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妖サポートセンター  作者: 銀月


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事件15.元勇者と元聖女とOJT/前篇

 安藤姫星(キラリ)は元女子高生の元聖女である。

 両方に元が着くのは、現在は高校中退のうえに聖女の地位も投げ捨てたからだ。

 ちなみに“姫星(キラリ)”という名前は娘誕生に舞い上がった父母の渾身の名付けであるが、キラリ本人は「クソが」と思っている。

 通常「安藤きらり」と名乗ってはいるが、何かのはずみで名前の漢字を見られるたび、「ああ……」と何かを察したような微笑みを相手が浮かべるまでがいつものことなのだ。

 そのうち絶対「きらり」に改名しようと心に決めての、「安藤きらり」の名乗りなのである。


「ねー、ニコさん、寮って元勇者さんがいるし、その人がOJTもやるって聞いたんだけど、どんな人?」


 まさかイケメンじゃないよな。そういう念を込めて、キラリは傍らの自分担当だという妖サポートセンターの職員、ニコを見上げた。

 ちなみに、ニコは北方ロシア出身のスラブ系イケメンでヴァンパイアという触れ込みである。ヴァンパイアとか出身とかが本当かどうかは知らないが、キラリとしてはどうでもいい。

 それよりも、顔がいい男がとにかく気に入らないし信用できない。

 ゆえに、キラリはニコに対して不信感をバリバリに抱いている――が、公私を区別できるタイプだったので、そこはそれとして、キラリは仕事に関してならニコを信用してもいいことに決めている。


「年齢はキラリさんの少し上で、少々乱暴ですが、めっぽう強いそうです」

「へえ-。でもさ、社員寮なのに男女別じゃないんだ?」

「ああ。男性社員は庭の離れを自室にしているそうですし、母屋には管理を兼ねて雛倉様という竜神様の神使がいらっしゃいますから、そこは大丈夫ですよ」

「ふうん」


 実家を出て就職したものの、まださほど経っていないキラリは、寮が気に入らなくても出て行くための貯金がない。その元勇者がイケメンだったらヤバいな、最初にガツンと行って優位を取らないとダメかな、なんてことを頭の片隅で考える。

 何しろ、異世界帰りの元勇者な男とか、ハーレム上等なクズの代名詞しか思い浮かばないのだ。そこにイケメン要素が加わったりしたら、絶対目も当てられないほどのクズ確定に決まっている。


 が、そんなキラリの予想はいい方向に外れたのだった。



 * * *



「こんにちは。ええと、安藤きらりさん、だっけ。元聖女って聞いてるけど」

「あ、どうも、キラリです。そうです、元聖女です」

「私は元勇者の桜木亜樹です」


 自己紹介しつつ元聖女とかいう新人キラリさんは唖然としているようだった。まあ、大抵の場合は元勇者と聞いて男を連想するようだから、しかたない。


「キラリさんの部屋は用意してあるから、あとで(さざなみ)さんに聞いてね。あと、離れの車庫は魔窟に魔改造されてるから、あまり近寄らないほうがいいと思う」

「魔窟?」

「そう。それから、北側の仏間には見えないお婆ちゃんがいるから、そういうの怖かったらあまりいかないほうがいいかな……まあ、なんというか、穏やかだし、普通のお婆ちゃんみたいに一緒にお茶飲んだりできるけど」

「ええ……」

「それから、この家古いし、建具が全部ふすまなので、貴重品は鍵のかかるキャビネットとかに入れてね。まー、長ちゃんが防犯結界とかせっせと作ってるから、心配ないと思うけど」

