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妖サポートセンター  作者: 銀月


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事件15.元勇者と元聖女とOJT/中篇

 いつものように白妙さんの四駆で現場へ向かいつつ、軽く打ち合わせをする。

 もちろん、“蛇神斬り”を交えてだ。


「斬っても問題なしって認識でいいんだよね」

「むしろ、斬って弱らせたほうがいいかもしれません」


 斬れるんだ、とキラリさんが“蛇神斬り”をまじまじと見つめる。


「銃刀法とか、大丈夫なの?」

「公式には何も斬れないことになってるから。刃がなければただの金属の棒だし」


 棒じゃありません! と騒ぐ“蛇神斬り”をなだめつつ、私は笑う。

 河原で素振りしてるとたまにお巡りさんに聞かれるんだけど、「模造刀で刃がないんですよ」と言えば見逃してもらえた。日本刀だったらそうもいかなかったのだろうけど、西洋刀だし。ついでに言うと、最近、ヘヴィファイトとかいうのが認知されたおかげで、西洋剣術道場みたいなものもあるらしい。

 “蛇神斬り”はちょっと不満そうだけど、没収されるよりいいよねと言い聞かせている。


 ともかく、今回の案件も人里離れた山の中の寒村ということで、現場近くまで来れたのは、夜明けの頃だった。


「サクッとやっつけて、スッキリ爽やかな気持ちでクリスマスとか新年とか迎えたいもんね」

「そうだねー」


 やっかいな案件を抱えたまま年越しとか、勘弁なのだ。



 * * *



 しかし、現地に着いてみると状況がひと筋縄ではいかなくなっていた。


「どうしてもっと早く――!」


 そう言って嘆くのはよぼよぼの爺さんの妖だった。神社境内のでかい杉の木に宿る、木霊の爺さんだった。

 今にも倒れそうな腕で掴み掛かられても困る。


「えっと、かなり最速で来たんだけど……」

「そうそう、おじいちゃんてば、そんなに騒ぐと血圧危ないよ!」


 妖に脳溢血なんてあるのかどうかは知らないけれど、キラリさんが言いたくなる気持ちはわかる。

 そこに、状況を確認しに行っていた白妙さんとニコさんが戻ってきた。


「堕ちたみたいですね」

「めんどうなことになりました」

「――は?」


 堕ちたって、まさか――


「祟り神に引きずられたとか?」

「そのようです。こちらが到着するまで土地神様が抑える約束になっていたんですが、ギリギリ力が及ばなかったようですね」

「え、じゃあ、つまり」

「もう一柱、対象が増えたってことです」


 絶句した。神が堕ちるって、ごくごく希だって聞いてたのに。


「どういうこと?」

「依頼主だったここの祭神さんが、堕ちて祟り神の仲間入りしちゃったってことらしいよ」

「え?」


 軽く説明をすると、キラリさんも唖然とする。


「なので、もともとの依頼の神と、ここの祭神さんの二柱相手にしなきゃならなくなったってことかな」


 まとめて斬って滅っするならそれほど難しくないんだろうけど――

 そんな考えを見透かしたかのように、別な妖が縋り付いた。


「篠沢様はよきお方なんじゃ。元に戻してくださらんか!」


 そんな無茶なと白妙さんを見れば、難しい顔で考え込んでいた。


「篠沢様は、このあたり一体の土地を受け持つ土地神です。もとは山の妖狐が、良い方に力を得て御食津神(うかのみたま)の下位神みたいな扱いになった方なんですよ」

「ええと、なるほど?」

「この地域一帯の信仰を集めたお方なので、滅されても堕ちたままでも非常に厄介なことになります」

「祟り神をどうかした後のバランスも、篠沢様が整える約束になってたんですよねえ」


 白妙さんとニコさんの言いっぷりからすると、だから滅さずもう一度神性を取り戻させて元のポジションに復帰させろということか。

 なんという無茶振りか。

 だいたい、神性とか神格とか、ただの人間にどうにかなるものなのか。


「ねえねえ、つまりどうすればいいの?」


 すっかり置いてきぼりのキラリさんが、首を傾げる。

 ニコさんがうーむとしばし考えた後、ポンと手を叩いた。


「アレですね。まだ堕ちて間もないですし、祟り神と別れさせて浄化すればなんとかなるんじゃないでしょうか」

「クズ男に無理矢理落とされたみたいな言いっぷり! じゃ、別れさせた後はクズ男は潰すの? 後始末ちゃんとしないと繰り返すもんね」


