ヒロイン登場
今回少し長くなりました。
ボルク。これは肉屋の店主ことオッサンの名前だ。
宴の最中にいつまでもオッサンや兄ちゃんではさすがに他人行儀だろ? と言われ、お互いに自己紹介したわけだ。
魔物のを担いで町に戻った後、予定通り宴となったわけだが、なにせそのまま丸焼きというわけにもいかないのでいろいろと準備やら商店街の店の片づけなどやっていたらすっかりあたりは暗くなった。
それから店の裏手の空き地みたいなところで宴は始まったわけだが、これが結構な人数が集まった。
ボルクさんは商店街に並ぶ店の中ではかなり評判のいい店らしく、また、いかつい体格に反して意外と優しい性格なところから顔も広く、急な誘いにも30人近くの人たちが集まったのだ。
え? あれだけの食材じゃ足らないだろって? そこは問題ない。
来る人ほとんどがちょっとした品を持ってくるもんだから逆に余ってしまったくらいだ。
まぁみんな目当てはおれが仕留めた魔物だったわけだし、酒もそれなりにあったからな。
だが納得いかないことが一つある。
なんだかわかるか? そう、美少女がいねぇ!
いや確かに女性はいたし、若い人もいるにはいる。だがみんな旦那もちだ。
さすがに手は出せん! いや旦那がろくでもない奴なら出したかもしれないが、すくなくとも宴に参加した連中はみんないい人だった。
だがらまぁ宴は楽しかった。
ついついおれも酒を飲んでしまったしな。
なんでもこの世界では成人は15歳らしい。
介抱できる美少女がいるわけでもないし、郷に入っては郷に従えともいうくらいだ。ということで飲んでしまったわけだな。
しかし、ちょっと調子に乗って飲みすぎた。いや歩けないほどではないし、意識もはっきりしているから大丈夫なのだが、もしこんな時に美少女に助けを求められでもしたら少々困ったことになりそうなので、おれは酔いを醒ますために商店街の大通りを現在散歩中だ。
昼間にあれだけ賑わっていた商店街も、この時間になると異常な静けさだった。
どうもここイスディアは生前住んでいた日本と時期が同じなのか、この時間帯は少し肌寒い。
ちなみにおれがストーカー野郎に刺されたのはまだ進級して間もない春先だ。
しかし、はっきり言ってこれほど静まり返った商店街を歩くには若干勇気がいる。
お化けでも出るんじゃないか? と思うくらいだ。
日本では出てきても不審者くらいだから返り討ちにすればいいのだが、この世界には魔法はあるし魔物だっているくらいだからな。お化けがいても全然不思議じゃない。
べつに苦手というわけではないが、いきなり出てこられるとさすがにびっくりするだろう。
まぁそんなことを考えていた結果、予想以上に緊張していたのか、突然後ろから「あの!」っと声をかけられ、ついついびっくりして尻餅までついてしまった。何とも情けない。
「……あの、驚かせてしまい申し訳ありません。その、大丈夫ですか?」
声をかけてきたのは女性のようだ。
あれ? この声って?
おれは尻餅をついた状態で声の主を見上げる。
「あれ? きみは昼間の……」
そこにいたのは昼間、森に狩りに行く前ぶつかってしまった、大きめのローブに身を包み、フードを顔を隠すように被っていた女性だ。
相変わらず顔はよく見えないのだが、この声は間違いない。
「あ、そうです。覚えていてくださったんですね」
おお! やっぱり!
まぁこれだけかわいい声の持ち主をおれが忘れるわけがない。
そしてこの再開は運命だ! きっと顔も見ることのできなかったおれに神様がチャンスをくれたんだ! あれ? でもそうなるとミルフィがくれたことになるのか? 一応女神も神様だよな? あとでお礼を言っとかないとな。
しかしこれはぜひとも顔を拝見せねば。
「えっと、おれに何か用ですか?」
おれは立ち上がりながら質問する。
焦るな! ここは慎重にだ! 顔を見るだけならフードを取ってやればいいだけだが、もし想像通り美少女であった場合、それだと嫌われる可能性がある。意図的に隠しているのかもしれないしな。
お近づきになるためにはゆっくり慎重にいくべきだろう。
「その、突然で申し訳ないのですが、あなたにお願いしたいことがあります。もうわたくしには時間がありません! ですが頼めそうな方があなたしかいないのです! ぜひ話だけでも聞いてもらえないでしょうか?」
……やばい。やばいよこの子。絶対美少女だ! 確定だ! 何いまのお願いの仕方! めちゃかわいいんだけど!
そうですかぁ。おれしか頼める相手がいないんですか。うんうん。くぅ~! たまらん!
いまおれはこの美少女に必要とされているのだ! それを断るわけがないだろ?
