第四楽章―3:奇妙な侵入者達
午前0時59分。
襟澤の部屋はパソコン画面でのみ照らされていた。
椅子には座っていなかった。
椅子から崩れ落ちた襟澤は床に横たわっていた。
視界が霞み、咳が止まらなかった。
ベッドの上で携帯電話が鳴っている。
恐らく美咲だろう。
しかし、通話できる状態ではない。
すると誰かが携帯電話を取った。
誰もいないはず………
「あっれ?音姫ちゃんじゃん。出なくていいの?」
「……かな…」
襟澤の前に着信画面を見せるようにぶら下げ、襟澤要は笑った。
「僕の電気は鍵だって開けられちゃうんだよ?いや、能力使い過ぎだよねー、もう動けないんじゃん。出てあげようか?電話」
要がベッドに座ろうとした瞬間、着信画面が消えた。
すぐに違う着信画面になった。
相手は非通知。
「あれ、非通知?」
「…?」
要が画面を覗いた瞬間、窓ガラスが割れ、要の腕を何かが掠めた。
ベッドに血が飛び散り、要は非通知の着信画面を睨んだ。
「………要?」
電話に勝手に出た要は揺れるカーテンを開け、割れた窓を見た。
「…どちら様?」
『そいつに死なれては困る』
「何ですか?友達?」
『友達はゴメンだな。次はちゃんと狙う』
「………ねぇ、称。なんか怖い人から電話来たー。どうする?って答えられる状態じゃないね。殺そうなんて思ってないよ?今日は」
要が携帯電話を落とし、窓を開けた。
襟澤は視界に落ちた携帯電話を捉え、直感で非通知の相手を呼んだ。
「撃つな!二丁銃!!」
『はぁ?!』
「あはは、そうだよねぇ、撃たせらんないよね?死なせたくないもんね?僕をさ」
すると非通知画面から舌打ちが聞こえた。
その数秒後、要は窓から風のように入ってきた侵入者の飛び蹴りをくらった。
「?!」
「撃てねぇなら蹴り飛ばすまでだ」
侵入者はベッドの上でため息を吐いた。
要が立ち上がると、風に揺らぐ白いマフラーを睨みながら黒い拳銃を構えた。
「貴様、清帝学園の名簿にはねぇな。何者だ」
襟澤要は清帝学園の制服を着ていた。
白マフラーの男も清帝学園だった。
灰色に似た青い髪のポニーテール、背には大きなライフル、腰のベルトにはホルダーが二つ、そして要は白銀のハンドガンを視認した。
「あちゃー、称、どうやったら清帝の子と友達になれるのよ」
「答える気は」
「無いよ」
白マフラーは白銀のハンドガンを構えた。
「じゃ吐かせるまでだ」
部屋の主、疲労困憊の襟澤称を置き去りに話は進んでいく。
「……あの」
白マフラーが襟澤称を睨みつけた。
しかし襟澤称には彼が鮮明に映っていないため、睨まれていることは分からなかった。
「よぉ、クソ猫」
「………あ…やっぱり………」
「やっぱり友達?殺しがい有り過ぎなんだけど」
「どの指から撃ち抜いてやろうか。3本もやりゃ少しは静かになるだろ」
「えげつないね。僕もそういうのは嫌いじゃないよ?やる方だけど」
殺気立つ部屋でやっと、襟澤称はベッドに寄りかかって上体を起こした。
咳は治まってきたが、倦怠感と視界の悪さはそのままだった。
「………あのさ…あんた達、玄関からピンポンして入ってくる習慣は無いの?」
「無いよ?」
と襟澤要。
「緊急事態だからやむを得ない」
と白マフラー。
「人ん家土足で踏み荒らしてさ。窓割るわベッドに血、あんたらふざけてるよ」
息を吐き、目を閉じた瞬間、二人の持つ銃がふと消えた。
『?!』
「帰ってくれる?それともまだ消されたい?」
ゆっくりと開いた瞳は黒く、光の無い闇を思わせた。
「次はどこかに飛ばす」
二人が目を見張り、要が先に動いた。
「やだなぁ、馬鹿称。今日は殺しに来てないって。今日はヒントあげようと思って。応力発散の実験資料見た?」
「………見た」
「主任者、見た?」
「………で?」
「そろそろ僕らも動かなくちゃいけなくなっちゃってさ!主任者から依頼を受けちゃいまして」
要はちらと白マフラーを見た。
「依頼についてはちょっと言えないけど、遂行するためなら誰でも殺していいって言うから。気を付けてね、とか言おうと思って。特に、息子さんなんかは」
要は白マフラーを抜き、窓から飛び出した。
白マフラーが外を見た時には、既に消えてしまっていた。
「…………」
「…で、その息子さんがあんた?あ、大丈夫。顔すらまともに見えてないから無駄に殺さないでね」
「答える義務は無い」
「人ん家壊しといて?」
襟澤称は空白で消した白銀のハンドガンを持ち、ベッドの上に置いた。
ぐったりしている事に変わりはないので、とにかく早く帰ってもらいたい。
「とりあえず帰ってくれる?もう寝るから」
「この部屋で?」
沈黙。
ガラスと血のばら蒔かれたベッド。
床には大量の土足痕。
「…………」
襟澤称は目を閉じてしまった。
白マフラーは辺りを見回し、床に乱雑に置かれていたブランケットを拾い、襟澤の頭に被せた。
ポケットから財布を取り、名刺入れから一枚、そして白銀のハンドガンと交換するように置いた。
「…………」
白マフラーは助走も無しに窓から飛び上がり、夜空に消えた。
頭にかかったブランケットを払い除ける気力もなく、襟澤はそのまま就寝。
翌日、美咲に全力で謝った。