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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
88/110

第二楽章-1:芦屋千代と愉快な仲間たち、始動

午前11時13分。

アルニカは葵通りのホームに来ていた。

美咲歩海として来るより速いからだ。

但し昼間なので、人目につかないよう注意しなければならない。

本日は快晴、電脳の空は青く、アルニカの衣装もよく映える。

「さて、音波を辿りますかね」

「おい」

アルニカが現実世界でもらったミュージックプレイヤーの音波データを出した瞬間、背後から嫌そうな声がした。

それに振り向くと、そこには青い髪をポニーテールにした女のアイコンが立っていた。

白銀の二丁銃が目印のその女は、アルニカを見るなり舌打ちした。

「あら、リュウじゃない」

アルニカは気軽に挨拶をした。

彼女の名はリュウ、つい最近アルニカが参加したサバイバルゲームの創設者であり、プレイヤーでもあったスナイパーである。

現実世界では男で、花柳の研究所に特別勤務する学生のようだ。

「こんなところでどうしたの?」

「貴様こそ何をしている。まさかあの騒動を追ってんじゃねぇだろうな」

「?……追ってるけど」

アルニカが平然と返すと、リュウは頭を抱えて落胆した。

アルニカはミュージックプレイヤーを操作しながら、リュウに別れのつもりで手を振った。

「というわけで、ちょっと急いでるから!」

「ちょっと待て。貴様が関わろうとするなら止めるまでだが?」

「私の家族のマンションがぶっ壊されたのよ、それに怪我人だって大勢いる。見過ごせないわ」

「正義のヒロイン、てわけか」

「私を止めるために来たの?」

「クソ猫は?どうせ奴も別口で動いてんだろ?両方止めなきゃ意味がねぇ」

「私を止められない様ではクロちゃんはもっと無理でしょうね」

「……ハァ」

アルニカがミュージックプレイヤーからピアノAを流した。

「この中にモールス信号があってね?電脳用と違うみたいだったから」

「何だそれ」

ミュージックプレイヤーを操作すると、ふわりと頭上に浮いた。

「何かしら?」

しかし、ミュージックプレイヤーは光り出し、一枚のメルヘンな扉に姿を変えた。

「何だこれ?」

「わからないけど、とりあえず入りましょうか!」

「入るのか?!」

「それじゃ、ご機嫌よう!」

アルニカはパステルカラーのメルヘンな扉を開けた。

その先は…………

「………オフィス?」

よくある普通の会社の、デスクにパソコンが並ぶ、オフィスの一室だった。

社員たちが黙々とパソコンに向かっている。

どうなっているんだ?

アルニカは誰からも認識されていないようで、白衣を着た男性に素通りされた。

「ここは」

「あら、着いてきてるじゃない」

アルニカの隣にはリュウがいた。

「無駄な事知られても困るからな」

「ここは見たことある?」

「そうだな。ここは研究所らしいな」

ここで二人は、ある男性の発した言葉に驚愕する。

「あぁ、いたいた。秋元博士、秋元、珠理博士で宜しいですか?」

「秋元珠理?!」

デスクにいた金髪の女性は男性に振り向いた。

「えぇ、私が秋元です」

オフィスを出て行く男性と秋元についていった二人はエレベーターに乗って地下に向かった。

「第二スキル計画と音波軍事活用計画、同時に携わっているなんて、尊敬します」

「あら、買い被りよ。私はアルゴリズムのプログラミングが主な仕事よ、特別能力があるわけではないのよ?」

「でも最年少で軍事計画のメンバーに入れるなんてなかなか無いことですから」

エレベーターが開き、真っ白な研究所のフロアに入った。

アルニカはエレベーターを降りたところで足を止めた。

リュウは何が引っかかっているのかがすぐにわかった。

「音波ってのは」

音波軍事活用計画。

アルニカは両親の話を思い出した。

音波を使って、人間だけに被害を出す兵器。

「……行くわよ。知らないままは嫌だもの」

二人は駆け足で秋元についていった。





     *     *





午前11時25分。

芦屋千代はブチギレ寸前だった。

それもそのはず、生徒会通知の内容が



葵通りの件に関して、全生徒会の関与を禁止。

この件は清帝学園の一任とする。



というものだったからだ。

寮の食堂で通知を受けた携帯を指差した。

「何で?!一大事なんじゃないの?!どうして私たち関与禁止よ?!」

「仕方あるまい。よほど危ない犯人の仕業か、口外できないものが関わっておるかじゃ」

昼ご飯の準備をしながら、キッチンで風紀委員の安西潔子が言った。

「煩くて適わん。キッチンから出ていけ」

「でもこれ酷いでしょ?!私は絶対調査するんだから!」

「勝手にどこへでも行くがよい。キッチンから出て行ってくれるならどこへでも」

「手伝って!」

「嫌じゃ」

きっぱりと断られ、芦屋は頬を膨らませた。

すると背後から携帯を操作する神宮亜里沙が入ってきた。

「弟情報によると、被害が最初に出たのは高層マンション。所有者は……美咲ちゃんのお母様だね。今日一人入居予定だったみたいだけど、可哀想にねー」

「美咲さん?!」

芦屋はキッチンから出ようとしたが、すぐに落胆した。

「今日はお出かけしてるんだったわね…………」

「どこにー?」

「……たしか知り合いの引っ越しに………?」

三人は無言で瞬きをした。

『それだ!!』

「亜里沙」

「あい」

神宮が安西のエプロンを無理やり脱がせ、キッチンから連れ出した。

三人はマンションへ向かった。

「おい、サラダ用パスタが!!」

「伸びる伸びるー!」

「大丈夫よちょっとくらい!」

三人で駆け足、そして立ち入り禁止になっているマンションに着いた。

電子警察の一人がこちらに気づき、三人を現場から離れさせた。

「まだガラス処理してないから、下がって!」

「生徒か」

と芦屋が言いかけたが、神宮と安西に止められた。

「戯け者!生徒会では動けないじゃろう!」

「一般生徒だよ!今は!」

芦屋は頷き、窓の割れたマンションを見上げた。

安西はアスファルトの割れ方に眉を寄せた。

「おい」

「何よ……?あれは!」

二人はよく知っていた。

あの黄緑色の髪をした青年の能力だ。

詳しく知っているわけではなかったが、一度受けている。

安西の能力“聖域”が無ければ死んでいたであろう能力だ。

「あの事件以来、消息は不明じゃ」

「どこかで匿われてたってこと?」

二人が考えていると、神宮がもう一つの大きな割れ目を指差した。

「ちー、あれってさぁ」

「……美咲さんよね、ここまで被害を食い止められるの」

芦屋は美咲の音波の威力をよく知っている。

この割れ目の形状を見る限り、美咲もここにいたということになる。

「葵通りにも行ってみよう!」

葵通りに向かって歩き出した。

手がかりがまだきっとあるはずだ。





    *     *





午前11時38分。

生徒会長、花岡紗夜は水無瀬しづると桜通りを歩いていた。

葵通りの事件は速報で知られているはずなのに、どうやら重要視されていないようだ。

「芦屋さん、きっと動いてるよね」

「そうね。河南さんからは連絡来たわよ?とりあえず待機にしてあるわ」

「ありがとね。私たちはどうしようか」

水無瀬は人混みの中にある学園の制服を見つけた。

「……行ってみましょうか」

「どこへ?」

「清帝学園に」

花岡はセーラー服のスカーフを引き締め、頷いた。

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