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第20話  親衛隊

 討伐から帰ってからは、ミツヒは薬草採取と家の往復で、毎日ポーションを作り続けている。ナギアは、1日開けてから依頼を受け、出かけている。

 日も高く上がり、天気も良く、清々しい、そんなある日。誰もいないギルドに、3人の女性パーティが入って来る。ギルドマスターの部屋に、飲み物を持って行っていたマレレが気が付き、早足で受付に座る。


「新しい受付になったんだな」

「はい、マレレです。よろしくお願いしまーす」

「討伐完了してきた。証明書だ」

「はい、拝見します。はい、お疲れ様でしたー。長期間の討伐ですね、少しお待ちくださーい」


  マレレがギルドマスターの部屋に行き、長期討伐の完了を伝え、カルバンを呼んでくる。カルバンは、出立の時を見送っているので、そのパーティを知っている。

 3人とも身長160センチ程で、腰までまっすぐ伸ばした、赤髪のカルア、青髪のミルカ、金髪のテオナ。装備も黒く、剣も黒い。いわゆるナギア親衛隊だ。

 部屋から出てきたカルバンは、帰って来た3人を労う。


「おお、無事帰って来たな。カルア、ミルカ、テオナ。元気そうで何よりだ」


  赤髪のカルアが、カルバンを見て胸を張り、にこやかに挨拶をする。


「お久しぶりです、カルバンさん。ただ今帰りました」


  カルバンは、出立時と同じ装備ではあるが、改めて3人の装備を、呆れたように見比べる。


「相変わらず、ナギアそっくりだな」

「勿論ですよ。で、ナギア姉さんは依頼ですか?」

「ああ、今晩には帰って来るんじゃないかな」

「了解しました。遠征の話もありますが、今、腹減っているんで、外で飯食ってきまーす」


3人は、踵を返してギルドを出ていった。


午後になり、ギルドは数人の冒険者がいる程度で、まだ閑散としている。その一角のテーブル席で、カルア、ミルカ、テオナ、そしてカルバンが、今回の遠征を振り返って話をしていた。

そこにポーションを持ってきたミツヒが入って来て、受付に座っているマレレに、いつもと同じく挨拶をする。


「こんにちは、マレレさん。ポーションの補充に来ました」

「ご苦労様でーす、ミツヒさぁん」



ポーションの瓶を、手慣れた感じで並べて行く。暇なのか後ろからミツヒを見ているマレレ。ナギアがいない事をいい事に、いつもの調子で、ミツヒにちょっかいを出してくる。


「ミツヒさぁん、どうですかぁ? まだダメですかぁ?」


 マレレには背を向けたままで、ポーションを並べながら話すミツヒ。


「マレレさん。まだも何も、ずっとダメですよ」

「えぇぇ? いいじゃないですかぁ、お友達からでいいですからぁ」

「ダメです。またナギアに怒られますよ」

「ううぅ」


 ナギアがいないときは、いつもこの調子だった。そのめげない姿勢は素晴らしいが、もっと他の事に向ければもっといいのに、と、他の冒険者達は見ているが、そこはマレレ。全く分かっていない。

 その会話を、聞こえる部分だけ掻い摘んで聞いていたカルアが、ミツヒを見ながらカルバンに聞いて来る。


「カルバンさん、あの男は何者ですか? 貧弱そうだし、冒険者じゃなさそうだし」


 カルバンも一度ミツヒを見て、カルアに向きなおす。


「ああ、ミツヒだ。ポーションを売っている。だから――冒険者では無いな」


 テオナは黙ってミツヒを横目で見ているが、ミルカが、棘のある言葉で、つまらなそうに話す。


「ふーん、受付嬢に言い寄られて――いい御身分だな」


 何かを感じたカルバンが、3人にくぎを刺す。


「おいおい、ミツヒに何かしようとするなよ。余計な事をすると、ナギアにも怒られるぞ」

「ナギア姉さんが? ハハハ、まさか。あんな弱そうな男に興味あるはず無いじゃないですか。ナギア姉さんは、自分より強い男でないとダメですから。ま、そんな男はいませんけどね」


