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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
85/110

第一楽章-1:エリザベス称の災難

10時10分。

速報が入った。

『葵通りの住宅街で異常値の衝撃波。能力者の仕業か』

俺には犯人はすぐ目星がついた。

疑わしいのは二名、うち一名は加減というものを知っているが、もう一名はこれを全く知らない。

俺の調べではこの加減知らずのバーサーカーのような一名は、加減を知る一名の能力を強化したものを植え付けられた被験者とのこと。

ぶっちゃけ、こういう奴は危険だ。

能力と一緒にどこをいじられてるかわからない。

洗脳できるような脳波受信機なんてものを入れられていたら、加減知らずに人の話ガン無視スキルがプラス、バーサーカーとしてのレベルは急激にアップだ。

おめでとう、カンスト。

とゲームのような説明が加わったが、これは本当だ。

俺の名は襟澤称。

パートナーであるはずの美咲歩海からの早すぎるモーニングコールに起こされ、ベッドから転げ落ちた挙げ句に床に散らばっていた英和辞書に頭を、ネット関連書のタワーに足首をぶつけ、ふらふらと立ち上がったところをパソコンのコードに引っかかり大転倒した。

朝から健康運が最悪という災難続き、でもアルニカからのモーニングコールで全てを許しちゃおう、と頑張って浮き足立ってメールを見ると文面が



今日は一日放っといて。



と素っ気なさすぎで落胆度がマックス、恋愛運が最悪と見て最後の砦であるテレビの占いを見るとなんと星座占いで12位!!!

こんな日があっていいのか!

こんな朝があっていいのか!

というところに友達ではない生徒会の馬鹿眼鏡にアポ無し自宅訪問され、降りかかり続ける災難にショックを受けながら、このファーストフード店で食べたくもないバーガーを後輩であるにも関わらず二人分支払って金運も最悪だ。

騒がしい。

ファミレスの方が何千倍も良い。

しかもこの馬鹿眼鏡は俺の奢ったバーガーセットを『ありがとう』も無しに食ってやがる。

今日はオールマイティーにダメな日だ。

俺はふて腐れながら、ノートパソコンでニュース速報を眺めていた。

「何見てんの?僕より大事ですか-?」

馬鹿眼鏡の秋津悠がポテトを五本くわえながら言った。

「煩い黙って口を開くな馬鹿眼鏡。今日は朝から傷心で一歩だって外に出たくなかったの!」

「そう言うなよ。僕と一緒なら少しは気分も晴れ」

「晴れない寧ろ暗雲立ちこめてる」

俺はため息をつき、ガラス窓の先を見た。

「起承転結の『起』で『結』が読めると物語は一瞬で冷める」

俺はノートパソコンをカバンにしまい、席を立った。

嫌な予感がする。

馬鹿でないなら、彼女は絶対に動く。

席を立ち、ファーストフード店を出ると、秋津も後ろからついてきた。

「何で着いてくんの」

「悩み事があるならお兄さんに相談しよう!」

「誰がお兄さんなの?どこにも見えないけど」

「僕」

「まずいこれは幻聴だ。早く帰って安心できる部屋に戻ろう」

帰ろうとした俺はふと足を止めた。

背後から風が微かに吹き付け、俺の上空を何かが飛んでいった。

影に覆われたのも一瞬、正体は俺を飛び越えた。

着地した椿乃峰の生徒は黒に近い桃色の髪で、わざと長くしている両サイドをふわりと青いリボンで結い上げていた。

何故こいつが椿乃峰の生徒かわかったのかって?

見慣れ過ぎて俺データベースでコンマ単位の該当者だ。

どうせかのカンスト疑惑のバーサーカー追ってるんだろう。

「放っといてって言ってから数時間でこの騒がしさですか。正義のヒロインさん」

俺の言う正義のヒロイン、美咲歩海は人差し指を俺に向けた。

「今日は放っといて!ちょっと喧嘩してくるだけだから!」

「はぁ?!『ちょっとそこのコンビニへ』と同じ軽さだなオイ!」

「それじゃ、急いでるから!」

そして美咲歩海は音速で消えた。

…………今日は運勢が死んでるな。





     *     *





午前10時13分。

美咲は葵通りに着き、マンションの屋上から惨状を見下ろした。

救急車のサイレンが重なる。

「雑音が多くて捜せそうにないわ」

「そうでしょうね。それがpurposeなんだから」

それが、の後が全く聞き取れず、美咲は振り返った。

そして吹き出した。

黒いシャツと黒いピッチリとしたミニスカート、白衣に黒ブーツ、どこかの研究員かと思われたが迷った。

頭が…………

「う、うさぎ?」

「headgearよ。正体をバラしたくない時に有効活用されるものよ」

だからって…………と美咲は呆れ顔でうさぎを見た。

「で、今何て言ったんですか?」

「あら、Englishくらい勉強なさい。purposeは目的、headgearは被り物という意味よ」

するとうさぎ研究員は被り物を脱ぎ、艶やかなストレートロングの黒髪を振った。

「バラしたくないんじゃなかったの?!」

「あんたにならバレてもいいと思って」

顔を見ても誰だかはわからなかったが、美しすぎて言葉を失った。

「myname、知りたい?」

「そりゃ知らない人とは喋る気になりませんから」

mynameくらいわかる。

美咲は自分が覚えている限りの英単語を掘り出し、テスト前のように身構えた。

「名前まで英語で言わないで下さいね」

「あらバレちゃった?」

言おうとしていたのか、この女。

黒いサングラスをかけ、妖艶な雰囲気の女はうさぎの被り物を美咲に渡し、赤い口紅を塗った。

「ちょっとcafeしない?歩海ちゃん」

「何でmyname知ってるの!あ!英語使っちゃった!」

「ふふ、私は皆川、皆川季雨〔みながわきさめ〕よ。Nicetomeetyou!」

「外人か」

「バリバリJapanese!ただのhabitよ」

……………

「癖、という意味よ。それと私ね、あんたの…………20以上年上よ?敬いなさい」

美咲は頷き、一度首を傾げてから何の躊躇いもなくマンションから飛び降りる皆川を追った。

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