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第2話   ミツヒ

 ミツヒは1人暮らしで、レ・ヴィクナムの町の外れにある1軒家に住んでいる。一つの寝室と居間兼食堂、それにポーションを作る工房と道側に売店。

 ミツヒは、自分で作ったポーションを売って生活している。元々は孤児だったので施設で育ち、働けるようになって色々な仕事をして、やっとの思いでお金を貯め、ポーション作りに必要な物を買い揃えて、この家を借りて住んでいる。

 この家は古い木造で、所々が壊れているが、ミツヒが生活するには十分で、格安の家賃で住んでいる。ミツヒの性格は、温厚で1人が好き、なので、他の施設の人たちとは別行動で働き出し、今は誰とも会っていない。

 ミツヒの体力と魔力は、いたって平均。いや、少し劣るくらいか。使える魔法は、鑑定魔法だが、限定された【植物鑑定】の、単体鑑定と周囲鑑定のみ。

 スキルは【生成】と【精製】で、持っている装備は、皮の鎧とアイアンソード。倒せる魔物は、2体のゴブリンか、上手くいっても1体のオークくらいが精一杯なので冒険者には向いていなかった。ただ、ポーションを作る事に関しては、ミツヒの魔法とスキルは打ってつけだった。

 そのミツヒの工房では、今、毒消しのポーションを作っている。ミツヒが椅子に座って、テーブルの上の皿に、毒消しに使うポイリム草を数本入れると、両手のひらを前に出し皿に向ける。


「精製」 よし、 「生成」


 スキルの【精製】でポイリム草から、純度の高い部分だけの液体を抽出してポイリム草を取り除き【生成】で、皿の中の液体を凝縮してその液体が紫色になると完成。

 小瓶に移し入れると毒消しポーションの出来上がりだ。この製法で作れるポーションは、


毒消し  ポイリム草 ・ 麻痺消し パラリム草

魔力回復 マジリカ草 ・ 体力回復 スタリカ草


毒消し 金貨1枚、麻痺消し 金貨1枚、傷の軟膏 銀貨50枚

魔法回復約5回分 金貨1枚、体力回復全体の2割 金貨1枚


 魔法回復と体力回復は、個人個人の数値の大きさに関係なく魔力は回復魔法にして5回、体力も本人の体力の3割が回復する。

 冒険者は基本パーティなので、回復魔法や毒消し魔法を持っているが、魔力の枯渇など、万が一に備えて数本持っている。その他購入して行く人は、旅の依頼者や町の人が、町の外に出るときに買って行く。

 今現在売れる量は1週間で数本で、瓶などの経費を差し引いて1ヶ月で金貨7枚から8枚程度の売り上げがある。金貨10枚で普通に暮らせるが、質素に暮らせば十分な金額だ。

 ちなみにナギアは、1ヶ月で金貨500枚から800枚を、依頼や討伐、魔石、ドロップ品などで稼ぎ出す。

 ミツヒは新しいポイリム草を数本皿に入れる。


「あと10本くらい作ったら終わりかな」


 ポーション作りに専念していた。ただ、ミツヒはあえて、販売するポーションの種類をそれだけにしていた。

 本来の力を使うと、欠損部の治せるポーションや完全回復出来るポーション、さらに石化解除や呪い解除のポーションも作れた。

 しかし、この時代にそれを作ると、狙われて連れ去られ、奴隷として死ぬまでこき使われるか、間違えれば殺されるのが落ちなので隠している。

 ミツヒの店は薬草採取などで出かけていない時もあり、その間は閉店していたが、以前から買いに来た客から不満を言われていたので、ギルドにポーションを置くようになった。薬草は商店でも売っているが、鮮度が落ち、買うと採算が合わないから自分で採取している。



 今日は、皮の鎧とアイアンソードを装備して、レ・ヴィクナムの町の東に30分程行った場所に森があり、その森の横にある、さほど広くない草原で薬草採取をするために来ている。通常、薬草採取は中々見つからず割に合わないが、ミツヒは辺りを見回す。


「魔物はいないな。よし、単体鑑定! マジリカ草!」


 魔法鑑定すると、ミツヒの目には、草原の中にいくつもの淡い光が、至る所に現れる。それはマジリカ草の生えている場所。さっそくマジリカ草採取を、セッセ、と開始し布袋が一杯になる。


「ふぅ、今日も採れた、採れた。魔物も出なかったし、良かったな。魔物が出ないうちに早く帰ろうっと」


 薬草を持って町に戻る。家に入ると、さっそく採って来たマジリカ草を取り出すと、テーブルに広げ、敷き詰めて並べると、鑑定魔法を唱える。


「単体鑑定! 高純度!」


 ミツヒの目に映るマジリカ草には、純度の高い、俗に言うレアなマジリカ草が、敷き詰めた中に数本だけ、淡く光ってしていた。それを取り分けて別にしておく。

 見た目は分からないが、純度の高いマジリカ草で回復ポーションを作ると、枯渇した魔力が全快する効果をもたらす。これはミツヒが調べた結果分かった事で、この方法は世間には知られていない。

