エミリィは最強で最凶で最恐かもしれません。
「あれは……? 精霊かしら? それも人型? どう思うレミア?」
「たしかに精霊ですね。ですが人型というには少々小さすぎると思うのですが? それに人の姿を解せるのは精霊王のみのはずです。おそらく3つの上級精霊のうちのどれかでしょう」
2人は結界の中から、激しい光と共にアキトのそばに現れたエミリィを見て、お互いに確認し合う。
「フォッホッホ。どうやらお2人はとんでもない方に協力を願い出たやもしらませんな」
2人の会話を聞いて、隣にいたマルク爺が唐突にそんなことを言った。
「マルク爺はあの精霊がどんな力を持っているかわかるの?」
「いえいえ、全く存じませんとも。これまで多くの精霊を見てきましたが、あのような精霊は見たことがありませんな」
セレナの問いにマルク爺は首を振る。
「ではなぜアキト殿がどんでもない方ということになる? あの精霊が大した力を持っていないかもしれないぞ?」
「それはありませんな、副団長殿」
「なぜ言い切れる?」
レミアは迷いなく否定したマルク爺に再び問いた。
「フォッホッホ。副団長殿も本当はおわかりではありませんか? 少年とあの不思議な精霊から発せられる膨大な魔力に気付いていないはずがありませんからな。まこと信じられませんが、あれは団長殿をはるかに凌駕しておりますぞ」
「「……」」
2人はマルク爺の見解にただただ無言で息をのんだ。
そこへ新たに声がかけられる。
「ふぅむ。どうやらシアの感はとんでもない形で当たったようだな。まさかあのような少年1人だけとは……。いったいあの少年は何者だ?」
突然の声に慌てて振り返ったセレナとレミア。
「お父様!」
「シア!」
2人は思わず声を張った。
それもそのはず。牢に幽閉されていたはずの、助けに来たはずの2人が何食わぬ顔でやってきたのだから。
「お久しぶりですね、姫様、姉様」
シアが陽気に挨拶をする。
「いったいどうしてここに……?」
「ふむ。話せば長くなるのでな、説明は後にしよう、セレナ。今はあの少年と、ラナードの戦いを見届けようではないか」
陛下は娘の問いにそう言い、今まさに戦いが繰り広げられそうな2人の男を見据えた。
「エミリィ……?」
「はい。初めまして、ご主人様っ!」
そういって、おれの目と鼻の先を浮遊するとても可愛らしい少女の姿をした精霊、エミリィは、ニコッと笑顔を見せる。
か……かわいいっ! え? 何この娘? まぢやばいんですけど! たしかに最初はちっちゃ過ぎて驚いたけど……でもなんかこれいい! あっ、そ、そんな、肩にちょこんって、ちょこんて座っちゃったよ!? ちかい、可愛いお顔がちかいよ!
「さぁ、ご主人様。さっそくあのゴーレムと契約者さんを倒してしまいましょう」
おれの方に座ったエミリィが笑顔を崩さぬままにそう告げる。
(そうですよ、彰人様! エミリィさんと契約した彰人様はこれで気兼ねなく、思うままに魔法を使っても全く問題ありません)
ミルフィもどうやらおれが新たな魔法を使うことを待ち望んでいる様子だ。
それを聞いたエミリィも、うんうんと頷いている。
ちなみにミルフィの声はエミリィにも聞こえるようにしたらしい。
思うままにって……。そもそもエミリィのエレメントはどれなんだ? 火? 光? それともまた別なのか?
そしてこの問いにはエミリィ、そしてなぜかミルフィまでもが声をそろえて答えた。
「(全部です! 彰人様!)ご主人様!」
……え?
「ごめん、今なんて?」
「ですから全部です。私は全てのエレメントを司るエレメンタルロードにして、7体目の精霊王ですよ」
エミリィは口元に手をやり、クスクス、と静かに微笑んでいる。
な、なにぃぃぃぃ! まぢかよ! パネェ! パネすぎるぞエミリィ! 全部って、6つ全部ってことだろ? しかも王って! はは、最高じゃん! まさに最強じゃねぇか。だからおれにぴったりの精霊ってわけか。さすがミルフィ! おれの嫁!
