●●の、その後
アルモニカ国ネーチェル魔導学園寮。
そこで私は毎日のごとく、朝を迎える。そして今日もいつもと変わらない朝のはずだった。
だが、唐突に変わった一日の始まりでもあった。なんの因果か、私にも全く分からない。いや理解はしているが、落ち度が見当たらないのだ。なぜ、こんなことになったのか一日を振り返ろう。
「ふ、あー…」と大きな欠伸と共に、コミュニケーション・オプジマ・モバイル、通称コミュ。多機能なコミュニケーション用魔導具であり、このアルモニカではほぼ全ての人が持っているだろうアイテムだ。毎朝起きるとこれを見て時間を知るのが私の日常だ。
「なんだこれは!」
だが私のコミュは黒であり学生らしいキーホルダーもつけてない。そう、断じてピンクの素材のオレンジとか黄色とかでデコレーションしてないし、ジャラジャラと重っ苦しい飾りもつけていなかった!!シンプル イズ ベストを貫くようなコミュだ!
私でない人がここに入って、コミュを勝手に取り替えたとしかおもえない!気持ち悪くなった私は即座にベットから飛び降りた。
「イッ!」
だが、足元に何かしら落ちてたみたいで、踏んづけてしまったようだ。ふと、部屋を見る。
「え?」
狐に摘ままれたような、異世界に迷い混んだような。いや、これは……。
「どろぼう!?」
私の部屋が荒らされていた。教科書は散らばり、鞄は無造作。ホウキは床に転がり、ゴミが至るところにある。
「うっそだろ?」
泥棒が入ったのに気づかず寝ていたなんて!即座に身支度を済ませ、誰かに報せなければとコミュを引っ付かんで私は飛び出した。
とにかく誰かにと思い、普段走らない廊下を走り抜け、談話室に駆け込む。
まだ朝早く、がらんとしていて誰もいない。そらそうだ。まだ太陽が登って間もない。いくら過ごしやすい秋だとはいえ、こんな時間にいる方がどうかしてる。
「バカか私は」
「どうかしたのか?」
ややダルそうな声がして、頭をそちらに向ける。
「オーヴァルアーク」
ジェルノ・オーヴァルアーク。オーガリスク家は王家の魔導騎士団とかなんとかのお偉いさんを沢山排出してる、とても格式高い家柄だったな。といっても彼は変わり者で、聖魔導師や聖騎士の超エリート一家の中に産まれた、少数派の闇魔導師らしい。私にはどーでもいいが、一家の恥とかなんだとさ。
と、彼のことはどうでもいい。今は私の部屋だ!
「オーヴァルアーク、廊下って。いや、先生のところってまだ行っては行けない、よな…」
途中まで言って何バカなことを口走っているんだと、自分を殴りたくなった。
「……、まだこんな時間じゃあ、誰も起きてないさ」
「だよね」
「それより、落ちたんだな」
「……は?」
ニヤリと笑いながら確信をもって断言した彼に、私は怪訝な顔をした。彼は変わり者だと言われるのはコレだ。意味の分からない事をいい、時たま会話にならない。私も耳にしたがあまり彼と話さない分、こんなことは初めてだ。
「何が落ちたんだ?」
「可笑しいと思ったことはないか?」
「例えば?」
「身の回りのものが変わったとか、まるで荒らされたようになったとか」
犯人はお前か!
私は彼を睨み付け何時でも魔法が使えるようにした。
「犯人はお前か!?」
するとカラカラと笑い出した。絶対コイツだと、私は眉を潜めた。
「違うよ。もっと変なやつ」
「お前より変なやつがいるか!」
「そうだな。この世界の奴じゃなかったしな
「冗談はほどほどにしろ」
「じゃあ真面目な話をしようか、魔導師サマ?」
「私はまだ見習いだ。ふざけるな!」
すると目の前の男は吹き出した。
「本当に何もかも覚えてないんだな!あのアホもさぞかし残念がるだろうよ!」
「どういう意味か説明しろ」
「それはまたあとで、まあ今日のこの良き一日を満喫してごらんよ」
そういって立ち上がった彼は寮ではなく廊下の方に歩きだす。
「どこに行くんだ、話は」
「ご飯を食べに行くんだよ。もうそろそろしたら始まるからね。煩い中で食べたくはないし」
ふと気持ち悪い色のコミュを見るとあと少しで朝食が始まる時間だった。本当につくづく変わり者だ。
だが、犯人が分かっているなら、こっちのものだ。変わり者だが、真っ正面から仕掛けるバカじゃ無いだろう。
「私もついて行く」
「どうぞご勝手に」
「朝食を食べたら職員室に行くからな!」
「何しにいくんだい?」
「お前がやったんだろ!」
「だから違うってば」
そんなこんなな押し問答をしていたら、さっさと食堂についた。オーヴァルアークは終始嬉しそうだったが、ソレが余計に彼が犯人だと拍車をかけた。
私は先に扉を開けると、食堂内は奇声いや、歓声のような騒音が起こった。こんな朝早くなんて、騎士コースの朝練に行くやつしかいないと思ったのに!
