記憶喪失ってことで。
展開が遅いとまずいと思い今回一気にいろいろすっ飛ばしたんですがおかしかったら指摘してもらえると助かります。
「ふぅ~」
と、大きく息を吐いたおれの視界に、実に300もの騎士たちが横たわる光景が映る。
……まじか。弱すぎるぞ騎士団! なんでファイアーボール一発で300人が沈むんだよ!
あれって下級魔法だろ? いくら最強なおれでもこれはねぇだろ! 上級魔法使ったらいったいどうなるんだよ……。それとももっと手加減すればいいのか? はぁ……最強ってのも苦労するんだな。まぁ騎士団たちはもともとセレナやレミアの仲間だし、なんかわけがありそうだから殺さないようにしたけど、ただ女性を傷付けるやつなんかは、反省の余地がなければ手加減なしで殺せばいいか? うん! そうしよ。そんなやつ生きてる価値ないしな!
「アキト様!」
「アキト殿!」
と、そんな決意を固めていると、ここで2人の呼ぶ声が聞こえる。
「すごいです! アキト様。いったいどうやったのですか!? それに精霊とは契約していないと聞いていたのですが、本当は契約していらしたのですね!?」
「姫様の言うとおりだ! まさか中級精霊との契約を2体もしているとは、それも1体は姫様と同じ光の精霊。それにあのとんでもない魔力! あなたはいったい何者なのですか!?」
2人がものすごい勢いであれやこれやと質問攻めしてくる。
っていうか別に1体とも契約なんかしてないんだけど……。
でもなんで2体なんだ? ヒールを使ったから1体は分かるけど、ファイアーボールって下級魔法でしょ? 他に魔法使ってないし。
「ええと、2人ともとりあえず落ち着け! そりゃ2人ほどの美少女にこんなに接近されたらすげぇ嬉しいけど、なんかいろいろやばいから! じゃないとその、揉むよ?」
おれがなんとかそう言葉にする。2人は、な! と声をあげ、いきなり顔を真っ赤にして黙り、静かに一歩後退した。
しかし、いい匂いだったなぁ。2人の胸とか、ちょっと当たっちゃってたし! う~ん、もったいないことしたかなぁ?
けどなんて説明すればいいんだ? ああ、やっぱり精霊と契約しといた方がいいよなぁ。今後会う人に、毎回説明するとかすげぇ面倒だしなぁ。
(――――――――?)
ん? なんだ? ミルフィ? なんか言った?
おれは頭の中で何か聞こえたような気がしてそうミルフィに問いかける。
(え? いえ、私は何も言っていませんよ?)
あれ? おかしなぁ。 絶対なんか聞こえた気がするのに……。まぁいいか。
それよりミルフィ? ミルフィの力で精霊って探せないの? どうも早いとこ契約しといた方が面倒な説明が要らなくなると思うんだよなぁ。
(わかりました! 彰人様のためなら私にできないことなどありません! 星ひとつだって消してみせます! それでどのような精霊をお望みですか?)
いや星はまずいって! ん~実体化できるのが上級かららしいからそれ以上でひとまず光と火。闇も捨てがたいけど、光魔法使っちゃったし、たしかどっちかしか無理だって話だったからな。それとできれば美少女の精霊がいい!
ミルフィはそれを聞いて、わかりました。と言って精霊を探しに行ってくれた。
さて、これで精霊については問題ないかな? けどまだ契約してるわけじゃないし、それまではやっぱりとっておきで誤魔化すしかないかな? うん。
そしておれは最初の2人の質問に戻る。
「ああ、2人とも悪いんだけどその質問には答えられないんだ。おれ、セレナと会った町に来る前の記憶がなくてな。ただ町に着く前に魔物と戦ったときに、あの2つの魔法は使えるのが分かったから。ただ精霊のこととか他にどんな魔法があるとか、自分の魔力? が何でこんなに多いのとかは全然覚えてないんだよ」
と、まさに反則級の言い訳をする。これなら例え、中級精霊と契約していようが声が聞こえるのは最初の契約時の時だけらしいし、他の魔法を使ったときでも、使えちゃったね。の一言で済むはず。上級精霊と契約できればその後は問題ないだろうしな。
われながら完璧だ。
そして案の定2人は、
「そう、だったのですか。それは……申し訳ありません! そのような境遇のアキト様に無理に協力をお願いしてしまって、しかしご安心ください。アキト様は1人ではありません! わたくし達がついております。ね、レミア」
「うむ。そうですね。しかしそうゆうことならぜひ私もアキト殿の記憶が戻るように、できる限りの協力をさせてくれ」
と、なにやら極度の同情と心配をされてしまった。
おふぅ! いや、そんな優しい言葉をかけないで! ウソだから! バリバリ記憶あるから! だからその優しい眼差しをやめて! 2人とも優しすぎるよ!
