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彼女の独り言 前篇


 ☆ほとんどS.F.

  その上、前後篇。

  語り口調もの。



 あのね、これも縁だと思って聞いてもらえます?

 もちろん単なる愚痴なんです。

 だけれど誰かに聞いてほしい衝動がずっと心の奥底にあって。

 ああ、そんな顔しないで。

 面倒くさそうって顔に描いてある。

 え?そんなこと思ってもなかったって?

 うそうそ。絶対思ってる。

 酔っ払いに絡まれてるって思ってるでしょ?

 うん、私、酔っ払い。

 そうじゃないとこんな荒唐無稽の話なんてできるわけないもの。

 コウトウムケイ。

 難しい言葉でしょ。

 でもそれしか当てはまらないの。

 あら。少しは興味が湧いた?

 じゃあ、酒の肴だと思って聞いて。


 ―――そうして彼女はカクテルを一気に飲み干した。


 いつ、気が付いたのかな。

 あるときから急に夢の中で見たことが現実に起こるようになった。

 え?よくあるデジャヴじゃないかって?

 うん。私も初めはそう思ったし、思ってた。

 けどね?なんかがおかしかった。

 夢なのに、すごく色が鮮やかで、すごく細かいディティールで。

 夢って普通、色が付くものなのかな。

 匂いも。

 ものすごく鮮明で怖いくらい。

 夜、家に帰る前にその日の夕食が分かるの。もちろん味も、付け合わせも何もかも全く同じ。

 まあね。あなたが言うように、親が作るものだからマンネリ化しているからメニューが分かるのかもしれない。

 だけれどその日にたまたま出たケーキの種類まで一緒とか、気持ち悪くない?

 そんなことがすごく続いた。

 すごく、なんて言葉じゃないよね。

 本当は毎日なの。

 さすがにおかしいって気が付くでしょ?

 でもこの時の私は気が付かなかった。

 ……試験があったの。期末、だったと思う。

 前日に徹夜して、学校に行って、三単位の試験を受けて、家に帰ってきたのがお昼前かな。

 お昼御飯を食べたら徹夜のせいですごく眠たくなって、部屋に入るなりベッドにダイブした。

 その時点で爆睡してたんじゃないかな。

 気が付くと、朝6時。

 手にシャーペンなんかもって、机の上で勉強してた。

 それも前の日のテストででた数学。

 馬鹿でしょ。寝過ぎで頭がおかしくなったのかって思った。

 だって意識が飛んでんのは分かる。寝過ぎでさ、朦朧としているところでテスト勉強しようっておもったんだろうなって。

 どうせするなら、ちゃんとその日のテストの教科をすればいいのに、よりにも寄ってもう終わった数学を勉強してるなんて。

 笑えるやら情けないやら。

 でもすぐに頭を切り替えて、理科の勉強を始めた。

 だって、テストだし。

 やらなきゃね。

 で、いつものように電車に乗って、いつものように学校に行ってテストを受けたんだけど。

 一時間目のテストが。

 数学、だった。

 ……昨日終わったはずの数学。

 だけど、目の前のテスト用紙は間違いなく数学だったの。

 その上、まったく同じ問題だった。

 あ、楽勝じゃんって思ったでしょ?

 だって、一回受けたって思ったなら問題解けるでしょうって。

 解けるわけないよ。

 だってテスト終わって、答え合わせなんてする?私はしない。

 だから出来るところは昨日と全く同じ。できないところも全く同じ。

 意味ないよねえ。デジャヴだろうがなんだろうが、全く意味がないの。

 ただね、そのつぎの時間の国語も……昨日と同じ問題だった。もちろん次の保健体育も。

 夢?デジャヴ?

 そんな言葉で片付けられるほど、曖昧なものでも何でもなかった。

 だって同じなんだよ。全く同じ。

 テストが終わってすぐに家に帰ったのは、ものすごく怖くなったから。

 現実なの?それともこれも夢なのって。

 でもね。もっと怖いことに気が付いたの。

 ……眠くない、全く。

 おかしくない?だってさ、徹夜してたのよ、私。

 アドレナリンが出過ぎて、ハイテンションになってるのかなって思ったくらい、眠たくないの。

 でも、丸一日寝てないんだから、絶対に眠くなるはずなのに。

 お昼御飯を食べても、テレビを見てても、お風呂に入っても、夕食を食べても、眠くならなかった。

 だからまた、翌日のテストのために徹夜をしたわ。

 時間は沢山あるし、せっかく眠たくないんだったら勉強したほうがいいから。

 翌日は英語と技術家庭科と音楽のテストだった。

 試験が終わって、家に帰る電車の中で答え合わせをしてみた。

 途中で眠ることなく徹夜で勉強しただけあって、結構いい点数だったのには満足。

 だけど家に帰って御飯を食べるとやっぱり睡魔が襲ってきたみたいで、部屋に戻ってベットに腰をかけたとたん眠りに落ちていくのがわかった。

 うん、やっぱり無理してたんだなって思う。

 意識が戻る途中から寝過ぎで身体がだるいことだけはわかった。

 でもね、制服を着てベットで倒れこむように寝たはずだったのに、いつの間にかパジャマ姿でまた机に向かって勉強してたの。もちろんシャープペンを握ってたわ。

 え?なんの勉強をしていたかって?