 カルバンは、ここまでしか言えない。ギルドマスターなので、ナギアとミツヒの関係など、立場上、余計な事は言えなかった。

 ポーションを補充し終わったミツヒは、マレレに確認してもらい出入り口に向かう。カルバンたちのテーブルを一目見て、軽く会釈して出て行った。

 カルア達は、その後もカルバンと話をしていたが一段落し、繁華街へ行く、と言う事でギルドを出て行った。

 ギルドを出たミツヒは、ポーションを積んだ荷車を曳いて来ていたので、帰りがけに、商店で食品や衣服などを買い込んで、カラの荷車に乗せる。向かう先は、施設だ。

 近くまで行くと、子供たちの遊ぶ元気な声が聞こえてくる。ミツヒは荷車を曳いて施設に入る。

 さっそくミツヒを見つけた子供が叫ぶ。


「あーっ、ミツヒ兄ちゃんだーっ」


 その声を合図に、一斉に群がってくる子供達。


「「「 ミツヒ兄ちゃーん 」」」

「おー、相変わらず元気だな」


 子供達の賑やかな中、施設の中から歩いて来る施設長のおばさんの横を、すり抜け遅れて2人の子供が、青い髪と緑の髪を振り乱して走ってくる。


「おー、モンカロとニグーナ。元気になったようだな」

「ミツヒ兄ちゃんが、治してくれたって。ありがとう」


 ニグーナがミツヒの腿に抱きつき、顔をうずめる。ニグーナの顔がミツヒの股間に近く、見方によっては、ちょっと危ないが、背丈がそうなので仕方がない事だった。


「ミツヒ兄ちゃん……ありがとう」

「2人共元気になって良かったよ」


 モンカロとニグーナも、他の子供に混ざって、荷車の差し入れを施設に運び入れる。歩いて来た施設長のおばさんもミツヒにお礼を言う。


「いつも、ありがとうね、ミツヒ。モンカロとニグーナもあんなに元気になって。あの時は、もうダメかと思ったけど……ミツヒのお陰だよ」

「いいんですよ、良かったですね」


 頃合いを見量っていたかのように、緑髪の可愛らしいニグーナが走って来て、ミツヒの手を握り、恥ずかしそうに話す。


「ミツヒ兄ちゃん……あそぼ」

「ニグーナは、相変わらず恥ずかしがり屋だね。ああ、いいよ。遊ぼうか」

「うん……エヘヘ……いこ」


 ニグーナに手を引かれて行くと、他の子供達から「ズルいズルい」とミツヒに群がってくる。ミツヒは施設の中庭で、楽しく童心に帰り、子供達としばらく遊んでいた。

 日も沈み始めた頃、子供たちは施設の中に入って行く。


「ミツヒ兄ちゃん、また遊びに来てねー」

「おお、また来るよー」

「「「またねー」」」

「みんな、いい子だな」


 子供達が手を振り、ミツヒも振りかえす。そして夕日の中、荷車を曳いて家に帰るミツヒ。家の近くまで来たミツヒは、偶然、カルア達3人と出くわした。ミツヒは、3人をギルドで一度見ただけなので、素性も名前も知らない。

 近くをすれ違い、通り過ぎようとしたら、カルアに呼び止められる。


「ねえ、あんた、ミツヒって言うんだろ? あたしはカルア」

「私はミルカ」

「――テオナよ」

「あ……ミツヒです。はじめまして。で、何でしょうか」


 顎で方向を差すカルア。


「ちょっと、付き合いなよ」


 すぐ横の、人気なのい空き地に入る一行。振り向いたカルア。


「ちょっと聞きたいのよ。ミツヒ、あんた、ナギア姉さんの何?」


 ミツヒは、3人の装備を見回して納得する。


「あーやっぱり。その装備と剣。似ているな、と思ったんですよ。ああ、ナギアの友達だったんですか。僕は――」


 何が気に入らなかったのか、ミツヒには分からないが、話を遮られる。


「ああっ?! あんた、なにナギア姉さんを呼び捨てにしてんのよっ! 年下のお前が、許されるとでも思っているの?」

「あ、いや、だからナギアとは――」


 話しも終わらないうちに、カルアの拳が、ミツヒの顔面に飛んで来て、鈍い衝突音とともにミツヒが後ろに転がる。カルアが、ミツヒを殴りつけた。それが引き金となり、カルア、ミルカ、テオナがミツヒを取り囲み、殴る蹴るの暴行を始める。

