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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
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第三楽章-1:芦屋千代と愉快な仲間達、遭遇

午後1時12分。

芦屋千代は最大のピンチに遭遇していた。

同行していた安西潔子の後ろに隠れる。

安西が真顔で、目の前で今にも芦屋を捕らえようとする人物を見た。

生徒会長、花岡紗夜である。

「………退きましょうか?花岡先輩」

「ええ、退いてちょうだい」

「きよォォッ!!?退かないでー!!!」

芦屋が安西をバシバシと叩く。

「安西、退いてちょうだい。芦屋さん、どうせ勝手に調べてるんでしょう!」

「何が悪いんですか!会長はあの禁止令ムカつかないんですか?!」

花岡の後ろで水無瀬しづるが呟いた。

「会長、最初すごくイラついてましたよね?」

「言わないの!」

芦屋が安西の肩から顔を出した。

「なら!調べて犯人とっちめてやろうとか思わないんですか!ってか目星だってついてるんです!」

花岡と水無瀬が目をまん丸にする。

葵通りの半崩壊、マンション半崩壊、二件の犯人の目星?

花岡が安西に視線を向けると、彼女は頷いた。

「地割れの形を見た覚えがあります。一度受けたこともあります」

「受けた?!」

「そうです!その時は美咲さん探してて…………」

芦屋は犯人だと確信している黄緑髪の青年の言葉を思い出す。

謎の爆発の寸前に言った一言を。



『美咲歩海を殺すことだ』



「ぜ、絶対捕まえないと!少しでも手がかりが欲しいんです!だから自分の足で!」

「芦屋さん」

花岡の言葉の語尾が下がり、芦屋が青冷める。

安西は真顔で立ったままだ。

「……自分の意見を貫く覚悟と、自信はあるかしら」

芦屋はついに安西より前に出た。

「もちろんです!だからこそ、私は調べてるんです!犯人を知ってたら尚更です!」

「ならついてきなさい」

花岡が微笑み、両手をふわっと合わせた。

「清帝学園の生徒会室へ」

「え…………」

捜査禁止令を出した清帝学園。

に、乗り込む。

「これから行くのよ。私なら入れてもらえるわ」

「どうしてですか?」

すると安西が口を挟んだ。

「紗夜先輩のお家柄じゃ。電脳警視庁のトップにおるのが、先輩のお父上じゃ」

芦屋が冷や汗をだらだらと湯水のごとく流した。

「だから絶対入れてくれるわ。あまりこういった手段は使いたくないんだけど」

水無瀬が続きを言った。

「相手が生徒会トップ校の権力を使うなら、おあいこでしょう」

花岡は小さく「行くわよ」と呟き、前に進み出した。

芦屋は口を引き結び、花岡の後を追った。





     *     *





午後4時29分。

庄司龍一郎宅のリビングは静かだった。

美咲歩海が起きてから、庄司の作った鮭炒飯を食べた四人は、それぞれ別の行動を取った。

庄司は銃の手入れを始め、皇はそのコレクションを見に行った。


襟澤はクラッキングを続けており、明かりの点いていないリビングに差し込む夕日が顔にかかった美咲は転た寝から覚めた。

上体を起こすと、花柳のマップが画面に映し出されており、美咲は後ろからそれを覗き込んだ。

「休んでな」

「これから行くところ見ちゃいけないの?」

「あんた行かないから」

「行くわよ。世界が反対しても行くわ」

「俺の反対の一票は世界の何億票に勝るから却下」

「何その投票権!」

「昔は投票権は金がものを言ったらしい」

「今は違うわよ、みんな平等に一票よ」

襟澤がパソコンから目を離し、美咲をソファーに戻した。

「……どうやら山吹病院と梔子研究所から出てるみたいだ。その音波」

「もうわかったの?」

「誰に言ってんのさ。朝飯前だね」

美咲はソファーに仰向けになり、大きく息を吸い込んだ。

「ありがとう。もう少し休んだらまず………山吹病院に行くわ」

「いや行けないから」

「行くから」

美咲が目を閉じると、襟澤はノートパソコンを閉じた。

ソファーの美咲の足下際に座り、ため息をついた。

「………無防備だとは思わないの?ヒロインさん」

「……襟澤がいるから、誰か来ても大丈夫」

「……あ、俺は危険視の対象外なんだ」

「危険なの?」

と美咲が襟澤を見た。

「危険かもよ?」

「襟澤、助けに来てくれてありがとう」

美咲は襟澤の隣に座った。

「とっても安心したわ」

「…そっか」

一切危険視されない、もしかして男としてすら認識されていないのではと襟澤は落ち込みながら、なんとか平然を装った。

「問題はここをどうやって出るかだわ。靴が無いから外に出られないわ。急にログインして消えちゃっても驚かれちゃうだろうし」

「そこは俺が解決しちゃうよ~☆」

急に飛び出してきた皇に二人は仰天した。

すぐさま襟澤が彼の頭を叩いたが、皇は美咲の足元に黒い厚底の革靴を置いた。

「これ、まさか私の?」

「そうだよ~!不用心に窓が開いてたからちゃんと閉めてき」

「死ね不法侵入者!!」

襟澤がまた頭を叩くと、皇がしっかりと抗議した。

「何~?エリーだって事ある毎に部屋に忍び込んでるくせに」

「何でそんな事知ってんだ!そしてそのエリーやめろ!」

「そういえば、どうして情報屋さんがこんな所にいるの?」

襟澤はなんとも説明しにくい質問に眉を寄せた。

「俺は本件の傍観者だからね~?研究所サイドの情報高いから教えらんないけど、君らが殺されたりしないくらいには影ながら守ってあげちゃうよ」

「殺そうとしてきたくせに」

「襟澤、それは本当?」

「大丈夫だよ~、ねぇ?襟澤君」

「…」

襟澤はふいと顔を背け、銃の手入れから戻ってきた庄司に気付いた。

美咲は両耳に手を当て、強く頷いた。

「聴力も戻ったわ。さて、作戦を立てましょうか」

「何の」

「山吹病院。お前も来なさいよ?反対意見は聞かないから」

美咲の手が襟澤の肩を軽く叩き、にっこりと嫌な笑みを浮かべた。

襟澤は『はい』と言う以外に為す術はなかった。

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