 ただ、それを探すために取り分けたのではなく、出来上がったポーションに効果のムラが出来てしまうので取り分けている。そして作成に入ったミツヒは、皿にマジリカ草を数本入れて、両手のひらを前に出し皿に向け、


「精製」


 と、唱えると、皿の中にある普通のマジリカ草の中から、純度の高い部分だけの透き通った液体が出てくる。そして今度は、


「生成」


 と、唱えると透き通った液体が凝縮され、赤い色になったら完成。そして、1本の小瓶に詰める。大皿や樽などで、まとめて作ることも出来るが、純度が落ちてしまうし、さらに魔力が一気に無くなってしまうので、作れる範囲で1本1本を慎重に作っている。

 採って来たマジリカ草全てをポーションにして、最後に残った高純度のマジリカ草をテーブルに戻し、部屋の壁に設置している大き目の棚から、十数本の高純度なマジリカ草を取り出してきて、テーブルのマジリカ草と一緒に束ね皿に入れる。


「やっと揃ったね。これだけあれば、出来るな」


 皿に両手のひらを向けて、


「精製」


 すると、皿の中のマジリカ草から、ドロッ、とした透き通った液体が抽出され、抜き取ったマジリカ草を取り除き、続けて、


「生成」


 液体が凝縮されると、水に近い液体で、深紅の色になり完成し、1本の瓶に入れる。これが魔力の完全回復するポーションだ。それを棚の奥に隠すように入れると、中には十数本の完全ポーションが並んでいた。これは販売する為では無く、薬草を採って来たので勿体ないから。と、作って見たい。ただそれだけの事だった。

 そして、使用し終わった高純度のマジリカ草は、すり潰して軟膏にし、傷を治す塗り薬、として売っている。ちなみにこの1回で出来る塗り薬は小さく平たい瓶で20数個。高純度のスタリカ草も同じ塗り薬が出来る。

 これもミツヒが調べた結果、使用し終わった高純度のマジリカ草と高純度のスタリカ草を混ぜ【生成】した後にすり潰して軟膏にした塗り薬は、ヒール、と同等の効果があったが、怖くなって一度作っただけで止めた。

 このミツヒの作成したポーションは、中位ポーションとしているが、購入している冒険者の話では、中位より上の上物として、評判は良くなってきている。

 ミツヒが作る事の出来るポーションは以下で色別される。


毒消し    紫  ・ 麻痺消し   黄

魔力回復   赤  ・ 体力回復   青

魔力完全回復 深紅 ・ 体力完全回復 緑

呪い解除   赤紫 ・ 傷の軟膏   白

            傷の完全回復 桃

石化解除は、ポーションでは無く軟膏

石化解除   灰


 作ったポーションを整理していると、小さい鐘の音が数回、店の方からしてくる。それは、店の前に置いてある呼び鈴で、客がミツヒを呼んでいる。ミツヒは、小走りで店に出て行くと、小奇麗な主婦が立っていて、いつも購入しているのか慣れている素振りだ。


「ミツヒさん、塗り薬はまだ出来ないのかしら?」

「はい、あります、出来ました。ちょっとお待ちください」


 先ほど作った塗り薬を、持って来て差し出す。手に取った主婦は大喜びになる。


「これ、凄い効くわねぇ。うちは畑仕事が多いから、すり傷や切り傷を作ってもすぐに治るし、縫うほどの怪我でも、1日で治るからとても重宝するわ」

「それは良かったですね」

「でもなんで、ミツヒさんの店でしか売ってないのかしら?」

「はい、中々採れない薬草ですし、一般には出回っていないんですよ」

「それじゃ、もう一つ買うわ」

「それは勘弁してください。他にも待っている方がいますので」

「そう、仕方がないわね、でも買えて良かったわ。ありがとう」

「はい、ありがとうございました」


 そして、店の前に板に《 塗り薬出来ました 》と書いて立て看板をかけると、人通りも少ない道なのに通りかかる人がそれを見て買って行く。中には1日1回店の前を通って看板が出ていないか見に来る人もいるのだとか。結局、塗り薬はその日に完売してしまった。

 この塗り薬の売り上げは別にして翌日。そのお金で肉や、野菜、衣類などを買い込み、荷車を曳いて自分の育った施設に差し入れで持って行った。施設に入ると、さっそくミツヒを見つけた子供の元気な声がして来る。


「ミツヒ兄ちゃんだー」

「「「 ミツヒ兄ちゃーん 」」」


 ミツヒも、子供たちに笑顔で答える。


「おー、相変わらず元気だね」


 さっそく子供たちが、荷車の荷物を施設に運び入れていると、声が届いたのか、奥から施設長のおばさんが出てくる。


「ミツヒ、いつもありがとうね、本当に助かるわ」

「いいんですよ、大した事じゃないんで。また来ますね」

「ミツヒ兄ちゃん、ありがとー」

「「「 ありがとー 」」」

「おー、またなー」


 ミツヒは、話もそこそこに、施設を後にして、空になった荷車を曳いて家に帰った。


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