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第5話   食事

 後日、ミツヒとナギアは、何度か話をして食事に行く日を決め、ナギアの希望で、普通の店でいいと「マイウ亭」に決まった。


数日後

 夕方、店を閉めたミツヒの家にナギアが歩いて来た。今日のナギアは、腰まであるサラサラの銀髪はいつもと変わらず、胸元が少し開いた青い上下一つなぎの服に銀色のチェーンベルトをしている。ナギアはミツヒの店の前に着くと、店を閉めているミツヒに挨拶する。


「お待たせしました、ミツヒさん」

「いえ、こちらこそすみません。僕の店の閉店に合わせてしまって。今日は一段と綺麗ですね、やっぱりナギアさんは何でも似合いますよ」


 ここ数日で、ミツヒと仲良くなったナギアは嬉しそうだ。


「綺麗だなんて、ウフフ。ありがとうございます、ミツヒさん」

「では、行きましょうか」


 並んで歩き出すと、とても小さな音だが、金属音をたてているナギアのベルトが気になったミツヒは、聞いてみる。


「ナギアさん、そのベルトは何で出来ているんですか?」

「ウフフ、気になりますか? 実はこのベルトは護身用の武器なんです。このチェーンの継ぎ目を外すと、ほら」


 チェーンの端を持って、曲芸のように鮮やかに振り回し、子気味のいい金属音と共に、元のベルトに戻して見せたナギア。


「冒険者は丸腰だと、不測の事態になった時、不利になるのでこういった護身用の武器が沢山あるんですよ。ウフフ」


 嬉しそうに話をするナギアに、ミツヒも笑顔で返す。


「女性も大変ですね。でもナギアさんは強いから大丈夫でしょ」

「そのような事は無いですよ、ミツヒさん。私もまだまだです。でも、いざと言う時の為に、装備一式はマジックバッグに入れてあります」


 途中ナギアは、ミツヒの腕を、分からないように何度も見て、腕を組みたいけど勇気が無く、結局出来なかった。マイウ亭に着く頃、人通りが多くなってきて、ナギアを知っている冒険者や男達から「あれナギアか?」とか「あんな綺麗だったか?」とか「すげー、服だけで変わるんだ」などと話し声がしていたが、楽しいナギアには全く聞こえていなかった。

 マイウ亭に入ると、一番奥の隅にあるテーブル席に着き注文をする。その間、ナギアの生い立ちやミツヒの生い立ちなどの話をしていると、食事が並べられて食べながら、驚いたり笑ったりと、会話を楽しんだ。

 食べ終えて少しした時、入口から4人の剣を持って武装した男が入って来て、店内に響くほどの怒鳴り声をあげた。


「そこまでだっ! 動くなよっ! 強盗だっ! バッグや身に着けている貴金属をテーブルの上に出せっ!」

「「「 早くしろーっ! 」」」


 客達がテーブルの上に出し始めると、奥に座っているナギアは、男達に振り返ると眉間にしわを寄せ、超不機嫌な顔で睨みつける。


「私のぉぉ、楽しいぃぃ、ひと時をぉぉ、きさまらぁぁ」


 立ち上がると、男達がナギアに振り向くことも出来ない素早さで、疾風のごとく通り過ぎながら、重く鈍い音が4回鳴り、素手で強盗の持っている剣を落とした。すぐさま振り返ると、手が痺れて武器が持てない強盗に、今度は一人一人に恨みを晴らすように、手加減抜きに拳を硬くし、殴りつける。


強く鈍い音    「げふっ!」 

重みのある低い音 「ぐぁっ!」

何かが折れる音  「ぎゃっ!」 

何かが潰れる音  「ごぇっ!」


 全員白目をむいて気絶すると、ミツヒが走り寄る。


「ナギアさん、僕、ギルドに行って知らせて来ます」


 ミツヒが店から走って出て行くのを見送り、まだ治まりが効かないナギアは、腰に巻いてあるチェーンを外し、端を手に持って肩にかけ、男を1人叩き起こして、冷酷な鬼の形相で睨みつけた。


「よくも私の楽しい時間を潰してくれたな。どうしてくれるんだ? ん? キサマはゆるさん」


 お説教をしてチェーンを振り回し、強盗の頭に、脳震盪でも起こせ、と言うくらいの力で殴りつけ、また気絶させると、別の1人を起こしては、同じお説教を言って、チェーンで殴りつけ、気絶させる事を、4人とも行った。

