表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

第15話  王都ガナリック

 天気も良く、晴れ晴れとした日に、ミツヒは工房で、ひたすら傷薬の軟膏を作っている。


「売れるのはいいけど、すぐに完売になるのが問題だな。在庫の薬草も、そろそろ無くなって来てるし。ミスリルの鎧も出来上った事だし、また、薬草採取に行くか」


 そう思って、再び軟膏を作っていたところに、外から聞いたことが無い男の声が聞こえる。


「御免っ! 誰かいるかっ!」


 誰だろう、と小走りに出て行くミツヒ。


「はい、いらっしゃいませ、なんでしょうか」


 そこに立っていたのは、綺麗な白い鎧を身にまとった騎士だった。外にも同じ格好の数人の騎士が立っている。騎士がミツヒに問う。


「お前が、ミツヒか」

「はい、そうですけど……何か」

「聞きたい事があるので、王都ガナリックまでご同行願おう」

「え? 王都ですか? 僕が?」

「いいから、ご同行願いたい。外にある馬車に乗るように」


 ミツヒは抵抗する事無く、連行されて行った。


 翌日、ギルドには、ミツヒを王都ガナリックに連れて行く、との一枚の書状が届き、内容も書かれていた。しかし、ギルドマスターのカルバンは、その日、出張に出ていたので、訴状を知るのはその翌日、2日後の事だった。

 書状を見たカルバンは、ギルドマスターの部屋で悩んでいる。そうとは知らないナギアがギルドに入って来ると、いつもの如く。


「ルビ、ミツヒは、来たか?」

「いえ、今日はまだです」


 最近は、ミツヒのポーションの売り上げも良くなって、1日おき、時には連日に補充に来るようになっている。そのお陰でナギアは、ミツヒに会えるし、それはそれで嬉しい事だった。

 いつものテーブル席に座っていると、ルビが、申し訳なさそうに。


「ナギアさん、今日、ミツヒさんは来ないかもしれないです」

「ん? 何で分かるんだ、ルビ」


 態度がおかしく、下を向いたまま、ナギアを見ずにいる。


「いえ、何となくですけど」


 いつにもない答えに、何か勘違いしたナギアが、ルビに向かって少し怒った口調になる。


「ルビ! まさか……旦那がいるのに、ミツヒに色目を使って何かをしたのか?」

「違いますよ、ナギアさん。早とちりは止めてください。私からは言えません」

「ルビからは? ああ、秘密厳守か。だったら、カルバンを呼んでくれ」


 ルビがカルバンを呼びに行くと、何故かナギアは部屋に通される。ナギアも分からないようだが従った。奥の机に座っているカルバン。


「ナギア、まあ座ってくれ」


 ナギアがソファに座る。カルバンもソファに移り、対峙して座りため息をつく。


「ハァ、実は、ミツヒの事なんだが」


 その態度にナギアは、また勘違いしたのか、急に怒り出す。


「ミツヒがどうしたっ! 何かあったのかっ! 私はあきらめないぞっ! おいっ、カルバンッ!」

「何怒っているんだよ、冷静になれよ、全く。ミツヒの事となると、どうしてポンコツなんだ。ミツヒが、王都ガナリックに連行されて行ったんだ」

「王都に? 何故? ミツヒは何をしたんだ」


 カルバン曰く、ゾルガンの町のダンジョンが、踏破されたことが王都まで通達が行き、ミツヒの事が知られた。それはいい。その上に、福祉施設の子供が呪いに掛かり、ミツヒが治したと、施設長から聞いた牧師から通達が来た。

 さらに、話は表に出ないが、町の領主の娘が石化して治らなかったが、ギルドで出した特別依頼で、娘の石化が解除されて、嬉しくなった領主が、領主仲間や回りに触れまわって、これも王都まで伝わった。これもミツヒが治したのだろう、と王都は判断した。そう簡単には治せない、呪いや石化が、レ・ヴィクナムの町で、簡単に治せている事がおかしい。

 王都としては、そのミツヒ、と言う男を調べる必要があるから、王都ガナリックまで連行し、役人と一緒にガナリック国王が直接尋問する。

 頭を抱えたカルバン。


「秘密にしていた事が、こんな形で調べられてしまったとは。ナギアは、呪いの事は知っていたのか?」


 半身になって腕組み、足組をしているナギア。


「途中からだが知っている。私もミツヒと一緒に施設に言って、子供の呪いが治るところを見た。その為に、ミツヒは単独でダンジョンに行ったんだ。で、ミツヒは今後どうなる?」

