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第16話  受付嬢

 2か月後

 王都ガナリックから帰って来てからは、ミツヒはポーション作りに専念している。王都でもポーションを販売する事で、必要本数が増えたからだ。しかし、ミツヒにとっては、ポーション作りは楽しかった。 薬草採取も、ナギアに貰ったマジックバッグのお陰で、一度に大量に採取できるので、問題無く作れた。どのポーションも良質だと言う事で、王都ガナリックに卸すポーションは、レ・ヴィクナムの町のギルドで売る金額と変わらず、金貨1枚だった。それは、ガナリック王の計らいで、王都では差別化し、ポーションの価格を少し高めに設定していたのだ。

 ミツヒは今現在、とても裕福になりつつある。依頼や褒賞もあったが、それは別として、ポーションの売れ行きが跳ね上がり、当初、月に金貨8枚程の売り上げで始めたが、今では月に30枚程の、売り上げでは無く、純利益が出ていた。

 しかし、ミツヒは今まで通りのスタイルを変えずに生活している。


 ナギアはナギアで、また依頼を受け始め、順調に戻った。あれ以来、ミツヒを信頼しているので、ギルドの掲示板を見ては、依頼を受けている。ナギアの報酬は月に、金貨200枚から400枚になっている。以前より落ちたのは、討伐に出ていないから。討伐は数日かかるので、ミツヒに会えない日が長いから、と拒否して受けていない。


 ミツヒは、何時ものように、ギルドにポーションを補充しに来ている。ナギアは依頼を受けているのでいないが、明日帰ってくる。瓶を並べていると、いつもは無口な受付嬢のルビが、受付に座ったままミツヒに声を掛ける。


「ミツヒさん、お世話になりました」

「いいえ、ルビさん。僕こそ、色々とありがとうございました。元気な子が生まれますように」

「ありがとうございます。落ち着いたら、また戻って来ます」


 ルビは、子供が出来たので、出産と育児で、しばらく休暇を取ることになった。カルバンは、臨時の受付嬢を手配済みなので、ルビも安心して休暇に入った。


 数日後、ミツヒは、ギルドにポーションの補充と、王都ガナリックに送るポーションを荷車に乗せ、ギルドまで曳いて来た。マジックバッグだと人前では見せられないので、日常では、あまり使っていない。王都に送るポーションは、ギルドの入口の横に置いておけば、引き取りに来る事になっている。

 ギルド用のポーションを持って中に入ると、誰もいないギルドの受付には、ミツヒも初めて見る受付嬢がいて、その受付嬢もミツヒを見ている。座っているが、いつも座っていたルビと比較すると、身長150センチ程で、艶やかな緑髪を腰まで伸ばし、愛らしい緑眼を持つ、15歳くらいの可愛い娘。

 スタイルもいいが、その小さい体格に似合わず、たわわ、な物が実っている、元気そうな娘だ。

 ミツヒは、いつもの調子で挨拶をする。


「こんにちは、ポーションの補充に来ました」


 知っているかのような仕草で、にこやかに、目を輝かせてミツヒを見る受付嬢。


「はーい、ミツヒさんですねぇ、初めましてぇ、ルビさんと交代で、受付に配属しました、マレレですぅ。よろしくお願いしまーす」

「初めまして、マレレさん。今後ともよろしくお願いします。僕の事は、もう知っていたんですか?」


 マレレは、エッヘン、と胸を張り、片目を閉じて、片手を肩付近まで上げ、指1本を立て横に振りながら、笑顔で答える。


「勿論、知っていますよぉ。ゾルガンの町のダンジョンを踏破した、有名人ですから。単身で乗り込み、踏破したカッコいい人。って」


 お世辞に慣れていないミツヒは、マレレの言葉に照れてしまう。


「参りましたね、ハハハ」


 ミツヒが、受付横の棚に、ポーションを並べ始める。誰もいないので手持ち無沙汰なマレレが、興味津々で質問をしてきた。


「ミツヒさんは、恋人さん、とかいるんですかぁ?」


 ミツヒは、ポーションを並べながら、マレレに背を向けて話す。


「いえ、いませんよ。っていうよりも、僕は、お付き合いしたことがありません、ハハハ」


 シメた。とばかりに、受付から身を乗り出して、ミツヒに向くマレレ。


「ミツヒさん。私は、どうですかぁ? 恋人にしませんかぁ? ただ今、恋人募集中でーす」


 マレレの言葉を聞いたが、全く動じず、気にせず、棚に向いたまま、淡々とマレレに話す。


「いえ、止めておきます。お互いに知り合ったばかりだし、僕はまだ、マレレさんの事も知らないし」


 自分に自信があったのか、いい返事が帰ってくる、と思っていたマレレ。ミツヒの全く期待外れの返答に、ショックを受け、少し声が上ずる。


「えぇぇ? いいじゃないですかぁ。ミツヒさぁーん」

「僕には、好きな方がいますから、ごめんなさい…………並べ終わりました、マレレさん。ポーションの数を確認してください」

「え? あ、はい。確認しますぅ……」


 マレレは、納得がいっていないようだが、ポーションの数を確認する。その時、入口から、ナギアが入って来ると、受付嬢よりも先にミツヒに目が行き、受付に向かって歩きながら、ミツヒを見つめ、優しい笑顔になるナギア。


