表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

第28話  再会

 さらに数日が過ぎた。

 ミツヒの生活も軌道に乗ってきたので、立ち並んでいる露店と同様に、中古の屋台を購入した。ポーションを台の上に綺麗に並べて売っているので、それなりにまともになった。

 それでもユキナは、自分の居場所のようにたまに遊びに来て、子供達が来ると逃げる。と相変わらずを過ごしている。

 椅子に座って屋台に寄りかかっているミツヒ。

 隣の露店のおじさんがミツヒに声を掛ける。


「おい、あんちゃん。知り合いか? ずっとこっちを見ている人がいるんだが」

「え? この村に知り合いなんていませんよ。どこですか?」


 街道を見渡すミツヒ。

 1人の女性が、両手を口に当てて、涙目で見ている……。


「え? ナ、ナギア? うそ……ええぇ?」


 驚くミツヒに、大粒の涙を流し泣きながら駆け寄るナギア。そのままミツヒに抱きつき、反動で地面に倒れる二人。

 ミツヒが何か言おうとする前に、ミツヒの口がナギアの唇で塞がれる。やっとミツヒに会えた、ナギアの情熱のこもったキス。されるがままのミツヒ。往来の多い街道の横で起こっている。

 「村長と同じだ」とか「それじゃ、嫁さんかな?」とか「やるなー」などと聞こえてきたが、大した事では無くそれほど騒ぎにはならない。

 しばらく続き、ミツヒも抵抗しないので、まだナギアのされるがままになっている。

 落ち着いたのか唇が離れ、目と目が合う。


「ナギア? どうして……」


 ミツヒの胸に顔をうずめ、涙を流すナギア。


「ミツヒ。ううぅ、許して。ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい……ゴメさいゴメ……ゴ……」


