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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
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序曲:絶叫暴走の青年

突然ではあるが、綿貫菜穂は応力発散を知っている。

花柳を荒らしに荒らした黄緑色の髪をした青年を。

美咲家に保護されてから二ヶ月ほどが経ち、家で管理するマンションに移ることになっていた。

それが今日である。

午前9時43分。

紅葉や銀杏の葉が道を彩り、綿貫はベージュの薄手のコートを着ていた。

隣には紺色のロングカーディガンを羽織った美咲歩海がいた。

美咲は管理者である母、歩遊からマスターキーを借り、応力発散の一人暮らしを見てやろうと思っていたのだ。

今回の事はパートナーである襟澤称には報告していない。

怒るだろうから。

パートナーというのは、この世界でのことではない。

東京を使って構成された能力者隔離地域《花柳》。

この首都を中心に張り巡らされている電脳ネットワーク内でのパートナーである。

三次元アイコンを使用してネットワークにログインし、五感をもって通信ができる画期的なシステムだ。

ちなみに美咲は電脳世界では有名人だ。

電脳に出現するウィルスはアイコンと同じように三次元化している。

これが有人アイコンにバグを与える前に退治する謎のアイコン、それが彼女である。

もちろん隣を歩く綿貫はそれを知らない。

彼女が正義のヒロイン“アルニカ”であると。

「確か、ここだな!」

「よォーし、新生活に戸惑う黄緑クンを思いっきり笑ってやる!」

たちの悪いヒロインだ。

水色と白の高層マンションに到着した二人は、一度立ち止まって見上げてみた。

ここは人通りも多く、今日からここに住む彼もおかしな真似はできないはず。

「何階なの?」

「7階。………ん?」

綿貫が更に上を見上げた。

その刹那、マンションのどこかの窓が割れる音がした。

その音は美咲には大きく聞こえ、咄嗟に綿貫の頭を下げさせた。

通行人の悲鳴が彼女にとって重く響いた。

ガラスの破片がバラバラと落ち、美咲はもう一度マンションを見上げた。

小さな人影が窓から飛び出していくのが見えた。

自殺かと思ったが、その意見はすぐに変わった。

人影は大きな衝撃波をマンションに向けて放ち、ほぼ全てと思われるガラスが割れた。

大きな爆発音に綿貫が耳を塞ぎ、美咲は音叉を鳴らしてガラスを弾き飛ばした。

「ケガは!?」

「大丈夫!それより今のは……ちょ!マズいマズい!!」

綿貫が美咲の手を引いた。

すると二人がいた位地に窓を割った犯人が勢い良く着地した。

アスファルトが大きくひび割れ、美咲が音波で衝撃波を相殺した。

黄緑色の髪、額に二つの丸い傷、何故か白地に黒字で《単細胞》と書かれたTシャツ、ひび割れたアスファルトの中心で、そいつは唸っていた。

見間違うはずもない、砂煙の舞う中、美咲は驚愕し、戦慄した。

「………よォ、ケンカ女!」

雑音がやけに騒がしく聞こえ、その中で黄緑髪の青年“応力発散”略してストレスは右手を前にかざし、強く握りしめた。

美咲は靴音で綿貫を衝撃波から守り、音速で駆け出した。

砂煙を払いのけ、一瞬でストレスの前に飛んだ。

拳を音波で震わせ、ストレスの拳にぶつけた。

「いきなり家のマンション壊しやがって!」

しかし、美咲は音波を止めた。

そしてストレスにぶっ飛ばされ、綿貫が美咲を起こした。

ストレスは頭を強く押さえ、絶叫した。

苦しそうに、怯えたように、もがいているかのようだった。

彼はまた衝撃波で飛び上がり、二人の前から消えた。

ボロボロになった道に残され、美咲はもう二度と着れないくらいに破れたカーディガンを脱ぎ、ふらふらと立ち上がった。

「一体、何があったっていうの……」

「歩遊さんに連絡しないと!」

綿貫が携帯を出し、すぐさま電話をかけた。

美咲はピンク色のワンピースを軽く払い、ストレスが消えた方向を眺めた。

捕まえなければ。

この惨状が他にも広がったら花柳が崩壊しかねない。

美咲は惨状を見た。

通行人が倒れたまま動かない。

遠くに吹き飛ばされている。

全員を守ることなんてできない、そう痛感した。

誰かが電話したのだろう。

救急車のサイレンが聞こえる。

「菜穂」

「それで、はい………え、何?」

「私、あいつ捕まえてくる」

美咲は音波で飛び上がり、マンションから消えた。

10時01分。

命懸けの追いかけっこが始まった。

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