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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
80/110

第四楽章ー2:主催者改め、操作者

午前0時16分。

主催者(ゲームメイカー)は仮面の下で笑った。

「私の作ったシナリオは如何でしたか?」

「シナリオですって?」

「今回だって、私が彼の記憶を少し掘り下げただけなのです。そう、クイズゲームよりは簡単でした」

主催者はどこからともなく白い仮面を取り出した。

落書きのような乱雑な顔の仮面。

リュウは初めて見るものだったが、アルニカとクロは思い出した。

電脳亡霊の仮面だった。

クイズゲーム。

何人もの被害者を出した事件。

「露木光が本当にマインドコントロールでプレイヤーを全員、殺せたとでも?私の“全操作(オールコントロール)”ですよ。実演しましょうか?」

「お前が能力で殺したのね!?露木さんを、ジュリさんを利用して!!」

アルニカの前にクロが着地し、空白の壁で劇場を覆った。

「同じ手に掛かるわけにはいかないんで」

「ここで誰かを殺す気はございません。ただ、お会いしたかったのです。電脳の花に」

主催者は両手を広げ、電脳亡霊の仮面をその場に落とした。

その音はよく響き、それを合図のように三人の背後で気絶していたガンナーが立ち上がった。

「私は操作者(ゲームメイカー)。以後、お見知り置きを」

そう言って彼は一瞬で消えた。

劇場エリアが崩れるように消えていき、まっさらな群青の電脳世界に戻った。

アルニカとリュウは背を合わせ、それぞれ身構えた。

アルニカが眠らせていたプレイヤー全員に電脳亡霊の仮面が付けられていた。

ガンナーがアルニカに襲いかかり、音叉で薙ぎ倒した。

「どういうこと!?あの仮面は死後に電脳に残ったアイコンのものでしょ?!」

「俺の調べた個人情報は……………まさか」

「何だよ、ガセでも掴まされたのか?」

「違う」

クロは操作者が消えた意味を理解した。

「今、操作者が全員の意識を奪ってるってことだ。恐らくここにいるアイコンはもれなく意識不明……アルニカ、少し時間をくれ」

「わかったわ。リュウ、全員を強制ログアウト手前まで追い込むわよ」

「こいつ何する気だ!」

「こいつらの住所わかるの俺だけだろ?全員にかかったマインドコントロールを消す。ここでやるけど自己防衛はする。絶対にログアウトさせないでよね。成功したプレイヤーからログアウトしていくはずだから、持ちこたえて」

アルニカは頷き、リュウは無言で二丁銃を構えた。

クロが自分を空白で囲み、アルニカは駆け出した。

音叉を振りかぶり一人、また一人と薙ぎ倒した。

その後衛でリュウが的確にプレイヤー達の脚を撃っていく。

その殺すことのできない戦闘は10分ほど続き、人数は残りわずかになっていた。

アルニカはクロの心音を聞き、目を閉じた。

「クロちゃん、私はまだ引きつけておけるから一度中だ」

「それ以上言ったら後で捻った足摘みに行く」

「今止めなかったら私が後でお前の顔ぶん殴りに行くわ!」

クロは表情は主に変わらない。

しかし心音は嘘をつけない。

疲労困憊で心音が速いのだ。

「中断!」

「断る!」

二人は睨み合い、互いの業務に戻った。

「摘む確定」

「殴る確定」

その間にもプレイヤー達を撃ち続けるリュウは思った。

近くで見れば、正義のヒロインはこんなにも人間らしい。

自分らと変わらない、人間だと。

クロが最後の一人に取り掛かろうとすると、周りにかけていた空白が解けてしまった。

「?!」

「俺はマインドコントロールになんか、かかってねぇよ」

最後の一人、ガンナーがクロに発砲した。

「マズい!!」

リュウはガンナーの右肩を撃ったが、それも間に合わなかった。

そしてリュウは青冷めた。

クロは大きな音叉に守られ、隣にはアルニカが立っていた。

銃弾が掠った右足からは血の結晶が飛び散った。

一発はクロに当たろうとしていたが、もう一発は狙いを外していたようだ。

「ふっ…………ざけんじゃないわよ!!よくも私のパートナーを撃とうとなんかしてくれたわね!」

「そこじゃなくて!あんた撃たれて…」

「黙らっしゃい!マインドコントロールにかかってないなら全力で殴るわよ!」

アルニカが構えると、それをリュウが止めた。

ガンナーに向け、リュウは歩き出した。

白銀の二丁銃をホルダーに収め、ガンナーの前で止まった。

「俺は現実世界のサバゲーにはあまり経験がない。だから貴様の兄のいた世界は知らない。でも、少なくとも、己が弟に誰かを殺してほしいなどという考えを持つような者ではないと信じたい。的の定まっていない闇雲な恨みを、復讐を家族に望むような人ではないだろう!違うか!答えろ!」