「聞きましょう! その願い! いやぜひとも聞かせてください!」
おれは反射的に美少女であろう女性の手を取って答えた。
「ほ、本当ですか?」
「本当です、本当です! おれ女性にウソつきません! それでお願いというのは?」
さてさてどんなお願いなのかな? まさかいきなり告白されちゃたり? ありえるな! うん!
おれはこれでも生前は結構モテたんだ。容姿だって悪くない。彼女だって10人以上の経験がある。
まぁそれでも童貞はなぜか卒業できなかったのだがな。しくしく。
しかし、ぶつかったときに一目惚れ、なんてことは十分あり得る話だ。
だがさすがにそこまで都合よくはなかった。……まぁ当然か。
「ありがとうございます。それで話を聞いてもらう前にあなたに聞きいておきたいことがあるのですが……」
美少女は本当に嬉しそうに頭を下げ、質問してくる。
うん、かわいい!
「はいはい! なんでしょう?」
おれはもはや美少女だと断定しているため、かなりテンションが上がっている。
「その、夕刻頃、魔物を討伐して戻ってきていらっしゃいましたよね?」
「え? あ、はい。そうですよ!」
「あれはあなたが討伐されたんですか?」
「ええ、まぁ。なぁに、おれにかかればあんなのただの雑魚ですよ、雑魚」
そうなんです! おれは強いですよ? なんせ最強ですからね! 惚れちゃってもいいですよ?
いやぜひ惚れてください!
「それはすごいです! あの、ぜひそのお力を貸していただけないでしょうか?」
ん? どゆこと? いや、まぁいいか。最初から美少女からのお願いを断る選択肢はおれにはないしな。それにこの力はもともと女の子を守るためのものだし。
「もちろんです。それで何をすればいいんですか?」
「あっ――その……ここでは誰かに聞かれてしまう可能性がありますので、できればついてきていただけないでしょうか?」
しかし、そう言われてはさすがに少し悩む。
んー、なんかわけありみたいだけど? というかおれ騙されてないか? まさか女盗賊とかだったり? いやいやそれはないだろ。そもそもこの世界に盗賊っているのか?
っていうか別に騙されてもよくね? 絶対美少女だし! そもそも捕られるような金持ってないし、それに何かあってもおれ最強だしな。
「あの……ダメでしょうか?」
どうやらいろいろ考えているおれを見て心配になったらしく、美少女がそれはそれはかわいい声で聞いてくる。おそらくいまのは絶対上目遣いだった。
ぐはっ! かわいい! こんなかわいい子が悪い子な訳がないじゃないか! 何を心配しているんだおれは! 騙されたっていいじゃないか! うん!
「行きましょう!」
こうしておれは今だ顔を確認できていない謎の美少女のあとについて町を出て行った。
あっ! ボルクさんに知らせてからの方がよかったか? まぁいいか。悪いなボルクさん。やっぱりオッサンより美少女の方が大事だ。
……しかしいったいどこまで行くのだろうか?
いや、距離的にはさほど歩いてはいない。かろうじてだがさっきまでいた街が見えるくらいだしな。
だが、前を歩く美少女が頻繁にキョロキョロと人目を気にするように立ち止まってはまた歩き出すので、やたらとペースが遅いのだ。
まだか! まだなのか! おれは早くあなたのお顔をが見たい!
そんな焦る気持ちを押し殺すこと数十分。ようやく美少女が足を止めた。
「お待たせしました。長いこと歩かせてしまい申し訳ありません。ですがわたくしは今、一般の方々に姿を見られるわけにはいかないのです。どうかお許しください。それではこちらへ」
ようやく着いた。ってかやっぱりわけありなのか。無理に素性を聞かなくてよかった。
だがそれも目的地に着いたのならもう少しの辛抱だ。
よく我慢したぞ、おれ!
って……え?
「こちらへってどちらへ?」
そう。どうやら目的地はここのようなのだが、特に何もないのだ。
あるのはただ一つ、目の前にある崖のような、土手のような、そんな土壁のみ。しかも結構上まである。
いったいどうゆうことだ? やはり騙されていたのか?
おれは少々不安になってしまったが、しかし、どうやら騙されてはいないようで、美少女は「こちらですよ」といっておもむろにそびえる土壁に触れる。
え? ええ! なにこれ? どゆこと?
おれは心の中でかなり慌てた。
それもそのはず。なんと美少女が土壁に吸い込まれていくではありませんか。
しかし美少女は慌てた様子もなく、身体半分が吸い込まれたあたりでおれを見て「さあ、どうぞ」と手招きしてくる。
そこでようやくあることに思い立った。
ああ、なんだ、魔法か。まぁそれしかないよな?
