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第23話  奈落2

 固まりながら、ミツヒに怯えるように話すナギア。


「ミツヒ、あれはダメだわ。絶対に近寄ったらダメ」

「何がダメなの? ナギア」

「あれはアークデーモンの黒。上位の悪魔、最強の魔物よ。あれ1体で簡単に国が亡ぶわ。私では到底無理。絶対に勝てない魔物よ」

「エルダーリッチやヒュドラよりも強いの」

「雲泥の差よ。あのアークデーモンに比べたら、可愛い魔物になってしまうわ。攻撃魔法を主として、連続攻撃してくるから近寄れないし、スキルなのか、得体のしれない技を出してくるから魔法防御も聞かないわ。私の魔剣ギーマサンカでも、アークデーモンに効くかどうか試した事も無いし。昔、一度だけ見かけた時は、最大の危険を察知して、全速力で一目散に逃げたわ」


 ミツヒは、ゾルガンの町のダンジョンを思い出す。そこまで強いと言う事は、魔物に見えない薬も効かなくなる。推測だが、気配はバレてしまうだろう。もしかしたらもう……。

 あえてその事はナギアには言わない。

 そして、ミツヒは決心する。一度死んだかもしれない体だから、戦って見よう。ナギアを守るためにも、と。


「ナギア、ここで待ってて。行ってくる」

「ダメッ、行かないで。絶対に無理だから」


 ナギアは、ミツヒの手を引っ張り、手繰り寄せ抱きしめる。


「だったら私も行く。ミツヒと一緒に戦う。私が囮になれば、もしかしたら」

「いや、これは僕に行かせてほしいんだ。ナギア、一度くらい、僕に守らせてくれないか? 恋人としてさ」

「嫌っ、絶対に嫌っ。私も全力で戦う。1人にしないで」


 考えるミツヒ。


「うん、わかったよ、一緒にやろうか。じゃ、ちょっとおまじない」


 ミツヒは、マジックバッグから1枚の綺麗な布を出して。たたむと、静かにナギアの口元に当てる。


「ナギア、ゆっくり深呼吸して」

「ミ、ミツ――」

「ナギア、ゴメンな。まさか、こうなるとは思わなかったろうな。僕もナギアに使うとは思ってもいなかったよ。これは、数種類の薬草を調合して作った、即効性の強力な睡眠薬なんだ。僕は怖がりだからさ、自分で死ぬのも怖いし。もしもの時の為に、自分用で持っていたんだけどね。耐性のあるナギアの事だから数分で目が覚めるかな。よし、行って来るよ」


 ミツヒは、静かにナギアを岩壁にもたれ掛け、アークデーモンに向かう。走って行き、エルダーリッチと戦った時と同じに左右に往復しながら近寄る。


「気配でわかるぞ、男だな。耐性か? 気配遮断か? そこか?」

「ファイアボール」

「ファイアボール」

「ファイアボール」


 アークデーモンが、紅蓮の炎の球を放ってくるが、ミツヒの走り抜けた3m程後ろに轟音と共に着弾した。


「うわ、やっぱり感じるんだ。エルダーリッチより察知が早いな」


 危ないと感じたミツヒは、さらに速く走り回り、近寄って行く。

 アークデーモンは、両手を前に出す。


「しぶといな。何のまじないか? これで最後だ」

《炎の魔人との盟約を果たせ、ヘルフレイム》


 燃え盛る黒い炎が出ると、轟音と共にミツヒに向かって飛んで来て、すぐ後ろで広がり、岩も真っ赤になる灼熱の範囲魔法。走り抜けたので辛うじて直撃は避けたが、ヘルフレイムの範囲に捕まってしまう。

 周囲の岩も溶け始めるが、ミツヒの身に着けている魔法防御のチェーンが効力を発揮して、ミツヒの回りには炎が無くなって、温度も上がらなかった。

 ミツヒは踏み込んで、アークデーモンの胸に、スティレットを突き刺す。

 アークデーモンは、ミツヒの気配はあったが、ヘルフレイムで捕えたと思い込み、一瞬の判断が遅れる。


「エイッ」

「な、」

「グッ」


 ミツヒの攻撃を避けきれず、スティレットが胸に突き刺さる。

 ミツヒのスティレットから、魔方陣が出る。

 しかし、アークデーモンは粉砕されない。しかも、自身からも、対抗する魔方陣を出して抵抗する。

 ミツヒは、さらに力を込めるしか出来ないので両手に力を込め、押す。スティレットが、アークデーモンの背中を突き通す。それが功を奏した。

 ミツヒのスティレットから、魔方陣が大小色鮮やかに何層にも重なり展開される。抵抗していたアークデーモンも魔方陣が粉砕され、力尽き片膝が落ちる。

 ミツヒのスティレットが、アークデーモンから抜ける。展開されていた魔方陣が一つに重なり、アークデーモンの頭上から降り、その体を通り抜け岩の床に展開され動けなくなる。