「分からん。このままだと、王都ガナリック直属の薬師、解毒士、回復士とかになってしまうのかもしれん。俺にも見当がつかない」

「なんで見当がつかないんだ、カルバン」

「王都が連行して、事情を聴く。としか、書いていないだろ。ミツヒの今後は、事と次第でどうとでもなるさ。直属の仕事を任されたら、二度と、レ・ヴィクナムの町には帰ってこられないだろうな」

「その仕事。ミツヒが、断ったら?」

「反逆罪で牢獄送りだろうな、それも一生。もしくは、死罪か」


 立ち上がるナギアは、部屋を出て行こうとするが、カルバンが止める。


「王都ガナリックに行っても、簡単には合えないぞ。俺だって、ガナリック国王には直接会った事なんか無いんだから……お手上げさ」

「行ってみるよ、王都ガナリック。一応、面識はあるからな」


 ナギアは一度、家に帰り、正装の装備に着替え馬を調達し、外は暗くなっていたが、レ・ヴィクナムの町を出る。星明りの照らす街道を、一路、王都ガナリックに向かった。

 ナギアは馬を走らせる。


(ミツヒが王都の専属になってしまったら、もう、会えなくなってしまう……それは嫌だ。何とかしなければ……でも、まだミツヒは無事だし、まだ考えようはある。もし、ミツヒの身を、王都が何かしようものなら。ミツヒが投獄、それ以上の事がされようものなら、私は鬼になってやろう。悪魔に魂を売ってやる……いや待てよ、まだ決まった訳じゃないし、そう考えるのはまだ早い。まだ大丈夫だ、今、助けに行く、待っててくれミツヒ。必ず助けるから――)


 早朝には、王都ガナリックに着き、馬小屋に馬を預け、王城も開かないので、食堂で時間を調整してから、王都の城門の門番を訪ねた。


「すまないが、ガナリック国王にお目通り願いたい」

「誰だ。ん? 漆黒のナギア殿か。お約束か何か? 書面状は?」

「いや、無いのだが、先日、連行された、ミツヒについて、と言っていただきたい」

「ミツヒ。か……しばし待たれい」


 門番が、部屋にある魔石を使って、何処かと連絡を取っている。そして戻ってくる。


「お会いになるかは、こちらでは判断できかねるが、入城許可は下りたので、奥に行って聞いていただきたい」


 ナギアは、王城に向かって行く。城門から王城に入るには、周囲を水で張り巡らされ、囲まれた堀に掛かる石橋を渡って行く。王城に入る観音開きの扉は、閉まっているが、ナギアが歩いて行くと、きしむ音と共に扉がゆっくりと開き、王城の中に入ると、ゆっくりと閉まり、閉じる音が聞こえた。そのまま奥に進むと広間があり、そこで少し待たされる。

 ナギアは中央で、直立不動で待っている。そこに、白い鎧で身を包んだ貴族風の男が入って来る。身長170センチ程で青髪青目の精悍な侯爵。


「君が、漆黒のナギアか? 初めまして、私は、護衛騎士団団長のガウナー侯爵だ」


 綺麗で正式なお辞儀で挨拶するナギア。


「ナギアです」

「あ、畏まらないで結構だ。で? ミツヒとやらの事で聞きたいと?」

「はい、先日、王都ガナリックの騎士が、レ・ヴィクナムの町に来て、ミツヒ、と言う男を連行して行った。と」

「ああ、聞いている。して、ナギア殿とミツヒとの関係は? 事情によっては会えない事も無いが」


 ナギアは、ミツヒに会いたい一心で、ガウナー侯爵に、正面を向き姿勢を正し、城内に響き渡る大声で叫ぶ。


「ミツヒは! 私の愛しい人です! 最愛の人です! ガナリック国王に慈悲があるのであれば! お返しいただきたい!」


 ナギアの叫びに、ドン引きしたガウナー侯爵は、両手のひらを、胸辺りに小さく前に出す。


「ま、まあまあ、ナギア殿。興奮しないでくれたまえ。少し試しただけだ。ミツヒは、この奥の客間にいるよ」


 何を試されたのか、よく分からないナギアは、侯爵に連れられ客間に入る。中央にある装飾品のような豪華なソファに、凛々しく座るガナリック王の両隣に数人の役人と、対面のミツヒも座っている。