「あ、うん。ありがとう、2人とも。これからもわからないことがあったら教えてくれると助かる」
と、罪悪感を隠しながら何とか言葉を口にした。
ああ、2人とも完璧すぎるほど美少女だよ……。
3人がそんな会話をしている頃、王宮内、牢では。
「なんだいまの激しい爆発音は? まさか……」
「そのまさかですよ、陛下。どうやら姫様と娘が味方を連れて戻ってきたようです。今は正門のあたりでアルキアの隊と交戦中といったところですか……。さて、いったいどの程度の者たちを味方につけたのか、おれ自身で確認してくるとします」
ラナードは陛下にそう告げる。
しかし、ラナードはまだこの時、今の爆発音でアルキア率いる戦士隊300人がたった1人の手によって呆気なく沈んでいることを知らない。
「シア、あとの段取りはお前に任せる」
「わかりました、父様」
ラナードは牢にいるもう1人、メイシアへそう指示し、1人、その場から去って行った。
「はぁ、あやつめ。いきなりアルキアを送り込むとは……」
「それだけ父様は本気なのですよ。最初から本気で相手をして、姫様と姉様がお連れした者たちがこの国を守れるだけの力を持っているか、もし持っていなければこの国の未来は絶望的ですから、甘い考えなど意味がありません」
「だが、シアは信じているのだろう? 自分の姉とセレナを。そしてあの2人に味方した者たちまでも」
「もちろんです」
メイシアは陛下の問いかけににっこりと静かに微笑んで答えた。
おれたちは戦士隊300人の屍を、いや死んでないけど、超えて、王宮目指して突き進む。
もはや見つかっているのだからこそこそと隠れる必要はない。
ちなみにおれは今、ちょっとした、いやとんでもなくおいしい状態だ。
なにせ、セレナをお姫様抱っこしながら走っているんだからな。
ああ……、なんて華奢で柔らかくふんわりとした抱き心地なんだ! くぅ~幸せ!
「あの、アキト様? その、やっぱり少し恥ずかしいです……」
セレナが上目遣いでほんのり赤くなりながら言葉にする。
いやん! それ反則だよ、セレナ!
なぜこんな状況なのか。
決まっている。はっきりいってセレナはあまり戦ったり走ったりがよろしくない。
しかし、あまりちんたらしていたらすぐに騎士たちに取り囲まれてしまう。
別におれ自身はそれでも問題ないのだが、そうなればセレナもちろん、レミアにも再び怪我をさせてしまうかもしれない。それを避けるためにセレナを、おれがお姫様抱っこして、続々とおれたちを捕えようとしてくる騎士たちを蹴散らしながら王宮目指して突っ走っているわけだ。
「悪い、もう少し我慢してくれ。おれなんかにこんなことされるのなんか嫌かもしれないけど」
おれはやや控えめに、まるでいやらしい気持ちなどないかのように囁く。
しかし内心は……。
いやいや降ろしたりしませんよ? ってか、したくないよ! だってセレナ超気持ちいいんだもん! 超かわいいんだもん! そんな細い腕でこう、おれの首にキュウって巻き付いて、吐息なんかも感じるし。胸だって……。正直もぉ一生このままでもいい!
って感じだ。
「いえそんな! 嫌ではありません! そのでもこれではアキト様のお邪魔になってしますから」
「あ~全然そんなことないない。むしろより動けるって」
おれはセレナの言葉に間髪入れず迷いなく答えた。
「うむ。姫様。その心配はなさそうですよ。なにせ私ですら何もさせてもらえないほどの突破力ですから……」
やや後ろを走っているレミアが後押しをしてくれる。
ナイスだレミア! さすが!
