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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
98/110

第四楽章-3:寮長、帰還。

午後21時50分。

芦屋千代、安西潔子、神宮亜里沙は食堂で正座していた。

三人の前には銀色に焦げのついた鍋。

中には水気のないぶよぶよのパスタ。

出来損ないのパスタ。

食べられないパスタ。

ゴミ箱以外に行く先がないパスタ。

とても人の腹には入れないパスタ。

そして鍋の後ろでは迷彩服に土に汚れた顔をした寮長、篠原ことはが仁王立ちしていた。

芦屋が恐る恐る一言。

「………寮長、お、お久しぶりです」

安西は何も喋らない。

神宮が陽気に装い、頭を掻いた。

「いやぁ!今日は事件がありまして!芦屋さんと安西さんは清帝学園で爆発をなんとか逃れたとか!すごい一日だったん」

パシィィン!と篠原が竹刀で床を叩き付けた。

三人が肩を震わせた。

「で?忙しかったらパスタの命はどうでも良いって?」

『すみませんでした!!!』

「あと一時間はパスタの無念を思いながら正座!」

パスタの無念?

と思いながらも、従うしかない三人だった。

篠原は食堂を出て行き、大変ご立腹のようだ。

明日も調べに行ってやるんだから!

既に事件が終わっていることも知らずに。





     *    *





午後21時50分。

椿乃峰の寮の庭、ベンチに皆川季雨は足を組んで座っていた。

そこへ迷彩服の篠原ことはが出てきた。

「今回はvery very laterな帰還だったわね。ことは」

「ちょっと独立戦線に。お久しぶりですね、皆川先輩」

皆川はサングラスを外し、ベンチから立った。

「ええ、久しぶり。少し聞きたいことがあるの」

夜風が黒髪をすり抜け、寒空を見上げた。

「そちらに“箕輪なぎさ”という生徒がいるでしょう?退学届けを出してもらえる?学園長には私が話をつけるわ」

「箕輪なぎさ?何かやらかしました?」

「いいえ、彼女の都合よ」

「……そうですか、わかりました。手続きして出しておきます」

「任せちゃって悪いわね」

篠原は首を振り、いいえと言った。

皆川はかかとを鳴らしながら篠原に手を振り、寮を出た。

「よくも勝手に退学させてくれたものね」

寮の外で箕輪なぎさが立っていた。

皆川がサングラスをかける。

「high schoolというのはね、15歳から18歳のchildrenが通う場所よ?貴方が通う場所ではなくってよ。今日は帰りなさいな。後始末も大変でしょ」

箕輪は歯を食いしばり、クスクスと笑う皆川に舌打ちをした。

皆川は箕輪を素通りし、姿を消した。

箕輪の後ろにリリアと菱山が着地した。

「あの女、昔っから大嫌い!」

まぁまぁ、と宥める二人とともに、夜の道に消えた。





     *    *





午後22時10分。

応力発散こと黎は嫌な奴に出くわしていた。

黒いワゴン車に細い路地を阻まれ、目の前には濃い青髪ショートカットの庄司実耶子がいた。

「久しぶり、というべきかしら」

「これから研究所全壊の隠蔽作業か?クソ研究員とその仲間達で」

「隠蔽は私達の仕事では無いわ。同世代の子たちとのふれ合いはどうだった?楽しかった?」

黎はポケットに手を突っ込み、笑った。

「これからもふれ合いを続ける?」

「……いや、そうだなぁ、花柳初のホームレスにでもなるか」

庄司が失笑した。

花柳にはホームレスがいない。

こいつは初のホームレスだ。

「ならなくて済む方法があるわよ。一緒にいらっしゃい」

「そりゃお断りだ。ろくでもねェ実験すんだろ?」

「……んー、それじゃあ、一度だけ付き合ってもらえれば良いわ」

庄司は人差し指を立て、不気味に笑う。

「出張よ」

「どこに」

「アメリカよ、明日には発つわ。身ひとつで十分だから、さっさと来なさい」

「内容は」

庄司は車を指差した。

「……乗って。説明する」

黎は小さく笑い、庄司の背をゆっくりと追った。

「面白れぇ。ホームレスの次ァ海外旅行かよ」

車の後部座席に乗り込むと、黎は庄司に聞いた。

「紙とペンあるか」

「?えぇ、あるわよ」

庄司がボールペンとメモ帳を渡すと、彼は番号を書き始めた。

11桁、それは電話番号に見えた。

「何よそれ」

「テメェ関係ねぇだろ」

「気になるわね。あなた、人に興味ないから」

「……面白い幕の内弁当の連絡先だ」

わけのわからない応えに、庄司はそれ以上聞くことをやめた。

車は空港へと急ぎ、任務の説明が開始された。

黎は千切ったメモの番号をパスポートに忍ばせ、説明を聞いた。

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