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第18話  樹海

 森を進む討伐体。数回魔物も現れたが、ランクS以上の討伐体なので簡単に倒し、順調に進んだ。森も広大で、歩き続けても進んだ気がしない。

 辺りが暗くなってきたので、樹海の手前だが、森の中の一角が、広場のようになっている場所を見つける。周囲の見通しも、さほど悪くは無い事を確認し、ここで野宿をして、翌日朝から樹海に入る事になった。

 その夜、リーダー格の打ち合わせで、ガウナー候が隊列の配置を指示する。


「俺が、中央を受け持つ。ラベルトは左端、ナギアは右端を頼む。その中間に各パーティの配列で行こう」


 ラベルトは腕組みして、問題なく同意する。


「ああ、それでいいよ。ナギアもいいよな」

「かまわない。ただ、ミツヒは何処に位置する予定なのか?」

「ミツヒは中央の後ろにしようと思う。この位置が一番安全だろう」

「ダメだ。ミツヒは私の後ろだ」


 きっぱりと言い切ったナギアに対し、ガウナー候は、ナギアの案を否定する。


「ナギアの位置では、右から来た魔物がミツヒを襲ってくる。ナギアも対処が遅れるのではないか?」

「大丈夫だ。ミツヒは私が守る。絶対に私の後ろだ」


 ナギアの勝手な意見に、納得がいかないガウナー候に、ラベルトが、出立前の談笑していた時に、ミツヒの事を聞いていたので割って入る。


「いいじゃないですか、ガウナー候。ミツヒはガナリック国王の書面を持っているんだし、ナギアに任せて見ては」


 ラベルトの言葉に、ガウナー候も、ナギアを討伐に参加させる為に、ミツヒに頼んだ事を思い出した。


「あー、まあいいだろう。ナギアに任せる。ミツヒを頼む」

「ああ、任せてほしい。見合ったもの以上の事はやるつもりだから安心してくれ」


 その他には、何の議題も上がらず問題も無く解散し、各自は思い思いの場所で就寝した。しかし、ナギアは、なかなか寝付けなかった。

 それは、ミツヒが寝ている横に、背中合わせにくっ付いて寝ているから。ミツヒは疲れたのか、寝息を立てて熟睡している。その横にいるナギアにとって、初めてミツヒに密着出来た嬉しさで、少し興奮していた。


(ああ、いいなぁ、ウフフ。こうしてミツヒと一緒に寝られるなんて。いっそ、ミツヒに向いて寝ようか。あ、でも、もし、目を覚ましたミツヒと目が合ったら……い、いかんいかん。あー、少しくらいなら寝顔を見ながらでもいいか……ダメだダメだ。うーん、寝られない。でも、ミツヒと一緒の討伐は楽しいなぁ、ウフフ)


 ミツヒを横に、ダメダメっぷりを発揮するナギアだった。

 しかし、やることはやるナギア。暗闇から近寄ってくる魔物は、他のパーティが察知する前に、瞬殺していた。唯一同時に気が付いていたラベルトは、片目を開けて――ナギア任せだった。

 翌日の早朝、昨日の隊列で、ニウルガの樹海に入る直前、ガウナー候が、後ろを振り向き説明する。


「これから、ニウルガの樹海に入り、魔物の討伐を開始する。現れた魔物は全て殲滅する事。一団となって進むが、はぐれたり、何らかの事情で見失った時は、野宿をした広場に集合する事。以上、健闘を祈る」


 ニウルガの樹海に入る。森よりも樹木が多く、光は差し込むが、薄暗い。雑草も腰まで生え、動きに支障がでそうだった。

 各1パーティが得意な陣形を取り、横に広がって、中央にガウナー候、左端にラベルト、右端にナギア、その後ろにミツヒが進む。そして、ラベルトがすぐに魔物を発見する。


「おいおい、なんだあの魔物は。この辺じゃ見かけないぞ? レベルが違うな」


 ラベルトが見つめている先には、体長3m程で、青白い筋肉質の肌を持つ、一つ目のギガンテスウォーリアが3体、剣と盾を持って歩いている。ラベルトを始め、左側のパーティが、討伐を開始しようとした時、ガウナー候が正面にいる魔物を発見し、同時に、右側のナギアも魔物を見つける。

 正面の魔物を見据えながらガウナー候が、咄嗟に指示を出す。


「中央、行くぞ! 右はナギアにつづけ!」


 ラベルト達は、討伐を開始している。1体のギガンテスウォーリアをラベルトが受け持ち、残り2体を4人パーティに任せた。ギガンテスウォーリアの攻撃は素早く、盾も上手く使って防御する。

 ラベルトでも簡単にはいかなかったが、そこはランクSS。一瞬のスキを見逃さず、ギガンテスウォーリアを薙ぎ払った。2体を相手にしていたパーティは、ジリ貧で押されていたが、ラベルトが加勢に入ると、すぐに形勢逆転し優位に立ち、攻防も激しかったが、2体とも倒した。

 同時に始まっていた中央は、ガウナー候と、3人パーティが2組。対するは、体長2.5m程で、褐色の肌を持つミノタウロスが棍棒を持って3体。乱戦だったが、ミノタウロスは攻撃魔法が無いので、ガウナー候達が有利に展開する。

 パーティの攻撃魔法でミノタウロスを怯ませ、ガウナー候を筆頭に、剣士と連携し、3体のミノタウロスを切り伏せた。

 右側のナギアと4人パーティ。対するは、体長3m程で、黒い毛で覆われ、鋭い爪と大きな牙を持つ、ブラックグリズリーが4体。パーティの動く間もなく、ナギアは、躊躇なくブラックグリズリーの中に飛び込み、高速回転で乱舞しながら、魔剣ギーマサンカを乱れ切りして、一瞬で片が付き、何事も無かったようにミツヒに戻る。