「そう、ですね。アキト様がそう仰るのなら。では、恥ずかしいですけど遠慮なく甘えさせてもらいます」
「ああ。しっかしつかまっててくれ。んじゃこのまま一気に王宮まで行くとしますか!」
そう言っておれとレミアはさらに速度を上げる。
ちなみに向かってくる騎士たちは片っ端からおれが蹴りや魔力弾で撃退している。
時々魔法部隊の騎士たちが魔法を放ってくるが、あくまで下級魔法のファイアーボール程度のものばかりなので、足に魔力を集中して、蹴り返すイメージで術者や近場の騎士に向かって蹴り返している。
これをやった時はセレナとレミアに呆れられた。というよりありえないらしい。
まぁそんなこんな、向かってくる騎士たちをまさに人間戦車のごとく、蟻んこでも踏み潰すように蹴散らしていき、あっという間に王宮の手前までたどり着いた。
「でかい階段だなぁ。まさにお城って感じだ。……ん?」
おれははるか上を見上げながら、その頂上付近で2つの人影を見つけた。
「父上……」
レミアが隣で呟く。
どうやら人影の1つはレミアの親父らしい。つまり、今回の謀反のリーダーであり、騎士団団長だ。
「隣にいるのはマルク爺でしょうね」
セレナが今だおれに抱きかかえられながらそう答えた。
「だれそれ?」
「騎士団魔法隊の隊長だ。老年ではあるが、故に魔法については国一番の知識を持っているお方だ」
おれの問いかけに即座にレミアが答えた。
へぇ。ならいろいろ魔法を使えるのかな? それさえ見ればおれのレパートリーも増えるんだけどな。
ここに来るまでに相手した魔法はみんなファイアーボールだとかばっかだったし、あとよくわからん防御に使う壁っぽいもんだったからな。たぶん地魔法なんだろうけどやたらもろかったし、地味だったからよく覚えてないんだよな。ってかこう自分だけのオリジナルなんかが欲しいよなぁ。ん~そのためにはさっさと精霊と契約してどんな魔法があるかの知識くらいは知っておかないとかぶっちゃうからな。
「そか、でももぉ上の2人を止めれば終わりだろ? んじゃちゃっちゃと終わらせて、国王陛下とメイシアちゃんを助けに行こうぜ」
「簡単に言ってくれるな。言っておくが父上は強いぞ?」
「わかってる。あの2人、今まで向かってきたやつらより明らかに強そうだからな。でもここまで来たんだ。おれを信じろよ」
おれはそういいながらセレナを下す。かなりもったいない気がするが今は我慢した。
なにせ今から戦うであろう相手は一応この国で一番強く、そして今回の敵のトップなのだ。
自分が負けるなど微塵も思ってないが、少しは気合を入れないといけないだろう。
そしておれは再び頂上を見上げる。
「マルク。これは何の冗談だ?」
ラナードの視界には自国の姫を抱きかかえた黒髪の少年が映っている。
「どうやら冗談ではないようですぞ、団長殿」
レミアの父、ラナードとマルクと呼ばれる白髭を生やしたご老人が会話している。
もちろんそんな会話は下にいる3人には微塵も聞こえない。
「まさか、いったいどのようなつわもの達を引き連れて戻ってきたのかと思えば、1人だと! レミアがいるとはいえ、たかが1人増えただけでなぜここまで突破されねばならん?」
「それほどあのものの力が驚異的なのでしょう。でなければ三国一の防御力を有する騎士団がこうもやすやすと突破されるはずありませんからな」
マルクはフォッホッホと年寄りらしい笑い声をあげる。
「ふ。ではシアの感はやはり当たったということか。だが、この目で直接確かめねばなるまい。あの少年がどれほどの力を備えているのか。この国を守れるだけの器なのか……。それを見極めねばな」
ラナードの瞳が強い覚悟を持ったものへと変わる。
「では参りましょうか」
マルクがそういうと2人の身体がふわりと浮かんで、高々と連なる階段の頂上から自分らを見上げる3人の元へ下りていった。