第零話 運の尽き
彼は天才だった、頭は良いし、運動神経も良い、ルックスも悪くない。
全てが完璧という訳ではないものの
人間が持つ基礎的な物のほぼ全てが平均を大幅に上回っていた
だが運が悪かった。
クズな人間、クズな学校、クズな職場。
どんなものでもロクな目には遭わなかった。そんな目にあいながらも持ち前の高い能力で乗り切ってきた。だかそんな彼も
たった一つの不幸で一つしかない命を落とす事になる・・・・・・。
時は夏、太陽の日差しが皮膚を少しずつ焼いていき、苛立ちすら感じる蒸し暑さ
とセミの音・・・。「彼」 刻阪真人(25歳)
はそんな夏の夜、働いている会社の仕事が終わり、自宅へ帰路につく所だった。
「……ハァ……」
自宅への帰り道にいつも思うのは自分の薄幸さである。
「今日も怒鳴られたよ……畜生……」
そんなことを呟きながら
自分と仕事の上司へ苛立ちを感じながら帰路につく。こういった事が
彼にとっての「当たり前」である。
家に着き電気をつける。
「ただいまー……」
誰もいもしないのにそんな事を呟く。
自分でも分かっているのに、まだ実家に居た時の癖が治ってないのだろう。
帰りの途中で買ってきていたコンビニ弁当を手早く温めて食べ物を掴んだ箸を口に運ぶ、なんとも言えない味だ、少なくとも不味くは感じない。
この味には慣れている為、良くも悪くもなんとも思わなくなっていた。
食べ終わると弁当の皿をゴミ箱に放り込み風呂に入って
後の事を済ませる。
「暇だしずっとやれてなかった積みゲーでもするか」
その日はゲームをして暇を潰ししばらくして就寝した。
暑い、目が覚めた時に感じた第一の事はそれだった。
「今日は休日だったよな……適当に散歩でもするか」
することも無いので家にいるより適当にぶらぶらする方が気分転換にもなるだろうと思い行動に移す。
「い゛っっ!?」
服を着替えようとしたら、まだ完全に覚醒してないのか
タンスの角に小指をぶつけてしまった。
「いってーな……くっそ……マジで」
まぁいつもの事なので、彼はたいして気に止めることもなかった。
服を着て、用意をして家を出る。外に出ると、暑さがより一層増す。
都会の人ごみと眩い日差しによって今からでも家に戻ろうかと思考する。
だが出たからには多少たりとも外に出ないと、ただの引きこもった休日になってしまう。
・・・・・・まぁそれも悪くはないかもしれんが。
人ごみに紛れながらぶらぶらと横を見たり上を見たり……そんな事をしていた。
「ぎゅるるるる……」不意に腹から音が鳴る。
そういや俺朝、飯食べてなかったな。俺はふとそんなことを思い出し近くにある
コンビニに立ち寄ろうとした。
「金・・・あるよな?」
俺は持ってきたはずの財布をポケットに手を入れて確認する。
「……無い……」
いくら探しても財布は無い、ふと辺りを見渡す、すると、なんと車道のど真ん中に落ちていた。
マジかよ……早速、間違えたら即死級の危険が目の前にあるんですけど。
とりあえず信号機に近づく、そしてそこで見たものは赤信号の車道を
携帯を見ながら
通っている一人の青年が居た、そして横からは大型トラックが迫ってきていた。
っ!?あ、危ない!俺は咄嗟に車道に飛び出し青年を向かいの歩道に突き飛ばす
「あっ」
トラックがこちらに迫り、ぐちゃりと嫌な音を立て、彼を引きずりながら停車する。意識が遠のき
目が霞む、サイレンの音が聞こえるとともに次第にまぶたが重くなる。そして、目を閉じた。
ここはどこだ?俺は一体……。辺りを見渡すと一面が白と黒の部屋
であることが分かる、奥には華美な装飾を施された豪華な椅子があり、
その横に小型のテーブルが置かれている。
そして自分も奥にある椅子ほどではないものの豪華な椅子に座っていた。
「刻阪真人さん」
不意に背後から何者かの女性の声が聞こえてくる。