 そのまま寝息を立てて眠ってしまった。遠い道のりを、本当に居るのか低い確率でここまで辿って来たナギア。心身ともに疲れ切っていたようだ。



 目を覚ますナギア。どこかの部屋のベッドで寝かされている。起き上がりながら見回す。


「ここは? ミツヒに会えて、謝って、それから……しまった、途中で寝てしまった?」


 ベッドから降りて部屋を出る。

 隣の居間には、テーブルに飲み物を置いてポーションを作りながら座っているミツヒがいた。

 扉の音で気が付いたのか、振り向くミツヒ。


「目が覚めた? 久しぶりだね、ナギア」

「ゴメンなさい、ミツヒ。酷いことしてしまって」

「立っていないで、こっち来て座ったら?」


 ナギアが黙って椅子に座る。ミツヒが一度立ち上がり、飲み物を持って来てナギアの前に置く。


「よく僕のいる場所が分かったね。それに、どうしてここまで来たの?」

「ミツヒに謝らないといけないし、このままじゃ嫌だから。カルバンに聞いて、薬草採取の古文書を調べたら書いてあって、辺境の町がある。と教えてくれたの」

「ああ、あれか。カルバンさんも、よく調べたな。でも、もういいよナギア。残念だけど、気を付けて帰りなよ」

「いやよ! それは嫌。ミツヒと一緒じゃないと嫌。謝るから。ゴメンなさい。本当にゴメンなさい」


 ナギアの謝罪を聞いて、淡々と話すミツヒ。


「ナギアが悪いんじゃないよ。でも、アルドール家で嫌ってほど味合わされてわかったんだ。僕は、身分の違うナギアとは無理だってね」

「私が行けなかったんです。浅はかでした、ゴメンなさい。私も家を出ました。だからもう一度」

「今日はゆっくりして行きなよ。鍵は開けておくから」


 立ち上がるミツヒ。


「ミ、ミツヒ、どこへ?」

「仕事。部屋はそのままでいいよ。それじゃ」


 出て行くミツヒ。ナギアは下を向いたまま追いかけなかった。


 考え事をしながらポーションを売っているミツヒ。

 そこに、仲良く腕を組んだ男女が現れた。村長のミツヒとハネカだ。いつもと違うミツヒを見て、足を止める。


「どうした? 浮かない顔をして。タモンの村では笑顔が一番だぞ」


 ミツヒの心を読んだのか、察知したハネカ。


「悩み事ね、私達に言ってごらんなさいよ。力になれる事もあるから」


 二人の言葉に気持ちも落ち着くミツヒ。人に話す事ではないが、思い切って打ち明ける。

 恋人がいたが、自分の、低い身分の差で離れてしまった。

 しかし、遠い所から自分を探しだし、会いに来てくれた。別れようと切り出したけど拒まれた。今の自分はどうしたらいいか分からない。

 鼻で笑った村長のミツヒ。


「ハン、簡単じゃないか。そんな事、気にすんなよ。気にしないで復活すればいいんだよ」

「そうね、身分は社会的な立場だけで、個人的な事じゃないわよ。将来嫁にするのであれば、生きていくためにはどうするの?」

「自分で生計を立てて暮らせればいいかな。と」

「じゃあ、決まりだ。もう一度やり直せばいい。彼女もそれを望んで来てくれたんだろ? いい彼女じゃないか。まるでハネカと一緒だな。ハハハ」

「同じ? ハネカさんが?」

「ええ、そうよ。気の遠くなるような遠い場所から着の身着のままで、何とかタモンの村に辿り着き、そしてミツヒに見つけてもらったのよ。私はこの体一つ。他には何も持っていない。でもミツヒは、私を嫁にしてくれたわ」

「そうなんですか」


 ミツヒに、諭すように話す村長のミツヒ。


「確かにお金は必要だ。生きていくためにはな。だが地位は人それぞれの考えや、偏見もあるから気にすんな。俺も、タモンの村の一村人だったけど、今もそんな事は気にしないし関係ないよ。ポーションを売って、好きな人と楽しく生活出来ればそれでいいじゃないか。あとは君次第だよ」

