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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
35/110

第一楽章‐2:第一遭遇

午前9時02分。

美咲は何故か喧嘩を買っていた。

しかしそれほど大事にはならなかった。

むしろ感謝する少年に足止めを食らっているのが問題だった。

無様にも気絶する彼らには一切目は向けられなかった。

少年はどこにでもいそうなごく普通の少年である。

しかし。

「にゃにゃっ♪」

「いや………何語?」

少年、「にゃ」しか言えないというハプニング発生。

美咲は心の中で精一杯叫んだ。

[アイムドッキリィィィィング!!!!]

「にゃにゃっ」

「何言ってるかわからない」

いたって冷めた対応の美咲歩海。

対して少年は無邪気な笑顔で美咲ににゃあにゃあと喋る。

この少年が何者かわからない限り何も進まないと思った美咲はその場に膝をついた。

「私の言葉わかる?」

少年は大きくうなずいた。

「じゃあ、イエスなら縦に、ノーなら横に首を振るの」

少年はうなずいた。

*この辺の子?

少年はうなずいた。

*迷子?

横に振った。

*お母さんは?

横に振った。


美咲は察した。

話を変えた。


*字は書ける?

横に振った。

*何か困ってる?


すると少年は美咲の手を引っ張った。

近くのビルの壁に貼ってある紙を指差した。

迷い猫を探している貼り紙だった。

よく見ると少年は飼い主の名前を指差しているようだった。

「………この人を探してるの?」

少年は強く何度もうなずいた。

名前ははしぐちりくと、何故平仮名かと言うと貼り紙にそう書いてあるからだ。

おそらく子どもなのだろう。

「でもどうして探してるの?」

少年はしょんぼりしながら頭をかいた。

辺りを見回すと自分の目的地である研究所が見えた。

真っ白で高いフェンスが見える。

行きたいのは山々なのだが、少年を見ると行くに行けない雰囲気になるのだ。

しかし、一度聞いたような声が飛んだ。

「お前が美咲歩海だな?」

その声はまるで遠くから放られたように聞こえた。

美咲は少年を見ていたため、彼が喋ったのかと思った。

しかし少年は首をかしげている。

違う。

美咲は振り向いて手を叩いた。

大きな衝撃波が美咲と少年を襲った。

手を叩いた音波で少しは和らいだものの、軽く飛ばされてしまった。

美咲が少年を見ると、両手で頭を押さえて唸っていた。

おそらく大丈夫だろう、と感じた美咲は強制的に少年を立たせた。

「後で菊通りに来なさい!今は逃げて!」

少年が困惑していたので両手で顔を固定した。

「逃げて!!!」

少年はやっとうなずき、遠くへ走り出した。

美咲はすぐさま前を向いた。

少し離れた所にいた彼は笑っていた。

黄緑髪に額の丸い傷、よれよれのTシャツとジーンズ、間違いない。

「………わざわざ逃がしたのにまた捕まったの?」

「仕事をもらってなァ………探したぜェ!!」

美咲は知らないが彼、応力発散ストレスレディエート略してストレスは仕事を受けている。

美咲に向かってみせるように手のひらをぐっと握りしめた。

するとまた大きな衝撃波がアスファルトにヒビをいれた。

美咲は咄嗟に音叉を取り出し、精一杯震わせて前につきだした。

全く違う形の波がぶつかり、爆風が二人の髪を揺らした。

ストレスはさも楽しそうに言った。

「何だよ、効かねーのか」

風がおさまるとストレスが走ってきた。

「お前も音波か?………いや、何か違うな…」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ!!!」

その右手はすでに握る準備ができていた。

美咲はまた音叉を震わせた。

また衝撃波がぶつかり、爆風が巻き起こる。

「何でさっきから守ってばっかなんだよ!」

「喧嘩売られてない」

美咲は売られた喧嘩しか買わない。

勝手に喧嘩を売ったりしない。

いつもより異常に突発的だったため、まだ喧嘩と認識していなかった。

ストレスが白い歯を見せて笑った。

爆風の最中、彼は言った。

聞こえた瞬間、美咲は何故か複雑な気持ちになった。

「じゃあ、喧嘩売ってやるよ。お前に」

美咲にはもうその複雑な気持ちを深く考える余裕はなかった。

ストレスの奇妙な笑い声が響く。

この騒ぎでも研究所からは誰一人も出て来なかった。

二人はまた距離を置いて向かい合った。

午前9時09分。

彼による戦争は標的と第一戦を始めた。




    *   *




午前9時17分。

猫少年は菊通りに着いた。

よほど走ったのか、息を切らしていた。

菊通りは学生寮が集中しているため、この時間帯は人通りがほとんどない。

本当なら助けを呼びたいところだが、それもかなわない。

近くに誰もいない公園を見つけ、少年はため息をついた。

「どうしたの?」

少年は空を見上げるように声のする方に振り向いた。

初夏の陽射しで顔がよく見えなかった。

しかしそれは優しい声で、笑っていた。

白く長いワンピースがひらりと風に揺れ、青い洒落たサンダルのリボンが開く。

「何を助けて欲しいのかしら?」

よくみるとその顔は優しく、ふわりとしたベージュの髪が見えた。

微かに、花の香りがした。


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