運命の出会い?
町へ入ったおれはひとまず情報を集めるため、人がたくさん集まっている商店街のような場所へと向かった。
なかなか大きな町らしく、商店街は結構な賑わいだ。
右手にはうまそうな食材が並んでおり、時折屋台のように調理された食材が売られている場所もある。
左手には小物や武器、防具などの店が並んでいた。
おれはそんな店が並ぶ間を歩いて回っている。
なにやらすれ違う人にやたらと注目されているようだが、おばちゃんや男ばかりなので特にうれしくもない。
かくゆうおれも、ちらほらすれ違う、頭に耳を生やし、おしりに尻尾がある人? に対して若干心が躍っていた。
猫耳だ! 犬耳だ! 尻尾まで! という感じだ。
だがさっきも言ったように見かけるのはおばちゃんや男がほとんどだったので、すげぇ、と思う程度で済んだのだ。
もしこれが美少女であったならもはや迷うことなくお近づきになろうと声をかけていたことだろう。
そしてしばらく見て回っていると、ある肉屋の前で一際いい匂いがし、おれはおもわず足を止める。
「お? 兄ちゃん。食ってくかい?」
そういって店員のオッサンがおれに声をかけてくる。
まぁ涎を垂らして物欲しそうに見ていれば声くらいかけられても当然だろう。
もちろん言葉は日本語ではないが、なぜか意味は分かるようなのでとくに気にしていない。
たぶんミルフィが何とかしてくれたのだろう。まぁ言葉が通じなければ話にならないしな。
しかし、いくら食べたくても今のおれには金がない。
「タダでくれるの?」
おれは無理だとわかっていながらも一応聞いてみた。
「タダは無理だなぁ。なんだ兄ちゃん。金持ってないのか? 若いんだから自分の食い扶持は自分で稼がないけねぇよ」
おれは一瞬、仕方ないだろ! さっきこの世界に来たんだから! と言いそうになるが、そんなこと言っても信じる者などいないことはわかりきっているので堪える。
それにこれは稼ぎ方を聞くチャンスだ。
ミルフィの話から察するに、このイスディアは一夫多妻制のはずだ。
ということは金はたくさんあった方がいいだろう。モテるためにも。
まぁ金なんかなくてもいいって女の子はいるにはいるだろうが、ないよりはあった方がいいに決まっている。
「ここではどうやって稼げばいいんだ?」
「ん? もしかしてこの町は初めてか? 確かに見慣れない格好だしな。黒髪も珍しい」
なるほど。どおりですれ違う人みんなに注目されるわけだ。単純におれの格好が珍しかったのか。
まぁ学ランなんてこの世界にはないだろうし当然か。
「そんなに珍しいかな?」
「ああ。黒い髪に黒い服。堕天使と間違われても文句言えないくらいだ。まぁ兄ちゃんには黒い羽が生えてるわけじゃなさそうだから人間なんだろうけどな」
おお! 早くも堕天使の情報ゲットだ。黒い羽か。堕天使ってあれだろ? もともとは天使だったものが邪な心を持つと落ちるとかって言われてるやつ。オッサンの言い方も少なくとも良いやつとれる言い方じゃなかったしな。
まぁいまは堕天使の情報よりどうやって金を稼ぐかのほうが大事だ。
「ふぅん。それでどうやって金を稼げばいいんだ?」
「おお、そうだったな。この道をまっすぐ行くといろんな仕事を依頼している情報屋って看板の宿がある。そこは兄ちゃんみたいな旅の者がこの町で稼ぐための仕事が用意されてる。
他にもほら、あそこを見てみろ。でっかい城が見えるだろ? あそこには国王陛下がおられるんだが、ここよりでかい王都の町がある。そこに永久就職として国を守る騎士団に入って稼ぐという手もあるぞ。まぁよっぽど腕がなければ騎士団に入ることは難しいがな」
なるほど。日雇いバイトみたいなものか? それに国を守る騎士団か。なんかかっこいいな。団長とかになったらモテるかな? いやモテるだろ!