「ちょっと言われたくらいで諦めるのなら、それまでだったのよ。本当に好きなら奪ってやるくらいの事はしないとね。私は絶対に彼女を嫁にすべきだと思うな。がんばってね」


 そう言い残し、腕を組みながら村長のミツヒは、自由な方の片手を上げ、小さく振りながら幸せそうに歩いて行った。

 二人の話に、いろいろ考えさせられたミツヒだった。


 夕方

 仕事を終え、ミツヒが帰ってくる。

 部屋に入るミツヒ。ナギアは待っていたのか、まだテーブルに座っている。


「おかえりなさい、ミツヒ」

「うん」

「あの……どうしたら許してもらえますか?」

「許すも何も無いよ。ごめんナギア。僕も決めた」

「それはどう言う意味……」


 椅子を移動して、二人の膝が付きそうなくらい、ナギアの正面に座るミツヒ。ミツヒの態度に、これから何を言われるのか上目づかいでミツヒを見る、不安な表情のナギア。

 ミツヒがナギアの手を握る。


「勝手な事言ってゴメン。ナギア、もう一度僕の恋人になってください。やり直しましょう」


 思わず即答するナギア。


「は、はい! 勿論です。ありがとうございます。ううぅ」


 嬉しさのあまり、大粒の涙を流し号泣するナギア。しばらくして、落ち着いた頃に話をする。


「でも、僕の居場所が分かったのはいいけど。ナギアは、どうやってここまで辿り着いたの?」

「うん」


 ナギア曰く、王都ガナリックの南、森からニウルガの樹海に入って歩くこと数日、樹海を抜け切り立った岩山まで辿り着いた。

 岩山に沿って歩いてしばらく、横穴を見つけた。ダンジョンのような洞窟を進んで最短部に着いた。

 何かあるはずだ、と調べていたら、埃を払った跡があり、魔方陣が描かれている。

 他と比べて、まだ新しい跡なので、ミツヒだと確信し、魔方陣に入った。転移したのがわかり、洞窟を抜け街道まで出た。どちらに行けばいいか迷った。

 そこで、街道を行く商人らしき人に聞いて、右がルータの町、左がタモンの村。規模を聞けば。タモンの村が圧倒的に大きく活気がある。

 そこで考えた。ミツヒならタモンの村だろう。タモンの村に着いて検問所で聞いた。

 門番は、村長と同じ名前だったので憶えていたから調べるのは早かった。多分露店でポーションを売っている。

 足早に歩いていくと、ミツヒが座っているのが見えた。


「道のりは僕と同じだね。でも、魔物も多かったでしょ」

「うん、今回はこれを使ったの」


 ナギアは、マジックバッグから空になった塗り薬の皿を取り出した。


「ああ、以前に贈った薬かぁ」

「ええ、この薬に助けられたの。これが無ければ、一人で樹海越えなんて到底無理だったわ」

「ほんとだね、僕も、まさかタモンの村でナギアに再開するとは夢にも思わなかったよ」

「私はミツヒに会いたい一心で来たの。許してもらえるまで謝ろうと……ん」


 ナギアの口を、ミツヒの唇が塞ぐ。熱く、熱く、愛情の籠もったキス。

 椅子から立ち上がり、抱き合いながら、相手を感じながら熱いキスは続いた。

 リードしているのはミツヒだが、ミツヒの背はナギアより低く、ナギアにリードされているようにも見える、が気にしないでおこう。

 納得がいったのか離れる。


「ナギア、好きだよ」

「私もミツヒが大好き」

「ハハハ」

「ウフフ」


 椅子に座り直る。


「お腹すかない? 何か食べに行こうか」

「うん、実は私もそう思っていたの」

「どこがいいかな」

「私、タモンの村初めてだからミツヒに任せるわ」


 ナギアとミツヒは部屋を出て、腕を組みながら、改めて恋人同士に戻って食事に出かけた。


 その夜

 自然の流れで、ミツヒの使っているベッドの上に、ナギアが横になっている。隣にはミツヒ。

 2人共、毛布の中にいるが裸だった。


「綺麗だよ、ナギア」

「ミツヒ、愛してる」


 ナギアの上に、ゆっくり覆いかぶさってくるミツヒ。ナギアも、それを待っていたように唇が合わされる。愛情の籠もったキスが長く続く。

 ミツヒの唇が、ナギアの唇を離れ徐々に下に向かう。

 首筋から鎖骨へ、優しく、優しく。ミツヒの唇は、白く綺麗な双丘に辿り着く。しっかりと上を向く綺麗な双丘。徐々に息も荒くなり、口と手でその双丘に愛情を注ぐミツヒ。

 ナギアも呼吸が荒くなり、嬉しい喘ぎ声を出し、ミツヒの頭を包み込むように抱きかかえる。双丘にうずもれるミツヒ。


「プハッ、ナギア、苦しいよ」

「あ、ゴメン、ミツヒ。興奮しちゃった」


 その晩、ぎこちなくも、きしむベッドの中、ミツヒとナギアは一つになった。


 翌日

 日も昇り始めた頃、ミツヒの腕枕で、顔をうずめ眠っていたナギアが目覚める。横にはミツヒが寝ている。昨晩の事を実感しているようで、ミツヒを見ながら赤ら顔になったナギア。