 ふふ。

 いいところに気が付くわよね。

 もちろん、理科、よ。

 教科書にちょこちょこと走り書きしている途中だったみたい。

 でね。二日続けて似たようなことが起こると免疫ができるっていうのか、単純に神経が図太いのかわからないけれど、まずはじめに日付を確認したの。そう、日付。次に時間。

 日付はね、もちろん同じ日だったわ。

 そして、時間。―――4時だった。

 

 驚いた?

 え?どうせ作り話だからそのくらいは当然だっていうの?

 そうね、作り話だもの。

 当然よね。


 ―――彼女は俺の言葉に傷ついたように目を伏せた。


 ……でね。

 思ったの。

 もしかして私、時間が戻ってる?って。

 あ。今、馬鹿にしたでしょう。そんな顔してる。

 私だってもし友人から同じ話を聞いたとしたら「何、馬鹿なこと言ってるの?」っていうから、仕方ないけれど、もう少しだけ馬鹿の話に付き合ってもらえると嬉しい。

 付き合ってくれるって?

 ありがと。

 それでね。おかしいことに気が付いたのよ。

 だって昨日は家に帰ってきて眠ってから、目覚めたのはその日の朝の6時だったのね。

 でも今日は帰ってきてから寝て、起きたら朝の4時じゃない。

 どうして2時間時間がずれるのって。

 そうしたら、昔の似たようなこと、ようするに夢を鮮明に覚えているって話したでしょ。あの夢もおかしかったことに気が付いたの。

 何がって?

 鮮明に覚えている夢は、大体寝る前の数時間のことだけだったから。

 学校のことはほとんど夢にみなかった。

 見たのは家に帰ってきてからのご飯やテレビの内容、家族の会話だった。

 それっておかしくない?

 毎日毎日、見るものはそういった夕方からの日常のことばかりで、それ以前の学校のことや朝のことを夢に見ることがなかったの。

 うん。おかしいでしょ。おかしいもの。

 その日から私は研究した。

 何の研究って……もちろん自分の夢の話。

 馬鹿みたいだけれど、現実に同じことを二回繰り返しているような気がしてならなかったから。

 そうすると見えてくるの。

 もしかして、もしかしたら。


 私が眠った時間、その分だけ時間が巻き戻ってるんじゃないかって。


 ふふふ。

 そう考えたら、全部つじつまが合うのね。

 面白いでしょう?

 作り話にしても出来過ぎじゃない。

 でもそれからが楽しかった。

 だって、面白いことに気が付いたから。

 それはなんだって?

 簡単よ。

 寝る時間を調節したら、その日学校であった事が全部もう一度繰り返されるってことよ。

 気が付いた日から、私の寝る時間は夕方からになったわ。

 学校から帰ってきた直後ってやつね、そこから大体8時間くらい寝るの。

 そうするとね、学校に行っている時間は全部カバーできるってこと。

 え?それがどうしたって?

 ……女子中学生をなめたら駄目よ。

 そりゃあもう、いじめは半端ないから。

 ちょっとでも気にくわない子がいると、口裏合わせて無視しだすし、教室が違うのにわざわざ休み時間の度にやってきては聞えよがしに言いに来たり、パソコンや携帯使って本人の知らない間にいろんな中傷をばらまくのよ?

 男子なら首謀者が分かりやすいけれど、女子は首謀者が被害者面するからたちが悪いのよ。

 あら、話が妙に熱血したかしら。

 まあ、何が言いたいかっていうと、一日前に起きることを知っていたら対処ができるってことなのね。

 同じことを繰り返すわけだから、じゃあ次はこうしようって思えるし、心構えもできるってこと。

 それに何よりも、試験の問題が分かるってことが一番かしら。

 初めての時は戸惑いがあったから、何がなんやらわからないうちに終わったけれど、長期休暇が終わった後の実力テストや中間テストは要領を得ていたからものすごくいい点が取れたの。

 どのくらいよかったのって?

 正直いって、記憶力の問題なのね。

 いくら同じことを繰り返すからって言ってもそれを覚えていないとどうしようもないでしょう?

 でも私はありがたいことに速攻の記憶力だけはよかったの。

 実力はないけれどね。

 だから時間が戻るって分かってからは学年順位3位を下ったことはないわ。

 もちろん高校受験の時も同じ試験を二度受けたようなものだから、志望校に合格したわ。

 高校でもトップクラスの成績を保つのは簡単だったし。

 大学も日本最高峰といわれる大学に進学できたのはこの力のおかげね。

 ほら、日本の大学って入学は難しいけれど卒業は簡単でしょ。

 卒論は必要だけれど、それ以前に試験の点数が左右するし。

 実際、なんて楽な人生だって思っていたわ。


 ―――言葉とは裏腹に、彼女の瞳には陰りがあった。

 



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