でも永久就職ってことはその国からは出られなくなるんだよなぁ? それはそれで困る。
そんなことになったらほかの国の美少女との出会いが減ってしまうからな。
ここはひとまず日雇いの仕事にしておくか。
「騎士団はちょっと遠慮しとくよ。仕事の依頼ってどんなのがあるんだ?」
「はっはっは。まぁそれが先決だな。仕事は簡単な手伝いのようなものから魔物の討伐と様々だな。
そうだ。今日はおれも依頼しているから、なんなら兄ちゃんやってみないか?」
「いいのか?」
なんだ。それならわざわざ情報屋まで行かなくてもいいじゃないか。
「ああ。ただおれの依頼は大変だぞ? なにせ魔物の討伐だからな。下手をすれば死ぬぞ? それでもやるか?」
おお! それならちょうどいいじゃないか。得意分野だ。なんせ今のおれこの世界で最強らしいからな。楽勝だ。
「もちろんやる。でもなんで肉屋のオッサンが魔物の討伐依頼なんてお願いしてんだ?」
「ん? そんなの明日の食材がないからに決まってるだろう」
え? じゃあここにある美味そうな肉って魔物の肉なのか? 魔物って食えるの?
「魔物ってうまいの?」
「あたりめぇよ。兄ちゃん魔物くったことねえのか? かぁ、そりゃ兄ちゃん、人生の半分以上は損してるぞ。いいか? 魔物ってのは魔力を持ってるから魔物っていうんだ。いや生きてるやつはみんな持ってるらしいがおれたち一般人には使いこなせないからないのと変わらないんだが。
そんでその魔力を使える魔物の肉ってのは普通の牛や豚なんかより脂がのって、身が引き締まってて断然うまい! おれたち魔力の使えない一般人にも違いが分かるくらいにな」
オッサンがこれでもかというくらいに魔物の肉の良さについて語ってきた。
そうなのか。だったらあの熊、食っとけばよかったな。まぁ下処理とかできないからどのみち無理か。
「そうなのか。それで依頼はどんな魔物の討伐なんだ?」
「ん? 兄ちゃん1人で行くつもりか? もう少し待ってればおれの友人が来るからそいつらといった方がいいぞ。さすがに1人は危ないからな」
オッサンはどうやらおれの身を案じてくれているようだ。
しかし、それは無用だ。
「大丈夫大丈夫。おれこう見えて結構強いから」
「そうか? おれにはそうは見えないんだが……。まぁ兄ちゃんが大丈夫ってんなら止めないけどよ。
ただ無理だと思ったらちゃんと逃げてこいよ? おれの依頼で死人は出したくないからな」
まぁ確かにそうだな。ここは一応、了承しておくか。
「わかったよ。約束する」
おれはオッサンから食材となる魔物の特徴を聞き、早速魔物がいる森へと向かった。
狩場となる森は、おれが転生してきたときにいた森だということなので道には迷わないだろう。
う~ん。討伐する魔物にあの熊、入ってなかったけど、あいつ食えないのかな?
もし入ってたらもう倒しちゃってるから楽だったんだけどな。
そんな考え事を巡らしていると商店街の門で間抜けにも人とぶつかった。
「きゃっ!」
と、かわいい悲鳴を上げて尻餅をついたのは、おれとぶつかった、フードで覆うように顔を隠した、たぶん悲鳴からして女性。おそらくかなりの美人だと思われる。
なんでかって? 悲鳴がとてもかわいかったからに決まっている。
「大丈夫ですか? すみません。 考え事をしていたんで」
そう言っておれは手を差し出す。
別にやましい気持ちはない。そもそもおれはちゃんと仲良くなって、いけると思ったときにしか大胆な行動はとらん。まぁそれでもいままで成功したためしはなく、いまだ童貞なんだがな。
「だ、大丈夫です。こちらこそ申し訳ございませんでした。
それでは、少し急ぎますので」
そういってフードの女性はおれの差し出した手を取ることなく、そそくさと行ってしまった。
ああ……、声からして絶対美少女だと思うのに……。せめて顔だけでも見たかったなぁ……。
しかしおれはこの時、先ほどのフードの女性が、自分の嫁の1人となることなど夢にも思っていなかった。
ようやくイスディア最初のヒロインらし女性と、文字通り接触しました。
はてさてどんな出会いがグッとくるのか……
まだ容姿も性格も確定してません。
やはり王道で行くべきでしょうかね。
まぁ次回は出てきませんが、その次からはちゃんと出てきます。
ではでは皆様、これからもなにとぞよろしくお願いします。
意見等ございましたら気軽にお願いいたします。