戦いの終わり
黒い閃光が、一人の少年を斬り裂く。
「ぐあっ」
斬り裂かれた少年はその場で膝をついた。
「これで終わりだ」
灰色のコートに身を包んだ黒髪の少年は目の前で膝をついている金髪の少年に黒い大剣を突きつけてそう言い放つ。
「ははっ‥‥あはははは!そうみたいだ‥‥。本当に君にやられるなんてね。ビックリだよ」
金髪の少年は自らを打ち倒した少年に消えていく自身の体を見ながらな笑った。ただ笑った。
笑い声を上げるだけの金髪の少年に対して黒髪の少年は苦笑しながら言葉を返す。
「自分で召喚しといてそんなことを言うなよ。あと笑ってるんじゃねぇ。締まらないし、最後くらいラスボスらしく振る舞ってくれ」
「そうか、それもそうだね!じゃあ、僕はこう言うとするか。では‥‥よくぞ様々な困難を乗り越え、この僕を‥‥神を倒したな!異世界から呼ばれし少年よ!」
金髪の少年‥‥神は自らが召喚し力を与えた黒髪の少年を褒め称えた。誇らしげに、そしてどこか嬉しげに。
「どこかにありそうなセリフだな。約束通り倒してやったぜ神。これで‥‥終わりなんだよな?」
少年が尋ねると途端に神は寂しげな顔をして答えた。
「そう‥‥だね。本当にこれで終わり。君の長い冒険は終わったんだよ」
「そうか‥‥これで終わりか」
黒髪の少年もまた神と同じように寂しげな顔をする。
「そんな顔をしてないで、もっとこう‥‥なにかないの?君は勇者なんだよ?もっと喜ばないんでくれないとさ」
黒髪の少年の顔をみて神は呆れた。
そして、黒髪の少年は笑みを浮かべて言う。
「そうしなきゃいけないなんて決まりはないし、それになんだかんだ言ってこの闘いを楽しんでたからな」
「ふふっ。君は相変わらずだ。楽しんでくれたのなら何よりだよ。それに‥‥おっと、そろそろ時間みたいだ」
神は何かを言おうとしてやめ、自分に残された時間がなくなることを告げた。
「様子を見る限りそうみたいだな。なら、最後にこれだけ言わせてくれ‥‥。俺を呼んでくれてありがとう。本当に楽しい時間だった」
黒髪の少年は消えと行くであろう神に感謝を言葉を述べる。
神は少し驚き、そしてすぐさま笑みを浮かべる。
「僕の方こそありがとう。君のおかげで退屈しなかったよ‥‥。お別れだ」
そしてお互いの顔をしっかり見る。
「ああ。じゃあなノト」
「うん。じゃあ、またねシュウ」
そして最後は敵としてでなく、友人としてお互いに別れを告げる。
「ん?また?おいっ、ノト!それどういう‥‥」
「バイバーイ」
黒髪の少年が言葉の真意を尋ねる前に神は手を振って消えていった。
こうして黒髪の少年‥‥シュウの異世界での戦いは終わったのだった。
「おいおい‥‥。まさか復活なんてことはないよな?」
俺は神の別れの言葉に不安を覚えながらその場に倒れ大の字に寝転ぶ。
息をつく暇もないくらい神との激しい戦いが終わったせいか、一気に疲れが出てきみたいだ。
さすがにこのままでいいのかと思うが、周りには敵も味方もいないので体力が回復するまでこのままでいることにした。
「それにしても本当に終わったんだな‥‥」
俺はさっきまで神がいた場所に目を向けながらこれまでの冒険を軽く思い出していた‥‥。
俺は元いた世界から神の啓示を受けた巫女とやらに呼ばれてこの異世界に来た。
所謂、異世界召喚とかいうやつだ。
召喚された俺は、異世界に行く前に神に会い能力を貰った。
最初こそ戸惑ったが、姫や王からの説得で勇者になることを受け入れ、悪の根源たる魔王を倒すための冒険の旅へ出た。
仲間を集めながら各地を渡って強敵と戦う日々。
その旅の中で仲間との絆を深めそれぞれが過去を乗り越える、なんて感動もあった。
そおして、真の敵が神であることを知り、種族間での溝や神の使徒の襲撃など様々な戦いや問題を超えて人やエルフ、獣人や魔族といった全ての種族と力を合わせ神との最終決戦。
俺達の勝利という形で終幕となり今に至っている。
そう思うと感慨深いものがあった。
「ほんと、軽く思い出しただけでも色々なことがあったなぁ」
本当はもっとたくさんの思い出がある。それこそ思い出したらキリがないくらいに。
「よっと!こうして座っていても仕方ないし、そろそろあいつらのところに帰るとするか」
しばらくして少し体力が回復したことを感じると、体に力を入れて立ち上がる。
そして神がいた所をもう一度見て、心の中で再び礼を言った。
(ありがとうな)
俺は俺を待つ仲間達の所へと帰るためにこの場を後にするのだった。