プロローグ
初投稿。亀ですが長い目で見てください。
時は2062年。50年も前に考えられてたような近未来とやらは来ていない。車は全て電気自動車になったが、いまだ空飛ぶ車は存在しないし、一般人が宇宙に行くなんて夢のまた夢。
むしろ石油が枯渇したせいで人類は核エネルギーに頼りきり。石油に限らずさまざまな資源はもう無くなる寸前まできている。節約すれば次の世代まではなんとか、ってくらい。それでも現状に危機感を抱いているのはほんの一握りの人たちだけで、おおかたの人は「自分たちの世代は大丈夫だしなぁ」と問題を先送りにしていた。
そんななかで俺ことソール・ワーヴィストの両親は変わり者だった。二人ともが優秀な科学者で、特に多世界解釈に興味を持って研究していた。いわゆるパラレルワールドって奴だ。
なんでここにきて並行世界なんかに興味を持ったかっていうと、人間のいない、可能性的にはるか彼方の世界に移住、もしくはそこから資源を手に入れることで現状を解決しようとしたってわけだ。
しかも、そんな普通に考えたら難しい量子力学だのなんだのを幼少の息子に絵本変わりに聴かせるもんだから俺まで変わり者になってしまった。小中と周りの大人は神童とかはやし立ててきたが、同年代の学友たちの反応は冷たいもので、村八分状態だった。まぁそれでも両親は俺のことを理解してくれるし、なかには友達やってくれる変わり者もいたから何も不満はなかった。
そう、あの事件が起こるまでは。
2057年、俺の両親はいなくなった。死んだわけじゃない。並行世界への移動の実験中に事故が起きて、はるか遠くの並行世界へと飛ばされてしまったのだ。当時15歳の俺にはその事実を受け入れるしかなかった。それでも両親を諦めきれず、それからの俺はひたすらに勉強した。(もちろん俺も人間なわけだし、息抜きくらいはしたが…)。両親は死んでいないと信じた。きっと生きている。いずれもとの世界につれ戻してみせる。
それから5年、ずっと量子力学を専攻し続け、今では大学で小さな研究もできるようになってきた。理論はすでに両親が俺に語り続けていたし、俺もそれをしっかりと覚えていた。両親が自分たちの作った作った並行世界移動装置のOSの雛形を自慢してくれたおかげで、どのようなものを作ればいいかおぼろげながらまとまりつつあった。
しかし、理論だけじゃあどうにもならない。つまりただの大学生たる俺には金がない。研究に割り当ててくれる援助金では全く足りない。そんな悶々とした日々を過ごしていた。
「はぁ、どうしたもんか。」
「こればかりはどうしようもありませんね。この貧乏ソール。」
腕時計に内蔵させたAIのウィルが間髪入れず答える。無駄に機能を詰め込んだせいか人を馬鹿にすることを覚えたらしい。
俺は気を紛らわせようと大学敷地内のカフェで一服していたのだが、結局まとまりのない考えがぐるぐると渦巻くだけだった。
「ソール~。いつになく暗い顔してるぞ~。」
どうやら自分の世界に没頭していてルーナの接近に気づかなかったようだ。
こいつはルーナ・ミーティス。変わり者の俺の友達やってくれる変わり者だ。こいつははっきり言って可愛い。美人ってわけじゃないが、肩で切りそろえた栗色のさらっとした髪や小動物系のクリクリした瞳で浮かべる人懐こい笑みは俺の密かな癒しだ。
「なんでもないよ。ただ考え事してただけ。」
「実はおか…ボソボソ」いらない事を喋りかけたウィルのスピーカーを押さえつける。
「ん?ほんとに?この世の終わりダ~って顔してたよ。悩みごとならいつでもルーナが聞いてあげるよ」
お金がないんですなんて言ったらどんな顔するんだろうか。
「サンキュ、でも本当になんでもないんだ。心配させて悪かったな。」
俺はなんとなく気まずくなり、席を立ってポケットに用意していたコインをレジに置き足早にその場を立ち去った。
部屋に帰ると疲労のせいか服装もそのままにベッドに倒れ込んだ。
その夜は何かおかしかった。何がおかしいって、目を覚ますと周りにスーツとサングラスといういかついお兄さんたち(以下いか兄)がいて、体が動かないときたもんだ。
どうやら誘拐されたらしい。ガタガタと床が振動していることからすると車で移動している最中らしい。ロープでがんじがらめにされ猿轡のせいで声も出せない。これから何をされるのかと不安になってきた。さすがのウィルも空気を読んで沈黙している。いか兄のなかでもひときわ迫力のあるリーダー格らしき人物が話しかけてきた。
「ソール・ワーヴィスト。20歳。並行世界研究の第一人者達であったワーヴィスト夫妻の息子。自身も並行世界について研究を行い学生ながらも多大な成果をあげている。」
なんだなんだなんだ!このいか兄はストーカーか何かか!?