「初めてだ、よくぞ我を倒したな、褒めてやる。だが、我は消滅などしない。世の均衡を保つために、数千年見定め、生きながらえる種族だ。しかし、お前が倒したのも事実だからな。褒美に、お前の望みを一つ叶えてやろう」

「――地上に帰りたい」

「我を倒したのに、望みはたった、それだけか?」

「それだけです……2人分」

「あーはっはっはっ、面白い奴だな。いいだろう、その望み叶えてやる」


 ミツヒは、ナギアを抱きかかえ、アークデーモンの前に連れて来る。


「気配は目の前にするが、何処にいる」

「一人を抱えて、目の前に立っている」

「我の懐に入れ、大丈夫だ嘘は言わん。お前の魔方陣も効いているしな」


 ミツヒには、スティレットから、信じろ、と言っている感じがしてきたので、アークデーモンの懐に入る。

 展開されている魔方陣の一つが消え、アークデーモンはミツヒとナギアを抱きかかえる。

 背中の黒く大きな翼を広げ宙に舞い、上昇して行く。しばらく上昇し、眩しい地上に出ると、ミツヒとナギアを草の上に下す。

 ミツヒはナギアを静かに寝かせ、マジックバッグから布を取り出し、顔を拭く。見えるようになって、アークデーモンもミツヒを認識する。


「面白いまじないだな。我も知らん術だ。ふむ、して、お前の名前は?」

「ミツヒ。乗せてくれてありがとう」

「礼はいらんよ。それともう一つ。我を縛っているお前の魔方陣が厄介でな――この魔石を持って行け」

「これは?」

「お前が我を必要とした時に、一度のみ我を召還できる魔石だ。その時だけはお前の要望をかなえよう」

「いま、叶えてもらったよね」

「それは、我を倒したお前の希望だ。これは、お前が掛けた魔方陣を解くために必要な事だ。召還術を使って、お前の要望を叶えれば、我に掛かっている面倒な複数の魔方陣の術式が解かれ、解放される。誰が創製したんだか、全く面倒な魔方陣だ。必要な時は、魔石を下に置き、お前の持っているスティレットで突き刺すと、召還の魔方陣が展開され我が召還される。誓約は厄介だが、奈落で待つとしよう。では下に帰るとする」


 アークデーモンは大きな翼を広げ、魔方陣と共に飛び込むようにムーの底に帰って行った。ミツヒは、また顔に薬を塗り直し、ナギアの寝顔を見ていた。

 ナギアの目が覚め、初めてミツヒを睨むがすぐに緩む。


「ミツヒ、私に何をした。黙って行こうと……あれ? ここは?」

「戻れたよ、ナギア」

「え? ええぇ? ミツヒ、どうやって?」

「ハハハ、話せば簡単、詳しく話すと長くなるからさ、帰りながら話すよ」


 ナギアの手を取り引きお越し、続けてミツヒが言う。


「さ、立って、ナギア。帰ろう」


 ルベドの樹海の中を、何事も無く腕を組み歩く。魔物の横を通り過ぎ、どうやってミツヒが、地上まで戻れたかを、ゆっくりと噛み砕いて、ナギアに話しながら帰って行く。

 驚いてはいたが、ダンジョンから始まり、頼もしくなってくるミツヒ。今までの行動を知っているからか、すぐに納得し、ミツヒをさらに見惚れているナギアだった。

 途中日も暮れ暗くなると、肩を寄せ合い、お休みのキスをして野宿をし、明るくなると歩きだし、森を抜け街道に出る。

 恋人同士のナギアとミツヒは、腕を組んで歩き、楽しそうに談笑し、誰もいないので、時には唇を重ねた。宣言したミツヒも、これからは、ナギアと付き合っていくために、もっと堂々としないと。と、思っているようだ。

 王都ガナリックに帰って来た。城門でガウナー候を呼んでもらうと、眼を大きく開き、幽霊ではないか? と思われた。

 肝心な部分は煙に巻いて、簡潔に話し、さすがに魔物に乗せてもらった、など言える訳も無く、どうやって地上まで登って来たかは、2人共覚えていないという事にした。一緒に同行した討伐隊には、生存を連絡してもらう。

 レ・ヴィクナムの町にも、行方不明と連絡してしまったが、すぐに訂正してもらった。

 その日は、ガウナー候の計らいで、王都ガナリックの高級宿で泊まり、ナギア念願の、ミツヒと一緒の部屋で泊まれることに感激していた。

 勿論ベッドは別だったが。数日ぶりの美味しい食事をしながら談笑し、楽しいひと時を過ごした。

 翌日、王都ガナリックを出て、澄み渡った青空の下、顔に当たる風が気持ちいい街道を、2人乗りの馬車に揺られ一路レ・ヴィクナムの町に帰える。

 ナギアにとって、ミツヒにとって、この討伐で起こった事は、忘れられない一幕になっただろう。

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