「はは、まぢかよ。やべぇ。テンション上がってきた。もぉおれ敵無しじゃん! さて、んじゃぁちゃっちゃと終わらせて、最大の目標を達成するとしますか!」
そう言っておれはラナードを見据えた。
「むぅ……、なんという魔力だ。正直信じられん。あの精霊が一体どのような力を持っているかは知らないが、これは下手をすれば王にも匹敵するのではないか……?」
ラナードは顎に手を当て、おれの召喚したエミリィをまじまじと見つめ、なにやらぶつぶつと口にしている。
「さぁ、はじめようぜ、ラナードさんよ」
「うむ。いいだろう。君の契約精霊の力、見せてもらおう! ゴーレム! アースストリーム!」
ラナードが魔法を唱えると、それに従ってゴーレムが魔法を発動する。
そして大小さまざまな石、あるいは岩などがゴーレムの振りぬいた大きな腕から、横殴りの雨のごとく
おれへと向かってきた。
「うお! やべ! 逃げ場ないじゃん! ってかそもそもまだおれエミリィから魔法の知識教えてもらってねぇじゃん!」
おれは一番大事なことを今更思い出す。そもそも魔法はイメージできなければ使えない。
おれはどんな魔法も使えるらしいが、そんなものは土台となるイメージがなければ使えないのと変わらないのだ。
「ああ! そうでした! これはうっかりしていました。申し訳ありません、ご主人様! ひとまずここは私が……アイスシールド!」
エミリィはそう言っておれの肩から離れ、目の前に氷の壁のようなものを作った。
いやいやうっかりって。慌てんぼさんだなぁエミリィは。まぁおれもテンションあがってたし、言えないけどね。ってかこの魔法すご! あんな石の嵐を全部防ぎきっちゃったよ。
「む、あれを防ぐとは。氷魔法……。君の精霊は水の上級精霊ということか」
ラナードはどうやら大きな勘違いをしているようだ。
「ふふ。ようし、なら次はおれの番だな。エミリィ。どんな魔法があるのか教えてくれ」
おれはそう言って気合を入れなおした。しかしエミリィからの応答がない。
「ん? エミリィ?」
「ふふ……ふふふ。ああ、久しぶりの魔法! 戦い! 楽しいです! もっと、もっとたくさん! あぁ、ダメです、もぉ自分を抑えられません! さぁいきますよ!」
ええ? あれ? エミリィがおかしいよ? なんか勝手に始めちゃったよ? ミルフィ、どうなってんの?
(えと、ど、どうやらエミリィさんはその、久しぶりにこの地へ召喚され、魔法を使ったことで、少々興奮気味のようです。なにせ彼女が前に人と契約していたのは3000年以上前だったらしいのですよ。どうも自分と契約できるほど魔力を持った人がなかなか見つからなかったようで……)
あちゃ~。3000年か。そりゃさすがに長いわ。ってかあんな可愛いのに、こんな一面があるとは。
エミリィは、それはもう敵の反撃などゆるす間もなく、見ただけでとんでもないとわかるような魔法を連発しまくっていた。
火や水、氷が龍みたいになった魔法や、風の竜巻に炎の竜巻にetc……。
もはや、ラナードの契約精霊であるゴーレムは、エミリィの異常っぷりにただただ、その巨体をプルプル震わせ、涙目になっている。
ありえねぇ……。
おれはこのあと、ただただエミリィが長年の鬱憤を晴らすべく連発した多種多様な魔法で、ラナードが激しく動揺しながら、わけもわからず倒れ伏すのを可哀そうな見ていたのだった……。
なんか今回どこに持っていきたかったのかわからなくなってしまいました。
どうしよう……。
でもまぁ、正直言ってしまうと、この物語のメインはバトルではないんでいいかなぁなんて思う自分がいます。ただ今回のはちょっとありえなかったかもしれません。
もぉすこし我慢してもらえば、メインであるムフフな展開が待っているのはずなのでどうか見捨てないでください!