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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
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第二楽章ー4:リュウの家

午後1時。

「…よし、このビルだな」

襟澤称は息を切らしながら、緊急事態と思われる美咲歩海を探していた。

携帯電話のGPSを追い、ここまで来ることに苦は無かったが、どうやらこのビルのどこか、までしか判らなかった。

何故なら携帯電話の電波が弱かったからである。

「一階ずつとか死ぬ」

「屋上だね」

「は?何でわかんのさ」

襟澤は隣を見上げた。

すると情報屋の皇祷がビルとビルの間に襟澤を連れ込み、背中から圧縮袋を取り出した。

コートの裏から銃や刃物がいくつか見え、襟澤は一歩退いた。

圧縮袋から取り出したのは黒い皮のニーハイブーツで、その場で靴を履き替えた。

「普通の靴だと無理だもんね~」

「何が」

「これ戦闘用なんだ~☆ほら、動物に乗った時に擦れんの嫌じゃん?」

「馬とか?」

「………うん、まぁ、そんなとこ」

馬じゃないのか、じゃ何に乗るんだこの人。と思いながら、襟澤は靴を履き終えた皇をまた見上げた。

とはいえ、そこまで背が高くないため、少しの角度で済む。

「さぁて、上っちゃいますよ?屋上!」

「だからさ、何で屋上ってわかんのさ」

「俺の能力が電波使ってるからだよぉ~☆相手を遠隔操作することも可能、脳に直接メッセージも送れるし、聞き出すのも簡単!俺は相手の意識を奪えちゃうこれを“接続(コネクト)”って呼んでる。まぁ、これも一部なんだけどねぇ?」

