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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
94/110

第三楽章-3:不知火

午後3時37分。

花岡、水無瀬、芦屋、安西は清帝学園の生徒会室にいた。

焦げ茶色の壁に深い赤の絨毯、天井からは美しいシャンデリアが下がり、初めて見る豪華な生徒会室に芦屋と安西は緊張で無言になっていた。

大きな窓の前にはただ一人、清帝学園の生徒会長が席についている。

焦げ茶色の髪のメガネ青年は花岡を見て、彼女が何のために来たかをすぐに理解した。

「ご機嫌よう。花岡さん」

「寮の門限もありますので手短に」

と花岡は生徒会長の席の前にある豪華な黒いソファーに座った。

「椿乃峰生徒会での調査の結果、書記が犯人を割り出しました。地面の亀裂を見たことがあるようで、名を実験体“応力発散”と」

生徒会長が目を細め、指を組んだ。

「知っているから、隠蔽しようとしているのでは?」

「……言いますね、会長。では、情報交換しませんか?お宅は応力発散について知っていることを、俺からは今回の事件のことを」

花岡は芦屋に視線を送り、芦屋が頷いた。

「7月に……」

「ちなみに今回の事件はね、ホントに応力発散の仕業なんだよね。二件とも。ただ場所の特定が難しくてね」

芦屋はハッとした。

生徒会長の前の机を叩き、芦屋が彼のメガネを奪うように外した。

「………やっぱり!」

「手荒だなぁ、芦屋ちゃん」

「あなたにちゃん付けされる覚えはないわ!」

花岡が立ち上がり、生徒会長の胸ぐらをつかむ芦屋を止めた。

「芦屋さん、知り合いなの?!」

「ええ、そうです!彼は………美咲さんと戦ってたニセ生徒会です!」

「その通り!本物は上辺だけ動いてくれればいいんだから!俺は襟澤要と言いますー、清帝学園の裏生徒会長でーす」

と生徒会長こと襟澤要が席を立ったと同時に、机の死角から呟くような女の子の声がした。

「3」

芦屋が机の裏を覗き込もうとした。

「2」

襟澤が窓を開け、カーテンが風になびく中で桟に脚をかけた。

芦屋が一瞬だけ見たのは、白髪の少女が真上であるこちらを見ている片目。

右目は包帯で隠されていた。

「1」

安西が芦屋を引き寄せ、叫んだ。

「聖域!!!」

真っ白な光とともに、生徒会室は大爆発した。





     *     *





午後8時43分。

涼しい夜の風景を眺めながら、ピンクのワンピースにジーンズの美咲歩海は山吹病院近くのカフェにいた。

向かいには学ランの襟澤称がチョコレートケーキを食べている。

美咲はホットミルクティーを飲みながら、病院の明かりを見つめる。

「さて、面会時間がもうすぐ終了ね。そして消灯、とともに潜入開始よ」

「はえほあっはひょね?やはふひひょーいんい………」

「食べてから話してもらえる?汚いわ」

すると襟澤はケーキを完食し、美咲を指差した。

「あんたには言われたくないね!で?今回オルゴールはどこに置いてきたの?」

「一階奥の職員用トイレの三番目の部屋のトイレットペーパーに見せかけて隠してある」

長いな、説明。

「もちろん“使えません”って貼り紙したわ。ちょっと貰い物置いてあるから」

「何」

「ヒミツ」

「恐らく発信源は地下だ。そこから外のスピーカーで流してんだろ。でも手荒にしたくないからな」

「患者さんもたくさんいるからね。地下なら能力防御層があるだろうからメッチャメチャにできるけど。私はアルニカで侵入してオルゴールで戻るわ」

美咲が席を立つと、襟澤はその場でノートパソコンを開いた。

「道は俺が開く、壊すのは任せるから」

「行ってきます!」

美咲はカフェを出ると、ライトに照らされる山吹病院に向かって音波を使って飛んだ。

すぐに屋上を見下ろす程の高さまで飛び、ベルトにつけていたカラビナポーチから音叉を取り出した。

「ログイン!」

上空から美咲は姿を消し、一瞬で空が電脳のブロック式の空に変わる。美咲も正義のヒロイン“アルニカ”に姿を変えた。

屋上をすり抜け、アルニカは落ちていく速度を楽しみながら一気に一階のホームに着地した。

病院の紹介、各課のホーム、他ページへのリンクなどが並ぶ中、アルニカはマップを覗いた。

「んー………表示されてるわけないか」

瞬間、銃声とともにアルニカの足元に銃弾が飛んできた。

「こんばんは、アルニカ」

「リュウ」

白いマフラーで口を隠し、右手で銃を構えるリュウが暗がりから現れた。

「来ない方が良かったと思うんだけど?」

「立場上、抜いてもらわねぇと困る」

「……ただで抜かせてはくれないでしょう?」

「そうだな」

「わかったわ」

アルニカはリュウの発した銃弾を音叉で弾き、音速で近付いた。

リュウが右腕を振り、真っ赤な炎で身を守った。

「?!」

アルニカが炎を振り払う間にリュウは高く跳び、弧を描くように宙を舞った。

そして二丁銃をアルニカに向けて構えた。

「能力は一人一つ…」

「残念だったな、俺は第二スキル計画の被験者でな」

発射された銃弾はアルニカの背のリボンを掠め、着地したリュウは彼女の目と鼻の先に銃口を向けた。

不知火(シラヌイ)と記載されてるが、あんま意味がねぇ」

「第二スキルって……自分を実験に使うなんて」

「使ったのは母だ。あの時は少しでも役に立てるのならと思ってたからな…………アルニカ、一つ聞いていいか」

アルニカが瞬きをすると、リュウは撃鉄を起こした。

「俺の中で決心がついたら、姉の連絡先を教えてくれるか」

「クロちゃん経由で後で送ってあげるわ。私は正義のヒロインよ、困ってる人はいつでも助けるわ」

「そうか」

銃口はアルニカの背後を向き、警備用トラップを撃ち抜いた。

振り返ると、警報も鳴らず他のトラップも作動しなかった。

「これで全トラップが解除されたはずだ。さっさと行け」

「リュウ…まさかこのつもりで来たの?」

「貴様に会って、俺も馬鹿になったらしい。家族を取り戻してみようかとな」

幼少時代に離れ離れになった姉の宮園葵、研究所で非道な実験を続ける母の庄司実耶子。

「貴様らに母の研究を台無しにしてもらえば好都合だ」

「喜んで協力するわ、ありがとう」

アルニカがドロン、と表示なしのログアウトをすると、残されたリュウは銃をしまった。

「……本当、感化されて馬鹿みてぇだ」

リュウは目を閉じ、ログアウトした。

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