ガンナーはギリギリと歯を食いしばりながら、リュウにハンドガンを向けていた。

「俺は…………!」

ボロボロと泣き出したガンナーは、力無くハンドガンを落とした。

「そこまでよ!全員、武器を捨てなさい!」

アルニカはその声に血の気が引いた。

藤色のポニーテールに袴姿のウィステリアがいた。

「私に直接通報するなんていい度胸じゃない!アルニカ!!」

「いや!私はウィズのアドレスなんて知らない……けど……」

生徒会のウィステリアは、現実世界では芦屋千代である。

美咲歩海としては知っていても、アルニカとしてはとても言えない。

しかし通報などしていないが………とアルニカとリュウは顔を見合わせ、その視線はクロに向けられた。

クロが毛繕いをする。

ウィステリアもクロを見た。

『お前か!!』

「だって犯人捕まえるのが仕事でしょ?どうせ自宅に待機させてるんでしょ?のうのうと寝てないで仕事しなよ」

「丸投げか!」

ウィステリアは怒鳴りながらもガンナーをログアウトさせ、アルニカの脚を見た。

「何よ、正義のヒロインでもケガくらいするのね」

「どうってことないわ!これで事件は解決ね。操作者については気になるところだけど」

「次会ったらボコボコ確定だよね、あの仮面は……」

クロは言葉を止め、ふと息を吐いた。

「俺帰ってもいい?眠すぎるんだけど」

「私は生徒会業務に戻ります!そこのマフラーのアイコンさん、名前とアドレスを教えて。後ほど聴取します」

リュウはウィステリアにアドレスを写させ、その間にアルニカはクロの頭を撫でた。

「クロちゃん?」

「あ、大丈夫だからね?眠さMAXってだけだから」

「…」

クロはログアウトし、アルニカは立ち上がった。

「アルニカ」

ウィステリアから解放されたリュウがアルニカを呼び止め、真剣な面持ちで述べた。

「手短に話す」

「何?」

「今日、俺は椿乃峰の文化祭でピアノの演奏を見ていた」

アルニカは焦った。

しかしお構い無しに話は続く。

「スポットライトが落ちて停電になった時、俺は演奏者を襲おうとした奴を見つけるため、一人の男を蹴り飛ばした」

「どうして演奏者を?それに一人の男って」

「もし貴様があの演奏者なら、その男が俺を見て名を当てた事も頷ける」

アルニカは察した。

恐らく蹴られた人物は襟澤である。

「演奏者ならば通告する。今、貴様に危険が迫っている。殺そうとしているのではなく、第一研究所の奴らが捕まえようとしている。それを伝えに行った」

「…」

「信じてほしい!研究所の中に、助けたい人がいる。だから捕まったり、死なれたりしたら困んだよ」

「あなたが危なくなるわ」

「俺は気にすんな。自分でどうにかできる」

「庄司龍一郎さん」

リュウは驚愕した。

アルニカは、美咲歩海として宮園葵から詳しく聞いたのだ。

幼い頃に別れた弟。

その名と、彼を引き取った母親の姓。

「あなたに何かあれば、必ず助けに行くわ。あなたのお姉さんのためにも」

「……」

「今日、私の後に歌った人は…」

「知ってる。俺の姉、宮園葵だ」

リュウはマフラーで口元を隠し、アルニカに一礼した。

「今回は助けられた。あの猫にも礼を言っといてくれ」

「姉だって知ってて黙ってるの?!葵さんはあなたを探してるのよ!」

「今は合わす顔が無い。それに知らない方がいいだろ。俺は研究所の人間なんだから」

リュウは軽々と飛び上がり、群青の空に消えた。

アルニカは唇を噛みながらも、すぐにログアウトした。

この後、原因不明の殺人事件はサバイバルゲームからだと発覚し、ガンナーの逮捕で幕を閉じた。

主催者については一切情報がなく、迷宮入りとなってしまった。

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