 それを見ていた男や騒ぎを見に来た冒険者たちは「やっぱりナギアだ」とか「死霊狩りだ、こええ」とか「やっぱり男殺しだ」などと言って震えあがっていた。その中の1人が小声で話す。


「でも、武装した強盗4人を相手に、1人で、それも素手で戦えるか?」


 隣に居た男が間髪入れずに、


「ムリムリムリムリ」

「だよな、ナギアは鬼人だな」


 周囲は同意して、頭を小刻みに、何度も上下に動かし頷いていた。しばらくすると、カルバンと護衛の数人が来て強盗を縛り上げ連行して行き、ミツヒから事情を聴いているカルバンは、ナギア達には礼だけ言って去って行った。

 騒ぎも治まり店を出るときに、ミツヒが支払いをしようとしたら、ナギアが強盗を捕まえてくれたお礼です、と無料にしてもらった。辺りが暗くなっている、マイウ亭の外に出るミツヒとナギア。


「最後はちょっと大変でしたね、ナギアさん」


 悲しい顔をして下を向き、両手を後ろで組んでいるナギア。


「そうですね、せっかくの楽しい食事が台無しです」


 今日はこれで終わりかな、と思って反対に向いているナギアに、ミツヒが聞いてくる。


「ナギアさん、これからどうしますか? 時間もまだあるし繁華街はまだ賑やかですよ」


 その言葉を聞いて、下を向いていたが、急に明るい顔になったナギアはミツヒに振り返ると、いつもの笑顔があった。嬉しくなったナギア。


「はい、行きましょう、ミツヒさん。ウフフ。散策や買い物もいいですね」

「じゃあ、ナギアさん。食べている時にも言いましたけど、改めて。お友達になりましょう、」

「はい、ミツヒさん。私こそ、よろしくお願いしますね。仲良くしてください。ウフフ」


 繁華街に歩いて行く。繁華街では酒場や商店、露店もあり明るく賑やかだ。2人で並んで歩いていると武器屋があって、ミツヒが、ナギアに疑問を聞く。


「ナギアさんの剣は魔剣ギーマサンカですよね、普段持っている剣は何で出来ているんですか?」

「はい、町中で持っている私の剣は、ミスリルです」

「へぇ、やっぱり凄いや。僕は、アイアンソードです」

「ミツヒさんも剣術を? 装備している所を見た事が無いですね」


 ミツヒは、手で後頭部を撫でながら苦笑いした。


「ええ、東の草原に薬草採取をしに行くときだけですから。ハハハ。それに魔物を見たら、すぐに逃げますよ。使った事の無い護身用の剣です。ハハハ」

「そうなんですか? 今度一緒に行ってもいいですか?」

「いいですけど、依頼できませんよ、ナギアさん高いし」

「ミツヒさん? お友達ですよね。依頼じゃないですから」

「わかりました。今度、機会があったら行きましょう」


 さらに歩いて行くと、今度は防具屋があって眺めていると、またミツヒが質問する。


「ナギアさんの漆黒の鎧は何で出来ているんですか?」

「はい、私の鎧は、アースドラゴンの鱗で作ってあります。軽くて丈夫なんですよ」

「へぇ、ドラゴンですか、凄すぎてぜんぜんわからないや。僕は皮の鎧です、ハハハ」


 ナギアは申し訳なさそうだ。


「何だか、すみません、ミツヒさん」

「いえ、いいんですよ。僕が聞いたんですから。ナギアさんくらいになると、防具もしっかりしておかないといけませんからね」


 また少し歩いていると思い立ったようにミツヒが、聞いてみる。


「あ、そうそう、ナギアさん。聞きたい事があったのですけど、ナギアさんは何故、普段は凛々しく強いのに、僕にはとても綺麗で優しいナギアさんなのでしょうか?」

「え? き、綺麗だなんて。何故でしょう、私にも分かりませんが、多分私が、ミ、ミツヒさんの事が」

「あ、商店がありますよ、入ってみませんか?」

「あ、は、はい」


 商店に入って行くと、綺麗な飾り物や指輪に腕輪が並んでいた。ミツヒが一つ手に取る。


「幸運の髪飾り? へぇ、でも高いな金貨1枚もするんだ」


 髪飾りを、表に裏に、とじっくり見ているミツヒにナギアは、嬉しそうな笑顔で答える。


「これ偽物ですよ、いわゆるバッタ品です。ウフフ」

「偽物? この加護を呼ぶ指輪もですか?」

「はい、偽物です。あまり良くない商売ですけどね。ウフフ」


 2人の会話を聞いていた店主が出てきて、怒りだす。


「おいおいっ! 人の店の商品を偽物呼ばわりしやがって、ふざけた野郎だな」


 店主の凄んだ言葉に焦って固まったミツヒ。店主に振り返って睨みを効かすナギア。ナギアだと気が付いた店主は、表情を一変させると、引きつった笑顔で手もみしながら愛想笑いをする。