 力の無いミツヒは手が出せず、嗚咽を吐きながら、丸くなって耐えているしかない。一区切りついたかのように、止める3人。

 手を止めたカルアが、ミツヒを見下して話す。


「ハァハァ、ふざけんなよ、あんた。ハァハァ、年下のくせに。ハァハァ、今度ナギア姉さんを呼び捨てにしてみろ。ハァハァ、これくらいじゃすまないよ」


 目ざとく何かを見つけたミルカは、ミツヒの腕を持ち上げる。


「洒落た腕輪してんね、貰っておくよ」

「そ、それはダメ――」


 鼻血を出しながら顔を上げたミツヒ。

 また拳がミツヒの顔面に飛んで来て、重く鈍い音と共に、ミツヒが転がり、腕輪を取られてしまった。気が納まった3人は、ミツヒに罵声を浴びせ、町中に消えて行く。

 転がっていた体をゆっくり起こし、口から出た血を拭いながら、ミツヒは座り込む。


「イタタッ。何なんだよ、僕が何をしたんだ? アツツッ。ナギアとどういう関係なんだろう。アタタッ。容赦の無い暴力だなぁ。体中が痛いし、顔も腫れてるな、ツッ、血も出ているし。幸運の腕輪も取られちゃったよ。まいったな……それよりナギア……怒るかな」


 痛みに耐えながら、なんとか立ち上がり、痛みのある片足を引きずり、荷馬車を曳いて家に帰る。家に入るとすぐに、傷の塗り薬を痛みのある部分に塗る。

 効果はすぐにでて腫れもひき、傷も消えて、治ったミツヒ。自分の弱さがはっきりわかって、悔しさもあった。

 何故暴行されたのか疑問は残ったが、考えても分からない。起こってしまった事は仕方がない、と、その後はポーションを夜まで作り就寝した。


 翌日

 ミツヒが起床して店を開けると、目の前に、あの3人が店に向かって土下座をしていた。それはそれは見事な土下座だった。

 昨日ミルカに取られた腕輪も、綺麗な布の上に献上するかのように置かれている。その状況に、何が起こっているか分からないミツヒだったが、真ん中のカルアが、頭を地面に着けたまま口を開く。


「ずびばぜんでじた、ビヅヒざん。だいべん、ぼうじわげあぎばぜんでじた」

「「 ずびばぜんでじだぁ 」」

「いえ、もういいですよ。顔を上げてください――え?」


 3人の顔は、拳? で強く殴られたようで、顔中が腫れあがり、眼の周りは青紫色になっていた。装備も昨日と打って変わって、使い物にならないほど傷だらけで、剣も折れていた。

 ミツヒは座って片膝をついてカルアに話しかける。


「もしかして――ナギアがやったのですか?」


 3人が、頭を横に、もの凄い速さで振る。何かにとり付かれたようだ。


「ぢがいばず」

「もういいですよ、腕輪も返してもらいましたから、これで無かったことにしますよ」

「「「 あじがどうございばず……う、ぶぇーん 」」」


 許してもらって安心したのか、両手を目に当て、大泣きを始める3人だった。ミツヒの気が変わらないうちに、と、泣きながら立ち上がり、振り向きもせず去って行く。



 時間は昨晩までさかのぼる。

 ミツヒに警告し、意気揚々とそのままギルドに戻り、テーブル席で談笑しているカルア達3人。日も沈み、辺りも暗くなり始めた頃、ナギアがギルドに入って来ると、いつもの如く受付を睨みながら話す。


「マレレ、依頼完了だ。これが証明書だ」

「はい、ナギアさん、確認しまーす。お疲れ様でしたぁ」


 いつものテーブル席に座ると、久しぶりにナギアを見た、笑顔のカルア達が寄ってくる。


「ナギア姉さん、ご無沙汰しています」

「「 ご無沙汰しています 」」

「ああ、お前達か。久しぶりだな、遠征討伐はどうだった」

「疲れましたよ、しばらくは休みます」

「そうか――ん? ミルカ、その腕輪どうした」

「エヘヘ、綺麗でしょ、戦利品です」


 腕輪を見せびらかしているミルカを横目に、カルアも、さも自慢げにナギアに話す。


「そうそう、ナギア姉さん。ミツヒとかいう、ひ弱な男に、あたし達流の説教をしてやったんですよ。今後はナギア姉さんに、気安く声を掛けるな。馴れ馴れしくするな。って。どうしようもない男ですよ、何の抵抗も出来ない愚図でした」


