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ホーリーエピック  作者: シロクマ周介
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決意

現実となんら変わりのない鮮やかな青空がこの仮想世界を覆うように広がっている。

そこにはイーアグルという喧騒した街並みがプレイヤーの手によって造られており、その街並みを今、遥か上空から見下ろすように眺めている。


「これががイーアグルの街ですか」


イーアグルは数ある街の中でも栄えた街だと言える。

なぜかといえばそれはここら一帯がモンスターが生成されないように沸き潰しが施されており、比較的に襲われる心配がない街であった。

一般にモンスターは暗いところでしか発生しないという特性があり、光源があればそこにはモンスターが生成されないという仕様が備わっていた。

その代わり、この地域特有のモンスター『ダークゴーレム』が稀に現れるという事例がホーリーエピック内のメディアによって証言されている。


「ああ、この世界でも屈指の人通りを誇る街なんだ」


今はイーアグルを象徴するタワーにいる。その最上階からはイーアグルの街並みが一望でき、観光目的の人で入りも尋常じゃない。


「あ、アレだ! 居たぞ!」


相太は指で指し示しながら慌てふためくように声を荒げた。

指で示す方向を目を凝らしてみると、大きな黒い人型の塊が道路の真ん中を周囲の時間が遅緩(ちかん)しているかのように錯覚するほどゆっくりと歩いていた。


「あれは何なんですか?」


アルフは目を大きく見開いたままハルの方を向いた。


「あれはゴーレムだね、よし目標も見つけたことだし行きますか」


ハルは物悲しそうに目を閉じると窓ガラスに背を向けた。





野次馬たちを押しのけ黒の巨体に向かってひた走る。


ゴガァァァァァ


奇怪な鳴き声が不快音として街に鳴り響き、周囲の野次馬は片目をつぶり耳を抑えていた。その鳴き声だけでも人々に多大なる恐怖を与えている。

しかし鳴き声だけにとどまらずゴツゴツした岩肌が積み重なってできたようなボディーはドシンドシンと地響きを立ててこちらへと向かってきた。


「だ、大丈夫なんですか!?」


アルフはピリピリとした緊張感とともに心臓が早鐘(はやがね)のように鳴っていた。


「ホーリーエピック人生の綱渡り的な僕から言わせてもらうとこんなのはまだまだ序の口だよ・・・・・・たぶん」


その自虐的な言葉に苦虫を噛み潰したような顔をしていると後方から山形(やまなり)に矢がダークゴーレムを襲った。


「ん?」

「あれはティー君の矢だね」

「分かるんですか?」

「そりゃわかるさ、ロビンフットとまで謳われたティー君の矢は他の人の矢と比べて一目瞭然だよ」


後ろを振り向くと少し離れた建物の屋上に小さな人影を発見した。弓を持ってることから察するとあれはティーだろう。

アルフは恍惚の表情でティーを見つめていた。


「アルフ君、前!」


大きな破裂音とともに石で舗装されていた道路は大きなクレーターが空いた。


「ちゃんと前見とけ、馬鹿!」


相太の怒号が飛ぶ。しかしすぐに話を切るとアルフの(えり)を掴み後方に数メートル飛んだ。

アルフの視界はすぐさま黒い岩のようなものに覆われ『死』を連想させた。

相兄が助けてくれなかったら即死だった。

そんな恐怖に怯えながらもその場から少し後ずさりをする。


「アルフ、こんなこと言いたくないが戦わないんだったら退いとけ、邪魔だ」


そう言い捨てると相太は想像を具現化させたように手の周りに光を纏わせゴーレムの元へとを突っ込んでいった。


「そうたさん!!」


相太の手からは白銀の大きな刀身が現れた。


「アルフ君、よく見ときなさい。フレイナル一の大剣使いと謳われる所以を」


相太は両手に構えた大剣を(なび)かせながら、ゴーレムの膝を切り刻んだ。

しかし相手は硬質な岩。簡単には刃は通らなかった。


「やっぱり、剣ではどうすることも」


アルフは弱々しい声で嘆くようにして感情を吐き出した。


「まぁ、見てなって」


ハルは相太の姿から目を離すことなくそっと呟いた。


数秒後、春の期待に応えるかのように俺が知らない光景が視界を支配する。


熱気を放つその赤い炎は垂直にゴーレムを半分に割り切るように焼き付ける。

それとともに激しいうめき声がゴーレムから発せられ徐々にその炎がダメージを与えているみたいだ。

しかし痛みのせいか暴れ出す様子を見せるゴーレム。そのパンチに体重を乗せているとすると一発喰らっただけでゲームオーバーかもしれない。

その中の一発がまたもや舗装された道路を抉り、その風圧で相太は大きく後ろに飛ばされていった。


「そうたさん!」

「は、はは。すまんが動けん」


体を建物にめり込ませた状態の震える唇で言葉を紡いだ。笑みを見せているがやせ我慢が丸わかりしている。


「団長、どうすれば」

「うーん、僕は動けないからねー、ダリア君もアジトで仕事してるし」

「絶体絶命ですね」


状況が危なすぎて笑いが出る。頭の中には赤信号が灯っていて汗が滲んだ。


「ティー君は火力が足りないし、あ! うちにはもう一人いるじゃん!」


電球が灯ったように手をたたき目を輝かせた。


「本当ですか!?」

「うん! 君だよ」

「え?」


素で疑問詞が口から吐き出される。その言葉は本気なのだろうかと心中で考えるが、どう考えても自分が役に立てるとは思えない。もしかしたらこのチームに入ったこと自体詐欺で自分を殺そうとしているのかもしれない。


「装備の欄を開いてみて、そこに武器が渡されてるから」


言われるがままに半信半疑の状態で何もない空間に指で三重丸を描く。それがこの世界のメニューの開き方で事前に説明があった。

メニューを開き、そして装備の欄を開く。そこには武器のアイコンがあり、強さも特性分からないまま装備をしてみた。


手に光が吸い込まれるように集まる。


すると空間に光輝くエクスカリバーのような長い刀身を見つけた。その剣の柄はアルフのに収まり光を消した。


「何ですかね? この剣は見たことありませんね、試しにダークゴーレムに向かってスキルを使ってみてください。スキルは強く念じれば発動するはずです。状況によっては僕が魔法で助けます、ので」


そういうとアルフの背中を押した。

少し戸惑いを見せながらも助けてくれるという言葉を信じ、ダークゴーレムの足元を狙う。

分かっていることだが、大きさも尋常じゃなく迫力もすごい。その迫力のせいか時折現実との区別がつかなくなる。


強く念じる。強く念じる。強く念じる。


ハルの言葉を頭の中で繰り返し一点に集中する。


これで、これでもし。もし、俺がこいつを倒すことができたならば、認めてもらえるのかな。


強く念じろ。

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