「ハハハ、よく見抜きましたね、さすがですよ。でもあまり口外しないでくださいね」


 あれ? と思っているミツヒに、ナギアがミツヒの手を取る。


「さあ、行きましょうか、ミツヒさん。ウフフ」


 咄嗟にミツヒの手を握って店を出て行くと、ナギアは、


(やったあ! 手を、手を握っているぞ! なんだかナイスだ、店主)


 そのままミツヒの手を引いて防具屋まで来たら、ナギアは名残惜しそうに手を離した。


「ミツヒさん、防具屋を見ませんか?」

「いいですよ、入りましょう」


 店に入ると防具の他にも色々な物が飾ってあり、ミツヒも興味が出てくる。


「防具屋って、鎧とか盾だけじゃないんですね」

「そうですね、手に取ってみてはいかがですか?」


 ミツヒはナギアに言われて、面白そうに物色を始める。客が来た、と小太りの店主が出てくると、ナギアは店主に、ミツヒに聞こえない小声で話す。


「おい店主、身代わりの腕輪はあるか?」

「はい、ナギアさん、1個だけ入荷していますが」

「よし、買う。いくらだ?」

「金貨2000枚です」

「明日払いでいいか?」

「ナギアさんですから、構わないです」

「よし店主、これを、幸運の腕輪、として金貨1枚で買う。と言う事にしてくれ」

「え? あ、はい」


 ナギアは、楽しそうに物色しているミツヒに、横から覗き込んで話す。


「ミツヒさん、いい物はありましたか?」

「いい物と言うより、面白いですね。」

「今日はお友達になった記念で、ミツヒさんにこれを贈りたいのですけど、貰ってもらえますか?」


 ナギアが腕輪を出してくる。小さく綺麗な魔石が散りばめられ、埋め込まれている腕輪をミツヒに見せると、驚いた表情のミツヒ。


「ナギアさん、これ、高いんじゃないですか? こんな高価な物はいただけません」

「これは、幸運の腕輪、といって運が少し良くなるんですよ。金貨1枚ですから、私に買わせてください。頂いた記念のポーションのお返しです」

「金貨1枚ですか。勿体ないような……いいんですか?」

「ええ、是非ミツヒさんに贈りたいのですけど。ミツヒさん、受け取ってください」


 ナギアが腕輪を差し出すと、嬉しそうなミツヒがそれを受け取る。


「ありがとうございます、ナギアさん。大切にします」

「ウフフ、どういたしまして」


 ナギアは店主に振り向き、ミツヒが見ているので優しく話す。


「店主さん、はい、金貨1枚です」


 ギャップのあるナギアに、固まっている店主に向かって支払うと、いつもの表情に戻り、少し睨みを利かせ小声で話す。


「おい、余計な事言うなよ」


 額に汗をかいて、素早く上下に頭を振り、頬も揺れながら頷く小太りの店主。支払い終わって、腕輪を、色々な角度から嬉しそうに見ているミツヒ。


「では行きましょうか、ミツヒさん」


 店を出るとミツヒが、ナギアを止める。


「ちょっと待ってください。せっかくだから腕輪をはめますね」


 ミツヒが腕輪を左手にはめると、腕輪の魔力で、静かにミツヒの手首に会う大きさになった。驚いたミツヒ。


「凄いですね、手首にしっくりとなりましたよ。全く重くないし、それに違和感も無いです」

「ミツヒさんに喜んでいただいて、私も嬉しいです」

「でもこれ、外すときはどうするんですか?」

「あ、はい、腕輪の中の、一番小さい黒い魔石を強めに押すと元の大きさになります」

「そうなんですか。でも外すことはありませんけど。贈り物を貰った事って、ナギアさんが初めてです。本当にありがとうございます」


 ペコリとお辞儀をして、嬉しそうに腕輪を見ているミツヒに、ナギアも喜んでいた。そしてしばらく繁華街を散策し、楽しい1日は終了した。

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