それからようやくおれも美少女の後について、土壁の中へと入っていく。
土壁の中は洞窟になっているようだ。
「これは魔法?」
おれは入ってくるのを待っていてくれた美少女に尋ねた。
「はい。もしかして魔法を見るのは初めてでしたか? でしたらその、驚かせてしまい申し訳ありません」
やっぱり魔法か。
「いや、初めてではないですけど、こおゆう使い方があるのは知らなかったんで。いったいどうゆう魔法なんですか?」
「あ、そうですか。これは光魔法を使って壁などを反射、屈折させて入口があたかも存在しないように見せているんです。わたくしこれでも一応、光の中級精霊と契約していますので」
なるほど。どおりで中からは外が見えているわけか。
しかし、光魔法か。そんなのもあるんだ……ってまてまて! 最後なんて言った?
光の中級精霊がどうのこうのって聞こえたんだが……。精霊なんてのもいるのか?
「さぁ、もう少し奥へ行きましょう。奥にもう一人、紹介したいわたくしの親友が待っているはずですので」
そういって光魔法? で、足元を照らしながら奥へと歩き出す。
おれはさっきの言葉について詳しいことを聞こうと思ったのだが先を越されてしまったため、グッと出かかった言葉を飲み込む。というか。
親友!? 女性の親友ということはその人も女性じゃないのか? そして美少女の親友なのだから、その人も美少女である可能性は高いのではないか? やばいぞやばいぞ! テンションあがる!
という具合ですっかりどうでもよくなってしまったのだ。仕方ないだろ? おれにとっての最優先事項は女の子なんだから。
それから少し奥へ進むとなにやら明るくなっているところが見えてくる。
そしておれはついに、ついに念願の美少女に出会えた。
おれたちの足音に気付いたのか、明りの方からこちらへ駆け寄ってくる女性。
「ひ、姫様! ご無事ですか!? まったく1人で行ってしまわれるなんて、何かあったらどうするんですか!」
「あう! ご、ごめんなさい。でも今日はやっと力を貸してくれる方が見つかったわ」
駆け寄ってきた女性は肩で息をしながらローブの美少女へとなにやら文句を言い、それにローブの美少女が謝りながら答え、おれへと視線を向ける。
おれは駆け寄ってきた女性をまじまじと見据えた。そして喜びにうちあふれる。
き……きた! ついにきたぞぉぉ!
転生してこの地へ来てからおよそ半日。
ついに、ついに美少女に会えた! くぅ~! たまらん! なんだこの美少女は!
とんでもなくかわいいぞ!
おれの頭の中はそんな言葉でいっぱいだった。
駆け寄ってきた美少女は、服装はなにやら騎士のような格好で、それ故に鍛えられているのか、何ともそそられる締まった体付き。
そしておそらく腰まではあるだろう長い金髪を、クルクルっと団子状にまとめている。
さらにはその金髪に見事にマッチした、澄んでいて、しかしどこか鋭いような碧眼。
歳はおそらくおれと同じか少し上といったところだろう。
しかしこれほどの美少女がはたして日本に存在しているだろうか? いや、否!
おれはこの時、間違いなく転生してきてよかったと思った。
だが、おれよ。まだ焦るな! 堪えるんだ。ここで対応を間違えば嫌われてしまう!
それだけは絶対に避けねば! それにまだ美少女と思われる女性がいるではないか!
ここはそう、そちらの確認が先だ!
「む? あなたが協力してくれるという方か?」
「はい、まぁ。おれの名前は八島彰人っていいます。アキトって呼んでください。ええと、名前を教えてもらってもいい?」
よし! 自然と言えたぞ。これなら名前くらいは教えてくれるだろう。
そして名前を明かすということは、ローブの美少女も顔を見せてくれるはずだ。
「うむ。アキト殿か。私はローズマリー王国騎士団副団長、レミア・カモミールだ。レミアと呼んでくれ」
ふむふむ。美少女騎士はレミアか。名前もかわいい!
ってか本物の騎士かよ! しかも副団長!? まじか? 女の子なのに。
「わたくしも自己紹介はまだしていませんでしたね」
そういってローブの美少女はおれに向き直って、フードを両手でゆっくりめくる。
そうだ。おれにとっての最初の目的は、この美少女のお顔を拝見すること。
さぁて、いったいどれほどの美少女なのか。
おれは内心、ドキドキが止まらなかった。
「此度はなにも聞かずに付いて来てくださり、本当にありがとうございます。わたくし、ローズマリー王国王女、セレナ・ローズマリーと申します。セレナとお呼びください」
そういってセレナは、ローブの裾を軽くつまんで、鮮やかに美しく、一礼する。
…………
…………はぁ!?
おれはセレナと名乗った美少女の言葉に、はっきり言って頭が回らず、不覚にも、顔をじっくり拝見するどころではなくなってしまった。
皆様今回登場するヒロインは一人だと思っていましたか?
残念ながら二人です。はい。
次回はセレナの容姿と「お願い」の内容になると思います。
近々、物語が急展開すると思いますので、ぜひお楽しみを。