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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

みじかいはなし、いろいろ

挙動不審ガール

作者: なつきはるな

 最近、めいのまわりを一人の少女がついて回るようにうろうろしていた。その少女、ゆきは同じクラスの人間で、おとなしいといえばそうなのだが、むしろ暗いといった方がいいタイプの人間で、自分からコミュニケーションを取ろうとすることをしない。そんなゆきがめいのまわりをうろうろしている。

「なにをしているんだろ、ゆきさん」

 ゆきはめいに分からないようにこそこそやっているつもりらしいが、めいは気がついている。なんだかんだで自分の後をついてきているからだ。


 ある日、めいが図書室に入って、適当に本を選んでそれを持って椅子に座って読んでいた。すると扉が開く音がして、めいが音のした方向に視線を向けると、ゆきが図書室に入ってきた。めいが視線を投げかけたのを見て、ゆきはなんだか申し訳なさそうにうつむいて入ってきた。そしてゆきも本を選ん

で椅子に座って読み出した。

 めいは少し気になってその様子を見ていた。自分より離れた席に座って、たまにこちらの様子を見ながら、でもすぐに視線を逸らす、全くなにがしたいのか、本を読みに来たはずだろうなのにこっちの様子をちらちら見て、ゆきは読書に集中していない様子だった。

 こっちをちらちら見て、たまに本に視線を戻して、またこちらを見るゆき、これでは読書に集中出来ない。

 めいは椅子から立ち上がり、読んでいた本を元にあった棚に返して図書室

をでていくことにした。

 図書室を出て教室までの長い廊下を歩く。すると背後から足音が聞こえる、誰かが歩いている。振り向くとゆきだった。

 いい加減どうにかしてほしかった、ちらちら自分を見るのではなくて、用事があるのならきちんと言ってほしい、そうめいは思った。めいは後ろを歩いてくるゆきの方を向いて、そちらに歩を進めた。

「ゆきさん」

 声を掛けるとゆきは驚いたのか体をびくっとさせ、ものすごい勢いで廊下を走って教室に入っていってしまった。

「なんなの……」

 一人残されためいは言った。

 ゆきがなにをしたいのか全く分からない。「したい」なのか、もしくはなにか「言いたい」のかが全く分からない。

 近づきたいことは分かる、けれど反対に逃げようとするのが全く分からない。ゆきが全く分からない。


 声を掛けてみたらゆきが逃げて……それから一ヶ月ほど経った。それでもゆきはめいのまわりをうろうろしていた。図書室に行くと、ゆきが後から入ってくる、これも毎度毎度のことだ。後ろで足音がして振り向くとそれがゆきだっていうことにも慣れてしまった。

 慣れたとはいうけれども、なぜゆきがうろうろするのか未だに分からなかった。いっそのこと正々堂々と私の視界の中に入って、とめいは思った。その方がなにがしたいのか聞けるし、ゆきのことをいろいろ考えなくて済むから

だ。今、ゆきがうろちょろするから気になって仕方ない。

 ある日、めいはまた図書館で本を読んでいた。扉が開く音が聞こえ、本から視線をあげると、ゆきがやって来た。こういうシチュエーションはもう何度目だろう。

 ゆきを見つめると目が合った。するとゆきは視線をそらして横を向いて、書架に手を伸ばし本を手に取って、めいから離れた椅子に座った。めいはゆきを観察するように見ていると、ゆきは本を読みながらめいをちらちら見てきた。視線が合うたびにゆきは視線をそらす。

 なんども視線が合ったりそらされたりして、そのせいかゆきは席を立った。読書に集中出来なくなった、ということはなさそうだ。ゆきはもともと本など読まないでめいをちらちら見ていることが多いから、今日はめいがゆきを見つめていたからいたたまれなくなってしまったのだろう。

 ゆきが椅子から立ったとき、めいも椅子から立った。そして本を抱えているゆきの方に近づいた。

「ゆきさん」

 そう言ってめいはゆきの目の前に立った。ゆきは逃げようと思ったのか、後ずさりをして、転んだ。靴のソールが床のへこみに突っかかったのだろう。思いっきり転んだのか、尻餅をついたらしくお尻のあたりを左手で撫でていた。持っていた本は床に落ちた。

「ご、ご、ごめんなさい」

 ゆきは落ちた本を拾うために立ち上がろうとするが、尻餅のせいでなかなか立ち上がれなかった。

 めいはゆきが落とした本を拾って近くの机に置いて、立ち上がれないゆきの腕を引っ張った。それで立ち上がることが出来たゆきにめいは言った。

「私の周りをうろうろしてるみたいだけど、なにかしたの? 言いたいこととかしたいことがあるならはっきり言って」

 めいがそう言うとゆきは顔を赤くして、めいの腕を振り払って逃げるかのように走って図書室を出て行ってしまった。

 ゆきの行動ひとつひとつの意味が全く分からなくて、めいは腕を組んで「うーん」と言ってうつむいた。ゆきに振り払われた腕はまだその感触を覚えている。ゆきは細い女の子だけど、意外に力があったと思った。掴んだ腕もとても細かった。変に力を掛けたら折れるのではないかと思うくらいだった。

「ゆきさん、一体なんなの……」

 めいはゆきのことを考える。ゆきはただ同じクラスの人間、特別な人だとは思えない。

 ちょっと挙動不審だけど、べつにどうってことはない、そんな人だろう、ずっと、これからも先も。



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