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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
7/110

第二楽章‐2:寮長襲来?

クロ


今のところほぼ全てにおいて謎い黒猫の不正アイコン。

アルニカの行動を大変面白がっている。(だって面白いんだもん)

少し自信過剰(悪かったな)少しスケベな所も。(それ言っちゃ俺の好感度……ゥオゥッ!!)

ただし、頭は良いようだ。(良いの!何疎の取り柄これだけです、的な)

はい、この通り自信過剰、自画自賛もいいとこだ、という感じのクロちゃんです。

午前4時29分。

芦屋千代はうっすらと目を開けた。

女子寮青の棟305、まだ隣でルームメイトがいびきをかいて眠っている。

外は日がもう少しで昇る茜色に染まっていた。

「……そろそろ帰ってくるかも………」

寝起きであるせいか、芦屋はゆっくりと制服に着替えた。

最後にスカートのベルトに金色に輝く生徒会エンブレムを引っ掛けた。

こうして生徒会芦屋千代の朝は始まる。



* *



午前7時ジャスト。

灰色のショートカットの人間が女子寮の前に仁王立ちした。

革靴によって踏まれた緑の芝生と桜の花びらを見下ろす。

拳を握りしめる。

そこへ、今日は遅刻しまいと寮から駆け出す美咲歩海。

見たことのない不思議な人を前に、人は一瞬だけ止まってしまうものである。

例えば街中できらびやかな着物を着た人とすれ違ったら、少しその人の姿を目で追ってしまったりする。

心のどこかでひっかかって少し思考がその人に集中してしまう。

美咲の場合、一瞬足を止めてしまった。

灰色のショートカット、古びたジージャン、ダメージジーンズ、翠の瞳。

日本にこんな人がいていいのか、と見惚れるような感覚が美咲の脳内をよぎった。

しかし、

「………お前か」

「へ?」

灰色ショートカットはぶちギレていた。

眉間にしわを寄せて手に持っていた旅行に使いそうな黒いカバンを両手で振り上げた。

「オレの庭を踏んだのはテメェかァァッ!!」

カバンは振り下ろされた。

美咲歩海、遅刻、そして間もなく意識昇天。



* *



午前8時29分。

美咲のクラスで一人の女生徒は椅子の上げられた美咲の机をぼーっと見つめていた。

浜風莉子。

その机に向かって癇癪を起こす女生徒、芦屋千代を見た。

「この子実は…いえ、本当に問題児なのね!」

大急ぎで教室を出ていく芦屋には浜風の声など聞こえなかった。

それを最後に美咲の机は本日誰も触れることはなかった。

芦屋も生徒会長花岡に止められ、授業を平和に受けた。



* *



午前9時何分か。

美咲は目を覚ました。

天井は茶色、辺りを見回すと寮の一室によく似ていた。

しかし青くも赤くもなかったため、美咲は寮だとは思わず飛び起きた。

殴られた部分がズキズキしたのを咄嗟に片手で押さえる。

包帯が巻いてあった。

「2時間21分」

その声に美咲はあわててベッドから降り立ち、壁に背を張りつけた。

美咲が寝ていたベッドの近くのソファーで灰色ショートカットが腕時計を見ながら言った。

目の前のテーブルには湯飲みが2つ置かれていた。

灰色は向かいのソファーに「どうぞ」のジェスチャーをした。

「欠席の連絡はしておいた。強く殴って悪かったな」

本当だよ、と思いつつ美咲は恐る恐る向かいのソファーに座った。

メモ帳を取り出そうとしたがやめた。

灰色ショートカットのまじまじと見る視線が即座にわかったからだ。

「お前誰よ」

「おぉ、言い忘れたな。オレは篠原ことは、長旅でよくいないがよろしくな」

美咲は目を点にした。

思い出した。

あの広場の芝生がどうので……

そういえば………

「庭を踏んだのはテメェかァァッ!!」

なんて言われて…

あ。

「お前が踏んだかもわからないのに疑ってすまなかったな」

篠原が笑顔で笑い話のように謝罪を流す。

しかし美咲は少し焦っていた。

(踏んだの私じゃん!!)