「こんにちは、ミツヒ。ご苦労様です。ウフフ」


 ミツヒも、いつもの笑顔でナギアに返す。


「こんにちは、ナギア。依頼完了ですね、お疲れ様です」


 来る時間は聞いていて、知っていたので合わせたのだが、ミツヒに会えて、嬉しそうなナギア。


「ウフフ、ありがとうございます」


 受付まで来ると、無表情に変わるナギアは、新しい受付嬢に向かって、


「お前が新しい受付か? 名前は」

「はい、マレレです。よろしくお願いしまーす」

「ああ、よろしく。依頼を完了してきた。これが証明書だ」

「はい――確認しましたぁ。お疲れ様でしたぁ」


 ナギアが、いつものテーブル席に座る。ミツヒも荷物を整理して、ナギアのテーブルに行こうとしたら、場の読めないマレレが、さっきの話を蒸し返してくる。


「ミツヒさーん、お願いしますよぉ、私の恋人になってくださいよぉ」


 あ、不味いな、とミツヒが思ったとたん、ナギアの表情が変わり、座っていた椅子を音を立てて倒し、立ち上がる。


「おいっ! マレレッ! キサマ、何考えているんだっ!」


 マレレは、怒っているナギアの言葉にも動じず、何言ってんの? という感じで、


「ですから、ミツヒさんに恋人になりたいなぁ。と、お願いしています」

「ダメだっ! ミツヒは……私だっ! ふざけるなっ! ハァハァ」

「え? ナギアさんは、ミツヒさんの恋人なんですかぁ?」

「え? あ、い、いや……と、友達だっ! な、仲のいぃ……」

「では、私も友達から始めましょう。ね、ミツヒさーん」


 日常のナギアは、冷静、頭脳明晰、常に的確な判断が出来るが。ミツヒの事の色恋、となると、てんでダメダメで、判断も出来ない。涙目になるナギアは、ミツヒに悲哀の表情を向ける。


「ミツヒ……ミツヒはどうなんですか?」


 2人の会話に、ミツヒは呆れて黙って見ていたが、仕方がないな。と、ナギアを座らせて面と向かい、自信に満ちた笑顔で説明する。


「安心してください、ナギア。僕は以前、時間を下さいと言いましたけど、ナギアを裏切らない、と約束したでしょう。それに、マレレさんは、休暇のルビさんと同じで、受付の女性です。僕にとってはそれだけです」


 ミツヒの真剣な表情に、嬉しくなるナギア。裏腹に、悲しい顔になり、抗議して来るマレレ。


「そんなぁ、私も友達ですよねぇ、ダメですかぁ? ミツヒさぁん」

「ダメです、マレレさん。マレレさんは受付嬢です。僕なんかより、カッコいい冒険者は、このギルドには沢山いますから、他の方を探してください」

「えぇ? 嫌ですぅ、ダンジョン踏破したミツヒさんが、いいですぅ」


 イラッ、としたナギアは、マレレを睨みつけ、威嚇する。


「おいっ、マレレ。いい加減にしないと、どうなっても知らんぞ」


 マレレは、ナギアの睨みや威圧にも動じず、場の雰囲気も読めない娘だった。さらに諦める、という事も無いようだ。


「スグじゃなくてもいいですよぉ、じゃあ、ゆっくり考えてくださいねぇ、ミツヒさぁん」


 ギリリ、と、キレそうになるナギア。丁度そこに、カルバンが帰って来てナギア達を見ると、一悶着している事がわかる。


「まあ、その、なんだ。新しい受付嬢も来た事だし。ナ、ナギアも頑張れよ。ハハハ」


 早足で入って来て、誰の話も聞かず、逃げるように部屋に入って行くカルバン。

 マレレは、まだ小言を言っていたが、ナギアもミツヒにさとされ、今の話は終わった。もう落ち着いたかな? と思っていた、ミツヒは、まだマレレを睨んでいるナギアをなだめる。


「ナギア、大丈夫ですから安心していいですよ。彼女も悪気はなさそうだし、マレレさんの性格だから、今後も言って来るでしょうけど、そんな事で、いちいち気にしていては、この先、やっていけませんよ」


 ミツヒの言葉に、安心したナギア。しかしナギアは、今後また、他の女が言い寄って来たら、と不安げになり、恐る恐るミツヒに聞いてみる。


「はい、気にしないようにしてみます。けど……ミツヒは他の女性を見て、どう思いますか? 言い寄られたりしたら……」

「僕は、孤児、という偏見を持っていたので、女性を好きになった事はありません。確かに、綺麗だな、とか、可愛いな、と思った事はあります。僕も男ですから。僕がナギアを好きだ、と言った事は本当だし、初めての事です。今はまだ、いい友達ですが、偏見も無くなって、徐々に距離が縮まればいいな、と思っています。だからナギアは、今後は気にせずに、自信を持てばいいんですよ」


 ナギアは、こういう時のミツヒが頼もしく思え、優しい笑顔がもどる。


「わかりました。ありがとうございます、ミツヒ」


 また一歩進んだようだが、どちらが年上か、分からない2人だった。受付に座っているマレレはというと、まだあきらめませんよ、とばかりに独り言を小声で言っている。

 そして、ナギアに、憂鬱な事、がまた増えた日でもあった。

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