「お前に協力してもらいたいことがある。もちろん拒否権はない。」
振動が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。足の縄だけを解かれ、外に降りた。外はすでに夜だったのでよくは見えなかったが、白い建物があった。ここになにかあるらしい。建物の中に入ると、叫んでも抵抗しても無駄だと言わんばかりにあっさりと猿轡やその他の縄も解かれた。
「いったい俺になにをさせようって言うんだ!?」
「お前の両親は並行世界移動装置を完成させた。それには国の多大な資金援助があった。なぜならそれが成功すれば我々アメリカは莫大な資源を保有できる。しかし、お前の両親は装置だけを残して消えてしまった。我々は多くの研究員を使って、装置の使用法を明らかにしようとした。しかしどうしてもダメだった。装置のコンソールがあまりにも独創的なせいでだれも使えなかった。そこでお前にやらせてみようというわけさ。」
これはチャンスだ。これを逃したら父さんと母さんを取り戻すチャンスは永遠にやってこないかもしれない。しかしこの話に素直に乗っかっていいのだろうか…。
「嫌だと言ったら?」
「おまえはやると言うさ。」
歩いていくと学校の教室ぐらいの大きさの部屋に入った。そこには機械が所狭しと並んでおり、機械の内部からファンで熱が逃され、まるで暖房がかかっているようだ。その部屋の真ん中に机の表面をまるごとタッチパネルにしたコンソールが佇んでいた。
「さぁ、動かしてもらおうか。幸い時間はいくらでもあるぞ。お前は二度とこの施設からでることはできない。だがまあ安心しろ、一人きりじゃない。」
そういうと部屋の奥から男に引きずられるようにルーナが現れた。
「ルーナ!」
「むぐぅぅうぅぅ!」
ルーナはさっきまでの俺と同じように猿轡をされていて必死にうめくことしかできない。
「これでわかっただろうソール。お前はやるしかないんだ。下手なことをすればそこのお嬢さんが大変なことになる。」
男は薄汚い笑みを浮かべながら言った。
「分かった…。」
逃げるしかない。こいつらのいないどこかへ。この建物からなんとか逃げ出したって国ぐるみで追いかけられるに決まってる。幸い俺には別の世界へ逃げ出す手段が目の前にあるんだ。
俺はゆっくりとコンソールに近づいた。それは昔両親が自慢してきたOSそのものだった。今まで普及してきたqwerty式のキーボードとは一線を画す操作方法は分厚い説明書一冊作らなければ普通は操作できないだろう。画面に触れる。まるで自分の体の一部のように操作できる。
転移座標 履歴表示: 57年 5月 1日 「091357284803481831738」
しめた!どうやら両親のことがあってから一度も使っていないようだ。周りの人間はいったい何をしているかすらわからないだろう。喜びを悟られないようポーカーフェイスで作業を続ける。
転移対象 設定。
X:about 2 m
Y: about 1 m
human femail
and
X:about 0 m
Y:about 0.25m
human mail
転移しますか?
心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。ここからは一瞬の隙も許されない。俺は目の前の小さなリモコンのような形をした帰還用デバイスをひっつかみ、YESを押した。
霞む視界のなか、同じく姿が薄れつつあるルーナとこちらに迫ってくる男たちの姿が見えた。
駄文にお付き合いくださりありがとうございます。