂れているミツヒはまだ抵抗している。


「古文書を見れば」

「間違ったらどうするんだ」

「ミツヒさん、行きましょう。楽しいですよ、ダンジョン。ウフフ」


 項垂れたままミツヒは諦めて、ため息をついた。


「ハァァ、わかりました。行きますよ、ダンジョン。ナギアさん、お願いします」

「任せてください、ミツヒさん。楽しい旅行にしましょうね。ウフフ」


 浮かれ始めたナギアに、カルバンは釘を刺す。


「旅行じゃない、ナギア。わかってるだろうな、これは依頼だ」

「ああ、わかってるさ、依頼だろ? 行って来るよ」

「でも、カルバンさん。僕、冒険者じゃないですけど」

「俺が特別証明書を発行するから大丈夫だ。それに、ナギアもいるし。よろしく頼む」


 その日は、ゾルガンの町に行く準備をして翌日。

 ギルドの前には、カルバンさんの手配で、2人乗り用の小さい馬車があった。荷物を背負ったミツヒが来て、馬車に積み込んでいると、漆黒の鎧で装備してきたナギアが来て、ギルドに入って受付まで行く。


「おいカルバン。馬じゃないのか?」

「ミツヒじゃ、乗りこなせないだろ」

「私の、後ろか、前に」

「馬がへばる! まったく天然ナギアは」

「なんだよそれ、フン」


 ミツヒも後から入って行き、笑顔で挨拶する。


「おはようございます、ナギアさん」


 ミツヒに振り返る、優しい笑顔のナギア。


「おはようございます、ミツヒさん。よろしくお願いしますね」

「僕は馬車で待っていますから」

「はい、私もすぐ行きます」


 カルバンは手を額に当て、軽く数回叩き、呆れて話す。


「なあ、ナギア。その、ダメダメっぷりと、天然は、ゾルガンの町で、あまり出すなよ」

「なにが、ダメダメ、だ、フン。――カルバン、大丈夫だ心配するな。ミツヒは私が守る」

「心配なのはお前だよ。もういい、ただ町の中を歩くときは、ミツヒを前にして歩け」

「何? ミツヒを前に? なんでだ」

「あ、いや、誰かが襲ってきたらすぐにわかるだろ? 横とか後ろだと一手遅れるじゃないか」

「ああ、なるほどな。了解した。では入って来る」


 ミツヒとナギアは馬車に乗って、レ・ヴィクナムの町を出て、一路ダンジョンの町ゾルガンに向かった。

 ゾルガンの町は、レ・ヴィクナムの町から南西に位置し、馬車なら朝出れば夕方には着く。南に位置する、王都ガナリックからも直接行ける町。町を出てすぐは、人や馬車とすれ違うが、徐々に少なくなっていく。町も見えなくなった辺りからは魔物も出るので注意が必要だ。が、


「ミツヒさんは、馬車に乗るのは初めてですか?」

「はい、覚えていませんから、多分初めてです。馬に乗った事もありません」

「今度、馬に乗りませんか? 速いし、いい乗り物ですよ。私が教えてあげます。ウフフ」

「難しそうですね、僕に馬の乗る機会は無いでしょうから、止めときます」

「そうですか、残念ですね。あ、ミツヒさん、見てください。あそこの森の奥にゴブリンがいますよ」

「ええ? ど、何処ですか? 大丈夫ですか? 僕には見えませんけど」

「まだ大丈夫ですよ、向こうも気が付いていませんから。通り過ぎちゃいましょう。ウフフ」


 呑気なナギアだった。そして数回魔物が現れたが、ナギアによって瞬殺され倒した。一度、手のひらに乗る程の魔石が出たので、ミツヒに見せる。


「魔石って、もっと大きいと思ってたけど、意外に小さいんですね」

「魔物の種類によって色や形、大きさも様々なんですよ」


 道のりも順調に進んで、夕方より早くゾルガンの町が見えて来た。

 町の周囲を高い塀が取り囲み、城塞都市のような作りで、主にダンジョンの収益で賄っている。町の西側にダンジョンがあり、そこから道が放射状に広がる、約3000人が住んでいて、ダンジョン攻略の冒険者も300人程滞在している。宿屋、商店、防具屋なども多く有り、ダンジョンのドロップ品も売っている。

 町に着くと、検問所で門番が出てきて、一度だけナギアを見てから、ミツヒに向かって手を出す。


「証明書はあるか?」

「はい、これです」

「ふむ、ギルドマスターの。いいだろう、通れ」


 馬車で町に入って行く。疑問に思ったミツヒ。


「あれ? ナギアさんの証明書は?」

「ウフフ、いらないみたいですね」

「凄いですね、ナギアさん。顔パスですか」

「そうみたいですね」


 宿に着き、馬車と馬を離し、馬を馬小屋に入れて宿に入り、1人部屋に案内されるとナギアは、ミツヒを見てくる。


「わ、私は、一緒でも」

「ナギアさん、友達ですから、別の部屋でお願いします」

「そ、そうですね、わかりました」


 その後、夕飯を食べながらダンジョンの話をして、その日は就寝。

 早朝ギルドに行き、入って行くと、怖そうな冒険者やごつい冒険者、魔法士のパーティが、大勢並んで受付をしていた。カルバンに言われた通り、ミツヒの後ろからナギアが歩いて行くと、ナギアに気が付いた冒険者が「あれナギアだ」とか「漆黒の」とか「うわ、こええ」などと聞こえてきた。

 ミツヒが前を歩いているので、いつもの凛々しい顔で堂々と歩いている。すると、周囲の視線がミツヒに向けられ、気になったのか「あの男誰?」とか「誰とも組まないんだろ」とか「ナギアより強いのか?」などと聞こえてきたので、ミツヒが下を向いて歩いている。

 受付の順番も、ナギアの顔で先に入れてもらい、ミツヒが受付嬢に証明書を見せる。


「はい、登録しました、ミツヒさん。それと、以前ナギアさんは、このダンジョンを踏破されましたけど、もう一度行くのですか?」

「いや、今回は依頼だ。ダンジョンの途中に用があってな」

「そうですか、では詳しい話は必要ありませんね、お気をつけて」


 2人はギルドを出て、ダンジョンに入る。

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