 ミルカが、自分の腕輪とナギアの腕を見比べるように見て言う。


「あれ? ナギア姉さんも同じ腕輪……しているんですね」


 ハッ、となったカルア達だが、時すでに遅く。立ち上がったナギアの眉間に、深い筋が寄り、切れ長の眼がつり上がり、カルア達に威圧をかけて睨み、怒鳴り散らす。


「きぃさぁまぁらぁっ! ミーツーヒーにーっ! 何をしたぁっ!」


 見ていた他の冒険者達は、あ、これは大事になる、と、とばっちりを受けたくないので、とても素早い敏速な行動で外に出て行った。

 そして、ギルド内でナギアのお説教、と言う蹂躙が始まった。相手が女であっても、情け容赦しない、手加減もしない、冷淡で冷酷で残忍な漆黒のナギアが、そこに現れた。

 攻撃魔法が無いだけマシだったが、謝りながら逃げ惑う、カルア、ミルカ、テオナが順番に、繰り返し繰り返し蹂躙され、ナギアの気が済むまで続いた。

 それはそれは、ナギアの伝説に加えられるほど、大変な騒ぎだった。テーブルが割れ、椅子が壊れ散乱し、壁にいくつもの穴が開き、床にも穴が開いている。カルバンとマレレは、部屋の前でポカン、と口を開けたまま固まっている。

 その一角で、ナギアの前に土下座をしている、ぼろ雑巾のようになった3人がいる。その前を、左右に往復して歩き、見下すナギア。


「お前たちは、このギルドを全部直し、弁償し、終わったらミツヒに謝りに行け。許されるまでは、何があっても絶対に帰って来るな。分かったか?」

「「「 わがびばじだ 」」


 足取りはフラつきながらも、片付け、掃除をし、弁償してミツヒの家に向かった。

 その後ナギアは、どういう顔をしてミツヒに会えばいいか悩み。カルバンに救いをもとめたら、今日は家に帰って明日改めて会いに行ったほうがいい。と諭され、従った。

 翌日、日も高くなった頃、ナギアは足取りも重かったが、ミツヒの家に向かう。


(ハァ、怒っているかな、ミツヒ。どうしたら……いや、素直に謝ろう、それしかない)


 ミツヒの家に着くと、いつもより声の張りも無く、店からミツヒを呼ぶ。


「ミツヒー、いますかー」


 少し待つと、ミツヒが出てくる。笑顔では無い事に、不安になるナギア。

 落ち着いた表情で話すミツヒ。


「おはようございます、ナギア」

「お、おはようございます、ミツヒ……昨日は、私の取り巻きが迷惑をかけました……すみません」


 下を向き、上目づかいにミツヒを見るナギア。ミツヒは、仕方がないな、と笑顔になる。


「別にナギアが謝る事はないですよ。もう、怒っていませんから」

「でも……ミツヒに怪我を負わせてしまって……」


 ミツヒは、大袈裟に体を動かして笑顔で言う。


「ハハハ、御覧の通り、元気ですよ。彼女達なりに何か不満があったのでしょう。確かに、女性の力にしては痛かったけど、薬を塗ったらこの通りです」

「ごめんなさい、ミツヒ……あの……まだ……友達でいてくれますか?」

「勿論ですよ、ナギア。これからも、仲のいい友達です」


 涙目になっていたが、笑顔が戻ったナギアだった。


「丁度良かった。これから食事でも行きませんか? 僕、まだなんで」

「はい、行きましょう。ウフフ」


 2人仲良く、食事に出かけて行った。

 その後、カルア、ミルカ、テオナは、ギルドの資材、備品を弁償したので、カルバンに、回復魔法を掛けてもらい、治った。

 さらにカルバンに、ミツヒの功績、ナギアに続く、ゾルガンの町のダンジョン踏破者、だと教えられ驚き、そんな人に説教してしまった、と恐れ、カルバンに頼んで、またすぐの長期討伐に参加。

 王都ガナリックに向け、レ・ヴィクナムの町を後に、逃げるように出立したのだった。

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