 ナギアの動きに、4人パーティには何が起こったか、よく分かっていない。

同時に終わって各自が集まり、ラベルトが剣を持ったまま肩にかけ、意見を言う。


「この周辺にいる魔物は、ちょっと強いぞ、いや、大分かな。もう少し固まって進んで大人数で確実に倒して行こうと思うんだが、どうだろうか」


 ガウナー候も、剣を片手に持ったまま同意見で話す。


「賛成だ。多勢に無勢で行こう。俺とラベルトで先頭の左右。後ろに各パーティが2列。ナギアとミツヒは最後尾。これで行こう」


 ナギアは、何も話さないが、その意見に軽く頷く。その後、ゴーレムやキングミノタウロス、スケルトンジェネラルと言った、通常の樹海にはいない手ごわい魔物を初め、ゴブリン、オーク、オーガ、そして、サイクロプスなども見つけ、順調に殲滅して行った。

 ミツヒはナギアに守られているとはいえ、ナギアが、魔物と対峙している時は単身だった。しかし、塗り薬の事も話していたので問題はなかった。

 ミツヒだが、剣は構えていたものの、戦う意思も無い。呑気にしていたミツヒだったが、やはり効果は絶大で、魔物は全く気が付かなかった。

 塗り薬をナギアにも進めたが、感覚が狂うから、それに少ない貴重な物だから、ミツヒだけが使いなさい、と断られた。

ガウナー候も納得する程の魔物を殲滅し、日も落ち始めてきたので、戻りながらも討伐して、森の広場についたら終了。日も暮れて来て野営の準備をし、一夜を明かす。

 その夜も、当然のごとく、ミツヒとくっ付いて寝られる幸せを、ウフフ、と嬉しく噛みしめているナギアだった。

 早朝、討伐隊は帰路に着く。

 森を抜けるまでは、気が抜けないので、各自、神経を尖らせ歩いている。が、最後尾のナギアは、散歩でもするかのようで足取りも軽く楽しそうだ。前を歩いているミツヒに、小声で話しかける。


「今回も楽しかったですね、ミツヒ。ウフフ」


 ミツヒは、ゾルガンの町のダンジョンで同行してから、ナギアの強さに慣れてきている。


「ナギアにしてみれば、楽しいのかもしれませんが、僕は怖かったですよ」

「いつでも私がミツヒを守りますよ。ウフフ」


 森を抜け、街道に出て歩きはじめる。澄み渡った青空の下、他のパーティも安心して気が抜けて、会話も多くなり、足取りも軽く王都ガナリックに向かう。

 途中、ジュウザがミツヒに寄ってくると、ミツヒと楽しい談笑をしていたナギアの眉間に、一瞬、しわが入るが、ミツヒに、誰かが来ても我慢して下さい、と言われていたので、無表情で無言になる。そうとは知らないジュウザは、気楽にミツヒに話しかける。


「なあミツヒ。一つ聞きたいんだけど、ミツヒは魔物除けの魔法でも使っているのか?」


 少し焦ったミツヒだが、魔物の見えない塗り薬を使っている事は言えないので、何も知らない素振りで、はぐらかす。


「いえ、使うも何も、僕は魔法は出来ないですよ。厳密に言えば、使える魔法は、植物鑑定の一つだけです」

「そうなんだ。でも、今回の討伐で、樹海の中でも、ミツヒに襲ってくる魔物はいなかったよな」


 ジュウザは、まだ疑いの目でミツヒを見ているので、ミツヒはナギアを、横目で一目見てからジュウザに話す。


「多分、ナギア……さんに守っていただいていたから、そういう風に見えたのかもしれません」

「そう言えばそうか。ハハハ、なるほど」


 納得して戻るジュウザ。やっと行ったか、と、また顔がゆるみ、優しい笑顔のナギアがミツヒに質問をする。


「ミツヒ。次の討伐にも参加しますか? 私はミツヒと同じにします」

「次は参加しません。ポーションを作らないと無くなってしまうので。ナギアはいつも通り、依頼を受けてください」

「はい、ミツヒ。でも、たまには……また食事に行きたい、と思うのですが」

「そうですね、時間を作って行きましょうか」


 満面の笑顔のナギア。


「はい、是非お願いします。約束ですよ。ウフフ」


 王都ガナリックに着き、ガウナー候が証明書を発行し各自解散、報酬はギルド経由で支払われる。ナギアとミツヒは荷馬車の準備をしていたら、ラベルトが来る。


「よお、ナギア。このまま帰るのか?」

「ああ、そうだ。世話になったな、ラベルト」

「ナギアの世話なんか、これっぽっちもしてないさ。誰がするんだ、ハハハ。それと、ミツヒ。またナギアを連れて来てくれよ」

「はい、またお願いします、ラベルトさん」


 ミツヒがお礼を言うと、ラベルトは、サムズアップをして笑顔で町中に去って行った。

 夕暮れだが、王都には宿泊せず、一路、レ・ヴィクナムの町に帰る。それは、ミツヒが、ポーションの補充が心配だから、とナギアに話し、では、早く帰りましょう、と、ナギアの内心は少し悲しかったが、ミツヒの願いだから、と了承した。

 帰路に着く馬車に乗ったナギアとミツヒ。

 風も無く、星の降るような夜空の下、馬車に揺られ、疲れはあったが、今回の討伐の事など、楽しく談笑しながらレ・ヴィクナムの町に向かう。

 討伐も完了し、また一歩進んだかな、と思うナギアだった。

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