「わかりました」


 結界? と首を傾げつつも、キラリさんは頷いた。

 長ちゃんはああ見えて一応優秀なので、この家の防犯設備の充実をしっかりお願いしてあるのだ。

 何しろ、若い女子が住んでるわけだしね。


 荷物を置いてもらった後にも、雛倉さんたちやレフくんを紹介したり風呂のルールやらを説明したりしているうちに、あっという間に一日が終わってしまった。




「で、歓迎会の宴会したいところなんだけど、明日から仕事なんだよねえ」


 午後遅くにやってきた白妙さんを横目でじろりと見ると、いつものうさんくさい笑顔で「ええ」と頷いた。

 普通、数日置いて馴染んでから仕事に入るものじゃないのか。


「なる早でと言われている依頼なので、あまりのんびりはできないんですよ」


 座卓に広げた資料を覗き込んで、私は溜息を吐いた。

 どうみても厄介としか思えない案件なのに、OJTとかいって新人連れて行くのはどうなんだろうか。


「祟り神の封印って書いてある……?」

「はい。古いため由来があまりはっきりと伝わってはいないようですが、祟り神なのは間違いないのだそうです。

 元々は、その地域で信仰されている神が管理していらっしゃったのですが、氏子がもうほとんどいなくなってしまったとかで、かなり弱っておられまして、自分がまだ動けるうちに再封印をお願いしたいとのことなのですよ」

「はあ……」

「あー、だから聖女キラリさんの出番なんだ?」

「そのとおりですね」


 元聖女のキラリが得意だったのは、浄化とか封印とかそういうものらしい。

 何しろ、異世界にかっ攫われてやらされたのが、ナントカいう魔物の封印と浄化だったのだ。今も聖女としての力は健在で、その手の案件ならどんと来いというパワーの持ち主らしい。


「神様なのに魔物扱いしていいの?」

「魔物だろうが石ころだろうが、崇めて祀って拝んで神に仕立て上げるのがこの国の人間ですから、問題ありませんね」


 困惑しつつ尋ねたキラリさんは、返された白妙さんの言葉に、「そういうものなんだ」と無理矢理納得したようだった。

 キラリさんのその感覚はわからないでもない。

 とはいえ、爺ちゃん宅の裏山にある神社の大石様なんて鬼を封じた岩をご神体にしてるのだし、そういうものなんだよね。


「じゃあ、今回の私は聖女様の護衛って感じ?」

「基本はそうです。ただ、再封印が困難であれば滅するほうへ方向転換もありですね」

「了解。ちゃんと許可はあるんだよね? パワーバランスとかは大丈夫なの?」

「もちろんですよ。パワーバランスも、もし滅することになれば土地神と力のある妖たちでなんとかすると言質も得ています」


 言質取ったから後は知らんとも聞こえるな――とは思ったけれど、私は口に出さなかった。

 というか、あまり穏やかではない状況にも感じられるのに、新人をいきなりぶち込んでいいものだろうか。私だけなら滅する一択になってしまうから、しかたないのか。


「出発は今夜半過ぎになりますから、それまで仮眠を取ってくださいね」

「はいはーい」

「はい」


 白妙さんはニコさんともう少し打ち合わせがあるということで、私とキラリさんだけが準備すべく各自の部屋へ戻った。



 * * *



「ええと、アキさん?」

「ん?」


 それじゃあとで、と自室のふすまを開けたところで、キラリさんが私の服の裾を引っ張った。


「大丈夫なのかな。神様って、魔物よりずっと強いでしょ?」

「あー、それはまあ、ピンキリだと思うわ」

「ピンキリ?」

「なんか、出自とか信者の数とか権能とか、そういうので強さは決まるみたい。今回、祟り神っていうから元は怨霊とかじゃないかな」

「怨霊……!?」

「大丈夫。祟り神なら幽霊とは違うからイケる。怖くないよ」


 キラリさんを安心させるように、私はにっこりと笑った。


「あとで私の心強い相棒も紹介するから。“蛇神斬り”に斬れないものはないし、魔王なんか恐るるに足らずだよ。私も全力で護衛するし、大船に乗った気持ちで行こう」

「――はい」


 初案件がまさかの祟り神封印とかで、キラリさんも緊張しているんだろう。だが、この勇者アキがついているのだ。任せて欲しい。


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