しかし今真実を言えば、きっと篠原は……

鬼と化すだろう。

美咲は引きつる苦笑顔で返答した。

「いえ、大事にしてるんですよね?あの庭」

よし、理解力のある生徒だ、と感心する篠原に美咲はホッと胸を撫で下ろした。

「銀河が滅びても守らねばならない大事な庭だからな」

銀河きえたら庭も何も無いじゃん、と涙ながらの心の声。

「ところで……」

篠原が切り出した。

「この花柳の最近のことを話してくれないか?長く旅をしてたからわからなくてな」

「最近というと……」

美咲はちょうど今調べている時空領域事件について簡単に説明をしてみた。

もしかしたら何か良い情報が聞けるかもしれない。

すると、

「ブラックホールか…………そうか、オレの胃袋はやはりブラックホールなのか……」

「………」

駄目だ、この人。

美咲は情報入手を完全にあきらめた。

「そういえばお前の名前を聞いてなかったな、美咲君?」

「知ってんじゃん!」

そんな事に構わず篠原は茶をすする。

「無視か!!」

「で名前は?」

美咲は軽く息をついて自己紹介をした。

「美咲歩海、椿乃峰学園高一。能力は特に音波です、以上」

美咲自身では簡単すぎて「それだけ?!」など言われると思っていた。

しかし、

「音波かぁー、じゃぁ歌うまいのか?」

「それだけ?!」

思わず美咲はテーブルを叩いて立ち上がった。

その後すぐに何故かはわからないがしまった、と思った。

篠原が唖然して美咲を見つめていた。

「あ、いや……」

「他にも何か紹介したかったのか?」

「違う!」

篠原は頬を軽くふくらませて腕を組んだ。

その一秒後、何かを思い出したように、

「そういやアルニカはまだ正義のヒロインか?!」

「へ?」

篠原はその時だけ目を輝かせていた。

美咲は感付いた。

そして返した。

「ええ、まだ世間を騒がせる正義のヒロインです」

すると、勢い良く茶色の扉が開けられた。

芦屋千代が息切れしながらそこにいた。

「寮長!!むやみに生徒を誘拐しないでください!」

「おー、すまんすまん!久しぶりだな、芦屋」

美咲は目を丸くした。

寮長?

「寮長!!?」

芦屋はちんぷんかんぷんにこんがらがっている美咲に説明してくれた。

「美咲さん、この方は花柳女子寮の寮長、篠原ことはさんよ」

あ、だから庭なんて作れるわけだ。

そう絶句する美咲の腕を芦屋がつかんだ。

「さて、行くわよ」

「どこへ」

芦屋は雲一つない空を映す窓を指差した。

「今日は快晴!パトロールに行くのよ!あなたも一緒に来てちょうだい!」

「あ、もしかして謝罪の………」

「うるさい!」

そして美咲は、篠原の軽い“いってらっしゃい”に見送られ、芦屋とともにパトロールにでた。



* *



10時02分。

明るい陽射しのもと、美咲と芦屋は最大の大通り“桜通り”から松広場に出ていた。

芦屋は左腕に黒に銀の刺しゅうつきの腕章をつけて誇らしげに手を組んだ。

「今日は記念すべき初市街パトロールデビューよ!」

「一人でやれよ」

美咲は隣でぼそり。

「何?」

芦屋の地獄耳発動。

「何も?」

完全に逃げる。

しかしここまで出てきてしまっては美咲も帰れなかった。

松広場には彫刻を中心に置いた大きな噴水がある。

その端に座って話す人が多いためここはいつも人でいっぱいだった。

一般居住区との境目でもある門とも近いため、初めて花柳に来た人はまずこの豪華な広場を見る始まりの場所でもある。

今日は特別時間で授業が早く終わった生徒らも座っており、いつもの午前の広場よりは騒がしくなっていた。

「さて、ここを見回ったら次は葵通りに……」

芦屋は美咲がメモをこちらに見せているのに気が付いた。

〔何かおごって〕

「は?」

お腹が減ったのか、疲れたのか、美咲はコンビニを指差している。

「朝ごはん食べたんじゃないの?」

「篠原って奴のせいで朝飯スルーで気絶した」

朝食は寮の食堂で済ませてから学校へ向かう。

美咲は寮の外で気絶した。

「結局あなたが悪いじゃない」

「………いや?」

美咲は首をひねって完全否定した。

財布は?と聞くと美咲は白ウサギのがま口財布を逆さまに振った。

すっからかんだった。

こんな高校生がいるのか、と芦屋はため息。

「……わかった!ただし105円よ?それ以上はナシよ?!」

「わーい」

美咲の棒読み発動。

「もうちょっと喜びなさいよ!!」

そう言いつつも二人は近くのコンビニへと足を運んだ。

美咲は一直線にホットスナックのショーケースの前に仁王立ちした。

そしてショックな表情をした。

欲しいものがなかったのだろうか。

するとすぐさまメモに何か書き始め、レジの店員に見せた。

芦屋はメモを覗いた。

〔唐揚げ棒ください〕

店員は少し戸惑いながらも少々お待ちください、と唐揚げ棒を揚げ始めた。

4分ほど待つらしく、二人は店内でおしゃべりを始めた。

雑誌コーナーにて。

「あ、新しいふろく!このポーチかわいい!」

芦屋はちょうど高校生が読みそうな雑誌を手に嬉しそうにいった。

しかし、

「わぁ、最新号だ」

芦屋は美咲をちらと見て石化した。

美咲が手に持っていたのは小学生がお小遣いをためて買うような女の子雑誌だった。

新学期ということでふろくも電動消しゴムとスペシャル(?)だった。

「美咲さ……」

「?!……あ、いゃ、これは別に……欲しいわけじゃなくて、その…」

そうごまかしていると、外で大きく、何かが破壊される音がした。

そして悲鳴。

芦屋と美咲は急いでコンビニを出た。

そこには噴水の上に来れるはずのない大破した軽自動車が乗っかっていた。

まるで空から落ちてきたかのように。


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