「ぶは!」
私が開けた扉の中から見えない位置でオーヴァルアークが吹き出した。腹を抱えて、下に座り込んでまで!
意味が分からない!100字以内で説明しろと私は睨み付けていた。
「珍しいねどうしたの?こんな朝早く」
金髪青目の笑顔溢れる男がこちらにやって来た。
「は?いや」
確かコイツは騎士コースのトップ、フェティスバルク家の長男か。私の魔導師コースとは分野が違えど、その才能溢れる噂は聞こえてくるくらいだ。そしてその彼のハチミツのような甘い美貌と共に女子に大人気だ。私から言わせたら、砂糖に群がる蟻だがな。顔なんてどうでもいい。
「どうかした?まあ、ここじゃあなんだから、こっちに来て一緒に食べよう?」
ね、と言いながら私の手を触れそうになった瞬間、体が反射的に一歩身を引いた。そして彼を見て、言い放った。
「いえ、フェティスバルク先輩、私はあちらで食べますので結構です」
すると、周りの音が一気に無くなり、目の前の男も一体何が起こったのか分かっていないようだ。その隣を通りすぎ、チラホラ見知った顔のもとへと行く。その道中も
「ここいいか?」
「え?なんで、え?」
親友とは言えないだろうが、それなりに仲良くしている同じ魔導師コースのセル。彼女もフェティスバルク同様に固まっている。どこにでもいるような茶色い髪を二つにくくり、そして同じ色の目を大きく見開き、私の方に向けて驚きに満ちていた。
「え、と。どうかしたのか?セル」
「い、いえ!自分は何でもありません!どうぞ!私は自室にかえりますので!!」
「え?」
「では失礼します!」
まるで貴族にでも言われたかのような、私とは一切関係などないような。脅えを含んだその反応に今度は私が凍ったように動けなかった。
「かーわいそう!」
すると、私の向かい側、真正面に座り朝からハンバーガーを食らう男がそう呟いた。何故ここにいる。
「……オーヴァルアーク、私への嫌みか?」
「まさか!ご飯を食べに来たのに、途中で退席せざるを得なくなった、あの子のことさ」
彼女の席には綺麗なままの皿と食べかけのパンケーキ。セルは毎朝パンケーキを食べてから他のものを食べる癖があった。
「……なんで」
「どうしてだろうね?凄まじい魔力を要しても分からない?」
この状況を楽しむかのようにニヤニヤしながらハンバーガーをかじる。私はホットドッグを二つナプキンでくるみ、水ボトルとグラス二つを持って、さっき出ていったセルの後を追った。
茶色い髪を揺らしながら、とぼとぼ歩く小さな後ろ姿を見つけ、私はスピードをあげた。
「セル!」
「う、え?!あ、テノーラ、様…?」
「なんでファミリーネーム?いつもみたいにア」
「そんな!私を殺すつもりですか!?」
まるで、死ねと言われたような、涙を浮かべてセルは叫んだ。本当に、何だっていうんだ?