「随分と便利かつ厭な能力だね」

「俺は好きだけどね?ほらほら、お姫様助けに行くんだろ?」

「うん、そうだけど………って、え?!ちょっ、自分で飛べるしモゴッ?!」

襟澤は皇の小脇に抱えられ、もう片方の手から口に棒付き飴を突っ込まれた。

「それ、落としたら君のアカウントで死亡フラグ発言連発させて人生ブラックアウトだから」

「ひょっと待っ……」

鉄扇がジャラリと開く音を聞いた。

皇は何の返事もせず、壁にブーツの踵を引っ掛けた。

鉄扇を振ると、風が皇を宙に押し上げ、ビルの壁に足をうまく引っ掛けながら屋上まで跳んだ。

襟澤の声なき悲鳴もなんのその、皇は屋上に華麗に着地。

「ど~よっ☆」

皇が襟澤を放すと、貯水タンク以外は殺風景な屋上を見回した。

「一体何なの?!あんたどうかしてんじゃないの?!」

「つべこべ言ってないでお姫様」

皇が指さす先には、美咲歩海が横たわっていた。

襟澤は口から取っていた棒付き飴を落とし、駆けだした。

それが地に落ちる前に皇が飴をキャッチし、自分の口に入れた。

「美咲!」

息はあるものの、電脳世界でのダメージで呼びかけが聞こえていない。

「電脳で何があったの?!」

その時、襟澤の携帯電話が鳴り、彼は登録していない相手に首を傾げながら通話した。

「何か御用ですか?!超急いでるんで後にして貰えます?!」

『随分な物言いだなクソ猫』

「?!」

『寮か?』

「……いや、外」

『なら位置情報送る』

「どこの」

『アルニカと見たものについて説明する』

襟澤は皇を見上げた。

「………変な奴に連行されてるから無理。そもそもあんた敵なんじゃないの?どうせ研究所が黄緑使って何かやらかしてんだろ」

『そのようだ』

「あんた何の味方なの?命懸けの情報なんか寝覚め悪いよ」

『死んで欲しくねぇならさっさとメール見ろよクズ猫が』

ブチッ。

電話が切れると、襟澤はイライラしたようにポケットに携帯電話を突っ込み、美咲の上体を起こした。

すると向かい側から皇が美咲を引き上げ、軽々と負ぶった。

「!」

「大人に任せなさ~い☆」

「っ!!………別に、背負った後に筋肉痛になるとかじゃないんだから!背負えないわけじゃないんだから!」

「もうちょっと赤面して言ってくれれば録画するのに~。そんな顔じゃツンデレに属さないよ~」

「は?ツンデレ?」

「さっさとメール開きなよ~☆」

襟澤は渋々メールを開き、美咲を背負った皇とともに位置情報の地点を目指した。





     *    *





その部屋は非常に興味深いものだった。

窓には暗幕と目張りが着けてあり、壁は一面網目状のフェンスが張り巡らされている。

フェンスには多種の銃が飾られている。

ガラスケースには大きなライフルやショットガンまで置いてある。

「ようこそ、とでも言っておこうか」

「あんたこんな部屋じゃ彼女も連れ込めないよ」

襟澤はその部屋の真ん中に位置する作業用テーブルに手をついていた。

部屋の主は白いマフラーを取ること無く、ハンドガンの手入れをしていた。

白衣姿の庄司龍一郎は、安全圏であるリビングで美咲を寝せ、襟澤と皇を部屋に招き入れた。

とはいえ部屋に椅子は無く、作業用テーブルを囲っての談議となった。

「まずは碌な遭い方しなかったからな、庄司龍一郎だ」

庄司は襟澤に握手を求めたが、彼はそのような馴れ馴れしい事はしなかった。

ふいと視線を他所に向け、テーブルに肘をついた。

「で、何があったの?」

「……その前にこいつは何だ」

二人は壁に並ぶ銃を喜んで観賞する皇を見た。

「これ高い奴じゃ~ん☆これ売れるんだよね~」

「情報屋なんだって」

「何で捕まってたんだよ」

「助けて貰って……殺されかけて……なんか成り行き。でも逃げたら殺されそうだし」

「あっそ」

すると皇がテーブルの輪に入ってきた。

「俺は殺さないよ~?所望であれば別だけど」

襟澤が皇を睨むと、両手を振って話題を変えた。

庄司はそれが何だったのかはわからなかった。

詳しく聞くことができる雰囲気ではなかったため、庄司はアルニカと見た過去の映像について説明をした。

秋元珠里が応力発散(ストレスレディエート)の脳にプログラミングを施していた事、その地下に軍事実験場があり、音波を使った兵器のテストをしていた事。

それを聞いたアルニカが強制ログアウトに至るまでダメージを受けた事。

「……俺が言えるのはこの程度だ」

「皇、だっけ」

襟澤はスナイパーライフルの入ったガラスケースを眺めながら言った。

「ん~?」

「出てって」

「えぇ~?!俺がアルニカちゃん看病しちゃって良いの~……あ、メンゴメンゴ!」

蔑むような目に苦笑した皇は、扉を後ろ手に開けた。

「でもさぁ、密室に男二人ってさぁ」

「黙って死んでろ変態」

「素が出てるよ問題児君」

「消すよ?」

「はいは~い☆」

皇が扉を閉めると、襟澤はため息をついた。

空白(スペース)

言葉とともに部屋を空白が囲い、完全な密閉状態となった。

「さて、これであの情報屋にも聞こえないわけだけど………アルニカに会ったって事は、敵としてだよね」

「…」

「答えなよ」

庄司は威圧感のある声に自然と下を向いた。

「………研究所からは美咲組の行動を抑えるように連絡が来ている。遠回しにあいつの事だろうと」

「それで?」

「アルニカがミュージックプレイヤーからデータを出して、研究所内の過去の映像に入った。攻撃はしてねぇよ」

「ふーん、なら良いや。次で聞きたい事は最後だから」

襟澤はちらと庄司を見上げ、気怠げに言った。

「あの黄緑の一連を担当してる奴と音波軍事化の担当してる奴は同一って事だよね。二件続けて見たんでしょ?」

「やはりそれか」

「その担当が、秋元珠里を殺させた犯人だからな。聞くのは当然だ」

「……」

「後で美咲に聞けばわかっちゃうんだけど。答えも予想はついてるから確信が欲しいだけ」

「は?!」

「あんたについて調べた。超簡単に出たよ、優秀キャリア君」

「誰がキャリアだって?俺だって貴様の事は知っている」

「おっと、親が有名人って辛いよね。それだけで周りから期待されるから。俺は御免だね」

襟澤は空白を解き、部屋を出た。

庄司がそれについていくと、リビングは大惨事になっていた。

ナチュラルなリーフ柄のソファーに寝せていたはずの美咲歩海は、具合が悪そうな空ろな目をしながら、皇を足蹴にしていた。

一発ぶん殴られた痕が左頬に生々しく残っていた。

「……状況を説明しろ」

「良かった、起きたんだ!」

襟澤は美咲に駆け寄ると、皇を無視して彼女の無事を喜んだ。

美咲はまだふらついていたため、すぐにソファーに座らせた。

「耳は?聞こえる?」

「……ええ、聞こえにくいけど。そんな事よりこの人は誰?起きて早々に私を脅かしてきたものだから、反射的に殴っちゃったわ」

「あ、うん。この人は何っっ発でも殴って良いから」

「良くないから!酷いよエリザベス!」

瞬間、襟澤は皇の背を踏んだ。

「次、人前でそれ言ったらマジで殺すからね」

「称たん」

「空……」

「襟澤君!!」

「良し」

「クロちゃん、ここは?」

「二丁銃ん家。あとこっちでは名前使わないんじゃなかったの?」

美咲は長い瞬きをし、小さく頷いた。

見上げると、自分が一発入れた男が手を振っており、その隣で青を帯びたような灰色髪のポニーテールの男がこちらを見下ろしている。

「…」

「?あぁ、このポニテが馬鹿二丁銃。でこの変態は情報屋の皇」

自分が紹介をされたと同時に、皇は襟澤の背後から手を振ってきた。

「皇祷~、いのりんって呼んでくれて良いよ?」

「こんにちは、皇さん」

「いのりん~」

「襟澤、私ね……」

美咲はポケットからミュージックプレイヤーを取り出した。

襟澤がそれを受け取ると、すぐに黒いカバンからノートパソコンを取った。

「解析するから時間ちょうだい」

「わかった、ありがとう」

「二丁銃、もう少し寝せといて良い?」

「構わん」

「どうも」

「ありがとう、リュウ」

「………飯作る」

庄司が台所に向かうと、皇もそれについていった。

美咲はまたソファーで目を閉じ、そのすぐ傍で襟澤はミュージックプレイヤーのプログラム解析を始めた。

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