 その周りに数人の侯爵が椅子に座り、さらにその周囲に十数人の騎士が囲む形で、規律正しく立ち並んでいた。そして、ナギアに向けた拍手が聞こえ来る中を、ミツヒに近寄って行くと、ミツヒは真っ赤な顔をして、ナギアを見ずテーブルの一点を見たまま固まっている。

 笑顔のガナリック王がナギアに話す。


「久しいの、ナギアよ。畏まらず、まあ、座るが良い。ナギアも女だったのだな。よく響いておったよ。ハッハッハッ、試されたの。実は、ミツヒに言われての。ナギアが来たら通せ、と言っておったのだが、ガウナー公がの。ハッハッハッ」


 真っ赤になっているミツヒを見て、察知したナギア。徐々に真っ赤になってミツヒの隣に座り、王都の役人に聞かれたことで、恥ずかしさのあまり涙目になって下を向いた。穴があったら入りたそうなナギア。ガナリック王は楽しそうだ。


「ハッハッハッ、ミツヒよ。で、いつ式を挙げるのか?」


 ミツヒは両手で手を横に振り、頭も一緒に横に振る。


「いえいえ、王様。まだ友達です。まだ考えてもいませんし……これからです」


 小さくなっていくナギア。ナギアの予想に反して、周囲も和やかだった。隣に座っているミツヒは、ガナリック王の前でもしっかりと話をしていたので、恥ずかしかったナギアも落ち着いてきた。事の真相を聞こうとしたら。

 ミツヒ曰く、連行されたと思ったが、馬車も綺麗で連行では無く、客人として来てもらいたい。王都も平和で暇を持て余し、著しい業績を上げたり、話題になっている興味がある者をこうして呼び出し、暇つぶしに付き合ってもらっている。話や質問は、ダンジョン行きと石化解除の話から始まり、呪いの解除の為に再びダンジョンに入り、結果、踏破してしまった事まで。

 そして、話は変わり、レ・ヴィクナムの町で販売している中位のポーションは、以前ギルドマスターのカルバンが、販売しに来た時に調べた。結果、王都では高位に近い上質の物だったので、作り方よりも王都でも売ってほしい。

 ミツヒの話を聞いて、胸をなでおろすナギアだった。

 話の続きとして担当の侯爵がミツヒに問う。


「話が途切れてしまったが、王都ガナリックでの販売はこちらに任せてもらい、レ・ヴィクナムの町のギルドから仕入れる形でいいかの」

「はい、それでお願いします。僕も作れる限度はありますが、見合うようにしてみます」

「頼むぞ。それと、討伐の参加の方も頼むぞ、ミツヒ」

「ええ、畏まりました。よろしくお願いします」

「では、話は決まったな」


 しばらく雑談し、冷酷、冷淡で男勝りのナギアが、ミツヒの前ではお淑やかになる事が判明し、それも話のネタにされたナギアだった。その後、解放され、ナギアも一緒に馬車で送ってもらった。

 帰りの馬車はナギアと2人だけだったので、ミツヒが少し呆れた表情で話す。


「ナギア、また言ってはいけない事を言いましたね」

「はい、さすがに王城の中でしたし、皆さんが聞いていたので、身を持って恥ずかしさを覚えました。今後、自嘲します」


 思い出して、また赤くなり、恥ずかしそうに、下を向くナギア。


「僕もナギアの事は、好きですよ、大好きです」

「ひゃ、ひゃい? ミツヒ。ほ、本当ですか?」

「はい……でも、王様の言った事に対して、もう少し時間が欲しいですね。お互いと言うより僕に……ですけど」

「はい、お願いします、ミツヒにお任せします」

「すみません、こんな僕で。でも、今後ナギアが他の人を」

「ミツヒ。怒りますよ、やめてください。絶対にありません。私もミツヒを裏切りません」

「冗談ですよ、ハハハ。以前のお返しです」

「――ミツヒ」


 少し怒っていたナギアだったが、レ・ヴィクナムの町に着くまで、馬に曳かれ、心地良く振動する高級な馬車の中で、ガナリック国王と侯爵、城内でのやり取りなど談笑するナギアとミツヒ。

 ミツヒに強く言えるようになって、また一歩進んだナギアだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