「え?でも、」
「テノーラ様、ご無理を仰らないでください!あなた様は私とは違うのでしょう!」
ほぼ、泣いてるような顔でそう返された。意味が分からないが、まるで自分が別人になったようだ。
「えっと、意味は分からないが、なんだかその、……ごめん?でも、ご飯食べてる途中だったみたいだし、アレだけじゃあ、お腹がすくだろ?」
「あーちゃん!」
だから、一緒に食べよう。そう言いたかったのだが、別の声に邪魔された。
誰だろうと振り返った時に、セルが小さく失礼しますと言って駆け出した。
「ちょ、あ、セル?!」
「もう!あーちゃん!どうしたの?キリエがせっかくご飯一緒に食べようって言ったのに!」
「え?えっと、マルシュナーさん」
「マジでどうしちゃったの?あーちゃん、どこか体調悪い?」
あーちゃんになら特別直してあげても良いよ?とやや高慢に私を見るピンクブロンドの彼女。白いローブを基調に、聖女の称号である、クロスティアラを頭に乗っけている。白魔導師と私とは分野が正反対。彼女との接点なんてないはず。ましてやセルが私を呼ぶあだ名を、何故彼女が呼ぶのか理解できなかった。それにキリエって誰だよ。
「いえ、なんでもありません、失礼します!」
「あ、ちょっ、あーちゃん!?どこ行くのー?」
私は彼女の声を背後に、再びセルの後を追った。
何処だろう?談話室も、自室も、庭も探したが、見つからない。そして、いる確率があまり高くない魔導師教室のドアを開ける。やはり居ない。しかしそろそろ授業も始まる時間だ。自室に一旦寄って授業道具を持ってこなくては。仕方無しに、来た道を戻り、部屋に向かう廊下の途中。
「見つからないだろう?」
またか。うんざりするような声で私は彼に言った。
「おまえなら知ってるのか?オーヴァルアーク」
「知ってるけど、教えなーい」
イラつく時に彼に会うもんではないなと思いながら、逆向く気持ちをなんとかなだめる。
「なぜ」
「あの子が可哀想だろ?一般人に絡むなよ」
「どういう意味だ?私の友達だぞ!?」
「そうかい?そう思ってるのは、もう、君だけでしょ」
「ならコレだけは教えてくれ、私の周りに何をした?なんで可笑しくなったんだ!」
「それバラしたらつまらないじゃないか!」
「あーもう!もういい!」
そういって、テノーラは自室に戻っていった。ジェルノ・オーヴァルアークはその黒い髪の後ろ姿を消えるまで見ていた。
「もういいぞー」
そう言うと、近くの教室のドアが空いた。騎士コースの控え室だ。そこからひょっこり顔を出したのはテノーラが探していた茶色い髪の女の子、セルリス・キルティだ。
「ごめんね、ジノ君。ありがとう」
「いいさ、別に。お前の気持ちも分からなくはないしな」
「でも、あのアルヴィーナちゃんは」
「確実に本人だろう。世界を救った魔導師サマじゃないのは確かだろうね」
そっかと彼女が呟いた。そして一度目を伏せ続けた。
「あーちゃん、急に変わって。フェティスバルク先輩と、マルシュナーさん、そしてジノ君が魔王討伐に行ったのも」
「あの女のせいだ」
そう、魔王討伐に行くのはフェティスバルクの騎士と白魔導師のマルシュナー、そして闇魔導師の俺。そんな奴らが易々と魔王を倒してきてと言われてたまるか!まず第一に特殊な結界で少数のメンバーしか入れないし、もし俺たちが行ってもただの切り込み隊長なのは目に見えてる。それが何かが入ったテーノラが。いや化け物が王を騙し、俺たちを引き連れ、片っ端からぶった押し、騎士団の面子を丸潰れにさせたのだから。
「分かっているんだよ?でも、やっぱり」
「分かってる。マルシュナーがテノーラの友達であるお前にしたこともな」
女の戦いが如何にエグいかも見せ付けられたし。本当に女って怖いと思ったよ。
「うん……」
「あれはテノーラじゃなかった。テノーラに何か、人智を越えたものが乗り移ってた。アレはアルモニカの国の、ましてやこの世の奴じゃなかった」
そう、テノーラの中にいたのはチキュウという世界から、テノーラに憑依した別の人物だった。俺だけに自分でそう言ったのだから。最初は急に変わった彼女に呆れたよ。だが何かがテノーラに入ったのは理解していたし、ソレにおぞましい魔力を与えられたのも薄々感付いていた。
「アレは化け物だった。神なんて信じていない俺だったけどさ、魔王を倒すために化け物を神が寄越したのかと思うくらい」
真剣な顔でオーヴァルアークはそう言った。テノーラが去った廊下を見つめながら。
「魔をもって魔を制す。闇魔導師では根本とも言えることだが、テノーラの中にいたのは気味が悪かったよ。生きてる心地がしないんだ」
「ジノ君?」
「だけど、フェティスバルクもマルシュナーも魅了されたかのように、親密……、いや盲従的だった」
確かにフェティスバルクとマルシュナーは今まで大見得切って怒られることも無かっただろう。だけど、どうしてそれが信頼になるのか俺でもわからなかった。
「そう、アレはまるで、魔王よりも遥かにエグい化け物だったんだ」
そう呟いた彼の顔は青ざめていた。
憑依された魔導師見習いにチート性能のヒロイン補正付きの地球の女の子が入って、世界を救った後のお話でした。
本当はねフェティスバルクの金髪君と中に入ってた女の子がカレカノ同士だったりとか、彼女か記憶喪失じゃないかと金髪君が思って頑張って記憶探すがそんなもんはねえ!とか、中にいた女の子がやって来て、しっちゃかめっちゃかになるとか、を全てオーヴァルアークが見てるって言う話にしたいんだ。誰か書いてよ!って思って書いてました。
中途半端ですが、ここまでお読みくださり、ありがとうございました!