 ニコさんのアレな言葉に、キラリさんが心得たと頷いた。

 白妙さんが「亜樹さん二号ですね」と呟く。どういう意味なのか。


「それ別れさせるのも潰すのも私の役目だよね?」

「やっぱヒカセンらしく俺が助けてやんよってのが勇者だし。大丈夫、浄化は私がしっかりやるから!」

「いや、なんて言うかさ――て、ヒカセンって何?」

「光の戦士の略だって。亜樹さんにピッタリじゃない?」


 思わず「うげえ」という顔になってしまう。

 そんなん目指してないというか、そういうのはもう卒業したい。


「そもそもの話さ……別れさせるってどうやって?」


 まとめて潰すほうが楽だし、祟り神と一緒になって神堕ちして暴れてる元神様を立ち直らせるって、ヤンキー更生させるより難しいんじゃないだろうか。


「土地神といっても元は妖狐ということですし、祟り神の影響を受けやすい下地はあったのだと考えられますね」


 白妙さんが訳知り顔でうんちくを述べるが、うんちくだけじゃ解決はしない。


「だからさ、それをどうすればいいかって聞いてるんだってば」

「祟り神の本体は怨霊という話ですし、弱らせて浄化が定石ではないかと」

「つまり、勇者ちゃんがぶちのめしてヘロヘロになったところを、私が優しく癒やしてあげればいいって感じ?」

「そうですね。亜樹さんの得意分野ですよ」

「なんか言い方……まあ、ともかく、いつものってことはわかった」


 お清めと癒やすのなら任せて! と元気よく請け負う聖女キラリさんに、私は肩を竦め、「“蒸着”」と呟いた。

 全身甲冑姿になってすらりと“蛇神斬り”を抜く私に、キラリさんが「え、すごいかっこいい!」と声を上げる。


「さすが勇者って感じ!」

「まあ、前線は任せてよ――と、その前に」


 私はキラリさんの頭に手を乗せて、いつもの肩代わりの加護をつける。


「何これ?」

「キラリさんが怪我しないように、おまじないだよ」

「へえ? 勇者ってそんなこともできるんだ?」

「私が行った先ではできたね」


 当然だが、勇者だろうが聖女だろうが大筋で使える能力にあまり差はないけれど、その詳細は召喚先次第らしい。

 以前、白妙さんからそんな話を聞いた気がする。

 実際、私のような魔法と剣術両方というのは少数派なのだそうだ。

 “少数派”と言えるほど、元勇者の数はないけど。


 キラリさんの場合は「聖女の役目は世界の澱みを浄化すること」だったとかで、パワーはほぼ浄化特化なのだとか。

 ついでに、キラリさんの行った先では病気も澱みが起こすもので、治癒といってもほとんど病特化の力だったらしい。ゆえに、病原菌やらが引き起こす地球の普通の病気には効かないのだとか。

 せつない。

 今回のようなケースじゃないと、活躍どころが不明すぎる力じゃないだろうか。


 準備はOKと、私は“蛇神斬り”の言う「魔王の気配」がする方向を睨んだ。ここから一〇〇メートルといったところか。人家じゃなくて山寄りでよかった。


「――とにかく、あそこから動かさないで、被害が広がらないようにしないと」

「あ、それなら任せて!」


 目立つって人目に触れてしまうと後始末が面倒だ。何より始末書書かなきゃならなくなってしまう。

 そんなことを憂う私のつぶやきに、キラリさんがVサインで応えた。何を任せろと? と思った瞬間、キラリさんが人差し指を立て、「えーい」と腕を振り上げる。


「結界張ったからもう大丈夫。外には出られないよ!」

「これは見事ですね」


 ドヤ顔のキラリさんに、白妙さんが感嘆の声を漏らした。星空に紛れてはいるが、よく見ると小さな光がキラキラ瞬いている。


「あの辺中心に、だいたい半径一〇〇メートル弱ってところかな。最大強度だから、一時間くらいなら保つと思う」


 聖女召喚というのは、なかなかにすごいものである。

 いや、すごくなきゃ聖女とか呼ばれないのか。


「じゃあ、あとはいい感じにボコって弱らせればいいのかな」

「くれぐれも、篠沢様は滅さないようにお願いします」

「わかってる、任せて」


 あの結界は妖には越えられない、らしい。

 この先へは私とキラリさんだけで向かうことになった。

 篠沢様も、生きてさえいればキラリさんがなんとかしてくれる。

 気負いはない。


「キラリさん、行こう」

「はい!」


 元気よく返事をするキラリさんの手を取って、私は走り出した。


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