 ミツヒも目が覚め、目が合う。ナギアから顔を近づけ、唇をミツヒの唇に合わせる。


「おはよう、ミツヒ」

「おはよう、ナギア」


 ミツヒは、体を横にして肘を立て、掌に自分の頭を乗せる。


「ナギア。最高の夜をありがとう」

「恥ずかしいからやめて。でも……私も嬉しい」

「先に起きるよ……ナギアは、何かと支度もあるだろうからね」

「ん」


 またキスをして、ミツヒがベッドを降り、服を着て部屋を出る。

 ベッドで毛布に包まるナギア。


「ウフフ、ミツヒも許してくれたし。ウフフ、良かった。でも、まだ異物があるような感覚があるのだけれど。いつ慣れるのかしら」


 毛布をめくり起き上がるナギア。


「げっ」


 布団の一点を見つめ、固まる。


「ミツヒが言っていた支度って。これ? 見られた? は、恥ずかしいな――クリーン!」


 服を着て部屋を出る。テーブルにはミツヒの作った朝食が出来上がっていた。


「簡単な物しかないけど、朝食にしよう」

「ありがとう、ミツヒ。美味しそう、ウフフ」


 タモンの村の事など、談笑しながら朝食を食べ、一緒にポーションを売りに行く。ナギアは装備を外し、上下一繋ぎの青い服を着ている。

 何かが変わったのか、今まで以上にとても綺麗なナギアだ。

 屋台の上にポーションを並べ終わり、2人で椅子に仲良く座る。察知したのか隣の露店のおじさんが顔を出す。


「お、あんちゃん。仲がいいな、昨日の彼女か? 上手くやんなよ。ハハハ」

「はい、ありがとうございます」


 ナギアも会釈をする。今日も順調に何本かのポーションが売れて行く。

 そこにいつもの如くフロストタイガーのユキナが来る。ミツヒは事前にナギアを奥に座らせていたので、ミツヒに密着して寝転がる。

 ミツヒも椅子を降り、下に直に座っている。ナギアに、ユキナの事を話はしたが、実際に見て驚いている。


「これがフロストタイガーのユキナ。凄いわね、威圧感もあるし相当強いわね」

「うん、僕も初めて見た時は固まって動けなかったよ。ハハハ」


 ユキナの体に抱きつき、顔をうずめてモフモフするミツヒ。


「最近は、ユキナが可愛いくてさ」


 耳だけを動かす目を閉じたままのユキナ。

 ナギアは初めてなので、触ろうともせず観察するように見ているだけだった。

 しばらくして、ユキナがまた子供達に見つかり、往来の中を去って行く。それを追いかける子供達。楽しくも賑やかなタモンの村の日常だった。

 ミツヒは椅子に座り直す。


「ナギア、僕、決めたよ。レ・ヴィクナムの町に戻る」

「うん、私はミツヒと一緒なら何処でもいいわ。今のままでも楽しそうだけど、いいの? ミツヒがいいのなら、私もここで暮らしてもいいのだけれど」

「うん。ユキナと離れるのは少し悲しいけど、僕らも自分の町に帰って仕事をしないとね。家もあるんだし、勿体ないよ」

「そうね、ギルドのポーションも無くなっているから、忙しくなるわよ。いいわ、レ・ヴィクナムの町に帰りましょうか」


 今日の仕事も終了し2人で片付け始める。そこに腕を組んだ村長のミツヒとハネカが現れた。


「やあ、仲直りしたんだな、うん、それがいいよ」

「良かったわね、もう離しちゃダメよ」

「あ、ありがとうございます。ミツヒさん、ハネカさん、ご迷惑おかけしました」


 微笑みながら、二人に会釈をするナギア。冷たい表情は無くなって優しい表情だ。

 村長のミツヒがナギアを見る。


「ハネカも綺麗だけど、彼女も綺麗だな。うーん、いい勝負だよ。イテッ」


 怒り笑いで、村長のミツヒをつねるハネカ。


「ミツヒ、人の彼女に何言っているのよ、全く」


 そこで話を切り出すミツヒ。


「ミツヒさん、ハネカさん。突然ですが、僕、自分の町に帰ります。彼女も来てくれたし、僕の家もあるので」

「そうか、いいんじゃないか? タモンの村は来る者を拒まず、去る者も拒まず。だからさ、気が向いたらまた来ればいいよ」

「ありがとうございます」

「ただ、ユキナが寂しがるな。せっかく君に懐いていたのに。ま、いいさ」

「すみません。色々とありがとうございました」


 村長のミツヒとハネカが去ろうとした時、ハネカが、笑顔の片目で指をミツヒに刺す。


「次にタモンの村に来る時は、彼女が嫁じゃないとダメだからね、ウフフ。元気でね、じゃーねー」


 足取りも軽く、手を上げ小さく振りながら去って行く村長のミツヒとハネカ。


「いい人だな」

「うん、そうね。人も良く、活気があって賑やかな村だわ」

「何か食べてから帰ろうか」

「賛成。散策しようよ、ミツヒ。案内して」


 日も暮れる頃、2人仲良く腕を組んで繁華街に向かったナギアとミツヒだった。


読んでいただきありがとうございます。

すみませんが、数日お休みします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